劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」加藤恵役・安野希世乃×原作イラスト・深崎暮人対談|HAPPY BIRTHDAY 加藤恵! 成長を見守り続けた2人が振り返る、恵が“メインヒロイン”になるまで

みんなできっぱり卒業したい

深崎 あ、Blu-ray Disc BOXの中は見ました?

安野 まだです! (開けながら)わー、すごい!

──これは素敵ですね! ステッカーを貼ったようなデザインになっていて。

深崎 事務所のロッカーとかに入っているような、業務用ファイルボックス風で、開いた内側は写真立て風になっていますね。「冴えカノ」周りのデザインは、もともと昔からの付き合いのあるデザイナーと二人三脚でやっていて。このBlu-ray Disc BOXについては、話し合いはしましたが、ほとんどデザイナーにお任せしてしまってます。同時に出る「ギャルゲーカバーソングコレクション」も同じデザイナーの方にやって担当していただいています。

──「ギャルゲーカバーソングコレクション」は「冴えカノ」ヒロインがさまざまな美少女ゲームの楽曲をカバーしたCDですが、本当に名曲揃いですよね。深崎さんがリクエストされた曲もあるとか。

9月25日に発売される「『冴えない彼女の育てかた』ギャルゲーカバーソングコレクション」深崎暮人描き下ろしジャケット。

深崎 新規収録曲だと恵の「小さなてのひら」と、英梨々の「恋わずらい」は僕ですね。

安野 そうだったんですか! 私も「小さなてのひら」はすごく好きな曲なので、歌わせてもらえてすごくうれしかったです。「冴えカノ」にもぴったりな曲ですよね。

深崎 歌詞ができるだけキャラクターにシンクロするような内容で選んでいます。こういうゲームも今は減りましたが、やっぱり楽しいですよね。

安野 「冴えカノ」はゲームになったりしないんでしょうか? 深崎先生の絵で……。

深崎 それは難しいと思うな(笑)。僕自身が、「冴えカノ」はこの劇場版をもって卒業しましょう、これ以上はやりませんって言っているので。ちょっと寂しいけれど。

安野 急に寂しくなってきました……。

──前回深崎さんにインタビューさせていただいたときも、「『冴えカノ』というコンテンツの展開は、この劇場版で本当に最後」とおっしゃっていましたね。

深崎 以前のインタビューでもお伝えしましたがネガティブな意味ではなく、終わらせるからこそ思い出に残るものになると信じてます。とはいえ僕は劇場版関連の作業があるので、もう1年、自分だけ卒業できず留年ですね(笑)。

安野 「冴えカノ」ロスになっちゃうだろうなあ、みんな。

──でも映画館でフィナーレを見届けられるというのは、いちファンとしてはうれしく思います。

劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」キービジュアル

深崎 TVアニメ2期までで終わる可能性もあったんですが、自分の夢としてはアニメでも物語の最後まで完走してほしいと思っていて、プロデューサー陣と話してるときも「劇場版で終わらせられるといいね」という話を吹き込んだりして(笑)。皆さんがすごくがんばって、劇場版につなげてくれました。

安野 “劇場版”がよかったんですか?

深崎 劇場版でなくとも、とにかく映像作品として最後まで完走してほしいという思いがありました。特にライトノベル原作で、最後まで映像化できるコンテンツって本当に少ないと思います。だから作品の完走は目標であり、夢でした。

安野 じゃあファンの皆さんは、最後まで我々を見守っていただくと同時に、どうしても足りなかったら同人ゲームを作ったり同人誌を描いたりして、セルフ供給をしてもらえれば(笑)。

深崎 そうですね。自分だったらこの作品をこうするのにとか、この続きを見てみたいっていう気持ちは、同人のきっかけにもなるので。

倫也がメガネを外した理由

──TVシリーズ1期から振り返ると、恵はずいぶん変わりましたよね。

劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」より。

安野 最初の頃、恵は自分をコントロールできているんですよね。「私は一生懸命になってないよ」「あなたがどうしてもって言うからやってるんだよ」っていうスタンスから始まって、でもフラットな顔をしつつも、場の空気のために発言したり動けたりする気遣い屋でもあって。「私、ちょっと怒ってるんだよ」っていうことも、「こんにゃろ!」って正面から伝えるやり方じゃなくて、ちゃんと流していけるスマートさを維持していたんです。そんな恵が、どんどんみんなに対して愛情深くなっていって、それゆえに自分の気持ちを思わず爆発させちゃう。そういうシーンが終盤に向けて増えていくのは、すごくうれしかったし、微笑ましかったです。

深崎 劇場版では安野さんのお芝居もTVシリーズに比べて、一歩先に進んだものになっているんじゃないかと思います。

──倫也との関係についてはいかがでしょう?

安野 これは否定され続けているんですけど、私は安芸くんに見初めてもらった段階で、恵から安芸くんに対する好意は芽生えていたと思うんです。でもたびたび身勝手に振り回されて、恵は何度も期待はするんだけど、そのたびに別の女の子に走られちゃって、フラグを折られていくんですよ。でも、心の底に1回沈めた安芸くんを男の子として見る目線が、また何度も浮上させられちゃうのが、安芸くんのずるいところで。「違ったかあ……いやでも……やっぱり違ったかあ」って、延々その繰り返しだなって。安芸くんとしては、目の前の1つひとつの事件や出来事に対して、誠意を込めて対応しているだけなんですが。

深崎 そうかなあ(笑)。倫也はなかなかの曲者ですよ。

安野 えーっ!(笑) でも、インタビューでもよく「安芸倫也をどう思われますか?」って聞かれるんですよ。

──聞きたくなる気持ちはわかります(笑)。

安野 まあ、私も一読者としては、「恵は器が大きいね」って思います(笑)。

「冴えない彼女の育てかたFES♭公式パンフレット」の特典CD「LOVE iLLUSiON (Tomoya Solo Ver.)」のジャケット用に深崎が描き下ろした、倫也のイラスト。

深崎 TVアニメの1期をやっている頃に、原作で2期の最終回に当たる部分をやっていたんですが、アニメのほうであまりにも倫也が叩かれるので、ちょっとなんとかしたいという思いでメガネを外してイケメンにさせてくださいとお願いしました。

安野 救済策だったんですか!?

──そもそも倫也は学校の三大有名人ですし、極端な性格なので、感情移入できるタイプの主人公ではないような気がしていて。自分はむしろ恵の視点で観ていたような気がします。

深崎 そうなんですか。恵は女子に嫌われるタイプかと思ってました。

──強かに見えるところもあるかもしれませんが、そこも含めて等身大の女の子というか。

深崎 確かに倫也も「お前は地味なんかじゃない、キャラが死んでいるだけだ!」って最初に言っていますけど、恵は“普通”にかわいくて、“普通”に人間味があって、“普通”に感情のあるキャラクターだと思って描いてました。

恵に贈る2人からのメッセージ

──いよいよ公開も1カ月後に迫りましたが、劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」で恵がどんな表情を見せるのか、すごく楽しみです。

安野 劇場版では恵がどんどん鎧を脱いでいくんです。鎧をはいでいった先にあるコアの部分、やわらかくて傷つきやすい部分を恵はずっと守ってきたんだけど、それを露わにしたことで見えてきた表情や感情がたくさんあって。でも、恵がもともとそんなに重い女だったとは思わないんですよ。みんなと積み重ねてきたこれまでの時間や、思い入れ、「みんなのことが好き」って気持ちが育った結果、辿りついたものなんだと思います。

深崎 そもそも原作を作り始めた最初の頃って、恵に関してほとんど何も決まっていないところからスタートしていて。関わったキャストの皆さんや、スタッフの皆さん、みんなで恵を研磨していった結果、恵のコアが見えるようになったんだと思います。

──まさに「冴えない彼女の育てかた」ですね。

劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」より。

深崎 僕にとっては“冴えないヒロイン”って恵だけじゃなく、全員だと思ってます。恵は冴えてると言われるようになりましたが、それは物語が進んだりコンテンツが大きくなり育った結果であって、それでもやっぱり人なりに怒ったり嫉妬したりと冴えない部分はあります。逆に冴えてると言われているほかのキャラクターにも、ポンコツだったり面倒な部分があったりで……。そういうそれぞれの“冴えない”から成長したり変化したり……というのがこの作品なのかなと。丸戸さんは絶対に正解を言わない人なのですが、僕はこの作品に対してそう落としどころを付けています。

──恵以外の点で劇場版の見どころを挙げるなら?

深崎 原作のストックがけっこうある状態で完結まで持っていくので、尺が足りないんじゃないかって不安もあると思うんですが、そこは原作者自ら脚本を担当していただいているので、安心して観ていただければ。観たり聞いたりしたいお芝居とか、「このセリフは言ってほしい」ってところとか、洗練されたものになっていると思います。

劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」より。

安野 1シーンもこぼさず描くのは難しいことだと思うのですが、原作を読んでいて「これを映像で観たいな」って思うシーンは、すごくぎゅぎゅっと詰まっていると感じました。

深崎 原作ファンの方でも楽しんでいただける内容になっていると思いますので、お楽しみに。

──では最後に、完結まで走り切った恵に向けて、一言ずつメッセージをお願いします。

安野 そうですね……恵はすごくがんばり屋さんで、思っていることを10言うタイプじゃないんですよね。すごく思慮深いし、周りをよく見て、深く物事を考える、人のためにがんばっちゃう女の子で、今では自分を招き入れてくれたチームに対してすごく愛情が育ってきた、みんなのことが大好きな女の子だと思っています。

深崎 安野さん、一言になってないよ(笑)。僕からは「ありがとう」ですね。恵だけではく、「冴えカノ」のキャラクターには見たことない景色をだいぶ見せてもらったので、「ありがとう」の一言です。

安野 じゃあ、本当に一言……「これからも苦労は絶えないと思うけど、みんなと一緒にがんばって。大好きだよ」。

深崎 素晴らしい!

アニメ「冴えない彼女の育てかた」シリーズ紹介

1期
TVアニメ「冴えない彼女の育てかた」2015年1月~3月放送

TVアニメ「冴えない彼女の育てかた」キービジュアル

オタク高校生の安芸倫也は、ある少女と桜舞い散る坂道で運命的な出会いをする。インスピレーションを受けた倫也は彼女をメインヒロインにしたギャルゲーの制作を思いつき、原画担当に幼なじみで人気同人作家の澤村・スペンサー・英梨々、シナリオ担当に人気ラノベ作家の先輩・霞ヶ丘詩羽をスタッフに迎えようと邁進。しかし倫也が運命的な出会いをしたと思っていた少女は、ごくごく普通の目立たないクラスメイト・加藤恵だった。ショックを受けた倫也は「お前を胸がキュンキュンするようなメインヒロインにしてやる!」と、恵をゲームの中で立派なヒロインにすることを決意するのだが……。初回放送では第0話として、時系列では後のエピソードとなる「愛と青春のサービス回」をオンエアしたことでも話題になった。

2期
TVアニメ「冴えない彼女の育てかた ♭」2017年4月~6月放送

TVアニメ「冴えない彼女の育てかた ♭」キービジュアル

恵、英梨々、詩羽を巻き込み同人サークル“blessing software”を立ち上げた倫也。音楽担当として従姉妹の氷堂美智留が加わり、ギャルゲー制作も1ルート完成まで漕ぎつけた。2カ月後に冬コミを控えた倫也たちは、マスターアップに向けて奮闘。しかしライバルとなるサークルの登場や、サークルメンバー同士の関係にも変化が訪れ……。2期では倫也を巡る恋愛模様はもちろん、クリエイターとして本格的に歩み始めたキャラクターの苦悩も掘り下げられた。なお初回放送は1期同様、第0話「恋と純情のサービス回」をオンエア。いわゆる“水着回”である。

最終章
劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」2019年10月26日(土)公開