アニメ「魔王2099」狩野英孝インタビュー|“ゲームが下手”だけじゃない、凋落から再起を遂げる魔王との意外な共鳴

アニメ「魔王2099」は、伝説の魔王・ベルトールが500年の時を経て、統合暦2099年の電子荒廃都市サイバーパンクシティ・新宿市に復活することから始まる物語。力を取り戻す手段としてゲーム実況配信者となり、新たな世界の支配を目指すベルトールが描かれる。

10月より毎週土曜24時から放送中の同作は、先日放送された第8話で“秋葉原編”へと突入。これに合わせコミックナタリーでは、YouTubeでのゲーム実況が最近人気の芸人・狩野英孝に前半のエピソードを視聴してもらった。決して高くないゲームスキルやハプニングの多さで話題を集める狩野だが、イチからゲーム配信を始めたベルトールに共感できる部分はあったのか。配信における自分なりの鉄則や、視聴者への向き合い方についても語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ

ベルトールには高橋がいてズルい!?

──今回、狩野さんにはアニメ「魔王2099」を第5話まで鑑賞いただきました。率直なご感想としてはいかがでしたか?

いや、面白かったですよ。ああいう、魔王と勇者が対立するRPG系の世界観は昔から好きなんで。しかもこのアニメでは魔王側が主役で、最初は魔王としての威厳をなくしているところから始まるっていう、「スポットライトの当て方、そこなんだ?」という驚きもありましたし。スタートから第5話まで、ずっと面白いです。

狩野英孝

狩野英孝

──最初から掴まれたわけですね。

そうですね。今回この取材のお話をいただいて、最初にどんなアニメなのかと聞いたら「魔王がゲーム配信をする作品です」とざっくり説明されたんですよ。だからもっとギャグっぽい感じなのかなと思いきや、意外とシリアスなお話だし、ジーンとするような感動もあったりして。ゲーム配信は力を取り戻すための手段であって、ほんの一部の要素に過ぎないというか(笑)、「これどうなっていくんだろう?」ってワクワクしっぱなしでしたね。映像もすごくキレイですし。

──ゲーマーはアニメファン以上に映像美に敏感なイメージがありますが、ゲーム好きの狩野さんも納得のビジュアルだったと。

やっぱりグラフィック、映像のキレイさってのはゲームに詳しくなくても、アニメに詳しくなくてもまず目に入ってくる部分じゃないですか。その中で、あの新宿の近未来的な街並みのクオリティの高さには心を掴まれましたね。あと魔法の出現の仕方とか、アクションシーンも「おお!」って思いました。特に第4話のベルトールと魔導鎧骨格(マギノ・ギア)のバトルシーンなんかは、「ストリートファイター6」などの格闘ゲーム好きにはたまらないカッコよさでしたね。

究極の発展を遂げた未来都市・新宿市の風景。

究極の発展を遂げた未来都市・新宿市の風景。

魔導兵器の魔導鎧骨格(マギノ・ギア)と対峙するベルトール。

魔導兵器の魔導鎧骨格(マギノ・ギア)と対峙するベルトール。

──魔王ベルトールはゲーム実況を行う主人公ということで、ご自身もゲーム配信をされている狩野さんならではの共感ポイントがあったのではないでしょうか。

共感で言うと、あれだけ一大勢力を築いていた魔王や一世を風靡した勇者が、現代においては凋落しているってところなんですよね。僕らのいる芸能界でも、一度ドーンとテレビやイベントに引っ張りだこになる時期があっても、そのポジションにい続けるためには常に新しいことを考えて出し続けないといけないんですよ。そうしないと視聴者の方々にはすぐ飽きられてしまうんで、1回天下取ったら安泰ってわけじゃ全然ない。そこの共感がまず大きかったです。

──ゲーム配信うんぬん以前に、人生の浮き沈みみたいなところに強く共感されたんですね。

僕も芸歴20年ぐらいやらせてもらってますけど、ふと気づいたら小学生たちが誰も僕のことを知らないっていう時期もありましたから。そこからSNSをがんばって今の小学生たちにも認知してもらえるようになってきたんですけど、そんなふうに常に更新していかないと、すぐ忘れられちゃうんですよ。そういうのは「魔王2099」を観ていて考えさせられましたね。

──それは一般視聴者にはなかなかない視点だと思うので、非常に興味深いです。

ゲーム配信に関して言うと、ちょっとベルトールは環境に恵まれすぎてますね。あんな最初からゲーミングチェアもゲーミングモニターも揃ってて、ズルい!と思いました。

ベルトールは高橋に配信環境をセッティングしてもらう。

ベルトールは高橋に配信環境をセッティングしてもらう。

──ズルい(笑)。

僕なんて最初は本当にそういう知識が何もなかったんで、何を揃えなきゃいけないのかも1個1個手探りで覚えていったんですよ。最初は普通にリビングの60インチのテレビでやってたから目線もあっちこっち動いちゃってたし、ちっちゃいソファに座ってたから腰も痛くなってたし、「キャプチャボード? 何それ?」みたいな。僕には高橋みたいにイチから教えてくれる人がいなかったから、「いいなあ、ベルトール……」とは思いましたね。

芸人は“下”の取り合い

──ベルトールは狩野さんと同様にゲームがあまりうまくなくて、視聴者から「下手くそ」と突っ込まれたりしますよね。しかし彼は「負の感情も信仰力になる」と気に病む様子が一切ありません。

そのマインドに関しては、すごい似てるなと思います。チャット欄にいろんなコメントが来る中で、やっぱりアンチコメントってあるんですよ。何度も何度も同じような暴言を打ってくる人とかもいるんですけど、僕そういうコメントをあえて読みますもん。例えばですけど、“お弁当”という名前で「お前下手くそなんだからやめちまえ、気分悪くなる」と言ってきた人がいたとしたら、「お弁当さんが気持ちよくなるプレイしますから! 次、見ててください!」と言ってみたり、プレイしながら「見てるかー! お弁当ー!」みたいなことを言ったり。

──(笑)。

そうすることで、最初はキツいことを言ってた人も「すみませんでした」って感じになってくるんですよ。コメントを拾われるのはやっぱりうれしいんだなと思ってます。そこから仲間意識が芽生えるのか、うちのチャンネルってみんなが一丸となっている雰囲気がある気がするんですよね。

狩野英孝

狩野英孝

──とはいえ、狩野さんのように悪意あるコメントに真っ向から向き合える人は珍しいと思います。そのアンチ耐性はどうやって獲得したものなんですか?

アンチって、僕には芸歴1年目の頃からずっといるんです。例えばお笑いライブでは、その日面白かった芸人をお客さんがアンケートに書くんですけど、僕はそこで「クソつまんねえ、金返せ」みたいな辛辣なコメントをけっこう書かれていましたから。ずっとそういう環境で生きてきたから耐性がついている……や、嫌は嫌ですよ? 嫌だけど、だからといってそれに囚われて落ち込んでるだけじゃ何にもならないですから。

──確かに芸人さんはメンタル強者が多いイメージがあります。

その次の舞台で「アンケートにこんなん書かれちゃいましたわー」「今日もいるのかなその人?」とかって笑いにしたりして、どうにか力に変えてましたね。ベルトールも言っていたように、文句言ってる人も視聴者の一部なんで。間違えちゃいけないのは、そこでケンカしたらダメなんですよ。とにかくこっちが下でいないと。その精神はずっとあります。

──誰もがマウントを取りたがるこの時代だからこそ、下でいることが重要なんですね。

たぶん芸人って、僕に限らずみんな基本下に行くんですよ。とにかく下の取り合いなんで……。

──「下の取り合い」(笑)。すごいパワーワードですね。

そっちのほうが笑いにしやすいというか。視聴者さんを上にして自分は下に行くことで、みんなが気持ちよく遊べるんですよね。だからよくSNSでアンチと揉めている人とかを見ると、なんでだろうな?とは思います。自分が下にさえ行けばみんなで楽しく笑えるのに。

──確かに、なぜか皆さん下に行くことをやたら怖がる傾向はありますよね。

どうしても下に行けないオラついたタイプの人が、配信の最後だけ「チャンネル登録お願いします」とかいって急に下に行ったりするのは見てて面白いですけどね。「あ、そこは下行くんだ?」みたいな(笑)。だったらベルトールみたいに上から目線を徹底したほうが、ブレてなくて信頼できる気がします。

ゲーム配信中のベルトール。

ゲーム配信中のベルトール。

狩野英孝的ゲーム配信の鉄則

──アニメの第3話で、高橋がベルトールに対して「なるべく毎日配信する」「無言の時間を作らない」「第三者は物音を立ててはいけない」と教えるシーンがありました。そんなふうに、狩野さんが大事にしているゲーム配信の鉄則は何かありますか?

心がけているというよりは「そういえばやってたな」と気づいたことなんですけど、チャットのコメントを読むときに必ずその人の名前を読むようにしています。僕は当たり前のことだと思って自然にやっていたんですけど、ほかの方の配信を観てると、コメントの内容だけ読んで名前は読んでいない人もけっこういるんですよね。

──なるほど。それは確かに読まれる本人からすると大きな違いですね。

ラジオとかでも「ラジオネーム、なんとかさん」って必ず言うじゃないですか。読まれる人はあれがうれしいと思うんですよね。YouTubeでも一緒で、せっかく配信をチャットで盛り上げてくれてるのに、読まないと申し訳ないなって気持ちがあります。

──素晴らしいことだと思います。

あと、高橋がベルトールに言っていた「第三者は物音を立てるな」ってやつ? それはたぶん、ベルトールをどこかアイドル的に売り出そうとしているからこそのルールだと思いますね。マキナの声が入っちゃうと同棲を疑われて悪影響だ、みたいな。うちの場合はそんなのないですから(笑)。この前も「サイレントヒル2」っていうホラーゲームの配信をしていたんですけど、真っ暗な病院の中を懐中電灯1個でゆっくり歩いているシーンで、急にうちの赤ちゃんが泣き出したんですよ。その泣き声が配信に乗っちゃって、「え、今の泣き声何?」「このゲームにこんな演出あったっけ?」って(笑)。そういうハプニングとして盛り上がることもありますし、「物音を立てるな」はうちには当てはまらないですね。

──そういう、予期せぬハプニングが起こりがちなのも狩野さんの持ち味ですよね。

そうなんですよね。別に狙ってるわけでもなんでもないんですけど、バグとかも含めてよく起こります(笑)。そこで「なんだよ! このバグよー!」ってふて腐れるのは簡単なんですけど、そこでいら立っちゃいけないと思うんですよ。こっちのツッコミによって笑いに変えられるチャンスでもあるわけですし、そういうハプニングこそ生放送の魅力なのかなとも思います。

狩野英孝

狩野英孝

──それはすごく芸人さんらしい考え方ですね。

そうかもしれないですね。もう1つ心がけていることがあるとしたら、芸人としてもよく言われることですけど「キャラを作らない」っていうのはあります。僕はもともと白スーツにロン毛でナルシストキャラとしてテレビに出させてもらってきたんですけど、素がナルシストなんですよ。作ってないんです。

──なるほど、無理していないことが大事なんだと。

ベルトールを見ていても、そこはでかかったなと思い出しました。彼も配信上では“魔王キャラ”で、一人称が「余」だったり「皆の者!」みたいな言い方をしたり……スーパーチャットのことも、何か言い方ありましたよね?

劇中ゲーム「ブラッディスピリット3」を実況配信中のベルトール。

劇中ゲーム「ブラッディスピリット3」を実況配信中のベルトール。

──「上納金」ですね。

それそれ! 上納金(笑)。あれもやっぱり、キャラを作ってやってるわけじゃなくて素が魔王だから成立するんですよね。素にないことをすると絶対にブレるし、やっていてしんどくなってくると思うんで、無理なキャラは作らないほうがいいです。