コミックナタリー Power Push - 原泰久「キングダム」
祝10周年!春秋戦国大河ロマン これまでの軌跡を1万4000字で振り返る
2006年に週刊ヤングジャンプ(集英社)にて連載がスタートした原泰久「キングダム」。長きにわたりヤングジャンプの看板タイトルとして君臨し続けている同作は、本日1月28日に発売された9号にて連載開始から10周年を迎えた。
コミックナタリーは10周年の節目に原へのインタビューを実施。彼のマンガ家人生にはじまり、「キングダム」執筆の経緯、王騎をはじめとした個性的なキャラクターの造形、既刊41巻が刊行されながらいまだ後半戦のスタートラインに立ったばかりだという作品の今後まで、約1万4000字に及ぶボリュームでたっぷりと語ってもらった。
取材・文・撮影 / 岸野恵加
10年くらいで終わるだろうと思ってた
──連載開始からちょうど10周年、おめでとうございます。
ありがとうございます。
──率直に今、どんなお気持ちでしょうか。
もちろんすごくうれしいんですけど、後半戦のスタートラインにやっと立ったというところなので、諸手を上げて万歳っていう感じでもないです。
──気を緩められない、と。連載を始めた頃から、ここまで長編になると予想していたんですか?
さすがに10年くらいで終わるだろうとは思ってました。
──でも10年はやるつもりだったんですね。
そうですね。初連載だったので「1年続くかしら」って親は言ってましたけど、僕は「いや、これは10年かかるよ」って最初から思ってました。でもいざ始めてみたら、2、3巻で終わると思ってた成蟜編が5巻も掛かっちゃったので、「あれ?」と(笑)。
──だいたい想定の倍くらい掛かってしまうということですね(笑)。累計2000万部突破と、ここまでのヒット作になるだろうとは思っていましたか?
僕、楽天的なんですよ。明るいほうにばかり考える癖があるので、実は逆に10年やったらもうちょっと売れるんじゃないかって思っていましたね。毎年担当さんと、年賀状で「今年は新刊単巻で100万部目指しましょう」って鼓舞しあってるんです。
──担当編集の方に伺ったのですが、「キングダム」は1巻から40巻までの発行部数がほとんど変わらないと。普通は1巻が一番多くて巻数が増えるごとに減っていくのが当たり前だと思うのですが、なかなか異例のことですよね。
うれしいことですね。
──それだけ読者が途中で脱落せずに読み続けてくれるのは、なぜだと思いますか?
自分ではわからないんですよね。逆にどうやったら1巻がドーンと売れるのかなって思うこともあります。新しい読者さんを増やせないかなと。
──しかし昨年は「アメトーーク!」で「キングダム芸人」がオンエアされ(参考:「アメトーーク!」にキングダム芸人登場、作品を知らないゲストと全面戦争)、その後全国の書店から「キングダム」の単行本が消えるという現象が起こりました。
「アメトーーク!」は昔から観てた大好きな番組だったので、ずっと「キングダム芸人」をやってほしいなって思ってたんですよ。だから実現しただけで願いが叶ってハッピーだったんですけど、すごく興味をそそるように、上手に番組を作っていただいて。放送直後にAmazonで単行本が品切れになったりとか、オマケが付いてきた感じですごくうれしかったです。
──オンエア前と後で、何か変わったことはありましたか。
やっぱり認知度が上がったので、取材を受ける機会が増えましたね。あれから半年はいろんな雑誌で取り上げていただいて。連載の合間に受けてたので、休みはその分なくなりましたけど(笑)。うれしい悲鳴でした。
「キングダム」にはジャンプのDNAが入っている
──原先生の経歴もお聞きしていければと思います。ご出身は佐賀県ですよね。
はい。田舎です(笑)。とにかく走り回ってる子供でした。マンガを描くっていう文化はないような環境だったんですけど、休み時間に自由帳にキン肉マンを描いていたら、友達が「描いて描いて!」って列を成していたり。
──絵が上手だと評判だったんですね。
そういう快感は小学生のときに少し覚えていましたね。でもそれが仕事になるとは、一切思ってなかったです。
──読む側としては、熱心にマンガを?
黄金期のジャンプは、毎週親に買ってもらって全部読んでました。単行本はそんなに買ってもらってはなかったんですけど、ジャンプを部屋にずっと置いて、とにかく隅々まで読んでましたね。「キン肉マン」から「Dr.スランプ」「北斗の拳」「銀牙」「ドラゴンボール」「シティーハンター」「聖闘士星矢」、そして「スラムダンク」が始まって、という感じで、大ヒット作だらけの時代。すべて読んでました。
──その頃の作品に、作家として影響されている部分はありますか。
意識的にはないんですけど、潜在的にいろんなエッセンスが自分の中に入っていて、作品にも出てると思います。「キングダム」は、昔のジャンプっぽいって言われることが多くて。
──確かに少年の成長、熱い友情……といったところにジャンプのDNAを感じます。
そうですね、めげずに前進して夢をつかむ、みたいな。描写は大人向けではあるんですけど、テーマとして持っていることは昔のジャンプに描かれていたことなのかなという気がしてますね。
──ずっとジャンプ一筋だったんですか?
いえ、高校・大学くらいで卒業して、それ以降はヤング誌を読むようになりました。物語を作るのが好きで、マンガ用だったり映画用だったり小説用だったり、とにかくいっぱい考えて。100以上作ったと思いますね。映画監督になりたいと思って芸術寄りの大学に行ったんですけど、なかなか食べていくのが難しい世界と知って。それで、マンガなら自分の物語を全部形にできると思って、本格的に描き始めたのが大学3年のときです。その後大学4年でちばてつや賞の準大賞をいただいて。在学中に読み切りを描かせていただいたりもしたんですが、連載には全然届かなかったんですよね。「あれ? 思いどおりにはならないな」と思って、院の研究室の流れで紹介してもらい、プログラマーになりました。
──会社員として就職を。
はい。ただ会社には失礼な話なんですけど、最初から「いつか辞める」と思ってはいました。仕事が忙しくなって、マンガが描けなくなって……中途半端じゃダメだって気付いたのが27歳のとき。ちゃんと描くために、辞めることを決意しました。でも当時のサラリーマン経験がなかったら、「キングダム」は絶対に描けてないと思います。
──確かに「キングダム」には、会社の上司と部下に重なるような関係性も描かれています。
会社員のおじさんたちってみんな、面白いんですよ。熱いけど怠ける人もいるし、ケンカしたり飲みが大好きだったり。外からはみんな一緒に見えるけど、いろんな人がいて、必死でやるときはやる。それがカッコいいなと。だから実感として、泥臭く汗をかく大人がしっかり描けてるんじゃないかと思いますね。
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中華制覇への大いなる一歩、秦国内の統一を果たし、互いの夢に向けて更なる決意を固める嬴政と信。そんな中、大国・楚では、国を揺るがす大事件が……。そして、趙への進軍を命ぜられた飛信隊の目の前に現れた驚愕の友軍とは……!?
「キングダム」公式ガイドブック第2弾!これまでに登場した全キャラクターや各エピソードを解説するほか、原による裏話、週刊少年ジャンプ2013年24号に出張掲載された「キングダム」の読み切りも収録。原とケンドーコバヤシ、いきものがかりの水野良樹による対談2本も収められた盛りだくさんの内容だ。
- 「週刊ヤングジャンプ」9号 発売中 / 330円 / 集英社
- 「週刊ヤングジャンプ」9号
掲載ラインナップ
空えぐみ「天野家四つ子は血液型が全員違う。」/ 迫稔雄「嘘喰い」/ 二ノ宮知子「87CLOCKERS」/ 吉村拓也「神様のハナリ」/ 原泰久「キングダム」/ 佐藤カケル「グラビアトリ」/ 笠原真樹「群青戦記 グンジョーセンキ」/ 岡本倫「極黒のブリュンヒルデ」/ 野田サトル「ゴールデンカムイ」/ 本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 五十歳」/ 稲葉そーへー「しらたまくん」/ 作:貴家悠、画:橘賢一「テラフォーマーズ」/ 原案:貴家悠&橘賢一、漫画:フォビドゥン澁川「てらほくん」/ 小野祐平「TELECASTIC GIRL」/ 石田スイ「東京喰種トーキョーグール:re」/ サンカクヘッド「干物妹!うまるちゃん」/ 二宮裕次「BUNGO-ブンゴ-」/ 原作:柴田ヨクサル、作画:蒼木雅彦「プリマックス」/ 杉戸アキラ「ボクガール」/ 稲葉みのり「源君物語」/ 山本隆一郎「元ヤン」/ 松原利光「リクドウ」
原泰久(ハラヤスヒサ)
6月9日生まれ、佐賀県出身。2003年に週刊ヤングジャンプ(集英社)の新人賞・第23回MANGAグランプリにて、「覇と仙」が奨励賞を受賞。同年ヤングジャンプ増刊・漫革Vol.36に掲載の「金剛」で、デビューする。週刊ヤングジャンプ2006年9号から「キングダム」の連載をスタート。同作はアニメ化やゲーム化も果たしており、2013年には第17回手塚治虫文化賞の大賞に輝いた。