全力でぶつかり合ったドラマ「村井の恋」島順太×FINLANDS×リアクション ザ ブッタインタビュー、スタッフとの鼎談も (3/4)

島順太(原作)×松本桂子(プロデューサー)×井村太一(演出)
鼎談

吐血するシーンは原作に逆輸入したくなりました

──田中先生こと田中彩乃役は髙橋ひかるさん、村井くんおよび彼にそっくりな乙女ゲームのキャラクター・春夏秋冬役は宮世琉弥さんが演じています。かなり原作のイメージに近いキャスティングに驚いたのですが、彼らを起用したきっかけを教えてください。

松本桂子 髙橋さんはゲーム好きで、YouTubeで配信もされているんですよ。二次元と三次元の両方を愛せる人だという点と、島先生の出身地および作品の舞台である滋賀県出身であることなどが重なって、ぴったりだなと思いました。宮世くんに関しては「恋する母たち」での演技を拝見して、10代で若手なのにすごく安定しているなって。あとは何より、先生と生徒の“禁断の恋”にはしたくなかったんです。「村井の恋」って、すごく疾走感のあるまっすぐなラブコメなんですよ。ドラマでは2人のかわいい“ピュアラブ”な世界観を描こうと、年齢のバランスも考慮して。そこも踏まえると、髙橋さんと宮世くんはいいカップリングだなと。

髙橋ひかる演じる田中彩乃。

髙橋ひかる演じる田中彩乃。

──なるほど。脚本は声優としても活躍されている喜安浩平さんが務めています。こちらも何か狙いがあったのでしょうか。

松本 作中の乙女ゲーム「恋する戦国絵巻」の世界観もきちんと取り入れたかったんですね。喜安さんは脚本家以外では、俳優、演出家、声優さんとして多ジャンルで活動されてます。また、最近ですと舞台「呪術廻戦」なども手がけられるじゃないですか。二次元と三次元、どちらにも精通されていらっしゃるんですよね。あと「村井の恋」は田中先生、村井くんの2人もいいんですけど、そのまわりのキャラクターもすごく魅力的なんです。群像劇としてもきちんと描きたかったので、そのへんも上手な喜安さんにオファーさせていただきました。

──髙橋さん演じる田中先生、宮世さん演じる村井くんの演技をドラマで観て、島先生はどう思われましたか?

島順太 自分はドラマとマンガは別作品として観ているところがあるんですけど、この瞬間のこの仕草が好きだなとか、完全にシンクロしているところがけっこうあって。第4話「君のほっぺたをたべたい」で髙橋さん演じる田中が自分の妄想の世界で姫となり、武将に看取られながら「ぐはあ!」って吐血するシーンや、村井の双子の幼なじみの、莉子さん演じる仁美、鶴嶋乃愛さん演じる悠加の動きがシンクロしているところなど、原作に逆輸入したくなりました(笑)。

ドラマ「村井の恋」第4話「君のほっぺたをたべたい」より。

ドラマ「村井の恋」第4話「君のほっぺたをたべたい」より。

松本 仁美ちゃん、悠加ちゃんがシンクロするシーンは井村監督のアイデアなんですよ。

井村太一 自分がアイデアを出すのはもちろんなんですけど、役者さんがみんな原作を熟読して勉強されていて、自分たちのキャラクターを研究していたのが面白かったです。原作ではああでこうでと議論して。ドラマでは役者さんのアドリブやアイデアもけっこう取り入れられています。

 平井役の曽田陵介さんなんか、回を重ねるごとにどんどん平井になっていって、平井がもう平井でしかなくなって。びっくりですよ。原作の平井も負けてられへんなって(笑)。一生懸命なのはもちろん、役者さんたちが楽しんで演じてくださっているのが、すごく伝わってくるんですよね。そういう面も踏まえて、役者さんたちの圧倒的かわいさを目に焼き付けてほしいと思いました。

左から曽田陵介演じる平井真理、宮世琉弥演じる村井、伊藤あさひ演じる桐山暁文。

左から曽田陵介演じる平井真理、宮世琉弥演じる村井、伊藤あさひ演じる桐山暁文。

原作の持っている尖った鋭い部分を絶対殺したくなかった

──言葉で説明するのは難しいですけど、原作では田中先生が突然釈迦如来になったり、砂になって消えかけたり、キャラクターのフォルムがムーミン風になったり、村井くんのことが好きな幼なじみの弥生ことやよちゃんがゴリラになったりします。実写化するにあたり、現場ではどのような話し合いがされたのでしょうか。

井村 もう本当にどうしようって(笑)。原作の強烈な個性を、どう映像に落とし込めばいいんだって悩みました。映像にできないことはたくさんあるけど、原作の持っている尖った鋭い部分を絶対殺したくなかったので、スタッフみんなで何回も原作を読んで、ここは絶対生かさなきゃダメっていうところに線を引いて抽出し合ったり、どう映像化したらいいか台本の段階から探ったり。

「村井の恋」3巻その27「君のほっぺたをたべたい」より。

「村井の恋」3巻その27「君のほっぺたをたべたい」より。

松本 どういうふうに表現すればいいんだろう、どうすれば原作に立ち向かえるんだろうって、めちゃくちゃ話し合ったよね。

井村 みんなが好きなことを好きって自分の言葉で言える強さが、僕は「村井の恋」の中で一番好きで。今流行っている自己肯定感とはまた違う次元の強さに痺れたんですね。だからコメディだけどふざけることはせず、まじめにバカバカしいことをやろうと。そこは大事にしたと思います。カメラも照明も本格的な機材を使って。原作のスピリットを受け継ぎながら映像でできる、映像ならではの演出を模索していきました。

 最高です。そういう感じで自分もマンガを描いてるんで。「真剣にやってこれやねん!」みたいな。ホンマにバカみたいなことを全力でやっている人たちを描いているんで、まさにその通りであります。

松本井村 (笑)。

松本 あとはどうしたらエモくなるかって話し合って。

井村 現実的な話をすると、ドラマ「村井の恋」は配信が主体なんですけど、今人気を得て乱立されているのが女性向けのエロさを売りにしたドラマで。いや、我々は違うと。エモさで勝負をすると。

松本 そうなんですよ。生身の人間だからこそ出せるエモさ。そこぐらいしか原作のファンを納得させられないだろうなと思ったんです。最終的に先ほどの“ピュアラブ”とエモさを武器にがんばろうという話になりました。

梶さんの声からパワーをもらいました

──田中先生の脳内シーンでは、本格的な時代劇のセットが展開されていて驚きました。ふざけず真剣にやろうとしたからこその世界観だったのでしょうか。

井村 そうですね。喜安さんの台本をベースに、一見脳内だってわからないくらい、大河ドラマが始まったのかと思うくらい振り切ろうってなって。

 武家屋敷でのシーン、大好きなんですけど、映るたびに笑っちゃうんですよ。そのシーンって、田中の中ですごく深刻な事態が起こってるときに脳内に出てくるんですけど、深刻すぎて笑っちゃうんです(笑)。

松本 脳内に登場する武将役で出演のジャングルポケット・斉藤慎二さんの真顔とか。

 最高ですよね。あと第2話「ラブストーリーは必然に」の、田中と村井がお互い会うために全力で走るシーンでは、田中の脳内に「ロンリー・チャップリン」がかかるじゃないですか。

──脳内にいる武将の方々がマイクを持って歌い出すという。照明もカラオケのステージのようでしたね(笑)。

 まじめに走ってるときに頭の中であれが起こるって、「どういう感情なん!?」って(笑)。それがめちゃくちゃ面白くて。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

井村 もともと「ロンリー・チャップリン」は台本にはなかったんですけど、原作の該当シーンとなる「ラブストーリーは必然に」までの流れが、疾走感があって面白いじゃないですか。村井くんも田中先生もノープランで走り出すんだけど、途中女の子の風船を取ってあげたり、サイクルカーに乗っているおじいちゃんをまるごと担ぎ上げて助けてあげたりしながら、「ゴッ!」って空を飛んで銭湯の前に降り立つっていう。あれは再現できないよ、ドラマじゃ、って。

一同 (笑)。

井村 ドラマでできることはなんだと思ったときに、音楽で歌わせようと思ったんです。

松本 普通だったら、田中先生と村井くんのカットバックで終わってしまうところを、「それじゃ、『村井の恋』じゃない!!」って。「普通に終わったら、普通のラブコメになるけどそれでいいのか」と、葛藤し続けました。

「村井の恋」2巻その15「会う!!!!」より。

「村井の恋」2巻その15「会う!!!!」より。

井村 音楽も普通の地上波のドラマとは違う付け方をしようって。

 それで言うと、明らかにときめくシーンであろうと思われるところで、なぜかホラーシーンに登場するような「デン!」って音が使われるじゃないですか。あれがめっちゃ好きなんですよ。かと思いきや、ガチの恋愛シーンではすごくエモい音楽が流れて、温度差エグいなって思いました。さっきの恐怖体験は何だったんだって(笑)。

井村 島先生がお気に入りのシーンを描いてツイートしてくれたじゃないですか。そこにも「デン!」って描いてあって(笑)。うれしかったです。

──乙女ゲームのキャラクターで村井くんに激似の春夏秋冬は、宮世さんが1人2役で演じながら、梶裕貴さんが声をあてています。それがすごく功を奏していて、ゲームのキャラクター感が増している感じがしました。

松本 成功するかどうかわからなかったんですけど、梶さんの声によって、乙女ゲームの世界観が構築された気がします。梶さんもすごく楽しんでくださって。原作をきちんと読み込んだうえで、「今吐息を入れられなかったんで、もう1回やらせてください」って、こだわりながら演じてくださいました。

井村 声がカッコよくて強いんですよね。初めて宮世くん演じる春夏秋冬の声を入れていただいたときに、パワーをもらいました。

宮世琉弥演じる春夏秋冬。シーンによって梶裕貴が声をあてている。

宮世琉弥演じる春夏秋冬。シーンによって梶裕貴が声をあてている。

 原作でもそうなんですけど、村井と春夏秋冬は正反対の性格というか、同じ顔なだけでまったくの別人として描いているんですよ。宮世さんの声ではなく、梶さんに演じてもらったことで、村井と春夏秋冬の違いが大きく出せていたのですごいなと思いました。三次元の人に、声優さんが声をあてるってどういう状況!?って最初は思ったんですけど、まったく違和感がなくて。不思議な現象でした。