全力でぶつかり合ったドラマ「村井の恋」島順太×FINLANDS×リアクション ザ ブッタインタビュー、スタッフとの鼎談も (2/4)

モンゴリアンチョップをキメたまま終わらないでよかった

──ドラマ「村井の恋」本編の内容についてもお聞きしたいと思います。ドラマのどんなところに見どころを感じましたか? 印象に残っているエピソードなどもあればぜひ。

佐々木 ドラマの第1話「生徒が推しに大☆変☆身」の最後に村井くんと田中先生が屋上で対峙するじゃないですか。あそこで田中先生が「人の気持ちは変わる。未来なんて約束しないで」って言ったあと、一瞬田中先生の過去が差し込まれるんですよ。その一瞬があるとないとじゃ、全然感じ方が違うなって思うんです。選ぶのは大変だと思うんですけど、ドラマではそういう細かな心の機微や言葉が、原作から絶妙に取り出されていて。新しいクリエイティブの形だなと感じました。

ドラマ「村井の恋」第1話「生徒が推しに大☆変☆身」より。

ドラマ「村井の恋」第1話「生徒が推しに大☆変☆身」より。

大野 僕はドラマの第2話「ラブストーリーは必然に」の構成がすごくよかったなと。同人誌即売会で乙女ゲーム「恋する戦国絵巻」のキャラクター・春夏秋冬(ひととせ)のコスプレをさせられた村井くんが、変装して会場に現れた田中先生を見つけるシーンがありますよね。村井くんは田中先生に会えたうれしさと「好き」の意から握手を求めるんですけど、田中先生は自分が春夏秋冬を好きなことを村井くんが知っていて、最初からからかっていたんだと勘違いしたうえ、村井くんにモンゴリアンチョップをキメて帰ってしまうという。恋愛ってそういう空回りが往々にしてあるとは思うんですけど、そのシーンは原作でも読んでいてつらかったんですよ。「そういうことちゃうねんて!!」って。

一同 (笑)。

大野 モンゴリアンチョップのシーンで2話が終わったら、つらすぎるだろと思っていたんですけど、最後に村井くんと田中先生が銭湯の前で再会して握手をするシーンまで収められていたので、本当によかったです。モンゴリアンチョップのシーンで終わっていたら、結末が変わらないかなと何回も繰り返し観てしまうところでした。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

ドラマ「村井の恋」第2話「ラブストーリーは必然に」より。

木田 銭湯といえば、第1話で田中先生と村井くんが偶然鉢合わせたとき、「今お付き合いされている方はいるんですか?」と村井くんから尋ねられて、田中先生が飲んでいた缶ビールをバッって吹くじゃないですか。あのシーンがすごく好きで、何回も繰り返し観ています。撮影現場に伺わせていただいたんですけど、髙橋さんに「ビールを吹くシーンが面白かったです」ってお伝えしたら、キレイに吹くために何度か練習したとおっしゃっていました。

 キレイに吹く(笑)。

塩入 原作をそのまま再現している部分がすごく多いですよね。原作ファンもドラマから入った人も、置いてきぼりにしない作りになっている。あと銭湯のアイテムや春夏秋冬のフィギュアなど、小道具が凝っていていちいちかわいいなって思いました。そこにときめく人もたくさんいるんじゃないかな。

ドラマ「村井の恋」第1話「生徒が推しに大☆変☆身」より。

ドラマ「村井の恋」第1話「生徒が推しに大☆変☆身」より。

──小道具といえば、村井くんの家が営むおにぎり屋にちなんだキャラクター・おにぎりくんが、銭湯や田中先生の部屋などにさりげなく置かれているところにもこだわりを感じました。

塩入 わかります。一度おにぎりくんをお借りして写真を撮らせていただいたんですけど、一個一個手作りでものすごく重量感があって驚きました。

佐々木 僕らもお借りしたんですけど、確かに重量感、ありましたね。

 担当さんとかいろんな人に手伝ってもらいながら、40個くらい作りました。

塩入 え? 島先生の手作りだったんですか!? すごすぎる!

 文句言いながらずっと作っていたんですけど、塩入さんもリアクション ザ ブッタさんもSNSにおにぎりくんを出してくださって、ドラマでもしっかり使われているところを観たら、やってよかったなって思いました。

山門先生は登場させるつもりがなかったキャラクター

──島先生は昔から絵を描かれていたんですか?

 物心が付いたときから描いていました。生意気にも子供の頃は絶対ヤバい人物になるだろうと思っていましたし、絵関連の仕事はするだろうなと漠然と思いながら生きていました。大人になってからは本格的に作家になるとは思っていませんでしたが、絵自体はずっと描き続けてはいました。

──以前、島先生が受けたインタビューのプロフィール欄に「ヒッピーが囲んでいる焚き火のような作品」をコンセプトに執筆していると書かれていて、とても気になりました。どういった経緯でその境地に至ったのでしょうか。

 自分のスローガンの1つに「群れない、媚びない、ゴマすらない」というのがあって。上辺だけの付き合い……気持ちでぶつかり合わないような人間関係が苦手で。本気で好きでいてくれる人たちから、本気で愛されて必要とされる作品が描きたかったんですよ。わらわらとどこからか人が集まってきて、気付けば輪になって囲まれる火、明かりのような。「村井の恋」もそういう作品にしたいと、連載当初から決めていました。

塩入 いい!

 実は「村井の恋」のテーマでもある、先生と生徒の恋愛ものが嫌いだったんですよ。でも自分が、それを上回るくらいの天邪鬼でして。苦手苦手って思っていることにだんだん腹が立ってきて、だったら自分の解釈で、自分が認められるような先生と生徒の恋愛ものを描いてやろうと。そんな感じで描き始めて。「村井の恋」1巻、2巻を描いているときは、別の仕事と並行していたので、物理的に厳しくて吐きそうでしたけど、アシスタントさんを雇ってからは、ずっと「ここの平井、セリフないのにマジうるさい」とかツッコミながら原稿作業をしています(笑)。

佐々木 マンガ家って、ストーリーを考えて、絵を描いて、言葉を考えてって全部やるしかないじゃないですか。そこが音楽とはまた違って、すごいなと思っていて。たくさん名言が出てくるし。改めてとんでもないなと思うんですよ。

 よく近い職業が映画監督って言われますよね。自分は感覚でマンガを描いているんで、セリフ作りに苦労するだとか、そういうことはあまりないんですけど、ただ描くという作業の中で……眠いとか、疲れたとか、面倒くさいとか、そういうところに苦労している感じです。

佐々木 よくキャラクターが勝手にしゃべりだすとも言いますよね。どんどん巻数を重ねるにつれて、キャラクターのいろんな性格が出てくると思うんですけど、島先生の場合は自分から離れて、キャラクターが独立してしゃべる感じですか?

 完全に独立していますね。描き慣れるまでは「村井ならこういうとき、こう言うだろうな」って自分の頭の中で憶測を立てて、セリフを考えたりしてましたけど。もう今は慣れまくってるからですかね。勝手にしゃべっています。

佐々木 そうだったんですね。

塩入 私も聞いてみたいことがあって。音楽は1曲で完結しますけど、マンガってずっと続いていくじゃないですか。何巻も続いていく中で大幅に展開を変えたくなることってありますか? 例えば、1巻の時点ではこう思っていたけど、7巻では変えたいとか。

 あります。作品の核や大筋は変えないんですけど、そこに至るまでのお話をそのときのノリでちょっと変えたりは(笑)。

塩入 ノリで!?(笑) 思いついたら変えちゃう感じですか?

 はい。

塩入 ええー!! そうなんですね。それによって登場人物が増えたりすることもあるんですか? 最初はそのつもりがなかったけど、登場させたキャラクターが「村井の恋」の中にもいると。

 学年主任の山門先生がそうですね。

一同 えええええ!!

「村井の恋」5巻その39「茶番」より。

「村井の恋」5巻その39「茶番」より。

佐々木 突如として現れたんですか? マジか……。

 だから別名が「冥王ハーデース」なんですよ。山門は「村井の恋」とは別の話にもともといたキャラクターで、コロナ禍のときにふざけて描いたマンガに輸入して山門を登場させてみたんです。そうしたらすごく馴染んで、「雰囲気もええやん!」って(笑)。村井に対するラスボスみたいなキャラクターは絶対必要で、その構想は最初からあったので、「村井の恋」でも山門を始動させました。

塩入 いまや山門先生がいて、話がめちゃくちゃ盛り上がっている感じがありますけど。

 結果的によかったです。

塩入 そうやって長く続く作品を作り続けるというのは、私たち音楽を作る側にはまったくない苦労とか、楽しみがあるんだろうなと思ったので、聞いてみたかったんです。そうしたら、めちゃくちゃいいお話が聞けました。

プロフィール

島順太(シマジュンタ)

滋賀県出身。2018年6月にジーンLINEで「村井の恋」を連載開始した。翌年「次にくるマンガ大賞 2019」のWebマンガ部門で2位を獲得。2021年3月に単行本5巻の発売を記念したイベント「正気か渋谷展~村井の恋presents~」が、東京・LOFT9 Shibuyaで開催された。

FINLANDS(フィンランズ)

塩入冬湖(G, Vo)、コシミズカヨ(B, Cho)の2人で2012年に結成したバンド。2013年にロッキング・オン主催のアマチュアアーティストオーディション「RO69JACK 13/14」で入賞したのち、さまざまなライブイベントに出演するようになる。2015年2月にミニアルバム「ULTRA」をタワーレコード限定でリリース。2016年7月に初のフルアルバム「PAPER」、2018年7月に2ndフルアルバム「BI」、2019年3月に初のEP「UTOPIA」を発表した。「UTOPIA」のリリースツアーファイナルでのステージを最後にコシミズが脱退。以後、ベースにサポートメンバーを迎えてライブ活動を行っている。2020年にシングル「まどか/HEAT」を配信限定でリリース。2021年1月に無観客配信ライブ「記録博2021」が行われた。同年3月に3rdフルアルバム「FLASH」、10月に同作のアナログ盤をリリース。ワンマンツアー「FLASH AFTER FLASH TOUR」を開催した。2022年4月に「ピース」がデジタル配信された。

リアクション ザ ブッタ

2007年に佐々木直人(B, Vo)と木田健太郎(G, Cho)を中心に結成されたスリーピースバンド。2009年に行われたバンド選手権「TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2009」で最優秀賞を受賞し、同年夏に開催されたロックフェス「ROCK IN JAPAN FES.2009」への出演を果たす。2014年にはバンドオーディション「RO69 JACK」で優勝し、同年12月開催の「COUNTDOWN JAPAN14/15」に出演した。2015年6月にオリジナルメンバーであるドラマーが脱退。2016年2月にかねてからサポートドラマーを務めていた大野宏二朗(Dr)が加入し、現在の編成となる。2017年には「SANUKI ROCK COLOSSEUM」「HAPPY JACK 2017」「NUMBER SHOT 2017」「ap bank fes 2017」などさまざまなライブイベントに出場し、その知名度を高めていく。2018年10月に最新ミニアルバム「Single Focus」をリリース。2019年1月から2月にかけて、初の東名阪ワンマンツアー「リアクション ザ ブッタ Tour2018~Mini Album『Single Focus』 Release Tour~」を開催した。2019年11月に初のデジタルシングル「ワスレナグサ」をリリース。全国ツアーを敢行し、2020年には東名阪ワンマン公演を大成功に収める。2021年3月に「Coffee Cup」、6月に「Colorful」、8月に「Seesaw」とデジタルシングルを続けてリリース。同年11月に約3年振りとなるミニアルバム「サイレントスーパーノヴァ」を配信リリースし、ツアーおよび東名阪ワンマンを行った。2022年1月にデジタルシングル「Overfilm(2022 Remastered)」、4月に「虹を呼ぶ」をリリース。同年5月にリリースツアー「『虹を呼ぶ』」Release Tour~ツアーに来い来い、あなたの恋~」がスタートする。