「ピーチクアワビ」特集 岩田ユキ×紗倉まな対談|クスッと笑えるかわいいエロ満載♡ でも現場の悩みや葛藤はリアル!人気AV女優も驚き・喜び・涙した、ピンク色の青春グラフィティ

AV業界を舞台にした青春群像劇「ピーチクアワビ」の単行本1巻が、2月27日に発売される。同作は大きな挫折を味わった新人映画監督の望月キナコが、AV制作会社にスカウトされ、戸惑いながらもそこで成長していく物語。漫画アクション(双葉社)にて連載中だ。

コミックナタリーでは1巻の発売に合わせて、「ピーチクアワビ」の著者・岩田ユキと、現役のAV女優として多くの作品に出演する傍ら、小説の執筆などクリエイターとしても活躍する紗倉まなの対談を実施。AVの“現場”を知る紗倉の目に、「ピーチクアワビ」はどう映ったのか。マンガと小説、フィールドは違いながらも作品を世に送り出す立場の2人は、クリエイターとしても共鳴。「ピーチクアワビ」の魅力についてはもちろん、執筆における悩みから現在のAV業界の動向、エロが持つ多様な側面についてなど、話題は多岐に及んだ。

取材・文 / 七夜なぎ 撮影 / ヨシダヤスシ

あらすじ

新人映画監督の望月キナコは、スタッフとうまくいかないまま制作・発表した、自分自身も不満たらたらの映画を酷評され、プロデューサーと衝突。傷害事件を起こして留置場に勾留されたところを、キナコのファンだという謎の人物・マコーレ安倍川に救われる。キナコがお礼を伝えに行くと、なんとそこはAV制作会社。「うちで映画を撮ってみませんか」とマコーレ安倍川に誘われて、キナコは右も左もわからぬR18な世界に飛び込むことに!

第1話トビラページ

岩田ユキ×紗倉まな対談

主人公が作る作品はSODに似ている?

紗倉まな 最初に読ませていただいたとき、作中で主人公のキナコが制作スタッフとして所属することになるAVメーカー・ピーチクアワビの作品のカラーが、私が今専属女優として所属しているSOD(ソフトオンデマンド)っぽいなと思ったんです(笑)。SODはAVメーカーの中でも「企画と言えばSOD」と言われていて、けっこうぶっとんだ企画や、抜きどころが見当たらないような企画も多いんですが、キナコが考えるAVのアイデアはそれに近いものがあるなと。

──映画界で挫折を感じたキナコは、暴力沙汰を起こしてしまい警察の厄介に。そこで身元を引き受けてくれたのがアダルトビデオを制作するメーカー・ピーチクアワビを経営するマコーレ安倍川なる人物で、キナコは「うちで映画を撮ってみませんか」と勧誘されます。キナコはAV制作を一度は断るものの、AVのアイデアが膨らんでしまう……というところから物語がスタートします。

第5話より。

紗倉 留置場の壁のシミから物語を空想したり、夜空に浮かぶ星を見て「電マ座」みたいなのを思いついたり、キナコはかわいい(笑)。キナコのアイデアは、「どこで抜くんだ?」というコミカルな企画性があっていいなと本当に思いました。作中のAV企画は岩田さんが考えているんですか?

岩田ユキ はい、かなり妄想してます。途中、ピーチクアワビプロダクションが作っているAVや先輩監督がコレクションしているAVのタイトルがずらりと並ぶシーンがあるんですが、描き始めたら楽しくて止まらなくなってしまって(笑)。こんなに描かなくてよかったんですが、1ページいっぱいに描いてしまいました。AV業界自体がアイデアの宝庫! 読者さんから「このタイトルはこれが元ネタ?」と指摘されて、「こんな企画が実在しているのか」と驚くこともありました。深入りして勉強しようとすればするほど、これはもう誰かがやっているというか、いろいろなアイデアが出尽くしているというか。

紗倉 業界の人は感覚が麻痺してしまっているところもあるはずで、悪ノリでタイトルをつけている場合もあると思います(笑)。そんなたくさんのコレクションを持っている先輩監督から、キナコが「抜く」について話してもらうシーンが印象的でした。AVの「抜ける」というのは「万人ウケするもの」ではなくて、ある一定の人に受けるものであることが重要……と語られているじゃないですか。AVの世界は、いろいろなフェティシズムと、撮り方と、台本構成がそれぞれ許容される世界。それを取りこぼさずに描いてくださっているのがすごくうれしかったです。

岩田 そう言っていただけて、私もすごくうれしいです。今回紗倉さんと対談することになって、「AV業界の方にこの作品がバレてしまう!」と怖い気持ちがありました(笑)。中で戦っている方から見ると、「こんなんじゃないよ」「こういうAVはこれくらいの予算じゃできないよ」と思うだろう部分は山ほどあるので……。

紗倉まな

紗倉 そんなことないですよ! いわゆる「AV業界もの」は、きれいな上澄みの部分だけだったり、一方で「借金にまみれてAV落ち」「お金がなくてAVの世界に」という視点から切り取ったり、そういうものが多いなと感じていて。でもこの「ピーチクアワビ」は、AVの制作側からのお話で、ある程度限られた世界だからこそ「全員に好かれようとはしない作品」を体現することのチャレンジを描いている。読んでいて、アダルト産業をたくさん取材されたのかな?と感じました。

岩田 もともとこの作品の企画は、15年前に「AV業界を舞台にしたマンガの原作をやってみませんか」というお話をいただいた際に生まれたものなんです。だから原作の脚本を作る際に、それこそSODで撮っている監督にインタビューをしたり、撮影に同行させていただいたりしました。

紗倉 15年前にお話ができていたから、舞台が2020年ではなく2005年なんですね。

岩田 そうなんです。その監督インタビューで心情をうかがえた経験がとてもよかったと思っています。今も当時も、AVの世界の「完全なリアル」を目指すというよりは、ピーチクアワビという会社がどこか夢みたいな、2005年当時の撮影技術からも少し取り残されているような会社として描きたかったのですが、心情に関してはウソをつきたくないという気持ちがありました。周りのことはウソをついても、中で働いている、戦っている方の、「本当に思っていること」「これだけは譲れないこと」の感じというか、内側から見える景色は吸収したいなと思っていて。今回、2020年に改めてマンガにするにあたって、もう一度インタビューの機会もいただきました。

エロのかわいらしい部分を出したい

第3話より、緊張している汁男優の背中を押すキナコ。

紗倉 キナコがスタッフとしての初現場で、気持ち悪くなってしまうシーンがありますよね。私はあそこがすごく象徴的でリアルだと思いました。これまでAVと関わりのない方が立ち入る世界での「拒絶反応」のようなものって絶対にある。キナコは一回自分の身体で拒絶があったことを自覚しながら、でも「こういう作品を撮りたい」と楽しいアイデアを膨らませて乗り越えていく。たぶん、女優さんでも制作側でも「思っていたのと違う」と感じることってあると思うんです。きれいなところばっかりじゃないはず。“アンテナ”を確かめながらAVを編集する監督のシーンはまさにそうですが、「これが抜ける」という自分の性の感覚と「これが売れる」というビジネスの板挟みでやっていく人間たちをのぞき見している感覚があります。私はAV業界にいますが、うなずきながらもすごく新鮮な気持ちで読みました。

──特に新鮮だったエピソードはどこでしょうか?

紗倉 私は撮られる側が多いので、たまに制作の方々の動きに不穏なものを感じることがあります。監督さんとスタッフさんの間でコミュニケーションが円滑に取れていなそうだったり、裏側で怒られていたり、何かトラブルが発生していたり……制作側の人たちはとにかく一秒を惜しんで動いている。例えばキナコは最初の現場で「勃ち待ち」している汁男優さんのケアをしますが、彼らには彼らのストーリーがあるんですよね。勃たなかったら次の現場に呼ばれなくなっちゃうかも、という不安とか悩みをシビアに感じている。「ピーチクアワビ」はそういう、実際に私が現場で目の当たりにするようなシーンがあって、「ここまで気付けるのはすごい」と感じます。

──先ほどもお話にあったように、本作の舞台は2005年前後。紗倉さんのデビューは2012年なので、ご自身が経験されているより昔の話になります。「ここは15年前と今では変わっているな」と感じる部分はありますか?

第6話より、AV女優たちが脚本について話すシーン。

紗倉 昔と今での撮影のスタンスの違いはあるかもしれません。最近はAV女優さんが飽和状態というか、ネット社会で身バレのリスクが高まっていてもなお業界に入ってくる女優さんが増えていて、性質が変わっていますね。現場でお姫様扱いされているとか、控室から出てこないというイメージがあるかもしれませんが、今はそうすると悪目立ちしてしまうところがある。時間通り求められたことをこなしていかないと仕事がなくなるというシビアな状態にはなっているかなと。

──6話(2巻収録予定)では、女優さんが脚本や展開について激しく意見を戦わせるようなエピソードがあります。そこは少し2021年の雰囲気とは違うかもしれませんね。

紗倉 ただ、AV業界の現場って、本当にいろいろなんです。淡々とみんなが仕事をこなしていく現場もあるし、監督の指導がアツすぎて全然終わらない現場や、監督が急に「こうやるんだよ!」とまんぐり返しを始めて「監督がやらなくて大丈夫ですよ!」とみんなでツッコむ現場もあります(笑)。「正解」というのがなくてすごく差があるので、「これが普通のAV現場です!」という線引きもなかなかできない。「ピーチクアワビ」で描かれる現場も本当に存在すると思います。

岩田 そういうところを見てくださっているんだって、すごくうれしいです。エロって、いろいろな面を持っていますよね。本能と言われる部分もあれば、切ないところもあるし、ちょっと間抜けなところもある。この作品の中では、エロのかわいらしさを特に感じてもらえれば思っています。

紗倉 空想や考えごとをしているときにはSFっぽいエロ、タイトルや企画にはクスッと笑うコメディエロ、男優さんや制作陣が現場でがんばって葛藤しているときには色っぽいエロがあって……。「ピーチクアワビ」って、いろいろなカテゴリーのエロがちりばめられていますよね。