アニメ「魔王2099」狩野英孝インタビュー|“ゲームが下手”だけじゃない、凋落から再起を遂げる魔王との意外な共鳴 (2/2)

僕は遊んでいただきたいんで

──アニメの中でお気に入りのキャラクターはできましたか?

この作品って、あんまり登場人物が多くないですよね?

──そうなんですよ。何気なく観ているとそんなに少ない印象はないんですけど、実はかなり必要最低限の人数で物語が回っています。

ですよね。だから今ちょっとその質問に対して意外なところいこうかなとも思ったんですけど(笑)、「あれ? そもそも5、6人しか出てきてないぞ?」と思って。なので普通に答えますけど、マキナが気になりましたね。ベルトールのことを500年も待ち続けて復活させる一途さと忠誠心はすごいなと思いますし、どうやらベルトールに対して恋愛感情っぽいものを持っているように見えるんだけど、ベルトールにはそもそもそんな感情あんのかな?みたいな。その恋の行方もちょっと気になるところではあります。

マキナはかつての魔王の臣下・六魔侯の1人。ベルトールに対して忠誠を強く誓っており、ベルトールからも絶大な信頼を置かれている。

マキナはかつての魔王の臣下・六魔侯の1人。ベルトールに対して忠誠を強く誓っており、ベルトールからも絶大な信頼を置かれている。

──なるほど。

あと、新しい時代にちゃんと順応しているところが偉いなと。500年前の世界とは全然違う、大異変後の世界を生きているわけじゃないですか。その中でちゃんと科学文明も受け入れながら、時代の流れに沿って生きているところは尊敬します。新しいことを覚えるのって、しんどいじゃないですか(笑)。特にこの歳になってくると、ゲーム配信ひとつ始めるだけでも大変だったんで。

──ベルトールにとってはそのマキナと高橋という2人の存在がとても大きいですよね。狩野さんは先ほど「自分には高橋的な存在がいなかった」とおっしゃっていましたが、マキナのような存在は周りにいますか?

それこそYouTubeを始めたときのメンバー……今もずっとそのメンバーでやってるんですけど、マキナ感ありますよ。そもそも僕がYouTubeを始めたのって、テレビ番組の収録前に前室でサンドウィッチマンさんに「狩野くんもYouTubeやってみれば?」って言われたことがきっかけだったんですね。そのときに周りにいたスタッフさんが「じゃあやってみる? 狩野くん」と乗っかったことで、実際に動き出したんですよ。

──その場のポジションだけを見ると、サンドさんが高橋でチームの皆さんがマキナって感じですね。

でもおじさんばっかのチームだし、僕も含めてテレビの感覚でずっと生きてきた人たちなんで、サムネ1個作るにもみんなで集まってはいちいち悩むんですよ。いろんなYouTuberさんのサムネを見ながら「みんなサムネでネタバレしてるよ? 考えられない!」って(笑)。テレビの世界ではおいしいところは引っ張って引っ張って「CMの後!」ってやるんですけど、YouTubeではそれだと誰も観てくれない。「もう発想を根底から変えないとダメなのかもしれない」ってみんなで1個ずつ学んでいった感じです。

──なるほど。では配信の話に限らなくていいので、先導者といった意味での高橋的な存在は誰かいますか?

いっぱいいますよ! その中でもガッと運命を変えてくれた人というと……(長らく熟考してから)いや、いっぱいいるなあ……。

──(笑)。

あ! やっぱり先輩芸人さんでいうと、ロンブー(ロンドンブーツ1号2号)さんですかね。僕の人生や芸人としてのスタイルは、ロンブーさんのおかげで大きく変わりましたから。本来は僕もネタで評価されてバーンと世に出ていくつもりでいたんですよ。それが、自分の発想にはないところの面白さを淳さん(田村淳/ロンドンブーツ1号2号)が引き出してくださって。自分ではそれが面白いかどうかもわかってなかったんです。ドッキリにかけられたりしても「なんでこんなひどいことするんだろう?」としか思ってなかったんですけど、オンエアを観たいろんな方から「面白かったよ!」と絶賛してもらえる。こっちからすると「え、何が?」みたいな感覚なんですけど。

──意図しない笑いを生み出せるタイプの方は、そうやって誰かに見つけてもらわないと才能が開花しないんですよね。

「お前はこっちが面白いんだ」と引っ張ってくれたという意味では、淳さんが高橋的な存在と言えると思います。だからよく皆さんに「淳さんとはよくごはんとか行くんでしょ?」と言われるんですけど、実は一度も行ったことないんですよ。

──え、そうなんですか?

ないんです。仕事でしか会ったことなくて。淳さんが言うには「プライベートで仲良くなっちゃうと余計な部分が見えちゃって、イジるときに雑念が生まれちゃう」みたいなことらしいんですけど、複雑ですよね。僕は遊んでいただきたいんで。

狩野英孝

狩野英孝

危うくだまされるところでしたよ

──では最後に、アニメ「魔王2099」のオススメポイントを教えてください。

僕がこのアニメで一番好きなのが、ベルトールが勇者・グラムに助力を求めるシーンなんですよ。そこでグラムが「君はかつて僕の家族を殺し、仲間を殺し、多くの人々を殺した」ということを言うじゃないですか。ベルトールが本当は悪いやつなんだってことをそこで思い出させてくれるんです。そこまでのストーリーを観てきた視聴者としては、その時点でだいぶベルトールに感情移入してますよね。でも「いやいやいや違う違う違う、こいつ悪い魔王なんだそういえば」って思わせてくれるところが、僕は意外と好きで。

500年前に魔王・ベルトールを討伐したグラム。女神・メルディアから「不老」の祝福を授かった後、争いを繰り返す人間たちに絶望し、現在は無気力に新宿市のスラムで暮らしている。

500年前に魔王・ベルトールを討伐したグラム。女神・メルディアから「不老」の祝福を授かった後、争いを繰り返す人間たちに絶望し、現在は無気力に新宿市のスラムで暮らしている。

かつての宿敵である勇者・グラムに頭を下げるベルトール。

かつての宿敵である勇者・グラムに頭を下げるベルトール。

──あれは確かにとても印象的なシーンでした。

マキナ救出のために協力はするけど、ベルトール陣営からされたことを許したわけじゃないってことをハッキリ言うじゃないですか。勇者としてのスタンスが一貫していてすごくいいなと思いました。そうだよなあ、そういえば魔王なんだもんなあ……危うくだまされるところでしたよ。

──(笑)。まあ、ストーリー上の悪役ポジションにはマルキュスがいますしね。

話の流れ的には、共通の敵に対抗するためにもっとあっさり勇者と魔王が手を組んでもそんなに疑問は感じなかったと思うんですよ。でもグラムの抱える魔王との因縁や勇者としての矜持をちゃんとセリフにしてくれたんで、世界観がしっかりしているのも感じられましたし、スッキリした気持ちで観れましたね。

──ちなみにこの作品を芸人仲間に薦めるとしたら、どなたに薦めますか?

同じくゲーム配信をやられている、品川庄司の品川(祐)さんですね。品川さんも僕と同様にゲームが下手なんで(笑)、どんなに下手でも楽しくプレイするベルトールの姿を見て「そうだ、ゲームは楽しむものなんだ」ってことを思い出してもらいたいです。なのでゲームの下手な……品川さん、ゴー☆ジャスさん、野性爆弾ロッシーさんにオススメしたいと思います。

狩野英孝

狩野英孝

プロフィール

狩野英孝(カノエイコウ)

お笑い芸人。1982年2月22日生まれ、宮城県出身。日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業後、「ラーメン・つけ麺・僕、イケメン」などのフレーズを駆使した1人コントの芸人としてデビューする。お笑い芸人以外にもテレビ朝日「ロンドンハーツ」から誕生したシンガーソングライター・50TAとして活動を展開するほか、近年はYouTuberとして精力的に動画を配信。また実家の神社で神職にも従事している。