劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」加藤恵役・安野希世乃×原作イラスト・深崎暮人対談|HAPPY BIRTHDAY 加藤恵! 成長を見守り続けた2人が振り返る、恵が“メインヒロイン”になるまで

劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」ビジュアル

劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」が、10月26日に公開される。2012年に原作第1巻が刊行され、2015年にTVアニメ1期の放送を開始。2017年のTVアニメ2期を経て、今回の劇場版でついに物語は完結を迎える。

コミックナタリーでは昨年実施した原作イラスト・深崎暮人のインタビューに引き続き、今回は9月23日に“メインヒロイン”の加藤恵が誕生日を迎えることを記念して、深崎と恵役・安野希世乃の対談をセッティング。4年間にわたりキャスト・スタッフ、みんなで作り上げてきたという「冴えカノ」、そして加藤恵というキャラクターについて、改めて振り返ってもらった。

取材・文 / 柳川春香

深崎暮人描き下ろしビジュアル公開!

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「冴えカノ」に夢を叶えてもらった

──安野さんと深崎さんはこれまで一緒に「冴えカノ」のニコ生に出られたり、オーディオコメンタリーに参加されたりしてきましたが、キャストの方と原作イラスト担当の方が一緒に表に出られることって、なかなかないですよね。

安野希世乃 そうですね。私は原作イラストの方とこういった関わり方ができるのは初めてなので、すごくうれしいです。深崎先生とは作品を通してさまざまな場面でご一緒することが多く、新鮮でした。原作のお二方ともに、アニメにもすごく熱量を持って参加してくださっているので、ずっとうれしく感じていました。

深崎暮人 ほかにやることがなかっただけですよ(笑)。

安野 そんなわけないじゃないですか!(笑)

──(笑)。これまでご一緒された中で、印象に残っている出来事は何かありますか?

深崎 海外にもご一緒に行かせていただきましたよね。去年はタイで合同サイン会をやって。

安野 そうそう! タイでのブックフェアで、お隣同士でサイン会をやらせていただいたんですが、タイのファンの方から深崎先生が大変崇め奉られていて。

深崎 いやいや(笑)。でも、タイでも「冴えカノ」が知れ渡っているのはびっくりしました。アジア圏とはいえ、それまであまり縁がない国だったので。

安野 そうですね。私もタイに行ったのは「冴えカノ」で連れて行ってもらったのが初めてでした。

深崎 ほかにも安野さんのソロライブにもご招待いただいたりもしていて、交流が深いほうだとは思うんですが、僕は声優さんとの距離感は大事にしようと思っているので……。あまり近くなり過ぎないように気をつけてます。

安野 深崎先生、いつも距離感をすごく気にしてくださって(笑)。

深崎 安野さんの事務所に怒られたくないですから(笑)。でもコメンタリーなどでご一緒しても皆さんすごく話しやすくて、キャストさん同士も仲がいいし、ファミリー感がありますよね。

安野 それはすごく感じています。作品としては4年くらい関わらせていただいていますし、Webラジオをやっていた期間も長かったですし。そういえば、ラジオの企画の一環で、同人誌を冬コミで頒布したことがあるんですよ。

──2016年末のコミックマーケットで頒布した「いくら一貫¥200」ですね。

同人誌「いくら一貫¥200」。現在はTVアニメ2期の公式サイトで全編公開されている。

安野 ラジオの企画で大西沙織ちゃんと茅野愛衣さんと3人でリレー4コマを描いていて、それをまとめて、深崎先生と丸戸先生にも寄稿していただいて同人誌を作ったんです。「冴えカノ」だってことを言わずに島中(※)で頒布したんですが、そのときもコミケに造詣の深い深崎先生が、いろいろアドバイスをくださって。

深崎 あのときは大変でしたね(笑)。もう個人ではコミケもずいぶん出ていませんが、僕も島中からスタートして、看板持ったりしてましたよ。

安野 そうなんですね! もし今出られたら、絶対にシャッター前ですね。

※「島中」とは、同人誌即売会での内側の通路に面した場所のこと。ほとんどのサークルは「島中」に配置され、人が多く集まるサークルは壁側や「シャッター前」に配置されやすい。

深崎 それはどうでしょう(笑)。個人的にコミケに出なくなったのは、忙しさもありますが、作りたいものを「冴えカノ」でだいぶ作っていただいちゃったんです。コミケって、「クリアファイルを作りたい」「同人誌を作りたい」とか、作りたいものがあるってことが出る動機だったりもするんですよね。でも「冴えカノ」では同人ではなかなか作れないフィギュアやBlu-rayのパッケージを描かせていただいたり、「こういうものを作らせてほしい」と自分からお願いすることもあって、たくさんの夢を叶えてもらいました。

安野 商業で、ファンにも喜んでもらえる形でやりたいことを叶えられるって、すごいことですよね!

「冴えカノ」はみんなで作るコンテンツ

──さて今日はヒロイン・加藤恵の誕生日を記念しての対談ということで、ここからは恵のお話をじっくり伺っていこうかと思います。深崎さんは最初に安野さんの演じる恵を聞いたときのことって、覚えていらっしゃいますか?

深崎 恵に限らずなんですが、キャラクターデザインをするにあたっては自分も魂を込めて、自分の子供を生み出すような気持ちで描いているので、そこに声をあてていただけるというのはどの作品でも本当にうれしいことです。その中でも恵はすごく難しいキャラクターになると思っていたので、最初のテープオーディションの際は、なかなか答えが出なかったんですよ。でも、スタジオオーディションで直接お芝居を聞いたときに「もう安野さんしかいない」と、満場一致で決まりました。

TVアニメ1期「冴えない彼女の育てかた」より。

安野 うれしいです……! オーディションのときのことは私もすごく覚えていて、役をいくつか受ける方もいらっしゃったんですよ。大西ちゃんも最初は詩羽役を受けに来ていたのに、当日「英梨々もやってみてください」と言われて英梨々役に決まったそうなんですが、私の場合はテープから恵で受けて、当日も「安野さんは恵で」って言われていて。それがいいことなのか悪いことなのか、心配だったりしたんですが……今のお話を当時の自分に聞かせてあげたいです。

深崎 今となっては皆さんハマり役で、ほかの方は全然考えられないですね。キャラクターや作品とすごく向き合ってくれています。劇場版のアフレコにはほとんど立ち会えなかったんですが、もう皆さんを信頼していますから。1期の頃はブースに入ってディレクションに参加したりもしていたんですが。

──そうだったんですね。恵のフラットな演技って、アニメとしてはすごく特殊だと思うんですが、当時どんなディレクションをされたんですか?

深崎 僕というよりは全体的な意見として「お芝居をしないお芝居をしてください」っていう、めちゃくちゃな注文が出ていたと思います(笑)。

安野 そうそう! スタッフの皆さんの総意として「芝居心を捨ててください」「もっと感情をなくしてください」って(笑)。それまで聞いたことのないオーダーでしたし、恵のことはすごく考えましたね。恋愛要素のある学園もののヒロインって、やっぱり憧れなんですよ。そういう役をやらせていただくのは恵が初めてだったので、私もとっても気合いが入っていたし、「絶対にいいキャラクターにしたい!」って思っていたんですけど、これが正解かどうかなかなかわからなくて。そういう中で、恵は皆さんと一緒に作らせてもらったっていう感覚です。

深崎 本当にそうですね。「冴えカノ」はみんなで作るコンテンツで、原作者だからといって僕と丸戸さんの意見が絶対じゃないんです。監督はもちろん、アニメーションスタジオの皆さん、何よりキャストの皆さん、それぞれの思いや意見を取り入れて育ったコンテンツだと思います。

恵のことが愛しくてしょうがない

──そんな恵も、今では大人気のヒロインに成長しました。

安野 そうですね。恵を通して私を知ってくださった方がたくさんいらっしゃいますし、役者人生にとっての大きなチャンスと、こんなにも愛情を注げるキャラクターを与えていただけて幸せだなあと思います。愛しくてしょうがないです、恵のことが。

深崎 僕にとってもやっぱり「冴えカノ」は代表作として一番上に来るものなので、すごく大事に思っています。別の仕事でも「加藤恵のようなキャラクターを」ってリクエストされることがあるんですけどね(笑)。

安野 ただ“加藤恵のような”と言っても、今の恵のキャラの立ち方は、物語や成長をすごく丁寧に積み重ねてきたからこそなので、声や絵を似せただけでは加藤恵にはならないですよね。アニメの演出も、すごくちょうどよくカットもコンテも切ってくださってますし。初期は見切れてたり、ぼやけてたりして、全然映らなかったり(笑)。

──第1話でも開始20分くらいまで、顔をはっきり映さないように工夫されていました。

TVアニメ1期「冴えない彼女の育てかた」第1話より。

深崎 本当にね……申し訳ない。

安野 いえいえ! おいしいですよ!(笑) それが加藤恵なんですから。そうやって、形作ってきていただいたんですから。

深崎 1期の第3話が、恵がすごく目立つ回なんですが、それ以降は宣伝においても恵を見切れさせたりしないよう、製作委員会に伝えたりしたんです。今は恵が一番目立つように描くことが多いですが、僕も最初の頃は恵をセンターに置かなかったりしていましたね。キャスト順も最初は英梨々、詩羽、恵の順だったし。

──エンドクレジットは2期の第1話から恵、英梨々、詩羽の順に変わりましたね。

安野 何かで読んだんですけど、たくさんの人の顔を合成して平均を取った顔が、多くの人にとって「美しい」「整ってる」と感じられるバランスだ、というような話があるじゃないですか。恵のビジュアルってそういうことなのかなと思っていたんですが、どうですか?

深崎 キャラクターデザインとしては、消去法で作ったキャラクターなんですよ。ネガティブな意味の消去法ではなく、洗練していく、磨いて磨いて残った原石が恵なんです。だから安野さんと、僕や丸戸さんの持ち合わせている感覚は同じじゃないかと思いますし、監督陣も同じ感覚で向き合っていると思います。

──安野さんは深崎先生の絵に対して、どんな印象をお持ちですか?

9月25日に発売される「『冴えない彼女の育てかた』Blu-ray Disc Box」の、深崎暮人描き下ろしジャケット。

安野 線がきめ細かいとか、たくさん時間をかけて描かれているのがパッと見ただけでもわかるというのは大前提として、光の使い方が美しくて。どんな表情をしていても、みんなどこかに儚さがありますよね。恵はバージンヘアですよね?

深崎 そうですね。もともと黒髪の予定だったんですけど、真っ黒にはできなくて。

安野 あくまで自然な髪色ですけど、ピンクがかっている部分があったりしますよね。

深崎 自分では「逆張り塗り」って言ってるんですけど、最近は陰になる部分にあえて水色などの嘘の反射光を入れたりして、情報量を増やしてます。

──言われれば「派手」な色遣いかもしれませんが、自然に馴染んで見えますよね。

安野 洗練されていて、本当に芸術的ですよね。オンリーワンだと思います。

深崎 だといいんですが。トレンドを取り入れすぎても個性がなくなっていっちゃうので、あんまりほかの人の絵を見すぎないようにはしているんですが、最近本当にうまい人が増えて、へこんでます(笑)。

──劇場版のティザービジュアル第2弾では、深崎さんがメインキャラクター全員集合のイラストを描き下ろされましたね。

安野 これ、みんなが“ズズズズズ……”っている感じが「ライダー大集合」みたいで、劇場版って感じがします(笑)。

深崎 僕は「アベンジャーズ」みたいだなって思っていました(笑)。1回は全員を1枚に描いてみたかったんです。ティザービジュアル第1弾は恵の後ろ姿だったのですが、それも「これが最後」というのを絵で伝えたくて、「集合絵はあとでちゃんと描くから」って言って描かせてもらったんですよ。自分で仕事を増やしてしまいました……。