コミックナタリー Power Push - 「銀河ロケットにお葉書ください」「君死二タマフ事ナカレ」
マンガ家・太田垣康男×ゲームクリエイター・ヨコオタロウ 原作者としての創作スタイルの違い
「君死ニ」の美男美女に豊かな表情を与える画力の高さ
──「君死ニ」は森山さんの作画を見てから、次の展開が変わったりするんですか?
ヨコオ すでに何話分かのネームはお渡ししてるので、直後の展開は変わりません。ただ、魅力的な絵に出会うと、さらに先の話に影響はあるかなと。
──いい作画に影響されて、このキャラは死ぬはずが生存させた、というような例はあります?
ヨコオ ミズカキがそうですね。狙撃で股間が吹き飛ばされたキャラですが、途中ですごくいい顔をしたので、生き残らせることを決めたという。いずれ面白く育つだろうなと思って。
──普通のマンガでは死にそうにない美男美女がバタバタ死んで、三枚目のミズカキが生き残るのが面白いですね。
ヨコオ もっと変なキャラがいてほしいんですけど、編集長は美男美女をリクエストしてくるんですよ(笑)。
太田垣 美男美女だけだとお話が作りにくくないですか?
ヨコオ ゲームはもっとステレオタイプで、小さい奴とデカい奴の凸凹コンビとか、記号化されたほうが画面の中で映えるので、よくやっちゃうんです。マンガだと頭身が似てる感じの美男美女が多くなって、自分の感性としてはもっとバラつきがある方が派手だと思うんですが、一方ではドラマなので、頭身がそろっているリアリティもアリかもしれません。そのあたりも、今勉強中ですね。
太田垣 顔のパーツが崩れてるキャラの方が表情がつけやすくて、整ってる人は難しいんですね。そんな中で、作画の森山さんが頑張って美男美女にいろんな表情をつけておられる。それがこの作品の魅力だなと思うんです。イケメンをあそこまで崩せるのは、画力の高さを表してるんですよね。
「強い人間」への憧れとお風呂ポスター
ヨコオ 今日どうしてもお聞きしたいことがあるんです。太田垣さんのマンガで印象的なのは、すごい真っ直ぐなセックスが出てくるなと。
太田垣 そこを聞きますか!(笑)
ヨコオ 筋肉量のある男性が野獣のように巨乳の女の人とセックスをする。それもすごく濃密な筆致で……というのが印象に残っていて。それが戦場の凄惨さとあいまって、迫力になってるなと。あのセックス観はナチュラルに出てきてるのか、わざと誇張してるんですか?
太田垣 割とナチュラルですね。私はものすごいノーマルなんですよ。たぶん日本人の感覚だともう少しアブノーマルになると思うんですが、ただ「子孫を残したいから」わっとやる。要は食事をしたり寝るのと変わらないもので、特別な行為という感覚があまりないですね。
ヨコオ 本当に動物的な描き方で真っ直ぐだなって思います。
太田垣 恥ずかしい(笑)。たぶんセックスは衝動が強ければ強いほど、生きたいというエネルギーが強い証拠だと思ってるんです。で、私は美食家もあまり好きではなくて、より好みしないで出されたものをちゃんと食えよと。たまにいるんですよ、人間的に圧倒される存在が。ご飯もパクパク食って快眠快便という人間が一番強いだろうと。
ヨコオ 感性がすごく違うなって思ったんです。僕はもっと薄暗くて、企画ものAVみたいな感じで(笑)。
太田垣 昔、同世代の友人達がアイドル好きで部屋にポスター貼ってたんですが、まったく惹かれなかったんですね。自分の手が届かない人物なので、興味ないやと。
ヨコオ 僕は今日たまたま、ヤングガンガンの付録に付いてたアイドルのお風呂ポスターを持ってるんですけど(取り出しながら)。これを45歳の男が風呂に貼って一緒に入るとどういう気持ちになるか、かなり楽しいんじゃないかって……歪んだ感性ですね(笑)。太田垣さんは食の描写もすごい丁寧ですね。
太田垣 食べたいと思えるものじゃないとヤだなって。食欲を刺激するから口に入れるわけで、見た目が不味そうだとダメだと思うんですね。なので、食事シーンはいまだに自分で描いてるんです。「君死ニ」でも学食で食事するシーンが出てきますよね。
ヨコオ 食を入れないと生活感が出ないので入れてますが、そこまでディテールにこだわってないなと。いつかは食事シーンだけで1回分をやりたいですね、グルメマンガとか。
太田垣 私もどこかでお風呂ポスターを貼るシーン描こうかな(笑)。
理不尽な状況の中で生きる意味と、誰かのために何かをする幸せ
──最後に、おふたりは作品を通じて、読者に希望や勇気を与えられたらいいと思われますか?
ヨコオ この作品を見て希望を感じる変態的な人もいるかもしれないですけど、そういうデザインはしてませんね。ただ、現実社会でも思い通りにならないことは多いと思いますが、理不尽な状況の中で生きることの理由を、キャラクターを通して考えてもらえるとうれしいです。……今、いいこと言いましたよね!?(笑)
太田垣 その後、すごく言いにくいですね(笑)。もし読者に希望を与えたいと思っていたら「10カ月後には地球が滅亡します」という設定にはしてません。やはり希望や夢を持つからいけないんだと思うんです。希望は単なる願望だし、夢はわがままだし、本質的には自分勝手な感覚だなと。そんなことより、今、自分の隣にいる人のために自分に何ができるのかを優先すべきだと思いますね。それができたら一番の幸せだし、そういう相手が見つからないから不幸なんですね。自分が誰かのために何かしようと思ってくれればうれしい。いいこと言いました(笑)。
太田垣とヨコオが“最期のハガキ”を執筆
「銀河ロケットにお葉書ください」では、国民1人ひとりから最期のメッセージとなるハガキを集める。対談を終えた太田垣とヨコオにも、最期のハガキを書いてもらった。
太田垣は「線だけでさまざまな表現ができる」とボールペンで緻密な線の集合体を執筆。マンガ家として最期に残すものは「線」だ、とハガキに表現した。一方、ヨコオは宇宙へ飛び立つかわいらしいキャラクターを描き、「とどくよ」とメッセージを残した。
次のページ » 月刊ビッグガンガン創刊4周年キャンペーン
- 原案・脚本 太田垣康男 スタジオ・トア 漫画 太田優姫「銀河ロケットにお葉書ください(1)」 / 2015年10月24日発売 / 617円 / スクウェア・エニックス
- 「銀河ロケットにお葉書ください(1)」
「10か月後、人類滅亡は決定的となりました」TVのアナウンサーから唐突に告げられる隕石の衝突、地球消滅へのカウントダウン。混乱の中、日本政府は「銀河ロケット事業団」を設立。国民1人ひとりからの最期のメッセージとなる葉書を集め、宇宙船「銀河ロケット号」に搭載。人類が生きていた証しを携え、遠い銀河へと旅立つのだ。
人生の「終わり」を知った、1人ひとりの胸に宿るものとは……。純粋抽出ヒューマンドラマオムニバス。
- 原作:ヨコオタロウ 作画:森山大輔 制服デザイン原案:倉花千夏「君死二タマフ事ナカレ」
- 1巻 / 2015年10月24日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
- 2巻 / 2015年11月25日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
- 「君死二タマフ事ナカレ」
超能力が科学によって解明された日本。その力を軍事利用すべく「特殊能力高等学校」が設立され、戦う意味も知らぬまま戦場へと駆り出される生徒達。
飛び交う銃弾、希望の見えない敗走、友人達の死。生と死が邂逅する戦場で、少女の手を取った1人の少年。その先にあるのは希望か、それとも──。
少年少女ダーク戦場ロマン、開戦。
太田垣康男(オオタガキヤスオ)
1967年大阪生まれ。1988年に漫画アクション(双葉社)にて「MY REVOLUTION」でデビュー。代表作に「一平」「一生」などがある。2000年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「MOONLIGHT MILE」を開始。2005年よりヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて、ゲーム「FRONT MISSION」コミカライズの原作を務める。単行本は「FRONT MISSION ~THE DRIVE~」全1巻、「FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE」全10巻が発売中。2012年よりビッグコミックスペリオールにて「機動戦士ガンダム サンダーボルト」をスタートさせる。2015年からは月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「銀河ロケットにお葉書ください」の原案・脚本を担当。
ヨコオタロウ
1994年にナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社後、ソニー・コンピュータエンタテインメント、キャビア(現マーベラス)等を経て現在はフリーランスとして活動中のゲームクリエイター。映像やゲームのディレクションを始め、世界観設定やシナリオ作成に携わる。ゲーム代表作は「ドラッグ オン ドラグーン」「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」。2014年より月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載中の「君死ニタマフ事ナカレ」で、初のマンガ原作を担当している。