「ピーチクアワビ」特集 岩田ユキ×紗倉まな対談|クスッと笑えるかわいいエロ満載♡ でも現場の悩みや葛藤はリアル!人気AV女優も驚き・喜び・涙した、ピンク色の青春グラフィティ

どこまでをファンタジーとして押し通せるか

──2019年にはダ・ヴィンチ(KADOKAWA)での連載がまとまったエッセイ「働くおっぱい」も刊行されています。エッセイと小説とは執筆するモードやチャンネルが替わったりするのでしょうか?

紗倉 エッセイはかなり気楽ですね! 小説はいくらでも創作としてふくらませられる可能性があるけれど、エッセイは事実や体験をもとにしているし、読むときにそこまで起承転結の期待はされない。さらさらっと自分の気持ちを吐露するように書いていて、小説よりはスムーズにできているかなと。エッセイは読む方の意識だと「どういう人なんだろう」、小説だと「どういう話なんだろう」と思われるので、やっぱり小説には小説の緊張がある気がします。表紙や帯を見て手に取る方の期待を、あまり裏切ってもいけないなと思いますし……岩田さんはそういうの、気にされますか?

岩田 映画業界だと制作費のケタが大きいので、回収しようとすると「できるだけ大勢が来てくれるようにしたい」と宣伝が判断することがあります。作り手としては「全然違うデコレーションを付けられているな」と感じることもあるでしょうし、それを見たお客さんにとって「別のものを食わされた」感が出ると作品が損をするので、なんとかならないのかな、なんともならないよな……と思うことはありました。マンガは映画と比べるとよりピンポイントな層を狙えるので、できるだけ気に入ってもらえる方に手に取ってもらえるように、編集さんと考えています。

紗倉 リボンに、さらにリボンをつけるような作品の送り出し方をされることってありますよね。ビジネス的な意向と自分自身の意向がかみ合わなかった場合の折り合いの付け方は気になります。

左から紗倉まな、岩田ユキ。

──AVは企画がはっきりしている分、「違うものを食わされた」という反応は少なそうです。

紗倉 AVはなるべくそこを少なくさせるようになっているかもしれません。最近はパッケージやタイトルで内容を全部説明してしまう流行があって。「川の字で3人で寝ていたら気付いたら犯されてしまって潮を吹いて絶頂しまくる24歳OL」みたいな、もう「タイトルというかプロットじゃん!」くらいのもの。

──パッケージにオチまで書いてあるもの、ありますね!

紗倉 私個人の好みだとちょっと色気がないような気もしますし(笑)、「賭けで買う」ような楽しみ方が減っているのは少し寂しい気持ちもあります。でもたぶん「このパッケージに書いてある文章に納得がいったら内容を見ても納得するだろう」というパッケージなんだと思います。意外に面白い表現もあって、けっこう見入ってしまうこともありますしね。

──紗倉さんは「最低。」や「働くおっぱい」でAV業界について執筆しています。書く際に心がけていること、気を付けていることはあるのでしょうか。

紗倉 「AVはファンタジー」と言われますが、どこまでをファンタジーとして押し通せるかというのは毎回課題です。ある程度夢を持ってもらう仕事なので、AV内でのシチュエーションや女優さんのリアクションに対しては「これはリアルだ!」と思ってもらいたい。でももちろん演出は入っているし、ファンタジーの要素は存在しています。女優さんがあんまり「これはファンタジー」と言いすぎると、興ざめさせたり誰かの夢を壊すことになったりするかもしれない。中には必要な暴露もあるかもしれないんですが、その範囲には毎回悩みます。自分の中でコンプライアンスを作っている感じです。

キャラクターの葛藤はどの時代でも死なない

第5話より。

──6話(2巻収録)では、キナコは監督として、波乱いっぱいのAV撮影に挑むことになります。今後はどういう展開になるのでしょうか。

岩田 1巻はキナコが前を向くまでの話。それ以降、キナコはワンステップずついろんなことを学んでいきます。それぞれのキャラクターの物語が交差して、混じりあって、集約していく。そして結び付くような瞬間もあるけれど、サヨナラがあるお話です。15年前にキナコのお話を完結まで作り上げてはいるんですが、今回描くにあたり、また少し新しい要素も入ってきていて。映像業界に足を踏み入れたばかりの頃の自分に対して、何作か撮って年を重ねた自分が、「もう少しこうしたほうがいいんじゃないか?」と思うことも反映されてきています。

紗倉 15年前となると、改めて客観的に読んでバランスを見ることができますよね。この先どうなるか、すごく楽しみです! 私、1巻を読んで気付いたら泣いていて……。キナコが映画に挫折して、「自分はダメだ」と言っているところからぐぐぐっときて、そこからずっと心が苦しかったです。キナコがぶち当たる壁や葛藤は、誰しもが多かれ少なかれ体感する、普遍的な出来事だと思います。

岩田 うれしいです……。2005年という、AVが今よりもう少し不自由だった時代の話ですが、キャラクターたちの葛藤はどの時代でも死なないんじゃないかと信じて描いています。

紗倉 業界に携わっていない方でも安心して読める……というと変な言い方かもしれないんですけど、AV業界を描いているお話ではあるものの、葛藤や嫉妬、憧れや悩み、仕事に対する向き合い方といった自分を投影する普遍的なシーンがたくさんある作品。だからこそ、「AVものか」と敬遠してしまう方がいたら、「もったいない!」と言いたい。作品の中にエロ要素が入っているというだけであって、誰が読んでも面白く読める作品だと思います。でも個人的には、業界にいる人全員に読んでほしい! 1巻が発売されたら、布教して回りたいと思っています(笑)。

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