監督のゴリ押しでねじ込んだムタ戦
──お話を聞いていると、脚本ができあがるまでにもかなりの紆余曲折があったんだろうなと感じます。「キングダム」53巻のあとがきでも、最終稿の脚本を書き上げる際には12時間におよぶ会議を行ったと書かれていましたし。
佐藤 ムタ戦なんかも最初は脚本になかったんですよ。
原 外した経緯としては、なくても物語は成立するっていうのと、原作を描いているときにムタ戦のあたりでアンケートの順位が下がったというトラウマがあって。ムタのせいなんじゃないかとちょっと思っていたんです。
佐藤 赤裸々に言いますね(笑)。
原 監督が脚本に参加されたときに、「ムタ好きなんですよ。ムタ戦はやったほうがいいです」って言ってくれたのを聞いて、「ムタ好かれてるんだ!」ってうれしくなっちゃって。
佐藤 信と政と河了貂がパーティを組んで王都に帰るっていう話を展開するときに、次々と追手が来る感覚があったほうがいいと思ったんですよね。剣戟っていう意味でも、どうしてもシンプルになりがちなところを、ムタはへんてこな武器を使ってきたり、アクロバティックな動きをしたりするので、アクションにもバリエーションが出せるなと。ムタを登場させるのとさせないのとでは、予算的にも大きな差が出てくるんですけど、「ここはどうしても」ってことでゴリ押ししました(笑)。
原 竹やぶっていうシチュエーションもよかったですね。
佐藤 このシーンは日本で撮っているんですよ。竹やぶは撮りたい風景ではあったので、ムタ戦で使えてよかったですね。
──本作は中国で大規模なロケを行った作品という印象が強いのですが、国内でも撮影されているんでしょうか?
佐藤 日本での撮影も多いですよ。例えば山の民に会いに行くまでの道のりは宮崎の神々溝というところで撮影しました。
原 こんなぴったりなところをよく見つけてきましたよね。
佐藤 映画だけ観ると、「中国にはこういうところがあるんだな」って思っちゃいますよね。あと信たちが山の民に連行されて歩く崖は千葉ですし。意外に新宿集合で行けるという(笑)。
原 あの崖って、本当にあんなに狭いんですか?
佐藤 実際には、映像で観るよりはちょっと道は広いです。あと山の壁もあんなに垂直ではなくて、CGで少し険しく見せていたりします。
俺を殺しに来ないと、本当に殺すからね
──1点気になったところとして、ランカイ戦と左慈戦の順番が入れ替わっていますが、これにはどういった意図が?
佐藤 最初は原作通りだったんですけど、ランカイって人間かどうかもわからないようなキャラクターですし、ラストは人間と人間の戦いのほうがいいんじゃないかなと提案したんです。キワモノのランカイが出てきて、それを倒したら真打ちの左慈が登場するっていう。
原 ランカイは原作でも僕が悪ノリしてどんどん大きく描くようになってしまって(笑)。最初は「ランカイという設定でなくても、2メートルくらいの人が処刑人として出てくればいいですよ」と話していたんですが、監督が脚本会議に入ってこられたときに相談したら、「ランカイ撮れますよ」とおっしゃっていただいて。
佐藤 そのときはフルCGにするか、役者に演じてもらうかっていうのは決まっていなかったんです。僕が前に作った「BLEACH」という作品ではフルCGの巨大な敵と戦っていましたが、「キングダム」はそういうタイプではないんじゃないかと思っていた部分もあって、役者さんを探すことにしたんです。背丈を大きくするのか、部分的にか、とにかくCGなどを使うことは念頭にあったのですが。すると、阿見201さんっていう身長2mの役者が現れたこともあって、「一部分CGにしよう」とか「特殊メイク、特殊造形も駆使しよう」とか、いろいろ試行錯誤し、あの手この手で作り上げた感じです。
原 ただランカイ戦と左慈戦が入れ替わるのが決まったのが、脚本の最終稿ができる土壇場のところだったんです。最初は「左慈戦のセリフ、どうしよう……」って固まっちゃったんですけどね。
──左慈戦では、本作のテーマでもある「夢を追う」という部分が大きくフィーチャーされていましたね。
原 映画では左慈を元将軍というオリジナルの役どころにしたんです。「大将軍になる」って夢を語る信に対して、元将軍の左慈は戦場を知っているから、言葉に説得力が出るだろうと。左慈が「戦場に夢なんざ転がってねえんだよ」って言うと、「あ、確かにそうかもな。無邪気に応援してたな」って観客に一瞬思わせてしまう力があるというか。それを信が「違う」と言って、漂のことと絡めて立ち上がるっていう脚本を作れたときには、胸をなでおろしました(笑)。
佐藤 最初はもうちょっとセリフのない戦いだったんですよね。人斬りと戦って、最後は力で勝つみたいな。
原 左慈役の(坂口)拓さんは、オファーを受けるときにはそんなにセリフのない役だったのに、急にラスボスになってセリフもすごい増えていたので「あれ?」ってなったんじゃないかな(笑)。
佐藤 拓さんはアクション監督もされている方で、賢人くんにも「俺を殺しに来ないと、本当に殺すからね」って言っていて。撮影ではすごく緊迫した空気を作れたなと思っています。
原 拓さんの剣戟は本当にすごくて。「あれは誰なの?」「左慈のアクションがすごい」っていろんな人に言われました。
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原作:原泰久「キングダム」(週刊ヤングジャンプ / 集英社)
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、佐藤信介、原泰久
主題歌:ONE OK ROCK「Wasted Nights」
- キャスト
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信:山﨑賢人
嬴政・漂:吉沢亮
楊端和:長澤まさみ
河了貂:橋本環奈
成蟜:本郷奏多
壁:満島真之介
バジオウ:阿部進之介
朱凶:深水元基
里典:六平直政
昌文君:髙嶋政宏
騰:要潤
ムタ:橋本じゅん
左慈:坂口拓
魏興:宇梶剛士
肆氏:加藤雅也
竭氏:石橋蓮司
王騎:大沢たかお ほか
©原泰久/集英社 ©2019「キングダム」製作委員会
- 原泰久(ハラヤスヒサ)
- 1975年6月9日生まれ、佐賀県出身。2003年に週刊ヤングジャンプ(集英社)の新人賞・第23回MANGAグランプリにて、「覇と仙」が奨励賞を受賞。同年ヤングジャンプ増刊・漫革Vol.36に掲載の「金剛」でデビューを果たす。週刊ヤングジャンプ2006年9号から「キングダム」の連載をスタート。同作は実写映画化のほかアニメ化やゲーム化も果たしており、2013年には第17回手塚治虫文化賞のマンガ大賞に輝いた。
- 佐藤信介(サトウシンスケ)
- 1970年9月16日生まれ、広島県出身。大学在学中に脚本と監督を手がけた短編映画「寮内厳粛」が、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞し、2001年に「LOVE SONG」で長編監督デビューを果たす。これまでの監督作品に「GANTZ」「図書館戦争」「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」「BLEACH」など。