くらもちふさこ いくえみ綾|「この人を知らないなんて、人生損してる」

ずっと私の心の根っこにいらっしゃいます

いくえみ綾「太陽が見ている(かもしれないから)」©いくえみ綾/集英社

──今回の二人展は、いくえみ先生が「くらもち先生と一緒だったらぜひやりたい」とご提案したことがきっかけで実現に至ったとお聞きしました。

最初にお話をいただいたときは、なんだかホワホワしていて……。「ええ本当?そんなことできるの? そんなバカなー、でももしできたらすごくうれしいなあ」くらいの、たわけた気持ちでした、すみません(笑)。それが現実になってくると、「うわ大変だ!」と、急に焦りだしたのですが。

──いくえみ先生の中に「こんな原画展にしたいな」というようなイメージがあったのでしょうか?

単純なお友達同士の二人展ということではなく、“くらもち先生リスペクト”というコンセプトはあって。それでちょっと安心してブレずに進めることができたかなと。くらもち先生も私もキャリアが長いので、古い読者さんたちにも楽しんでいただきたいなあと思いました。

いくえみ綾「プリンシパル」©いくえみ綾/集英社

──くらもち先生にも快諾いただき、二人展の開催が決まったときはどんなお気持ちでしたか。

本当に実現するのだな……と。よかったね、と自分に語りかけるような、夜中に1人でお酒飲んでたらきっと泣いちゃう感じでした。原画はやはり実際に見てみるとすごさが伝わってきますので、グイッとお顔を近づけて、じっくり堪能していただきたいですね。あ、私のは離れてでいいです。

──(笑)。くらもち先生の展示作品の中で、原画展で見るのが特に楽しみなのはどの作品でしょうか?

図録に載る対談を収録するときに、いくつか原画を見せていただいたのですが、「スターライト」の扉絵が出てきたときはやばかったです……。小6の私に戻りました。もう、子供の私が心震えまくった作品だったので。カラーは衝撃的な美しさだし、男の子はカッコいいし。当時はカラーに加えて2色カラーもあってすごく贅沢だったんですけど、マーガレットコミックスには、その扉絵が入ってないんですよね……まあいいけど……。とりあえずいきなり原画を目の前に出されてぶあーっと涙腺が緩んで、「鼻水出てきた!」と動揺していたら編集さんがすかさずポケットティッシュをくださいました(笑)。当時の思い入れがあるのはこれだけには限りませんが、本当にすべてが楽しみです!

──師匠なのか、憧れのスターなのか……くらもち先生は、いくえみ先生にとってどのような存在でしょうか?

ペンネームについて「ずっと私が付いてまわるんだよ!」とアドバイスいただいたとおり、ずっと私の心の根っこにいらっしゃいます。……ふふふ。

大沢くんがこっちからあっちへ走って行った

──いくえみ先生の作品についても聞かせてください。原画展の準備にあたり、過去作を振り返る機会も増えていらっしゃることと思います。

古いものは正直あまり見たくなくて、イヤイヤ出した原画もありますね。振り返ってみると、とにかく若かったなあー、と。

──展示作品の中で、お気に入りの1枚を挙げるとしたら?

いくえみ綾「潔く柔く」ACT9第1話の見開き扉絵。©いくえみ綾/集英社

「潔く柔く」ACT9第1話の見開き扉絵でしょうか。当時の担当さんが前髪パッツンのボブにしていて、大きな瞳が印象的だったので、この大人になった朝美の見た目に多少雰囲気を拝借した部分がありまして。扉絵そのものも「素敵です!」と褒めていただいたので、すごく覚えています。花がイマイチ上手くないんですが、構図やアイデアともに気に入っております。

──2009年刊行の「いくえみ綾WORKS」では、カラーイラストの作画にコピック、色鉛筆、水彩、インク、カラートーンなどさまざまな画材を使用されていることを明かされていましたが、最近はどんな画材を使うことが多いですか?

カラーインクとコピックと色鉛筆ですかね。日本画の絵の具も持っていますが。使ったことはありません。現在はアナログ一辺倒ですが、これからデジタルも勉強しようかなとは思ってます。

──「いくえみ綾WORKS」では「はみ出ても気にしないです」「手の指に髪の毛の線がはみ出てる…もういいです(いいのか!?)」など、その大らかな執筆姿勢を語っていらっしゃいました。いくえみ先生のカラーイラストといえば、淡い色使いで優しく繊細な世界観を想起する方が多いと思います。イラストを描くうえで、自分流のこだわりやテクニックはなんでしょうか。

いくえみ綾「G線上のあなたと私」1巻のカバーイラスト。©いくえみ綾/集英社

こだわりもテクニックもないのが自分流でございます。原画展のために過去作を見返していて、あまりにふわふわした色彩が多くてちょっと嫌になりました。近年は忙しさのあまり、カラーもすっ飛ばして描いてしまうことが多くて、反省してます(笑)。

──1枚の絵を描くときに、色合いから決めるのか、構図から決めるのか……ケースバイケースだと思いますが、どういう場合が多いですか?

構図だと思います。原画展に飾られるんですが、このあいだくらもち先生と合作を描かせていただいたんですね。先にくらもち先生が「プリンシパル」の和央を描いてくださった原稿が届いて、どうしよう、どう完成させよう、と何日か考えていました。そしたら昼寝してるときに、夢の中で(「天然コケッコー」の)大沢くんがこっちからあっちへ走って行ったんです。これだ! と思って、そのまま描きました。いつも昼寝してるときに見えるわけではないですけどね(笑)。

いくえみ綾「プリンシパル」より。©いくえみ綾/集英社

──豪華な合作を拝見できるのが楽しみです。あとひとつ、気になっていたことなのですが、モノクロページの枠線について。「プリンシパル」の頃は線が太く、コマとコマの間を空けないコマ割りでしたが、「G線上のあなたと私」「太陽が見ている(かもしれないから)」など近年の作品では枠線が細く、間が空く形に回帰しています。これはどのような理由から変化したのでしょうか。

「プリンシパル」は、軽快にいきたかったんですよね。あと正直、くらもち先生の真似っこをちょっとしてしまいました、すみません!

──そうだったんですか! くらもち先生は「枠線の隙間にも絵を描きたい」という理由で、コマとコマの間を空けないようにしたそうですね。

よくわかります。コマの間って、ちょっと毎回イラッとしますもん(笑)。

くらもちふさこを知らないことは、人生をかなり損している

──昨年は、いくえみ先生にとって2作目のメディア化となる「あなたのことはそれほど」のドラマが放映されました。多くの人の目に触れやすいドラマ化ということで、いくえみ先生の名を新たに知った方も多かったと思います。

近所の人や八百屋のおじさん、クリーニング屋のおじさんなど、いろんな人に感想をいただきました。友達もすごく面白がって観てくれて、うれしかったです。あとは生年月日占いをネットでやってたら、同じ生年月日の有名人に「いくえみ綾」と出てきて、「そらそうだよねー」と。

──実感できるレベルで変化があったんですね。美都と涼太が主軸になっているという原作とは違うポイントがあったり、涼太役の東出昌大さんの突き抜けた演技や山崎育三郎さんのオリジナルキャラクターなど、話題に事欠かない作品でしたが、ご覧になっていかがでしたか?

いろんな要素が盛りだくさんで、私のシンプルな話を盛り上げてくれた感じがします。自分で描いておいて、「ひどい!」とか「怖い!」とか、楽しんで観てました。すごくいい経験でした。

──続いて今年2018年3月には、「プリンシパル」が実写映画となって公開されます。

もう、本当にかわいい映画です! 黒島結菜さんも糸真にぴったりでしたし、小瀧(望)さんも王子様のようで惚れ惚れしました。初めての映画主演という記念すべき作品に選んでいただけて光栄です。

──和央役の高杉真宙さんについては、「現場でお会いしたら和央そのままだったのでとても驚きました。点数で言うと、和央の再現度は120点!」と絶賛のコメントを寄せていましたね。

高杉さんは、最初に私服でお会いした時点で和央だったのでびっくりしました。晴歌役の川栄李奈さんも、意地悪でかわいいキャラクターを見事に演じてくださいました。マンガに例えて言えば、全体的にキラキラトーンを貼りまくった感じの映画です!

映画「プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~」より。

──それでは最後に原画展に向けての思いをお聞きしたいのですが、くらもち先生は「二人展を行うことで、まだ私の作品を読んだことがない若いいくえみさんのファンにも触れてもらえたらうれしい」とお話しされていました。二人展はお互いのファンがお互いの作品を知るきっかけになると思いますが、くらもち作品を未読のいくえみファンの皆さんに、その魅力を伝えていただけますか。

くらもちふさこを知らないことは人生をかなり損していると思います。リアルタイムで追えた私は、その点ではもはや勝ち組でございます。今からでもまったく遅いことはありませんので、目についた作品から網羅していきましょう!いいなあこれからいっぱい読める幸せ……羨ましい!

いくえみ綾「バラ色の明日」©いくえみ綾/集英社

──ありがとうございます。では、いくえみ作品に初めて触れるくらもちファンにメッセージを贈るとしたら?

今回の二人展は身に余る光栄でございます! くらもち先生の才気溢れる作品には遠く及ばないのは承知しておりますが、私のマンガもちょっとだけ面白いところもありますので、読んでいただけると幸いです。

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期間:2018年2月1日(木)~28日(水)

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くらもちふさこ・いくえみ綾 二人展
「 “あたしの好きな人”へ」
くらもちふさこ・いくえみ綾 二人展「 “あたしの好きな人”へ」
  • 会期2018年2月9日(金)~25日(日)※2月21日(水)は休館
  • 場所パルコミュージアム 池袋パルコ・本館7F
  • 時間10:00~21:00 ※最終日は18:00閉場、入場は閉場の30分前まで
  • 入場料一般700円、学生600円 ※〈PARCOカード・クラスS〉会員は入場無料
  • 主催パルコ
  • 企画制作パルコ/シュークリーム
  • 協力集英社
映画「プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~」
2018年3月3日 ロードショー
「プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~」

監督:篠原哲雄
脚本:持地佑季子
音楽:世武裕子
原作:いくえみ綾「プリンシパル」
配給:アニプレックス

キャスト
住友糸真:黒島結菜
舘林弦:小瀧望(ジャニーズWEST)
桜井和央:高杉真宙
国重晴歌:川栄李奈
舘林弓:谷村美月
金沢雄大:市川知宏
工藤梨里:綾野ましろ
菅原怜英:石川志織
舘林琴:中村久美
三浦真智:鈴木砂羽
桜井由香里:白石美帆
住友泰弘:森崎博之

©2018映画「プリンシパル」製作委員会
©いくえみ綾/集英社
©いくえみ綾/集英社マーガレットコミックス刊

くらもちふさこ
くらもちふさこ
1972年、別冊マーガレット(集英社)にて「メガネちゃんのひとりごと」でデビュー。以後、同誌に「いつもポケットにショパン」「おしゃべり階段」「海の天辺」「チープスリル」など多くの作品を発表。恋愛に揺れ動く乙女心をリアルな表現で描き、主人公と同世代の読者を中心に共感を呼んだ。1996年に田舎の中学校を舞台にした長編マンガ「天然コケッコー」で第20回講談社漫画賞を受賞。同作は2007年に実写映画化された。2016年に完結した「花に染む」で、第21回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。現在、ココハナ(集英社)にて「とことこクエスト」を連載中。実妹はマンガ家の倉持知子。
いくえみ綾(イクエミリョウ)
いくえみ綾
1964年10月2日北海道生まれ。1979年、別冊マーガレット(集英社)にて「マギー」でデビュー。短編を得意とし、時代とマッチした感性の作品で20代女性を中心に人気を得ている。2000年、「バラ色の明日」で第45回小学館漫画賞を受賞。「潔く柔く」で2009年に第33回講談社漫画賞少女部門を受賞した。そのほか代表作に「POPS」「I LOVE HER」「あなたのことはそれほど」など。「プリンシパル」は映画化され、公開が2018年3月3日に控えている。2018年2月現在、Cookie(集英社)にて「太陽が見ている(かもしれないから)」、ココハナ(集英社)にて「G線上のあなたと私」、フィール・ヤング(祥伝社)にて「そろえてちょうだい?」、月刊バーズ(幻冬舎コミックス)にて「私・空・あなた・私」、月刊!スピリッツ(小学館)にて「おやすみカラスまた来てね。」と5本の作品を連載中。