コミックナタリー Power Push - 「銀河ロケットにお葉書ください」「君死二タマフ事ナカレ」

マンガ家・太田垣康男×ゲームクリエイター・ヨコオタロウ 原作者としての創作スタイルの違い

「ラブライブ!」みたいなアイドルものになるはずだった「君死ニ」

──ヨコオさんの「君死ニ」は作画を「ワールドエンブリオ」の森山大輔さんが手がけてらっしゃいますが、どういう経緯でコンビを組まれたんでしょう?

ヨコオ 編集さんから「どういう作家さんがいいですか?」と何人か候補をいただいた方の中に森山さんがおられたんです。自分が作画の作家さんを選べる立場だとは思っていませんでしたが、一番上手い方を指し示した結果が森山さんで、話が上手く転がった感じです。制服デザインの倉花(千夏)さんは、(ビッグガンガンの)編集の方がお願いしましょうと。

──なるほど。設定も「自衛隊が派遣できない紛争地域に、超能力を開発された少年少女をNGOとして送り出す」というもので、安保法が成立した今年はとてもタイムリーですよね。

「君死ニ」では、超能力を開発された少年少女たちがNGOとして戦場へ派遣される。

ヨコオ 実は全く狙ってなくてですね。最初にスクエニさん側から言われたのは「『ラブライブ!』みたいなアイドルものを作ってください」と(笑)。

──えっ! 「ラブライブ!」と「君死ニ」はまったく方向が違いますが、現在の路線に転換するきっかけは何だったんでしょう?

ヨコオ もうちょっとバトル寄りにしてアイドルが戦う話にしましょうという話から、女子人気も狙いたいから男子も入れたいとなって。そうしてる内に「ハラキリのある高校」という設定が出てきて、その後に戦争がなくなった世界で国の領土をスポーツで決めましょうと。そのスポーツが過激化しちゃって少年たちが殺しあう……というところから、現在に至ってますね。

──今年のホットな話題だった安全保障関連法とシンクロさせるつもりはなかった?

ヨコオ ないですね。

太田垣 シンクロしちゃったことに関しては、どう思われてます?

ヨコオ 日本が海外に自衛隊を派遣できない前提で描かれているので、できることになって「話が違うじゃん!」と(笑)。

太田垣 未来を描いてるはずなのに、現実が先行しちゃったと。最初は戦場をめぐる少年少女の話かなと思ったら、それがスパっと終わって学校に戻るじゃないですか。今後、また別の紛争地域に行くのか、全く違う展開になるのか、予想がつかないですね。

──主人公・クロイの性格が黒いのは何か理由が?

「君死ニ」の主人公・クロイ。

ヨコオ 実は最初は、1話の最後で死んでる生徒会長のウスキが主人公だったんです。だけど「(ウスキは)殺しちゃえ」って思って、代わりの主人公を立てるとしたらいい人のはずがないなってことで、黒くなったんです。

太田垣 生徒会長が主人公だと正統派の作品になりそうだからやめたんですか?

ヨコオ というか、頭をふっ飛ばしたら面白いなと。まず、そこからです。

──生徒会長が死ぬシーンは、3コマかけて念入りに描かれてますよね。

「君死ニ」より、ウスキが死ぬシーンは3コマかけてゆっくりと描かれる。

ヨコオ あれも森山さんが嫌がったんです(笑)。森山さんは丁寧で優しい方なので、原作が無茶苦茶すると「これはないんじゃないですか」って怒られるんです。クロイもすごい性格が悪いんですけど、森山さんがそっといい絵を差し込んできて、暗に「酷すぎますよ」とたしなめてくださるんですよ。

──生徒会長の死は「次に誰が死ぬかわからない世界なんだ」と伝える名場面ですよね。

ヨコオ マンガとしての演出はプロの方に敵わないと思ってるので、積極的にゲーム的なアプローチをして、新しい演出を提案できればいいなあと。ストーリー部分だけで言ったら、ほかに面白いマンガがいくらでもありますしね。

太田垣 やはり演出部分が一番、醍醐味だと思うんですよ。それこそ銃弾で撃たれて死ぬ場面はいろんな作品でやられていて、そこをどうやって印象に残すかを工夫するのが演出家の腕だなと。私もシナリオよりも演出のほうが重要だと思っています。ストーリーで感動させられるのは、中学生か高校生まで。

絵が“降りてくる”のを待つ太田垣流ネーム作成術

──ヨコオさんはシナリオだけでなく、ネームまで描かれているそうですね。

「君死ニ」より、黒々と重なっていく文字がヒロイン・マシロの心情を表している。

ヨコオ 枠の中にセリフの吹き出しが宙に浮いていて効果音もあって、絵の説明は文字で書かれている。そういう字だけのネームを作って、森山さんにお渡ししているんです。1話では生徒会長の死亡を3つにコマ割りしようと提案したり、あとはフォントが黒々と重なっているとか、変なアプローチをやってみたいなと。最初は普通にシナリオだけお渡ししていたんですが、テキストの量が全然わからなくて、1話で3話分ぐらい書いちゃったんです。それで枠の中にテキストボックス(吹き出し)を作って、セリフを入れる方法で進めてます。

太田垣 頭がいいですねえ。マンガのセリフって、ひとつの言葉で最低でも2つの意味を含まないと、ページが文字だらけになっちゃうんです。できれば3つぐらいの意味が込められるように圧縮したい。TVドラマみたいに、役者さんがわっとしゃべれる長セリフはマンガでは禁句なんです。

──太田垣さんは以前ネームを公開されていましたが、先に全ページの絵を描いて、セリフは後で埋める方法が読者さんにも驚かれていましたね。

太田垣 私は、まず絵が“降りてくる”のを待つんです。言霊ではなくマンガにしたい映像を捕まえて、すべてのコマを割って絵も入れて「さあ、ここでは何を喋っているんだろうな」と後から考える(笑)。自分はFAXみたいなもので、どこからか電波を受信して、描き出しているだけだと。なのでネームを描くときには、なるべく受信感度がいい状態に精神状態や体調を整えるんです。

──いつもサクサク描けるものでしょうか?

太田垣 10ページぐらいまでスッと出るときもありますが、普通はそこまで行かないんですよ。受信感度が悪いときはとりあえず描くんですが、なんか違うって。たいていは完成版ネームの3倍ぐらいは捨ててますね。「なんか違う」という感覚を繰り返している最中は嫌なんですが、これがいいんだろうなと。「これ!」を見つけたときに、いい酒が飲める(笑)。

──「銀河ロケット」の原作は文字だけだそうですが、どう作られているんですか?

「銀河ロケットにお葉書ください」より。

太田垣 同じですね。先に映像が降りてくるんですよ。元々シナリオをすごく勉強したこともあって、30歳ぐらいまではシナリオ至上主義だったんですよ。その限界を感じてからは、今のやり方でやっています。で、久しぶりにシナリオを書くと、絵と同じように“降りてくる“感じが持てたので、楽しいですね。

──ヨコオさんはゲームとマンガとでは、セリフの感覚がだいぶ違いますか?

ヨコオ ゲームはセリフでゲームを面白くするというより、「A地点からB地点」と辻褄を合わせるためにしゃべらせることのほうが多いんです。そういう機能的な役割が課せられているので、ゲームで面白い話を創るのは大変なんですけど、それと比べるとマンガは柔軟だなと思います。

太田垣 じゃあ制約はあまり感じてらっしゃらない?

ヨコオ ゲームよりはだいぶ楽ですね。あとは、森山さんの画力があってこそ成立している面が大きいです。ゲームで目をアップにしようとすると「できないです」と言われるキャラがいっぱいある。こちらは誰をアップにしてもいい(笑)。

──ゲームでは3Dモデリングがアップに堪えるよう作られていないと不可能ですからね。

太田垣 でも、音を付けられないジレンマってありませんか? ゲームだと、いい曲をつければ自然と盛り上がるじゃないですか。

ヨコオ マンガはその手法は使えないですけど、ほかのマンガも音が出ないので、割と平気だなと。マンガのいいところは時間の制約に縛られないことだと思うんです。音を付けると音を聞くために待たなきゃいけない。マンガはすぐ読めて、見たいところでは止まれるのがいいなって。

太田垣 マンガの特徴をわかってらっしゃっていてすごいですね。読者が時間をコントロールできるのがマンガのいいところですよ。

ヨコオ 今まではつまんないマンガを読んだら平気で「つまんない」と言えてたんですが、自分で描きはじめたからにはもう言えないなと(笑)。だんだん自分の自由に言える領域が狭まってる気がします。

原案・脚本 太田垣康男 スタジオ・トア 漫画 太田優姫「銀河ロケットにお葉書ください(1)」 / 2015年10月24日発売 / 617円 / スクウェア・エニックス
「銀河ロケットにお葉書ください(1)」

「10か月後、人類滅亡は決定的となりました」TVのアナウンサーから唐突に告げられる隕石の衝突、地球消滅へのカウントダウン。混乱の中、日本政府は「銀河ロケット事業団」を設立。国民1人ひとりからの最期のメッセージとなる葉書を集め、宇宙船「銀河ロケット号」に搭載。人類が生きていた証しを携え、遠い銀河へと旅立つのだ。

人生の「終わり」を知った、1人ひとりの胸に宿るものとは……。純粋抽出ヒューマンドラマオムニバス。

原作:ヨコオタロウ 作画:森山大輔 制服デザイン原案:倉花千夏「君死二タマフ事ナカレ」
1巻 / 2015年10月24日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
2巻 / 2015年11月25日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
「君死二タマフ事ナカレ」

超能力が科学によって解明された日本。その力を軍事利用すべく「特殊能力高等学校」が設立され、戦う意味も知らぬまま戦場へと駆り出される生徒達。

飛び交う銃弾、希望の見えない敗走、友人達の死。生と死が邂逅する戦場で、少女の手を取った1人の少年。その先にあるのは希望か、それとも──。

少年少女ダーク戦場ロマン、開戦。

太田垣康男(オオタガキヤスオ)
太田垣康男

1967年大阪生まれ。1988年に漫画アクション(双葉社)にて「MY REVOLUTION」でデビュー。代表作に「一平」「一生」などがある。2000年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「MOONLIGHT MILE」を開始。2005年よりヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて、ゲーム「FRONT MISSION」コミカライズの原作を務める。単行本は「FRONT MISSION ~THE DRIVE~」全1巻、「FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE」全10巻が発売中。2012年よりビッグコミックスペリオールにて「機動戦士ガンダム サンダーボルト」をスタートさせる。2015年からは月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「銀河ロケットにお葉書ください」の原案・脚本を担当。

ヨコオタロウ
ヨコオタロウ

1994年にナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社後、ソニー・コンピュータエンタテインメント、キャビア(現マーベラス)等を経て現在はフリーランスとして活動中のゲームクリエイター。映像やゲームのディレクションを始め、世界観設定やシナリオ作成に携わる。ゲーム代表作は「ドラッグ オン ドラグーン」「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」。2014年より月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載中の「君死ニタマフ事ナカレ」で、初のマンガ原作を担当している。