「変身シーンは肝」「ピンクのリボンが見えました」
──あとはプログラムの中で特徴的だったのが、三石琴乃さんのボイスとともに演奏される変身シーンのBGM。お客さんも感動していた方が多かったようです。
三宅 あそこはもう、ちゃんとお客さんの頭の中に映像が見えているようにしましょうって思っていました。キラキラという音をオーケストラウィンドチャイムで再現したり。変身するシーンって、特撮系でもなんでも肝だと思うので、大事にしなきゃいけないところだなと。
──(セーラームーンの変身シーンを象徴する)ピンクのリボンが見えました。小佐野さんはいかがでしたか?
小佐野 見えましたね。
三宅 あはは(笑)。
小佐野 変身シーンは、アニメの無印シリーズ、R、S、SuperS、セーラースターズ、Crystalのシリーズごとに微妙に違いますし、それぞれの世代ごとにイメージするものは少しずつ異なると思うんですけど、みんなが統一して映像を頭の中に描けるようなものになっていたと思います。
──小佐野さん自身は、実際の公演を客席で通して鑑賞して、どの辺りに手応えを感じましたか?
小佐野 さっきも申し上げたんですが、シリーズを通して選曲したので、いろんな曲が全部ひとつの「セーラームーン」という流れの中にあるんだなっていうのを感じていただけたんじゃないかと思いました。俯瞰して聴いてもらえたからこそ、逆に「あ、こんな曲もあったんだ!」って新鮮な発見もしてもらえるのがよかったなあと。
──誰が聴いても、新たに出会う曲が必ずありそうですよね。プログラムの曲すべてをよく知っている人は、ファンというか相当なマニアの部類に入るかもしれません。
小佐野 僕も知らない曲、ありましたからね。
一同 (笑)。
小佐野 セーラーウラヌスとセーラーネプチューンのメドレーとかはそうでしたね。
──「ウラヌス&ネプチューンメドレー」は、劇伴の曲をいくつか組み合わせているんですよね?
三宅 そうですね。4、5個の短い楽曲をもとに作っていますが、アレンジを担当してもらった長生淳さんがアカデミックなスタイルの作曲家なので、単純につなげたり変にポップスっぽくしたりするんじゃなくて、ガッツリとクラシック寄りに振ってもらいました。
──10分以上ある長い楽曲でしたが、劇中でもウラヌスはピアノ、ネプチューンはバイオリン奏者なので、ソリストとして登場したSUGURUさん、寺下真理子さんが2人のキャラクターに重なって見えました。
三宅 2人のソリストが出てくるこの2曲では、演出と音楽的な中身をどうやって一致させるかを考えて仕掛けた部分はあります。歌ものの曲って、毎週アニメで聴いたりして刷り込まれてるから、多少アレンジで形が変わっても1フレーズ出てくると「あ、これか」ってわかったりするんですけど、劇伴は音楽だけだと、「これなんの曲だっけ?」ってなっちゃって、聴いてる人の集中力が削がれちゃう可能性もある。でもウラヌスとネプチューンというキャラクターがいてひとつの絵ができあがってるので、世界観の基本的なところを守っていれば、結構冒険できるところではあるなと。この場合はソリスト2人がその場に立って、キャラクター2人の関係とかを深読みしながら音楽の世界に入っていけるという面があるので、ちょっと面白い実験でした。それがお客さんに受け入れられたというか、面白がって聴いてくれた実感はありましたね。
小佐野 「ウラヌスとネプチューンのパートがよかった」っていう感想はよく聞きました。
──終演後の観客のアンケートでは、メドレーに続いて演奏された「eternal eternity」を「よかった曲」の欄に挙げている人も多かったですね。この楽曲はウラヌスとネプチューンが歌う「美少女戦士セーラームーンCrystal」第3期のエンディングテーマで、「Crystal」を観ていないと知らない方も多いと思うんですが、曲としての魅力が伝わったのかなと。
小佐野 そういう意味で、やっぱり多くの人に新たにいい曲を知っていただく機会になったと思うので、よかったと思います。
セーラームーンと戦隊の違い
──先ほどもお話に上がったようにアニメ、ゲーム音楽のオーケストラコンサートはしばしば行われますが、こうした楽曲をクラシック音楽として編曲する難しさはありますか?
三宅 そういう異なるジャンルの音楽をクラシックスタイルにアレンジするときには、「新しいものを聴かせる」「聴き馴染んだものを聴かせる」という、2つの考え方があると思うんですけど、やっぱりアニメ、ゲーム音楽については「聴き馴染んだものを聴きたい」というファンの思いが大きいのかなと僕は思っています。今回のように25年にもわたっている作品だと、それぞれの時代特有のリズムを持っているんですね。例えば90年代の曲で、当時の流行りのディスコっぽい曲調だけど、そこを変えちゃうと雰囲気が変わっちゃって、その曲だと気付かなくなることも起こりうる。歌ものは歌が乗ってればなんでもありに近いと思うので、世界を広げるためにいろんなことができる可能性があると思いますが、インストものについては、基本は原曲に近くする、という考えでやっていますね。
──確かに基本は原曲に忠実というか、BPMさえも大きくは変えていない、崩していない曲が多かった印象でした。
三宅 わざとそうしています。
──三宅さんは「スーパー戦隊」シリーズの楽曲も多く手がけていらして、同じ変身ものということで近い部分もあるのかと思いますが、全曲の統括をしていて、一貫した「セーラームーン」イズムのようなものは何か感じましたか?
三宅 戦隊と何が違うのかと考えてみると、やはり戦隊の世界っていうのは男の世界なので、“血と汗と涙”だと思うんです。それに対してセーラームーンは、汗と涙はあるんだけど、あまりそこを感じさせない。重いところは重いんですけど、品があるというか、ファンタジー感で包んである部分があって、そこが大きく違うのかなと思いました。
小佐野 本当にその通りで、そういうところが、クラシック音楽の世界とすごく相性がよかったのかなと思います。東京の会場に選んでいただいた東京芸術劇場もすごく雰囲気が合っていて。パイプオルガンは木製のものとシルバーのものと2種類選べたようなんですが、やはりシルバーでと。
──まさにシルバー・ミレニアムのようでした。
三宅 パイプオルガンはホールによって決まった奏者の方しか触れないので、「月虹」1曲のために専門の奏者の方に来ていただいたんですが、すごく作品の世界観にマッチしていてよかったですね。
- 「美少女戦士セーラームーンClassic Concert 2018」
- 東京公演
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日程:2018年8月28日(火)、29日(水)
時間:13:00開場、14:00開演 / 18:00開場、19:00開演
会場:東京芸術劇場 - 大阪公演
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日程:2018年9月7日(金)
時間:18:00開場、19:00開演
会場:フェスティバルホール - 出演
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指揮:新田ユリ
ゲスト:堀江美都子、小坂明子、寺下真理子、SUGURU(from TSUKEMEN)
声の出演:三石琴乃、堀江美都子 - 管弦楽
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東京公演:東京フィルハーモニー交響楽団
大阪公演:関西フィルハーモニー管弦楽団
©武内直子・PNP・東映アニメーション ©Naoko Takeuchi
- 三宅一徳(ミヤケカズノリ)
- 1963年生まれ。作・編曲家。フルオーケストラから、シンセサイザーの打ち込み、バンド、純邦楽器、民族楽器までを巧みに使いこなし、CM、ドラマ、アニメ、特撮などさまざまなジャンルの劇伴も担当。代表作に「忍風戦隊ハリケンジャー」「仮面ライダー剣」「Woman」「anone」など多数。
- 小佐野文雄(オサノフミオ)
- 「美少女戦士セーラームーン」原作編集担当。ファンからは「おさBU」の愛称で親しまれている。
2018年8月29日更新