「全員くたばれ!大学生」特集 サレンダー橋本インタビュー|10年前の自分とぼっちな大学生に向けて送る救いのメッセージ

サレンダー橋本「全員くたばれ!大学生」は、友達のいない大学生・亀田哲太の悲哀に満ちたキャンパスライフを描いたコメディ。週刊SPA!(扶桑社)にて連載されており、7月に1巻が発売された。

コミックナタリーは単行本の発売を記念し、橋本にインタビューを実施。実体験をネタにマンガを描いているという橋本に、「自分以外は全員つまらない」と思いながら過ごしていたという大学時代の思い出や、話を聞いた際に怒りのあまりに体が震え、劇中でもネタにしたという担当編集者のエピソード、友達がいないことで悩んでいる現役大学生への思いなどについて語ってもらった。なお記事内には第1話から第7話までの試し読みを掲載。さらにLINEやTwitterなどで使える「全員くたばれ!大学生」のコマを配布しているので、ぜひ友人や家族とのコミュニケーションに役立ててほしい。

取材・文・撮影 / 宮津友徳

「全員くたばれ!大学生」

哲学科の学生である主人公の亀田は、哲学者の名言集を読みながら1人の時間を過ごしている。

包茎大学哲学科に入学した男子・亀田哲太はぼっちの1年生。その肥大化した自意識から学内にいるパリピを憎みつつ、オタクに対しては上から目線で接してしまう亀田だったが、本当は友達ができることを願っていた。
クラスのLINEグループに自分だけ招待されていないことが発覚したり、ダンスサークルに入ろうと画策するも誰にも話しかけられず、タイミングを図っているうちに校舎の周りを7周してしまったりと、悲哀に満ちた亀田の大学生活がコミカルに描写される。果たしてそんな彼に友達はできるのか──。

この惨めな気持ちを何かに使えないか

──「全員くたばれ!大学生」1巻発売時のコメントで、橋本さんは「友達のいなかった大学時代を思い出し、奥歯を食いしばりながら描きました」とおっしゃっていましたよね(参照:パリピもオタクも大嫌い、ぼっち大学生の悲哀描く「全員くたばれ!大学生」1巻)。主人公の亀田は1人だけクラスのLINEグループに招待されていなかったり、勇気を出して飲み会に行っても所在がなくなってしまったりしますが、本作は橋本さんの実体験をベースにマンガ化しているんですか?

サレンダー橋本

そうですね。当時の自分がクソって思っていたこととかをマンガにしている部分はあります。大学を卒業したのは10年くらい前なんですが、ようやく当時のことを消化して客観視しながら描けるようになりましたね。それでもふいに当時のことを思い出して、イラっとしちゃうこともありますけど。

──かなり怨念がこもっているなという気もしますが(笑)、当時はどのような学生生活を送っていたんでしょう。

今考えると恥ずかしい話なんですけど、とにかく「全員敵だ」というか「自分以外は全員つまらない」と思いながら過ごしていました。亀田が普段しゃべっていなさすぎて口の中がペチャペチャしてしまったり、教室で周りがしゃべっている中でボーッと机の木目を見たりしていたのは僕の実体験ですね。

──亀田のようにサークルや部活にも所属せず?

いや、「面白い人がいるかも」と思って落語研究会に入ったんです。その研究会は落語というよりはお笑いライブをやっているところだったんですが、最初にライブを見たとき「あっ、つまらない!」と思ってうれしくなっちゃって。

──うれしくなってしまったというのはどういった理由で?

そこにいれば、自分は面白い側にいられると思って。でもそれを口に出したら「じゃあお前やってみろよ」って言われるし自分でやる勇気はなかったから、4年間不満を言うでもなく、発表もしなかったんですけど。

亀田は周囲の大学生をバカにしながらも、本当は自分もその輪に入りたいと考えている。

──特に活動はせず、4年間在籍すると研究会の中ではどういう立場になるんですか。

表面上はライブのビラを作ったり、運営の手伝いをしていたんです。で、実は僕と同じように口には出さないですけど、「ここにいるやつは全員つまんない」って思っている奴がもう1人いて。そいつと「つまんないよな」って話を、4年間ずっとし続けて。でもほかの人達もなんとなく僕がつまらなさそうにしているのに勘づいているので、ちょっと距離を置かれていました。本当に最悪な人間ですよね。

「恥をかくのが死ぬほど怖いんだ。」

──短編集「恥をかくのが死ぬほど怖いんだ。」に収録されている「初対面のサブカルの互いの知識の探り合い」でも、お互いのことを「ぬるい」と思いながら知識を確かめ合う学生の話を描いていたりしましたが、実体験をネタに作品を描かれているんですね。

そうですね。自分を取材しているというか、自分を客観視するとそれがネタになるってことはよくありますね。何かしらですごく惨めな気持ちになったときとか、仕事で追い込まれたりしたときに「今の気持ちを、何かで使えないかな?」って感じたことをマンガにしている部分はあると思います。恥ずかしいところを出してそれが読者に受け入れられると、「気持ちいい」って感じるんですよね。

大学が持つ魔力

──橋本さんが大学生だった10年前と現在では、大学生の生態も変わっているかと思うんですが、そのあたりの時代の違いは取材をしたりして埋めているんでしょうか?

掲載誌がSPA!ということもあって、担当さんが大学生に取材する機会もよくあるので、そのときに聞いた話を教えてもらったりはしていますね。10年前はLINEもなかったですし、SNSとかコミュニケーションツールの違いはあるんでしょうけど、大学生の本質はそんなに変わらないんじゃないかと思います。テニスサークルがチャラかったり。

宅飲みあるあるで盛り上がる亀田の同級生。

──一概にすべてのテニスサークルがチャラいとは言えないかもしれないですが、遊んでいる大学生が所属しているというイメージは昔からあるかもしれませんね。

これも担当さんに聞いたんですが、取材したテニスサークルの大学生が「合宿でBまでするのは当たり前」って言ったらしくて……。すごく嫌な気持ちになりましたね。

──(笑)。劇中に描かれているのはダンスサークルですが、「サークルに入れば、何かエッチな出来事に遭遇するのでは?」と亀田が入部しようとしていましたね。

亀田に狙いを定めるノートハンターの岡部と大和田。

僕は会社員なのでいつも仕事を終えてからマンガを描いているんですけど、資料を探すのに、例えば「大学生 バーベキュー」とかの単語で画像検索をするんです。すると大学生が楽しそうにしている画像が出てくるんですけど、それを見るのが本当につらくて。「仕事の後になんでこんな画像を見なきゃいけないんだろう」って思っちゃうんですよ。あとこれも怒りに震えたんですけど、1巻で“ノートハンター”のエピソードを描いたじゃないですか。

──留年している女子が、教室の前の方に座っている亀田に色香をふりまいて、試験前にノートを見せてもらおうとする話ですね。

サレンダー橋本

これは担当さんの実体験で、あの女の子は担当をモデルにして描きました。彼女も留年してるんですけど、留年するとノートを借りる人がいなくなるらしくて。地味そうな男の子に声をかけて「お菓子あげるから」って言って、ノートだけコピーしてさよならしてたらしいんですけど、そんなことされたほうは絶対好きになっちゃうじゃないですか。本人にも「そんな極悪非道なことをよく平気でやれますね」って言ったんですけど。

──確かに女子に免疫のない男子だと、そういう出来事があると少し意識してしまうかもしれません(笑)。ノートハンターの女子はその後も準レギュラーのような形で登場していますね。

自分の中でも気に入ったキャラクターになっていて、あの子も昔は真面目にノートを取っている側だったのに、いつの間にか「ノートを取るのはダサい」って感じてしまうような考えに染まっちゃったっていうのを描けたらいいなと考えたんです。大学ってそういうふうに人を変えてしまう魔力がある場所だと思うんですよね。


2019年8月8日更新