原作読者を全員劇場に連れて行くぞ！

──映画化にあたって原作者として心配していた部分もあったりしたんでしょうか。

原　実は意外となかったんですよ。脚本に関わっていいと言われていたのもあって、土台となる脚本が面白ければ大きく外すことはないだろうと考えていて。原作者としては脚本の完成度を上げることに集中して、そのあとロケハンした画像を見せてもらったり、演者の方が決まったりしていく中で「どこにも弱点がないな」「間違いないな」と思えるようになったんです。

──実写化に対するネガティブな声というのも、公開時にはかなり少なくなっていたようにも感じます。

原　製作が発表されたタイミングでは、ネット上で「ショック」「実写化はしないでほしかった」って言われることもあったんですけどね。ただ僕に原作者として脚本以外にひとつ役割があるとしたら、「面白いよ！ 劇場に行こうよ！」って原作ファンにメッセージを送ることなんじゃないかと思って。インタビューも積極的に受けるようにして、ネガティブな声を全部消すくらいの勢いで、「原作読者を全員劇場に連れて行くぞ！」という気持ちでやってきました。もちろん本当に面白くなかったらそんなこと流石に言えないですけど、映画「キングダム」は自信を持って「面白いですよ！」と言える作品だったので。

佐藤　「実写化してほしくなかった」という声が挙がる要因として、映画が原作の縮小再生産に陥ってしまうことがあるからなんじゃないかと思うんです。特に「キングダム」は原先生が映画好きということもあって、映画的な表現も作中にたくさん盛り込まれているので、「原作を絵コンテに見立てて同じように作ればいいんだろ」って勘違いしてしまう可能性があるというか。

原　確かにそれだと実写化する意味があまりないですもんね。

佐藤　映画的な再解釈をするのが重要だと思うんですよね。脚本を作るときは、もちろん原作にあるストーリーを辿っていくことになるんですけど、今回映画を撮るうえで「映画的に考えて、こういう切り口にしたらどうかな」とか、「視点をあえて逆にしてみたらどうかな」とか、いろいろなことをより映画流に考えていっている部分がありますね。

──カット割りの部分で言うと、原先生は以前コミックナタリーのインタビューにご出演いただいた際、「作画では空間を意識していて、俯瞰で見せることが多くなる」とおっしゃっていましたが（参考：原泰久「キングダム」インタビュー）、実際に映像化されてみてご自身で描いていたイメージと一致していましたか？

原　奥行きや広がりを意識して描いてはいるんですけど、「本当にそれが存在している」というレベルまではイメージできていなかったんですよ。で、今回佐藤監督が具現化したものを見てちょっと圧倒された部分がありますね。「あっ、『キングダム』の世界ってこういうことなのか。こういう空間なんだ」とびっくりさせられたというか。ここまで具体的に示してくれてうれしかったですね。

佐藤　お話ししていると、原先生はすごく映像的な感覚をお持ちの方だなって思うんです。僕自身、空間っていうのは映画にとって一番重要なものだと思っていて、毎回映画を撮るときには「どういう空間づくりをしようかな」というところから始めるので、こうやって空間について感じ取っていただけるとすごくうれしいですね。

「キングダム」のとっておきの面白さは続編で

──監督は本作の初日舞台挨拶で、続編で「蛇甘平原をやりたい」とおっしゃっていましたよね（参考：「キングダム」キャスト陣が続編に意欲、佐藤信介監督「蛇甘平原をやりたい」）。これを聞くのはちょっと気が早い気もしますが、続編への思いなどもお伺いできると。

佐藤　やりたいというだけで、決まっているわけではないんですけどね（笑）。蛇甘平原、つまり戦場での戦いって、今作ではやっていないことなんです。今回も大軍勢は見せているんですけど、そのぶつかり合い、つまり「キングダム」のとっておきの面白さはまだとってあるんだよなと思っていて。

原　「1」がここまでヒットしたというのは「2」の製作を検討するうえでは大きなアドバンテージですよね。でも戦場は大変そうです。

佐藤　「1」は世界観を作り上げるという部分にすごい力を込めたんですけど、「2」になると今度はその世界観の土台に乗って、いろんなことができるというのもあると思うんですよ。もちろん戦場は大変でしょうけど、技術的には絶対にできるという自信もありますし、「1」で試みたことがうまくいったという経験もあるので、「やる・やらない」じゃなくて「やれる！」という気持ちですね。

──では最後にBlu-ray、DVDで初めて「キングダム」を観る方にメッセージをいただけますか？

原　観ていない方というのは2パターンいるんですよね。本当に「キングダム」という作品を知らない方と、原作は知っているけど映画館では観なかった方。原作を読んでいるけど観ていない方には、本当に観てほしいですね。期待を裏切らないと思いますし、信や政をはじめとするいろんなキャラがそこに息づいているので。「キングダム」という作品を知らない方には、歴史もののエンタテインメント大作として観ていただければと思います！

佐藤　僕らは映画のスクリーンで上映することを前提に作品を作っていますが、「その感動が家庭用のモニターからでも伝わるか」ということを問いかけながら作っている部分もあるので、ぜひご家庭でも観てもらえればと思います。モニターでも僕らが込めた感動というのは伝わると思いますし、Blu-rayやDVDのほうがパーソナルな環境で作品に向き合えるので、意外と没入感があったりしていいという部分もあるんじゃないかと。隅々まで楽しめるように作っているので、「そこまで言うなら、どんなもんか観てやろうか」と軽い気持ちで一度観てもらえればうれしいです。