連絡が来たのはオモコロだけ
──「全員くたばれ!大学生」は、元々はオモコロで発表された読み切り「全員くたばれ大学生~でも本当はうらやましい~」をベースにした作品ですよね。もともとどこかで連載化したいなと考えていたんですか?
「前に描いた大学生のマンガはもう少し話を広げられそうだな」とは思っていたんです。そんな中でSPA!さんにお声がけいただいたので、まずは大学生の話を提案して。もうひとつ、「中国人のマッサージ嬢とサラリーマンのふれあいみたいな題材のマンガはどうでしょう」と言ったんですが、それなら大学生の話がいいんじゃないかということになったんです。
──中国人のマッサージ嬢は、飲み会で粗相をした亀田を慰めるキャラクターとして登場していましたね。そもそも橋本さんはオモコロでマンガ家としてのキャリアをスタートされていますが、どういった経緯でオモコロで執筆することになったんでしょう。
最初は4コマをブログにアップしていて、それが10本くらい溜まったときにまとめていろいろなところに投稿してみたんです。それでオモコロさんからだけ連絡が来たという形で。
──ちなみに投稿はどういったところに?
変に自信過剰なところがあって、恥ずかしい話なんですけど「新聞の4コマコーナーで使ってもらえないかな」って新聞社をメインに、あと4コマを載せているWebサイトにも投稿していましたね。「マンガ家になってやろう」と思って投稿を始めたわけでもないんですけど、気付いたら今のような状況になっていました。
──マンガ自体は昔から描かれていたんですか?
コマを割ったマンガではないんですけど、小学生のときは「ドカベン」とかがすごく好きで、それを真似て絵は描いていましたね。でも中学生になったら急に、絵を描くっていう行為が恥ずかしくなってきてしまったんです。「周りはみんなスポーツやってるのに」って。
──作品の中にも出てくる歪んだ自意識のようなものが当時から(笑)。
やっぱり中高生の王道と言えばスポーツじゃないですか。それで中学でも野球をやっていて。でもマンガを読むのも、音楽を聞いたり映画を観たりするのも好きでしたけどね。
──当時はどういった方々に影響を受けていたんですか?
元々お笑いがすごく好きだったので、伊集院光さんとか爆笑問題のラジオをMDに録音して何度も聞いていましたね。あと大学時代はアックスとかを読んでいて堀道広さんが好きで、ほかには吉田戦車さんにも憧れたりして。その後大学を卒業してから、「また絵を描きたい」っていう気持ちがぶり返してきてマンガを描き始めたのかもしれませんね。
あの大学時代がなかったら描けなかった
──以前音楽ナタリーの特集にご出演していただいた際に、「会社で働きながら描き続けたい」とおっしゃっていましたよね(参照:CRUNCH「てんきあめ」特集 CRUNCH×サレンダー橋本インタビュー)。マンガ連載2本のほかにも、雑誌の挿絵イラストを手がけるなどして活動の幅を広げている中で、兼業にこだわるのにはどういった理由が?
正直なところ、毎月お給料が出るっていうのが一番大きいですね。だからこそ今のようなマンガを描いていられるという部分もあって。僕の作品って、例えば「君の名は。」のような作品ではないじゃないですか。
──確かに王道ど真ん中という作風ではないですね。
やっぱり専業になればどうしたって売れなくなれば生活できないですけど、本業があれば例えそちらがあまり売れなかったとしても食べていくことはできるので、「思い切ったものが描ける」というのが理由のひとつですね。あとは「全員くたばれ!大学生」のほかに「明日クビになりそう」という社会人のマンガを描いているので、社会との接点がなくなるとキャラクターの造形なんかが狭まってしまうかなとも思っていて。
──外から取材をしただけでは見えない部分もありますし。
そうですね。仕事が取材になっているなというところもあります。
──キャラクターの造形ということで言うと、橋本さんは「意識低い系作家」と謳われることが多いですが、意識の低いキャラを描いているのにはどういった理由が?
どうなんでしょう(笑)、自分では意識低い系でやっていこうとは思っていないんですけどね。でもみんながんばっている中でネガティブになる人や、「よくそんなみっともないことを言えるな」みたいな人が好きっていうのはあると思うんです。だからそういう人を主人公にしたくなるのかもしれないですね。
──では最後に「全員くたばれ!大学生」についてコミックナタリーの読者にアピールしてもらえればと思うのですが、そもそもこの作品は亀田と同じような境遇にいる大学生に向けて描いているんでしょうか。それともいわゆるウェーイ系やパリピと言われるような人に、読んで内省してもらいたいと思う部分があったり?
10年前の自分に向けて描いている部分が大きいですし、自分の過去を棚卸ししているような部分があるんです。あの大学時代がなかったら、この作品は描けなかったというか。だからやっぱり亀田と同じように、友達がいなくて何もうまくいかないという境遇の人に読んでもらいたいというのはあります。チャラ男的な人が読んで、どういう感想を持つのかにも単純に興味がありますけどね。まったく理解できないのか、理解できるけどちょっと……って思うのか。
──亀田と同じような境遇の人は、読んでいてつらくなる部分もあるかもしれませんね。
実際そういう感想もいただいているんですよね。だから「これを描いているのはいいことなのか」って思うこともあるんですけど、「同じような人がいるんだ」って思えることは何かしらの救いになる気はするんです。亀田は特にひどい境遇にいるので、これを読んで「今の自分は少しマシかもしれないな」って気が楽になってもらえればうれしいですね。
2019年8月8日更新