春秋戦国時代の中国を舞台に、天下の大将軍になることを夢見る少年・信と、中華統一を目指す若き王・嬴政を描いた「キングダム」。4月に公開された実写映画は、8月時点で2019年の実写邦画部門で興行収入第1位に輝いており、11月にBlu-ray / DVDが発売されることが決定した。
コミックナタリーはBlu-ray / DVD化発表に合わせ、原作者の原泰久と、映画で監督を務めた佐藤信介へのインタビューを実施。映画化までの道のりや、原作者自らが「間違いない」「弱点がない」と太鼓判を押し続ける本作の見どころ、「GANTZ」「アイアムアヒーロー」などこれまで多数のマンガを実写化してきた佐藤監督が「キングダム」を実写化するうえでのこだわり、気になる続編への思いなどについて尋ねた。なお対談内には本編のネタバレも含まれているので、未鑑賞の人はご注意を。
取材・文 / 宮津友徳 撮影 / 武田真由子 取材協力 / 森祐美子
「この作品はいける」って公開後に初めて思えた
──「キングダム」の興行収入50億円突破おめでとうございます(取材は6月に行われた)。まずは今のお気持ちを教えてください。
原泰久 マンガを描いているときもそうなんですが、僕はものづくりをするうえで数字にこだわりたいタイプなんです。今回映画を作る中でプロデューサーさんが立てた動員数の目標があったんですが、それを大きく上回ることができたので「本当によかったなあ。監督、ありがとうございます!」と思っています。
佐藤信介 いえいえ、とんでもないです。映画を作るにあたっては、そういう動員目標が掲げられますけど、僕の中ではあんまり口にしてしまうと運が逃げてしまうような気がしていて。制作中は「そんなにうまくいかないぞ」と思うようにしていました(笑)。
原 監督の中で「これはいけるぞ」と思ったのはどのタイミングなんですか?
佐藤 映画が公開されてからですね。撮影や編集中に「これはいけますよ!」って周りの人が言ってくるんですけど、「いや、まだまだだ」と自分を戒めていたというか。もちろん失敗するつもりはないんですけど、気を抜いてはいけないなと思いながら。
原 でもその感覚、わかります。マンガ家は1人だけで描いているのにそういう気持ちになるので、あれだけ大勢の関係者を背負って映画を作るのはすさまじいプレッシャーですよね。
佐藤 ただ公開前にも「いけるかも」とちょっと思ったタイミングがあって。関係者向けの試写会のときに原作も脚本も読んだことがなくて、「キングダム」というタイトルだけを知っているくらいの方がいたんです。そういう温度感の方が完成品を観る機会っていうのが実はそれまでにはなくて。
原 ありがたいことに原作を好きな方が集まって作っていただいたので、「内輪で盛り上がっているのでは?」っていう懸念はありましたね。
佐藤 僕がその人に直接「どうでしたか?」って聞いてしまうとお世辞が出てきちゃう可能性もあるんで、ほかの人と感想を話しているところを近くで聞き耳を立てていたんですけど(笑)、「キャラ同士の絆が素晴らしかった」って泣いていらして。作品のファンではなかった方にそこまで言ってもらえるなら、「これはもしかしたらいけるかもしれないな」とは思いました。
──そもそも映画化の企画はいつごろ立ち上がったんでしょう?
原 2016年頃ですね。担当編集者さんから「映画化の話がきました。ただ喜びすぎると、ダメだったときにショックが大きくなるので……」と言われて。その後脚本が送られてきたり、プロデューサーさんが福岡まで会いに来てくださったりして、「相手の顔も見えたし、本当にやるんだな」ってようやく喜べるようになりました。
佐藤 映画化のお話自体はそれが初めてだったんですか?
原 初めてだと思います。
──脚本には佐藤監督のお名前もクレジットされていますが、その頃にはもう企画に参加されていたんでしょうか?
佐藤 2016年中だったとは思うんですけど、そのときはまだですね。
原 確か佐藤監督は、脚本が第3稿か4稿になった辺りで参加してもらったような気がします。
佐藤 実はけっこう前、お茶を飲んでいる席で映画関係の方が「『キングダム』っていうマンガがあるんですけど、それを映画化したいんです。その暁にはぜひ監督をお願いします」と言ってくれていて。最初にオファーをいただいたときには「本当に自分のところにオファーがきた」って思いました(笑)。
王騎の存在がネックだった
──ではここからは映画の内容についてお伺いしていければと思います。映画の冒頭には奴隷として売られていく幼い信が、王騎将軍の大軍勢を目撃するというオリジナルシーンがありますが、原作の第1話を構想していた際に考えていたシーンだとTwitterでおっしゃっていましたね。
1.王騎将軍の登場シーン。これは原作にはない場面なのですが、実は漫画の構想段階であったシーンなんです。その時は信が匿名の将軍を見かける設定だったのですが、第1話のページ数との兼ね合いでカットになりました。今回、映画で復活することができ、とても感慨深いです。
— キングダム公式アカウント (@kingdom_yj) 2019年4月29日
原 今回の映画化において、王騎の存在が僕の中ですごくネックだったんです。映画化が決まったときにプロデューサーさんから、「成蟜との戦いに決着がつく5巻までを、2時間で映画化します」と言われたんですが、原作5巻までの王騎ってよくわからないキャラクターなんですよ。
佐藤 5巻までだと、戦うシーンもほとんどないですからね。
原 映画で「キングダム」という作品に初めて触れる人にとったら、5巻までの王騎はあまりにも説明不足なキャラクターなので、「王騎は出さなくてもいいですよ」ってプロデューサーさんに言ったんです。でも「王騎は出しましょう」という話になって。実際には尺の都合で描かなかったのですが、「信が奴隷馬車で運ばれていくときに、黄金の甲冑を着た大将軍が通っていくのを見る」っていうシーンを連載前に考えていたので、「その将軍を王騎ということにして入れましょう」と提案したんです。そうすれば少し説得力が増すかなと。
佐藤 やっぱり王騎が出るのか、誰がやるのかっていうのは、みんな注目していた部分だと思うんですよね。僕も「キングダム」とは別件の打ち合わせをしているときに、「監督、『キングダム』やるって噂で聞きましたよ」って打ち合わせ相手から言われて。発表前だったので「いや、知らないですよ」って素知らぬふりをしているのに、「ひとつだけ教えてください、王騎は誰がやるんですか?」って聞かれたりしましたから。
原 原作ファンの間でも、いまだに王騎がトップに近い人気があるくらいなんですよ。16巻で死んで、原作は54巻までいっているのに、まだ「王騎が」って言う方が大勢いる。そういう意味だと実写化したときに、一番「イメージと違う」って炎上するんじゃないかなと思っていたのが王騎だったんです。でも蓋を開けると大沢(たかお)さんの王騎に一切文句が出ないくらいに完璧に演じていただいたので、大沢さんにやってもらえてよかったなあと思いますね。
佐藤 実は信が王騎を目撃するこの場面が、クランクインのシーンだったんです。「この映画はこういう感じになる」っていうのが、クランクインの場面を撮ると見えてきちゃったりするので、ここはすごく緊張しながら撮ったのを覚えていますね。
原 馬って実際には何頭ぐらいいたんですか?
佐藤 撮影では80頭くらいですね。そこにCGで足したりしています。話が進むに連れて、馬や兵の数も増やしていきたいなと思っていたので、とんでもなく多いというわけではないんですけど。あのシーンは中国で撮影したんですが、日本でやるとしたら予算的にも十数頭が限界らしいんです。だからすごく贅沢な環境で撮影できたんですけど、欲張りなもので実際に80頭の馬が並んでいるところを見ると、「もうちょっと数がほしいな」って思っちゃったりしました(笑)。
──映画オリジナルのシーンで言うと、漂が王宮に仕官した後に信が1人で修行をする場面も原作にはないですね。
佐藤 これは僕が追加したシーンですね。5巻分を2時間にまとめないといけないということで、余裕は全然なかったんですけど、やっぱり信と漂の出会いを描いたうえで成長していくシーンは入れたいなと考えて。
原 最初の脚本だと割と原作通りだったんですけど、監督に膨らませていただいてすごい好きなシーンになりました。信が修行を続けていく中で、一度に運べる薪の本数が増えていくのも演出としてすごくわかりやすくて。「原作でもこう描けばよかったな」って思いました。
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監督のゴリ押しでねじ込んだムタ戦
- 映画「キングダム」Blu-ray / DVD
- 2019年11月6日発売 / ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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プレミアム・エディション
[Blu-ray+DVD+特典ディスク]
税込8789円
BJSL-81554
- 初回生産特典
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- ブックレット
- キャラクターブロマイドカード(6種)+特製カードケース
- ゴールドアウターケース
- 本編(約134分)
- 映像特典(約110分)
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- メイキング&インタビュー(2種)
- 「映画『キングダム』を生み出したクリエイターたちの挑戦 Beyond the SCENE」
- オリジナル予告編(3種)
- TVスポット(5種)
- Web CM(3種)
- プロモーション映像(2種)
- 特典ディスク収録内容(約279分)
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- ビジュアルコメンタリー(山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、佐藤信介監督、松橋真三プロデューサー)
- イベント映像(完成披露試写会、初日舞台挨拶、大ヒット御礼舞台挨拶、超大ヒット御礼舞台挨拶、公開直前イベント試写会、ワールドプレミア レッドカーペットイベント)
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通常盤
[Blu-ray+DVD]
税込5217円
BJBO-81554
- 本編(約134分)
- 映像特典(約1分)
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- オリジナル予告編
- スタッフ
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原作:原泰久「キングダム」(週刊ヤングジャンプ / 集英社)
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、佐藤信介、原泰久
主題歌:ONE OK ROCK「Wasted Nights」
- キャスト
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信:山﨑賢人
嬴政・漂:吉沢亮
楊端和:長澤まさみ
河了貂:橋本環奈
成蟜:本郷奏多
壁:満島真之介
バジオウ:阿部進之介
朱凶:深水元基
里典:六平直政
昌文君:髙嶋政宏
騰:要潤
ムタ:橋本じゅん
左慈:坂口拓
魏興:宇梶剛士
肆氏:加藤雅也
竭氏:石橋蓮司
王騎:大沢たかお ほか
©原泰久/集英社 ©2019「キングダム」製作委員会
- 原泰久(ハラヤスヒサ)
- 1975年6月9日生まれ、佐賀県出身。2003年に週刊ヤングジャンプ(集英社)の新人賞・第23回MANGAグランプリにて、「覇と仙」が奨励賞を受賞。同年ヤングジャンプ増刊・漫革Vol.36に掲載の「金剛」でデビューを果たす。週刊ヤングジャンプ2006年9号から「キングダム」の連載をスタート。同作は実写映画化のほかアニメ化やゲーム化も果たしており、2013年には第17回手塚治虫文化賞のマンガ大賞に輝いた。
- 佐藤信介(サトウシンスケ)
- 1970年9月16日生まれ、広島県出身。大学在学中に脚本と監督を手がけた短編映画「寮内厳粛」が、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞し、2001年に「LOVE SONG」で長編監督デビューを果たす。これまでの監督作品に「GANTZ」「図書館戦争」「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」「BLEACH」など。