光と彗は感謝してもしきれない特別なキャラ
──南先生の初連載作品にして現在の最長連載作となっている「S・A(スペシャル・エー)」についてお話を伺ってまいります。お金持ちの子息が通う高校の特別クラスであるS・Aという舞台と、個性豊かなS・Aのメンバーによって第1話から引き込まれる内容ですが、この物語はどういうきっかけで生まれたんでしょうか?
とにかく自分が好きな要素と世界観を、入れられるだけ入れてしまおうと思って作りました。ストーリー作りが苦手なので、自分が楽しく感じる部分を少しでも多く入れて楽しく描きたい気持ちがあったんだと思います。当時の担当さんから「部活とか生徒会のような複数のキャラがワイワイするものを描いてみたら?」と言われて、面白そうだなと思って7人のキャラを作りました。
──なるほど。
小さい頃から母が買っていた海外の豪邸ばかりが載った洋書が大好きで、自分も学生のときに海外の雑誌が置いてある本屋さんで豪邸を紹介する雑誌を買っていて。そこに出てくるような超絶豪華な家に住んでる超絶お金持ちが、自分では絶対買えない超絶に美しい茶器でお茶を楽しんでいるシーンをマンガに入れるんだと意気込んだ記憶があります。
──S・Aメンバーのお茶のシーンはそうやって誕生したんですね。主人公の光は長い黒髪が印象的な美人ですが、男勝りな内面とのギャップが魅力的でした。光はどういう経緯で生まれたキャラクターなのでしょうか?
光のビジュアルは最初から黒髪ロングの美人にしようと決めていました。当初は家もお金持ちな茶道家の娘で、成績の順位も2位ではなく1位だったのですが、やはり当時の担当さんから「この子は庶民にしよう」と言われて、確かにそっちのほうが面白そうと思って庶民にしました。光が1位の設定でネームを描いたのですが、うまくいかず2位にしたら描きやすくなった記憶があります。
──当初は光のほうが成績がいい設定だったのは意外です。光のライバルであり、なんでも完璧にこなすイケメン・彗の誕生の経緯も伺いたいです。
ヒーローは超絶完璧なお金持ちヒーローにしようと思っていたんです。「なんでも完璧にできるけど、唯一の弱点はヒロイン」というものに萌えがあったので、彗にその要素をふんだんに入れました。クールでイケメンで完璧で、というキャラは私にはすごく難しくて当時一番作画と内面に気を使いました。
──「打倒、彗」を目指して燃える光と、彼女に思いを寄せる彗の姿を5年にわたって描かれましたが、南先生の中で彼らはどういう存在になりましたか?
彼らを描いていくのが当たり前になっていて、最終回を描いたときになぜか泣いてしまった思い出があります。いろいろありがたい企画を体験させてもらって、私にとっては感謝してもしきれない特別なキャラです。
──読者の感想を見ていると、皆さんS・Aメンバーの中で必ず推しキャラクターがいる印象でした。南先生はどのキャラクターがお気に入りですか? 個人的な予想ですが、巻末のおまけページを担当している宙かなと思っており……。
おっしゃる通り、宙はめちゃくちゃ気に入ってました(笑)。あと八尋もどんどん愛着が湧いてお気に入りになって、この2人は本当に描きやすかったです。宙はオチが付けやすいキャラだと思っておまけページに登場させていたんですが、いただいたお手紙でおまけページが好評だったのでそのまま描き続けました。アニメの予告を担当するキャラとしても、使ってもらったのがすごくうれしかったです!
──先生にとっても宙ファンにとっても、うれしい演出だったと思います。南先生が「S・A」の中で印象に残っているシーン、もしくはエピソードを3つ挙げるとしたらどれでしょうか?
ます1話で彗がマフラーを外して臨戦態勢になるシーン。当時の描ける最大のカッコよさを目指して描いた記憶があって、友人から「あのシーン、カッコよかったよ」と褒められてうれしかったですね。2つ目は彗が光に初めてキスをするシーンです。プロになって初のキスシーン描いちまったよ……!ともだえた記憶があります(笑)。あとは八尋と芽のデート話ですね。八尋を意外性のあるキャラと絡ませようと思って芽を登場させたらすごくいい感じになったので、うれしかったです。
──キスシーンは本当に不意打ちで、読んでいてドキドキしました……! 2008年には「S・A」がアニメ化されました。アニメ化の打診を受けたときの心境はいかがでしたか?
初めてお話を聞いたのは、打ち合わせのときの腹ごしらえのために当時の担当さんと入ったハンバーグ屋さんでした。セルフのお水をピッチャーから2人分汲んでるときにその話をされて、あまりの衝撃でマンガのようにコップではない場所に水をジャバジャバ注いでしまい……(笑)。
──(笑)。
テーブルは大惨事になりました。でもその日何かに落ち込んでいたのですが、それも見事に消し飛びました。完成したアニメはひたすらに感動しかないです。「自分の作ったキャラが動いて! しゃべった……!」と。
「声優の世界はそんなに甘くはないよ!」という厳しい意見も
──「S・A」のアフレコ現場にも見学に行かれて、その経験が次作「声優かっ!」につながりました。具体的には声優という職業のどういった部分に惹かれたんでしょうか?
アフレコ現場で声優さんの声の演技力を目の当たりにして感動したんです。実際演技をしている姿を拝見して、「……」という沈黙の表現もしっかりキャラと場面に合わせて演じ分ける様子に「すごいなあ……」と思った記憶があります。それをマンガにしてみたいなと思ったことが、「声優かっ!」が生まれるきっかけですね。
──執筆にあたってはかなりの取材を重ねられたとのことですが、印象に残ったことを教えてください。
実際の声優学校へ行って、講師の方などにお話を伺ったんですが、競争率の高さや厳しさが想像以上でした。演技の授業のほかに、ダンスなど想像もつかない授業があったのが面白かったですね。作中でダンスを入れたのは取材が影響しています。
──そうだったんですね。アニメや声優好きの読者はこの題材をかなり喜んだかと思うのですが、読者からの反響はいかがでしたか?
喜んでくださった方もいれば「そんなに甘くはないよ!」という厳しい意見もいただきました。私はマンガの中のキャラにはあまりつらい思いをさせたくないので、その厳しさをあまり描かなかったんですが、でも主人公には何かしらの形でちゃんと努力させようと苦労した覚えがあります。また、作中のアニメなどの劇中劇を考えたりするのがすごく楽しかったですね。
──ちなみに「声優かっ!」連載中にカラー原稿の作画をアナログからデジタルに変更されたとのことですが、どういう理由から変更されたのでしょうか?
まわりがどんどんデジタルに移行した時期で、「今のうちにデジタルを使えるようにしておかないとどんどん移行が難しくなりそう」と思ったので、思い立ってデジタルに変更したんです。でも「アナログのカラーが好きです」と言ってくださる読者さんもいらっしゃったので、時々アナログも描きたいなとは思っています。自分がアナログでカラーを描くのも、ほかの方のアナログ作画の作品を見るのも好きなので……! ちなみに今はほぼ100%デジタルです。
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皆さんそれぞれにドラマがあって楽しかった