木梨憲武「木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~」インタビュー|木梨憲武にとって音楽とは?

木梨憲武にとって「音楽」とはどういった位置付けなのだろう?

とんねるずで一世を風靡した木梨は、お笑いタレント、歌手、アーティスト、俳優、司会者などさまざまな顔を持っているが、“木梨憲武”名義でソロ歌手として活動を始めたのは2019年。過去にとんねるずとして、野猿として、山本譲二とのデュオとして「NHK紅白歌合戦」に出場した経験を持つ木梨だが、ソロで歌手活動を行うようになったのはそのキャリアを考えるとごく最近のことだ。

音楽ナタリーでは、木梨の還暦を記念したアルバム「木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~」のリリースタイミングで本人にインタビュー。木梨らしいウィットに富んだ発言の数々からは、歌手活動に限らず、何事にも「とことん楽しむ」というスタンスが垣間見られ、豪華ゲストが多数参加したアルバムも、彼なりの“真剣な遊び”の中から生まれたことが伺えた。またインタビューの終わりには「木梨憲武にとって音楽とは?」という質問に対しての答えを、スケッチブックに一筆したためてもらった。

取材・文 / 小野田衛撮影 / 中野修也

意気込みは若いバンドマンと同じ

──木梨さんはマルチなジャンルで活躍されていますが、「音楽が自分にとっては大切」といった趣旨の発言を過去にされています。なぜ大切なのでしょうか?

おっと、いきなり難しい質問で来たなあ(笑)。

──例えば世の中には「別に音楽なんてなくても生きていける」という人も大勢いると思うんです。

まあ確かにね。音楽ってさ、それまで別のことを考えていたのに、耳にした瞬間、急に違う世界へ連れて行ってくれるようなところがあるんですよ。そこが好きなんだろうね。いまだに車の中で昔のディスコを聴いたら当時のことを思い出すし、バラードを聴いたらそのときの彼女のことを思い出すし……。簡単にタイムスリップできるというか。思えば学生の頃から自分も周りの人と同じように好きな歌手のレコードを買ったり、カラオケ屋さんで楽しく歌ったりはしていたけど、まさか自分が歌手活動をやることになるなんて想像もしていなかったですから。

木梨憲武

──とんねるずは時代の寵児になったことで、「一気!」「青年の主張」など過激なシングルをお茶の間に送り込みました。

そうそう。だから期せずして歌手になっちゃったんだよね。それでコンサートとかの動きも始めるようになり、しかも途中からはコンビじゃなくて1人で活動することになって。1人でやるためにはどうすればいいのかな? 何を作ればいいのかな? そういうところからスタートしたのが、2019年以降の木梨憲武名義での音楽なんですよ。本当にゼロの状態から仲間たちと一緒に「歌いたいのはどういう曲だ?」って作り上げてね。気持ち的には「俺たち、これからがんばって売れてやるぜ!」と意気込む若いバンドマンと同じかもしれない。

──やる気に満ちあふれていると。

「どういう人たちが聴いてくれるかな?」「どんなふうに響くのかな?」というのはよく考えているかな。いや、だって歌手って免許を取ってなれるものじゃないでしょ? 歌が上手な人なんて世の中にごまんといるけど、うまい人が必ずしもプロになれるわけではないしさ。こういう立場にいる以上、嫌がったところで売上枚数とかの数字はつきまとうものだし、いろんなレコード会社から素晴らしいアーティストがどんどん出てくる中、「じゃあ我々はおじさんなりに何をしよう?」ということになるわけですよ。そういう気持ちで、このアルバイトをがんばっているんだけどね。

木梨憲武

──え? アルバイト感覚で音楽活動をされているんですか?

アルバイトですよ。完全なる趣味というか。それはコロナ禍になってから時間の使い方が変わったというのが大きかっただろうね。もちろんうちらも感染とかには気を付けながら、スタジオ作業もなるべく少人数でやるようにはしたけどさ。2、3人で集まっては「こんな詞をもらったけど、ここからどう仕上げていこうか?」とか「だったら、あの人にも一緒に歌ってもらおうか」とか話し合ってね。それで仲間やゲストを呼び出したりして、いきなり歌ってもらったりしてね。

最終章の次は“帰ってきた最終章”!?

──今回のアルバム「木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~」はそうそうたるゲストが参加しています。ミュージックビデオでも楽しそうに共作している様子が映っていますが、わりと友人感覚で参加してもらうことが多かったんですか?

木梨憲武「木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~」収録曲

  1. サンシャイン ラブ ~差し替え ザッキー~
  2. 命綱 feat. マツコデラックス, ミッツ・マングローブ & ピンドン・ノリ子
  3. スキャンダルナイト feat. 指原莉乃
  4. まにまに
  5. 最高な毎日にするために自分からグイッと動き言葉に気をつけ相手の顔色見て全て面白がり答えは追い追いやってくるにちがいない。・・・つまり、しかけ早めに動いていこう! feat. 遠藤章造, 狩野英孝, 堀内健 & 60才なのに40ぐらいの気持ちNORIー!!
  6. 友よ feat. 藤井尚之, ヒロミ & 堀内健
  7. 私は神様を知っている feat. 所ジョージ
  8. 不機嫌なモナリザ
  9. 生きてるうちが花なんだぜ feat. 宇崎竜童 & 佐藤浩市
  10. サクセス
  11. いま子供達に問う feat. ねお
  12. One Night Carnival
  13. WON'T BE LONG
  14. 最高な毎日にするために自分からアタックして言葉に気をつけムードよく進めるようしかけは早め全て面白がり答えは追い追いやってくるくるくーるZ!!・・・つまり、答え探しの毎日を! feat. ももいろクローバーZ & のりクロ
  15. ジグソーパズル feat. 中井さんと木梨くん。
  16. ホネまでヨロシク feat. DOBERMAN(2022 ver.)

(急に真顔になって)いやいや、とんでもない! うちらも遊びでやっているわけじゃないので。そこは厳格なミーティングを重ねたうえで、きちんとした形でオファーさせていただいております。(急に元の調子に戻って)まあでも実際はね、先輩たちも後輩たちも一緒に遊びながら音楽を楽しみたいなっていうことなの。うん、楽しんで参加してもらうことが一番ですよ。「今から来て」とか「俺も来ちゃったよ」とか言ってね。それで「今日は楽しい1日だったな」と感じてもらえたら単純にうれしいじゃないですか。

──そうやって楽しみながら制作された3枚のEPをベースにしたのが、今回のアルバムというわけですか。

そうです。メロディと詞が上がってきて、みんなで歌ってバランスを整えて、何回かフェスとか自分のライブで披露して、そのベスト盤かつ最終章ということになるので。もう何年も前からやっている16曲だからね。以前に配信されたものもあるけど、やっぱり世代的には形になった……プラスチックの箱(CDケース)に入っていないと、どうもしっくりと来なくて。

──パッケージ商品ならではの味わいもありますからね。

今は携帯のカメラ機能もどんどん上がってきているけど、この世の中からカメラマンという職業がなくなるかといえばそういう話でもなくてね。さっきカメラマンの人が部屋の照明を落として撮影してくれたけど、この記事に載っている写真を見たら、やっぱりプロは違うなって感じると思う。今は写真もデータで送受信する時代じゃない? 「AirDropで送っといて」という感覚が、どうも俺はピンと来なくて。やっぱり写真も映像も音も、きちんと目に見える形で確認しないと安心できないシステムでやってきたもので。ただね、さっきは「最終章」と言ったし、実際にタイトルでもそう謳っているんだけど、実はすでにこの16曲以降も新たに7曲くらいの作業が進んでいるの。

木梨憲武
木梨憲武

──えっ、そうなんですか?

最終章の次は「最終章ファイナル」で行くしかないかもしれない。「ファイナル」っていう文字のフォントは、おそらく明朝体。そこまではイメージできている。ファイナルが出るときは、また改めて音楽ナタリーも取材に来てほしいですけど。

──喜んで(笑)。いずれにせよ、コロナの影響によって、ここ数年はインドアでの活動を余儀なくされた。そういう中で生み出された作品と言えるかもしれません。

それは確実にあるね。音楽もそうだし、絵を描くこともそうだし、フェアリーズ(妖精のキャラクター)もそう。このコロナ禍、お菓子なんかの箱をひたすらハサミで切って、妖精のキャラクターを1000個以上も作ったんですよ(東京・上野の森美術館で6月26日まで開催中の個展「木梨憲武展 Timing -瞬間の光り-」にて展示)。もう寝ても起きてもずっとお菓子の箱を切っていた。音楽も同じようにコロナの余波でできた時間を充実させようと始めた少人数での遊びだったから。