ハプニングに愛され、数々の奇跡を起こしてきた狩野英孝が、シリーズ最新作となる「ドキュメンタル」シーズン5でアグレッシブな活躍を見せている。お笑いナタリーでは狩野にインタビューし、本作での戦いを振り返ってもらった。“天然芸人”と呼ばれることも多い狩野の口から何度も発せられたのは、「準備」「練習」という言葉。「自分から“ハプニング待ち”することはない」という狩野が真正面から「ドキュメンタル」に挑んだ記録を、ぜひ配信で確かめてほしい。
取材・文 / 狩野有理 インタビュー撮影 / 玉井美世子
「ドキュメンタル」Tシャツは着心地がいい
──「ドキュメンタル」シーズン5では大活躍でしたね。
いやいや、自分では手応えなんて全然感じていなくて……。
──本当ですか? ファンや芸人仲間からたくさん反響があったと思うのですが。
(三四郎)小宮が「面白かったですよ」って言ってくれたくらいかなあ。でもイベントしかり、テレビしかり、けっこう僕SNSにお客さんからのクレームが来るほうなんですけど、「ドキュメンタル」に関してはひとつもないですね。「観ましたよ」「笑いました」っていう反応は確かにいただきました。
──出演者がまだ明かされていない時期に、狩野さんが「ドキュメンタル」Tシャツを着てイベントに登場して出演がバレるっていう事件がありましたけど、手応えがあってTシャツを着ていたんじゃないんですね。
そうなんですよ、すみません! パチンコ屋での公開収録に着ていっちゃいました。素材が気に入っていたんです。お肌が弱い僕にも着心地がよくて。
──あはははは(笑)。ご自身では配信されたものをご覧になってどう感じましたか?
安心はしました。「この場面、こうなってたんだ」って全体を把握できましたし、松本(人志)さんやスタッフさんの笑い声を聞いて、落ち込んでいた気分がちょっとずつ元気になりました。
──収録から数カ月越しにやっと安堵できた。
基本、自分が出た番組のオンエアは観るようにしているんですけど、明らかに「失敗したな」っていう番組はやっぱり観たくなくて(笑)。「ドキュメンタル」の空間は本当にみんながみんなスベっている状態なので、僕を含め、みなさん配信までずーっと不安だったと思います。
──普段芸人さん同士で話していて「ドキュメンタル」の話題になることはありますか?
なります、なります。僕がシーズン5に出てから、飲んでいるときはたいてい「ドキュメンタル」の話が出ます。後輩から「どうだったんですか?」って聞かれたり、「もし話が来たらどうする?」っていう会話をしたり。芸人が注目している番組なんだなっていうのは常に感じます。
──では招待状を渡されたときはどんな心境でしたか?
うれしさと怖さ、半々でした。今でもダウンタウンさん、ウッチャンナンチャンさん、とんねるずさんと仕事ができるっていうのは僕にとってうれしいし感動することなんです。今回の「ドキュメンタル」はキャスティングに関しても松本さんがチェックされているはずで、「ええんちゃう? 狩野を入れても」って言ってくださっている姿を想像するだけでも感激しました。
──怖さを感じた理由はなんでしょう?
いざあの場に自分が立ったときに何もできない可能性大だなっていう。同じ東北出身のサンドウィッチマンの伊達さん(シーズン2に出演)に「どうでしたか?」って感想を聞いたことがあるんですけど、「いやあー……」っていう感じだったんです。「思い出させてすみません!」っていうくらいヘコんでいるのを見て、「M-1」チャンピオンの伊達さんですらこんなにため息つくんだって思ったらやっぱり怖いですよね。そこに飛び込んでいる自分を想像したんですけど、まったく画が見えてこない。でもうれしい、どうしよう、みたいな気持ちでした。
──それでも出ようと思った決め手は?
ここ最近で一番芸人っぽい仕事だなと思ったんです。僕ら世代はみんなそうだと思いますけど、中高生のときにダウンタウンさんたちが無茶やっているのを「芸人ってすげえな」「カッコいいな」と思って見ていて。その当時憧れていたお笑いに近いものを「ドキュメンタル」には感じていたので、「こういうのをやりたくてお笑い始めたんだよな」っていうのを思い出したんですよね。
しっかり準備したときこそハプニングが起こる
──招待状をもらってから収録までどれくらいの期間があるんですか?
1カ月弱くらいです。その間、ほかの仕事をしながらも頭の片隅では「ドキュメンタル」のことを考えてしまっていて。過去シーズンを何回も観て、小道具を買わなくてもこういうのが置いてあるんだ、とか研究していました。
──「ドキュメンタル」で頭がいっぱいだったんですね。
はい。「6時間笑わない」というより「6時間で何を残せるか」ということがプレッシャーだったんです。たとえ笑いを我慢して優勝できても、「こいつは1000万円もらうに値する」って視聴者や芸人に思ってもらわないと1000万円なんかとてもじゃないけどもらえない。だから攻撃していかなきゃいけない、じゃあ攻撃のボケをどうしようって考えていて、東急ハンズやドン・キホーテをグルグル回って小道具集めに走りました。その結果、一番僕の荷物が多かったと思います。もうパンッパンに詰めこみましたから! 「これ何に使えるんだろう? わかんないけど買っとけ!」みたいな(笑)。あと僕、肌が弱くて、テレビで水泳大会の企画があるといつもラッシュガードを着てやるんです。要は裸NG。でも、「ドキュメンタル」って裸になる流れもたまにあるじゃないですか。そういうときに僕だけ脱がないっていうのは違うなと思って、招待状をもらってから肌のケアをいつも以上にやりました。
──いつ裸になってもいいように?
強めの薬を塗って、掻き傷とかも治して、絶対掻かないように思いっきり深爪にして(笑)。脱いでも大丈夫な身体に仕上げていきました。
──すごい。今回の出演者の中で一番しっかり準備されて臨んでいるんじゃないですか?
どうでしょうね。(ロバート)秋山さんなんかは、「さあ何をやろうか」って選ぶ準備だと思うんです。僕は0から作らないといけないから、早めに準備に取りかからないと間に合わないなと。持ちギャグであったり、言い間違えたりっていう、今までのものが通用しないことは過去シーズンを観て察していたので、見たことのない、想像つかないもので勝負しないとダメだなということでいろいろ準備しました。
──「天然」と言われることも多いですし、ハプニングを起こすタイプというイメージが強いので、ここまで準備に力を入れているのは意外でした。
「何か起こればいいな」と期待することはありますが、自分から“ハプニング待ち”することは普段からないです。例えばトーク番組の収録の前に後輩と飲みに行く機会があれば「番組でこの話をしよう」って練習するんですよ。そのうえで収録当日、噛んだり言い間違えたりしてオチまで話せないっていう(笑)。そんな感じで、準備して臨んだときにはけっこうハプニングが起きるんですけど、ノープランで行くとハプニングがまったく起きないことが多くて。でも「何か起きてくれ!」って思う気持ちはこの番組が一番大きかったかもしれないです。
本番用と練習用、2個ずつ買った
──たくさんの小道具を準備してきて、出さなかったものもあるんですよね?
使ってないものがほとんどですよ。脱ぐ流れになったとき用に、お尻にバラのタトゥーシールを貼っていたり。
──それを出さずに!
出さなかったですね。けっこういろいろ仕込んでました。
──出さなかったのはなぜですか? もったいない気がしました。
「英孝ちゃんも脱げ」って言われたときに「マジっすか?」って嫌な顔しながらお尻にバラがあったら面白いかなって思っていたんです。でも特に振られなかったし、自分から出してもそれ自体何が面白いのか自分でもわかってなかったですし(笑)。
──なるほど(笑)。
準備しているときは「こうやって使おう」っていうのはまったく予想できていないんです。言ったことを復唱してくれるサルのオモチャも、姪っ子の家に遊びに行ったときに見つけたもので。「これも何かに使えそうだかなー」って思っていたら東急ハンズで同じものがあったので買ってみたっていうだけ。本番中は「使えるタイミングはないだろうな」って思っていたんですよ。
──使い道が見えないまま、とにかく武器になりそうなものを用意したんですね。気になったことがあって、バトル中、付けていたコンタクトレンズを外そうとしていた際に「コンタクトしたことない」っておっしゃっていたじゃないですか。あれは本当なんですか?
本当です。番組で、メイクさんにやってもらったことはあるんです。それでも怖くてけっこう時間がかかったんですけど。
──初めて使うものを「ドキュメンタル」に持ってくるってかなりドキドキしますね。
ゾンビ風のコンタクトは「ウォーキング・デッド」にハマっていたので買ってみました。それ以外にも、実はけっこういろんな種類を持っていたんですよ。黒目がサッカーボールのやつとか。
──あはははは(笑)。
全部2個ずつ買いました。本番用と、もう1個は練習用。家でずっとコンタクトつける練習をしてました。
──あの場でコンタクトを取るのはリアルに緊張したわけですね。ほかの人に外してもらおうとしたときにみなさんに制止されて、「法律上(ダメ)?」と発言していましたが、あれはボケではなくて素ですか?
コンタクトの目薬を買いに行ったときに、確か薬剤師さんに声をかけてください、みたいな注意があった気がしたんです。だから薬事法みたいな何かで、人に取ってもらうのは禁止されているのかなと。
──真面目ゆえにああいう発言が。
変なことをしたらネットで叩かれるんじゃないかと思って焦りました(笑)。
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よしもと勢の話題に置いてけぼり
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「ドキュメンタル」シリーズ
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