取材・文 / 佐藤希
ギャップで風邪を引きそう
──「Lv1魔王とワンルーム勇者」の原作や台本を読んだときのご感想をお願いします。
絵柄の力もあると思うんですが、物語の雰囲気がやけに生々しいなと。マックスの生きざまを見てると特にそう感じます。かつては強くカッコいい人間でも、スキャンダルをきっかけに落ちぶれてしまう、というのは今の世間にも通じますし。一部の事件に関しては、「ハメられたんだ」ってマックスは言っていますけど。
──我々が暮らす現実世界でも起こり得るケースですよね。物語においてどういう点が魅力的でしたか?
何がどう面白い、ときちんと言語化するより、いろんな要素が積み重なっていって結果的に「面白いな」と感じる作品だなと思います。登場人物が我を貫き通しているところもいいですし、話が進むにつれて暗躍している人間が出てくるところも面白い。映像も観ましたが、過去編と現代編では、物語の雰囲気があまりにも違うので、ギャップで風邪を引きそうになりますね。
──(笑)。
第1話だと、過去の魔王とマックスたちの戦闘シーンで、「あれ、違うアニメ観てる?」って番組表見直した人もいたかもしれません。それぐらい、いい意味で思っていたのと違うものが始まったと思わされるぐらい映像が作り込まれていました。
説得パートはすごくスカッとした
──松岡さんは元勇者パーティの僧侶・フレッドを演じられていますが、彼の第1印象はどういうものだったんでしょう?
最初は猫をかぶってる人なのかなと思ってました。現場でもそういう芝居をしたんですが、スタッフさんに「ヤンキーのような雰囲気は最初からは隠さず、感じ悪い芝居でいいよ」と言われたのが衝撃的でした。事前に考えていたことと全然違うことになっちゃったんですが、原作と照らし合わせてみると、よくも悪くも自分の感情を隠せない性格で常識人ぶっているんだなって。イラついてるときに本人は平静を装っていても、にじみ出てしまうので戦いになるとすごく好戦的。外見でも若干だまされますが、確実に善人ではないですよね。
──最初のご自分のプランとは違う方針になったということでしたが、収録で苦労はされませんでしたか。
軌道修正するのに若干迷いました。最初はどうかな?と思ったんですが、テストでやってみるとこっちのほうがやりやすいなって、しっくりきたんです。なので、事前に「ここどうしようかな」と不安だった場面も、おかげで解消できました。中村(悠一)さんもスタッフさんの意図を汲み取ってくれたので、フレッドが“悪フレッド”になったときに芝居を合わせてくださいました。
──結果的に最初からちょっと悪そうにしていたほうが、物語の展開としてはマッチしていたということですね。
はい。こんなふうに普段から悪そうにしていることで、マックスを自分たちの陣営に勧誘するときの本気のセリフが、説得力を増して効いてくるな、と感じます。説得パートは、演じていてもすごくスカッとしました。
──なるほど。お話を伺ったうえでフレッドの初登場から観返してみたくなります。フレッドに関して、今後どういう場面に注目してほしいですか?
物語後半に、彼がマックスをはじめとしたほかの人間すべてに見切りを付けたくなってしまう場面があるんです。あそこははかなり、僕がフレッドと気持ちがつながった場面でしたので、注目してほしいなと思います。最後のほうは、“口撃”のターンとアクションシーンがすさまじいことになっているので、観ていて気持ちがいいと思いますね。
toufu先生にのらりくらりかわされている気がする
──魔王と勇者が手を組んで戦うというテーマの物語は多々ありますが、本作ではマックスと魔王が友情を超えた不思議な関係を育んでいくところが異色です。親子とも恋人とも言い切れない、この2人の関係性を松岡さんはどうご覧になっていますか?
あの2人の関係って本当になんとも言えないなと。原作を読まれてない方は今後ドキッとするところもあるかもしれませんね。マックスのほうは勇者としての能力を失ったわけではないですけど、圧倒的に豆腐メンタルで「俺は生きるのに疲れた、でも死ぬ勇気はない」みたいに腐っていて。魔王もどういう気持ちでマックスに優しく接しているのか……。最終的には「また強くなったお前と戦いたい!」という思いがあるのかもしれませんが、今の状況ではそんなこともなさそうですし。あの2人の関係って、背中を押したり話を聞いてくれる第三者的な人間がいないんですよね。
──魔王には近くにゼニアがいますけど、秘書官という立場のせいか完全にイエスマンですしね。
あの不思議な関係を見ていて楽しいっていうのはあるんですが、いち視聴者としてはのらりくらりと原作のtoufu先生にかわされている気がするんですよね。押し入れの幽霊の存在もそうですし……。
──押し入れの中の人は、原作でもアニメでも謎が深まるばかりのキャラクターです。
あいつだけ、わかんないんですよ……。もしかしたらマックスは、実は見えてても無視しているのかもしれないし、まったく見えてないのかもしれないし、どっちでもありそうですね。
あれは界王拳だった
──作品タイトルにちなんだ質問なのですが、松岡さんが「自分はまだここがレベル1」「昔と比べてレベルが下がった」と思う部分はありますか?
うーん……人との対話ですね。昔はがんばろうと思っていたんですけど、無理して笑ったり話したりしていてもレベルが上がった気がしないので、実はずっとレベル1のままなんじゃないかなと(笑)。レベル2に上がるまで経験値が1000万ぐらいかかるみたいな。昔よりしゃべれるようになったので、少しは成長していると思うんですけど。以前は無理矢理ブーストかけてしゃべっていたんですけど、その後すごく疲れるので、あれは界王拳だったんですね……。
──(笑)。
でも最近は無理するのをやめてどんどん素になってきているので、雑談力は落ちていっているかなと思います。
──本日楽しいお話をたくさん伺ったので、意外でした。それでは最後に、アニメの最新エピソードを楽しみにしている視聴者に向けてメッセージをお願いいたします。
RPGが好きな方は勇者って魔王を倒した後どうなるんだろうって思っていたかもしれませんが、この作品は「こういうこともあるかもしれないよね」というifが現実味を帯びているので、衝撃を受けられたんじゃないかと思います。魔王と出会い、疎遠になりかけていた過去の仲間たちと再会し、いろんなトラブルは起きますが、どんなことになろうと勇者は勇者なんだな、とある種の勇気を与えてくれる作品です。スカッとする展開もあるので、いろんな方に観ていただきたいですね。
プロフィール
松岡禎丞(マツオカヨシツグ)
9月17日生まれ。北海道出身。アイムエンタープライズ所属。主な出演作は「ソードアート・オンライン」(キリト役)、「冴えない彼女の育てかた」(安芸倫也役)、「ノーゲーム・ノーライフ」(空役)、「五等分の花嫁」(上杉風太郎役)、「弱虫ペダル」シリーズ(青八木一役)、「鬼滅の刃」(嘴平伊之助役)、「東京リベンジャーズ」(三ツ谷隆役)など。今後の出演作として10月放送の「『盾の勇者の成り上がり』Season3」(天木錬役)、「豚のレバーは加熱しろ」(豚役)、「キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編」(ファン・ディアス役)などがある。
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