取材・文 / 伊藤舞衣
ゼニアを演じるのは体力勝負
──まずは「Lv1魔王とワンルーム勇者」のストーリーに対しての印象をお聞かせください。
「Lv1魔王とワンルーム勇者」の面白いところは、普通のファンタジーは勇者が魔王を倒すまでを描くことが多い中で、その後の話が語られるところです。平和になった後の世界で勇者が何をしているか想像したことがなかったので、とても新鮮でした。そこから魔王と勇者のドタバタコメディが展開するのも「ぶっ飛んでるな」という印象です。
──ぶっ飛んでいると言えば、マックスの登場シーンもかなり衝撃的ですよね。
Tシャツにパンツ姿で初登場する勇者なんてそうそういないので、すごく衝撃でしたね。女子的にあの部屋は「汚いな、嫌だな、入りたくないな」と思いました(笑)。
──マックスの見た目も勇者としては新鮮ですが、日笠さんが演じられるゼニアもかなり奇抜なデザインでした。
アニメの世界に染まりすぎたのか、いつも通りって思っちゃうんですけどね(笑)。私、女性のボディラインが出る服装で描かれるおへその影がすごく好きなので、そこが描き込まれているのがうれしいです。
──アニメ慣れしていても奇抜な部類だと思います(笑)。日笠さんのゼニア役はオーディションで決定したのでしょうか?
はい。オーディションは、マックスに会いに行こうとする魔王様をゼニアが止めるというギャグシーンのセリフでした。そのシーンでゼニアは魔王様の足に縋りついてガニ股で引きずられていくんですが、マネージャーさんがその格好を実演してくれて。それを参考に演じたことをよく覚えています。
──物語の冒頭のシーンですね。ゼニアが頭脳タイプのように登場した後の……。
最初は“できる女性”というイメージで演じていたんですけど、すぐギャグシーンに入ります(笑)。酔っぱらって暴走するシーンはゼニアの見せ場ですが、そこを演じるのは大変でしたね。ゼニアは動きが活発なので、演じるのはけっこう体力勝負です。
──ギャグシーンも声を出すシーンが多いので、体力を使いそうですね。
最近のアニメは勢いのあるボケツッコミギャグが主流なので、この作品でも戦うシーンよりも意外とギャグシーンの方が体力を使ったかもしれません。汚い声を使ったりすると喉が疲れますね。ゼニアが酔っ払うシーンは飛んだり走ったりと、戦いのシーンのようでかなり大変でしたね。必死すぎて収録時の記憶が……(笑)。
──(笑)。酔っぱらうシーンは演技について何か指示があったのでしょうか?
この作品にはディレクションのようなものはほとんどなく「面白ければオールオッケー」というようなこと常に言われていました。収録ではそれぞれが考えた演技を持ち寄ってテストで合わせるのですが、テンポ感や勢いがあって面白かった場合はそのまま採用されることもありますよ。台本に書かれていない部分もアドリブでセリフを入れています。
──「面白いことをしなければ」というプレッシャーはありましたか?
テストで噛み合わなかったらどうしようとドキドキはしていました。でも、実際に合わせるとテンションが上がっちゃって。私のボケを相手にツッコミで面白くいなされると悔しくて「もうひとボケしてやるぜ!」みたいな(笑)。そうしてピラミッドのようにシーンができあがっていくような感覚がありましたね。アニメの中で会話をしてくださるキャストさんが多かったので、もし行き過ぎたボケになってもちゃんとツッコんでくれるだろうという安心感のもと、演技ができていたと思います。
セリフ量と勢いが全然レベル1じゃない
──ゼニアとも関わりの深いマックスと魔王ですが、2人は友達とも恋人とも、親子とも言い難い不思議な関係を築いています。2人の関係性をご覧になっていかがですか?
魔王様が絶妙な表情をするので、私も第三者として「どっちなんだろう!?」と思っています。マックスが魔王様に対して「お母さんみたいなこと言うな」と言うシーンもあるので、親子のほうが近いのかもしれません。
──収録はマックス役の中村悠一さんと、魔王役の大空直美さんともご一緒する機会が多かったと思いますが、現場の雰囲気はいかがでしたか。
ありがたいことにメンバーに恵まれて、けっこう仲が良かったです。大空直美ちゃんとも別の魔王(「ジャヒー様はくじけない!」)でご一緒したことがあるので、私の中で魔王と言えば、もう大空直美ちゃん(笑)。ただ、「Lv1魔王とワンルーム勇者」は魔王のセリフ、ボケ・ツッコミの量、勢いが全然レベル1じゃないので、とにかくがんばっていると思うし、心から応援しています。
──中村さんについてはいかがでしょう。
中村さんともお付き合いが長いのですが、美形キャラを多く担当しているイメージがあったので、おじさん勇者であるマックスを中村さんが演じると知ったときは驚きましたね。でも1話の収録で、私の知る中村さんとは違う、新たなお芝居をされていました。それがマックスにピッタリで、人気声優ってすごいんだなって思いました(笑)。フレッド役の松岡禎丞くんとレオ役の下野紘さんは間違えて逆に記載されているのかなと思いました(笑)。2人もお付き合いが長いのですが、新たな一面を見せてくださってすごく楽しかったです。
──同じく共演経験の多い小林ゆうさんは押入れの中の人として出演されています。
そうなんです。押入れの中の人は、原作では吹き出しにぐちゃぐちゃの文字のようなものが書かれていてしゃべる印象がなかったので、声がついたことにも衝撃を受けました。このキャラクターはすごく気に入っているんですが、キービジュアルにも写っているのを見つけたときに「ヒッ」ってなりました(笑)。マックスを守っているような描写もたまに出てくるんですよ。地縛霊のようなものなのか、マックスを追いかけてきたのか。謎だらけの人ってやっぱり気になりますよね。
原作とアニメのギャップを楽しんで
──作品タイトルにちなんで日笠さんがご自身について「レベル1だな」「昔と比べてレベルが落ちたな」と感じるところを教えていただけますか?
力が足りないなと思うことばかりですが……。何年もジムに通って筋トレをしていて、体力がついて気持ちも前向きになるので続けていたんですが、体調を崩したことをきっかけになかなかジムに行けなくなっちゃって。女性は本当にすぐ筋肉が落ちちゃうので、筋肉貯金のレベルが今や1だなと思うと怖くて行けないです(笑)。
──最後の質問になりますが、毎週放送を楽しみにしている視聴者に向けて、メッセージや見どころをお聞かせください。
ゼニアの見どころは、もちろん全裸シーンなんですけど(笑)。ほかにも、人間界の人との関わりが少ないゼニアが、女性同士の友情を育むようなシーンがあります。魔王様のいない隙に友達ができていきそうな雰囲気があるので、そこにも注目していただきたいですね。アニメとしては、原作の絵柄のプニプニ感とはひと味違う筋肉質な肉体美や、動きと声がついたことにより生まれた独特のテンポなど、原作とのギャップも見ていただきたいです。原作ファンの方も多いと思いますが、そういったギャップも楽しんでもらいつつ、両方のいいところを感じていただけたらと思っております。
プロフィール
日笠陽子(ヒカサヨウコ)
7月16日生まれ、神奈川県出身。主な出演作に「SHAMAN KING」(麻倉葉役)、「魔法科高校の劣等生 来訪者編」(アンジェリーナ=クドウ=シールズ役)、「はたらく細胞BLACK」(白血球<1196>役)、「呪術廻戦」(庵歌姫役)、「憂国のモリアーティ」(アイリーン・アドラー役)など。現在放送中の作品として「死神坊ちゃんと黒メイド」2期にダレス役で出演しており、10月放送の「鴨乃橋ロンの禁断推理」には雨宮役で登場する。2024年放送の「SHAMAN KING FLOWERS」には麻倉花役で出演予定だ。
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フレッド役・松岡禎丞インタビュー