取材・文 / 佐藤希
マックスはやればやるほど振り幅の広さを感じる
──まずは「Lv1魔王とワンルーム勇者」のストーリーに対しての印象をお聞かせください。
ちょっとメタな話ですが、「魔王と勇者の戦いを描く物語世界の中では、当たり前だけど、魔王が倒されると勇者は職を失ってしまうんだよな」と改めて思わされます。僕はマックスを演じているので、彼の視点でそう感じているんですけど。平和になっていいこともあれば、マックスのようにやることがなくなってしまっていたり、フレッドたちほかのメンバーのように思い思いの行動を起こしていたりする人もいる。魔王との戦いが終わった後の生き方が分岐していて“人生”を考えさせられる作品だなと思いました。
──マックスは一度は魔王を倒し英雄として称賛されましたが、その後はたび重なるスキャンダルによって表舞台から姿を消しました。彼の人物像についてはどういう印象をお持ちですか?
自堕落な生活に浸りきっているように見えますが、内面に複雑なものを抱えているなと思います。物語が進むごとにちょっとずつ見えてくるんですが、スキャンダル以外にもこういう生活を選んだ理由があったんじゃないかと思わされる部分もありますし。だからダラダラ生きていたらこういう生活になりました、というわけではないでしょうし、決めるときは決めるカッコよさもある。マックス役に決まったときは、そういうギャップの表現を気を付けなきゃいけないなというのはいろいろ考えました。
──なるほど。オーディションはマックス役に絞って受けられていたそうですが、実際にアフレコで彼を演じた際にはどういう部分に注力されたんでしょうか?
やればやるほど振り幅の広さを感じるキャラですから、彼のどういう面をピックアップして表現するか、ですね。普段はだらけているけど実は芯があってカッコいいよねっていうギャップを強調するのか、自堕落な部分を強調して面白おじさんとして見せていくのか、とか。例えば僕以外の方が演じたらまったく違ったマックスになるでしょうけど、それも正解だと思いますし、そこがマックスというキャラの面白みなんじゃないかなと。悩みながら演じていましたが、そういう幅があるキャラは好きなように演じられるので、オーディションのときからこの役は挑戦してみたいと思っていました。
──視聴者は第1話から感じていたと思いますが、マックスは無気力な男性かと思いきや、けっこう感情の起伏が激しいですからね……。
そうですね。特に序盤よりも中盤以降から、テンションの落差がさらに激しくて大変だったんですが、心地よい疲れというか楽しんだ末の疲労なので、面白かったですね。音響監督の亀山(俊樹)さんは、「この人たちを放し飼いにしてみたらいいんじゃないか」と思ってくれたんじゃないかと。
──放し飼い?
みんな一度は亀山さんと仕事をしたことがあるメンバーだったので、各々で面白いものを生み出してくれると信頼してくださっていたのかなと。「こういう芝居を」というリクエストされるシーンもあったんですが、それ以外はあまり細かいことを言わずに、シーンの流れに沿っていれば問題ないという感じでした。テストで録った芝居がよかったから本番をやらずにそのまま行きますっていう場面や、このシーンは物足りないかもしれないから、もう1回やらせてくださいとか、亀山さんが適宜調整をかけてくださるので、現場がやりやすかった。あと、大空さんと一緒に収録をする機会も多く、「なるほど、魔王がこう出てくるならマックスはこうかな」と収録しながら考えることができたのも、よかったですね。
楽しいと感じることは、種族が違っていても同じ
──魔王とマックスの関係性が作品の主軸となります。もともとは宿敵同士でしたが、物語が進むにつれて、親子のような友人のような、不思議な絆が生まれますが、中村さんはこの2人の関係をどう見ていらっしゃいますか。
うーん、そうですね……。その通り、僕も不思議な関係だと思います。魔王がもともとそういう性格なのか、マックスとの死闘を経て復活したからなのか、詳しくはまだ読み取れないんですが、何かしらあったからこそ今の魔王ができたのかなと僕は思っているんです。でも、ひょっとしたら魔王もマックスも、お互いに相手の懐に入って交流するのは、初めてなんじゃないか。2人は人間と魔族で、ともに相手を理解しようとして生きてきていないでしょうし、今回そういう交流をお互いに初めて体験しているからこそ、この感情に種族間で違いがあるのか?と感じ始めているんじゃないかなって。
──なるほど。
楽しいと感じることは、種族が違っていても同じだし。かつては敵対していましたけど、敵・味方の境界線があいまいになってきているのかなと思います。そうして心の距離感が近付いたときに、人間同士と変わらない関係性になっているのかなと思ったりはしました。
──アニメをきっかけに原作に興味を抱く視聴者も多いと思うんですけど、アニメと一緒にこの不思議な関係性を楽しんでほしいですね。
そうですね。原作に興味を持っていただけたら今回アニメの中で、語り切れてないキャラも魅力的に見えると思います。でも期待して原作を読む方に1つお断りをしないといけないんですが……。押し入れの中の人に関しては何もわかりません。
──(笑)。
あれはもう、難しい。
──作中屈指のミステリアスキャラですからね。
ええ、現場でも揉めてました。「こいつなんなんだ」って。わからないから小林ゆうさんがキャスティングされたんだと思います。小林さんならなんとかしてくれるだろうって。
知らないかもしれないですけど、ここにステータス振れますよ
──少し脱線しますが、作品タイトルにちなんで、中村さんが「自分のここがまだレベル1だだなあ」「昔と比べてレベルが落ちたな」と感じるところはありますか?
力が足りないと思うことはほとんどのことに当てはまるんですが……、このぐらいの年齢になってくると、世の中とか社会に対して勉強しておかないといけないことがすごく増えてくるんですよね。20代の頃は「わかりません」で済んでいたことも、今この年齢になると「これぐらいわかってるよね?」という前提で話が進むことも多くて……。そういうことに遭遇するたび「あなた知らないかもしれないですけど、ここにステータス振れますよ」って言われた気分になる。だからまだレベル1とか下がってきたとかじゃなくて、自分にはまだ気付いてすらいなかったステータスがたくさんあって、これからレベルを上げる必要があるんだと痛感します。これ、わかる年齢とわからない年齢の方がいると思うんですけど、こういうことがこれからたくさん出てきますよ。だからマックスみたいに、もう寝て1日終わらすかって気になりますよね。「明日になあれ」って。
──肝に命じておきます。それでは最後に、毎週放送を楽しみにしている視聴者に向けて、今後の見どころなどをお聞かせください。
マックスは楽なほうに生きている人間ですけど、裏に何か考えがあるのかなと思わせる描写や、後半は彼の本音が見える描写もあるので、魔王との小気味いいかけ合いと一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。役者一同本当に楽しんでやらせてもらいましたし、現場で生まれた空気・ノリを大事にして、いいものを作ろうとがんばりました。監督からの飛び道具的なオーダー答えながら物作りをしましたので、そこも楽しんで応援していただけたら、第2シーズンに続けられるんじゃないかと期待しております。応援のほどよろしくお願いします。
プロフィール
中村悠一(ナカムラユウイチ)
香川県出身、2月20日生まれ。インテンション所属。主な出演作は「CLANNAD」シリーズ(岡崎朋也役)、「機動戦士ガンダム00」シリーズ(グラハム・エーカー役)、「おそ松さん」(松野カラ松役)、「ワールドトリガー」(迅悠一役)、「呪術廻戦」(五条悟役)など。今後の出演作には9月放送の「め組の大吾 救国のオレンジ」(纏定家役)、10月放送の「アンデッドアンラック」(アンディ役)、「MFゴースト」(ジャクソン・テイラー役)がある。
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魔王役・大空直美インタビュー