電子書籍配信サイト・コミックシーモア主催による「We Love コミック 総研」が提唱している、電子コミックを使ったセルフマネジメント術・マンガーマネジメント。コミックナタリーではマンガーマネジメントを紹介する一環として、マンガ好き芸人の麒麟・川島明に「昭和・平成から令和に語り継ぎたいマンガ5選」をチョイスしてもらうとともに、各タイトルが自身にどのような影響を与えたのかを語ってもらった。
取材・文 / 宮津友徳 撮影 / 小坂茂雄
イライラしたり、落ち込んだり、悲しくなったり、寂しくなったり……日常の中で何かと問題を抱えながらも、前に進んでいくためにはどうすればいいのか。
マンガーマネジメントはそんな悩める現代人が、“いつでもどこでも、すぐに、無数にあるラインナップから選んで読むことができる”という電子コミックの特性を活かしてセルフマネジメントをするという発想。電子書籍配信サイト・コミックシーモアが主催する「We Love コミック 総研」が提唱した考え方で、特設サイトではマンガーマネジメントに基づいた特集を展開している。
品川駅構内の本屋とムーディ勝山に絶大な信頼
──川島さんは普段からTwitterでマンガの話をされていたり、「アメトーーク!」のマンガ関連回に出演されたりしていますが、普段どのくらいマンガを読むんでしょう。
雑誌では読んでなくて単行本だけなんですけど、基本的に新幹線や飛行機で移動するときに2、3冊マンガを持っていきますね。
──持ち込むマンガはどういうふうにセレクトしているんですか?
品川駅の構内にある本屋さんが店員のおすすめコーナーみたいなのをやってるんですけど、僕の中でそのコーナーへの信頼度がすごいんですよ。「この本屋が薦めるんだからおもろいんやろな」って買ったらやっぱりおもろい。「BLUE GIANT」(石塚真一)なんかも初期から推していて、最近だと「信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~」(原案:明智憲三郎、漫画:藤堂裕)とか「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」(原作:天樹征丸・金成陽三郎・さとうふみや、漫画:船津紳平)とかもその本屋で知りました。あとはムーディ勝山がおもろいマンガを調べる能力が高くて、ムーディが教えてくれたマンガも外れがないですね。
──川島さんが「アメトーーク!」の「本屋でマンガ大好き芸人」に出演された際にも、「ムーディ勝山のおすすめマンガは間違いない」とおっしゃっていましたね。
ムーディも移動が多いので、そのときに相当読んでると思いますよ。今日ピックアップしている「キングダム」も初期の頃にムーディに教えてもらったあと、さっき言った品川駅の本屋さんでもプッシュされているのを見て、そこで買いましたから。
──今回セレクトしていただいた5作品ですが、連載中なのは「キングダム」のみで、ほか4作品は遅くとも90年代中頃には連載が終了していますね。どういった基準で選定したんでしょう。
「令和に語り継ぎたい」っていうお題だったんで、僕が何かしらの影響を受けた作品の中で、これからの若い人に読んでもらいたいなという5作をピックアップしてます。なので、基本的には若い人は読んだことはないかもしれない古めの作品が多いですね。あと僕はどちらかというと主人公よりもサブキャラクターを好きになることが多いので、今回は特にサブキャラクターが魅力的な作品を選びました。
この作品がなければ芸人になってなかったかも
──ではさっそく、各作品についてお話を伺っていければと思います。発表順で言うと一番古いのは「あしたのジョー」ですね。
「あしたのジョー」1巻
これは僕の人生の中で一番影響を受けている作品で、殿堂入りというか一番好きなマンガですね。この作品がなかったら芸人になっていなかったかもしれないです。
──「あしたのジョー」は1967年から1973年の連載で、川島さんが生まれる前の作品ですね。どういうきっかけで作品を手に取ったんですか?
ちっちゃい頃にアニメの再放送を観たのが作品に触れた最初ですね。そのときは絵が怖くて「うわー、なんやこれ」くらいの感じやったんですけど、中学生のときにマンガを読んでみたら男のカッコよさが詰まっているマンガだなと思って。「あしたのジョー」ってライバルがカッコいいのがいいんですよね。当時の僕が知っていたスポーツマンガって、天才の主人公が同じような力を持ったライバルたちにどう立ち向かっていくかっていうのを描いた作品が多くて、基本的には「正義は勝つ」だったんです。でも矢吹って天才でも正義でもないじゃないですか。
──確かに作中では何度もスランプに陥っていますし、元々が不良少年で少年院に入ったりもしていますからね。
なんなら力石のほうが強くてカッコいいし、カーロス・リベラ、金竜飛、ホセ・メンドーサと、どのキャラも主人公になれるくらい魅力的に描かれてますからね。当時はこんなに対戦相手にフィーチャーしているマンガを読んだことがなくて衝撃でした。
──先ほど「この作品がなかったら芸人になっていなかったかもしれない」とおっしゃっていましたが、「あしたのジョー」というマンガが川島さんをマネジメントしてくれたのはどういった部分なんでしょう。
「好きなことをとことんやり続けてもいいんだ」ってことを教えてくれた部分ですね。僕はちっちゃい頃からお笑いが好きで、「芸人になりたいな」っていう思いがずっとあったんです。でも中学生とか高校生になると、「好きだけでなれる仕事じゃない」っていうのがわかってくるじゃないですか。
──成長するにしたがって現実が見えてくるというか。
高校時代、進路に悩んでいた時期に「あしたのジョー」を読み返したんですけど、ボクシングに取り憑かれて練習漬けだった矢吹が、ヒロインの紀ちゃんに「矢吹くんは…さみしくないの?」「同じ年ごろの青年が海に山に恋人とつれだって青春を謳歌しているというのに」って言われるシーンがあるんですよ。
──ジョーは「燃えているような充実感はリングの上で味わっている」と答えていましたね。
さらに「あとにはまっ白な灰だけが残る…」「燃えかすなんかのこりやしないまっ白な灰だけだ…」って言ってね。そのシーンがすごく刺さって「燃え尽きられることを仕事にできる」っていうのはカッコええなって思ったんです。僕もお笑い以外にも好きなものはたくさんありましたけど、とにかく一番好きなのはお笑いだったんで。養成所に通うのに背中を押してくれましたし、今でも何か迷うことがあったら「燃え尽きられるか」っていうことを考えるようにしてますね。
──確かに自分の好きなことに人生のすべてを賭けるというジョーの生き方は、将来に迷う若い世代が憧れる部分があるかもしれないですね。
僕も20代のときは「彼女も作らんとお笑いやんねん」みたいに燃えてましたし、それがカッコいいと思ってましたから。でも今は家族ができちゃったんで、矢吹のようにパンチドランカーになってまでもリングに上がるっていうのはできないですね。だから今一番憧れているのはホセ・メンドーサです。
──家族もいて人格者であって強いという。
「あしたのジョー」のキャラクターってみんな何かを犠牲にして戦っているんですけど、ホセだけは人生のすべてを捧げているわけではないのに強いですからね。僕自身、娘ができてからは「ホセってボクシングでの名声も家族も全部手に入れてすごいな」って思うようになりました(笑)。
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マンガって人生の教科書になるんやな