コミックナタリー Power Push - 「銀河ロケットにお葉書ください」「君死二タマフ事ナカレ」
マンガ家・太田垣康男×ゲームクリエイター・ヨコオタロウ 原作者としての創作スタイルの違い
太田垣康男が原作を務める「銀河ロケットにお葉書ください」と、ゲームクリエイターのヨコオタロウが原作を手がける「君死二タマフ事ナカレ」。どちらも月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載されており、ともに1巻が10月24日に発売される。
コミックナタリーではこれを記念し、太田垣とヨコオ、原作者同士の対談を実施。お互いの作品の感想から、創作スタイルや作品を生み出す裏側まで、たっぷりと語り合ってもらった。
取材・文 / 多根清史
マンガもゲームも設定はアドリブで決める
──太田垣さんはヨコオさん原作の「君死二タマフ事ナカレ」(以下「君死二」)を読まれて、どんな感想を抱かれましたか?
太田垣 ゲーム作家さんだけに、深い部分まで設定を作られているなという印象を受けましたね。私もこうありたいなと。私は設定を作るのが苦手で、いつも行き当たりばったりなんですよ。
──ではヨコオさんも、太田垣さん原作の「銀河ロケットにお葉書ください」(以下「銀河ロケット」)を読まれた感想をお聞かせください。
ヨコオ 「頭のいい方だな」と思ったんです。ストーリーも骨太だし、時流の話題性の取り込み方も上手いなって。たとえば「MOONLIGHT MILE」でも、中国とアメリカが宇宙覇権を争うという設定は当時衝撃的でした。太田垣さんはビジネスマンになっても成功するだろうな、とも思います。
──ヨコオさんはどうやって設定を作り込まれているんでしょうか。
ヨコオ 僕は話に関係ない設定は、なるべく考えたくないタイプなんです。話が展開していって「このキャラは3人兄弟にすると素敵だね」というときに設定を決めたい。先に決めておくと、見える風景が狭くなると思ってまして。ただ、ゲームだと完成してから発売までに修正ができるんですが、マンガは撮って出し(テレビ番組などで、素材を編集せずにそのまま放送すること)なので、このやり方で最後まで破綻なくできるのか、まだわからないなと。
太田垣 マンガってアドリブで作るので、出だしは驚かせればいいんです。でも、後半どんどん締めにかかるとき、上手くできなくてぶん投げて終わることが多々ありますね(笑)。
──ヨコオさんもゲーム制作の現場では、結構アドリブでやっておられるわけですね。
ヨコオ そうですね。この2人はどういう関係なんですかと聞かれたら、そのときに何が一番適切かを考える。そうやってドミノ倒し的に、次から次へと決まっていく感じですね。
太田垣 スタッフの意見は柔軟に取り入れるほうなんですか?
ヨコオ ええ、「あ、そうなんだ」と。いいと思ったら入れていくスタイルですね。
太田垣 いいアイデアを言われたら、「コンチクショー!」と思いません?
ヨコオ ないですね。ただでもらえるものはなんでももらいます。クーポンでも何でも(笑)。
ゲーム制作の分業システムをマンガにも導入したい
──ゲーム制作と比べて、マンガ作りは少人数の作業ですよね。
ヨコオ 原作者がいて、作画の方がおられて、あと編集さんで、せいぜい4~5人ですね。ゲームだと100人ぐらいいますので、そのマネジメントが話を考えるよりも大変なんです。
太田垣 100人の陣頭指揮なんてゾッとしますね。
──太田垣さんのスタジオ・トアも、それぞれの専門分野を持つスタッフの分業システムを目指されていますね。
太田垣 今それに挑戦してる最中で、四苦八苦してます。マンガ業界では(マンガ家志望の)アシスタントを使うのが一般的なんですが、みんなある程度の技術を持った段階で独立してしまうんです。それにアシスタントしかできない人は、たぶん30歳を過ぎるとどこにも雇ってもらえない。でも、3Dのモデルを作れるとか、何かのスペシャリストになっていれば、その後も食べていけるんですね。なので、マンガ家志望のアシスタントは雇わないのはお互いのためだと。そういう方向で若い子を鍛えてるんですけど、まだまだかかりそうですね。
──大人数のゲーム業界出身のヨコオさんが少人数のマンガ制作を手がけられることと対照的ですよね
太田垣 羨ましいんですよね、複数のスペシャリストがひとつの作品を作ることはマンガではできなかった。このままのシステムだと業界そのものが疲弊すると思うので、変えられたらいいなあと。
ヨコオ 僕は太田垣さんのスタジオシステムの話を聞いたとき、すごいショックを受けたんです。実は、似たことを考えていたんですよ。ゲーム制作のやり方で、分業体制でマンガを描けるんじゃないかって。我々がそこに参入する余地があると思っていたところに、先にやられた、と。
太田垣 でもまだまだ模索中ですね。私はネームまでを作って、あとは絵や背景を描いてくれるスタジオという工場を持っておきたいなと。自分自身がその工場のラインで働くのは嫌なんです(笑)。今はまだすべて社員で回せてはいなくて、メカデザイナーの方に外注したり、いろいろ試行錯誤していますね。
「銀河ロケット」では家族が描きたい
ヨコオ ご自身が作画もされた「銀河ロケット」の0話は、そういう挑戦がよく現れているなと。キャラを出さず、写真を素材にした表現だけで描き切ってることにビックリしました。
太田垣 ありがとうございます。1話以降の作画を担当される太田優姫さんの一番の武器はキャラクターなので、私はそこを描くのは控えようと思って。ニュース映像的なものを作って出すぐらいなら邪魔にはならないだろうと言う意図ですね。
──今回はあえてネームは描かずに、文字だけの脚本だけにされたんですよね。
太田垣 よくも悪くも私の絵はアクが強いので、ネームまで描いてしまうと作画の人の自由を奪ってしまう危険があるなと。前の「FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE」の原作は下描きまで作って、この通り描いてくださいというレベルのものでした。今回は太田さんのイメージを出してほしかったので、あえて自分はネームを描かないで、シナリオもどんどん変えていいですとお願いしています。そうすると作画で膨らませた分、ご本人に責任が出るので苦労するだろうなと思いますけど、そのほうが自分の作品という愛着が湧くでしょうしね。
──太田垣さんの作品にしては珍しくメカが出ない、日常的な設定ですよね。
太田垣 ずっとメカSFと呼ばれるマンガを描いてきましたが、どんどん日常感覚から離れていくのが怖いんですね。今回は自分の精神バランスを取るために描いてるのかもしれないです。やはり「家族」が描きたいんですね。もし地球があと10カ月で滅亡するという状況で、家族はどうなるかを見ていきたいなと。大元のネタは東日本大震災の前に考えたものなんですよ。その頃に企画を進めてたんですけど、震災があって、一度はポシャったんです。あの時期に「家族」を作品で描くのはちょっと抵抗があった。あれからだいぶ経って、当時抱いた感覚を憶えておくためにもやってみたいと思って。萌えキャラも出てこないのに、よく(ビッグガンガン編集部が)やらせてくれたなと(笑)。
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- 原案・脚本 太田垣康男 スタジオ・トア 漫画 太田優姫「銀河ロケットにお葉書ください(1)」 / 2015年10月24日発売 / 617円 / スクウェア・エニックス
- 「銀河ロケットにお葉書ください(1)」
「10か月後、人類滅亡は決定的となりました」TVのアナウンサーから唐突に告げられる隕石の衝突、地球消滅へのカウントダウン。混乱の中、日本政府は「銀河ロケット事業団」を設立。国民1人ひとりからの最期のメッセージとなる葉書を集め、宇宙船「銀河ロケット号」に搭載。人類が生きていた証しを携え、遠い銀河へと旅立つのだ。
人生の「終わり」を知った、1人ひとりの胸に宿るものとは……。純粋抽出ヒューマンドラマオムニバス。
- 原作:ヨコオタロウ 作画:森山大輔 制服デザイン原案:倉花千夏「君死二タマフ事ナカレ」
- 1巻 / 2015年10月24日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
- 2巻 / 2015年11月25日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
- 「君死二タマフ事ナカレ」
超能力が科学によって解明された日本。その力を軍事利用すべく「特殊能力高等学校」が設立され、戦う意味も知らぬまま戦場へと駆り出される生徒達。
飛び交う銃弾、希望の見えない敗走、友人達の死。生と死が邂逅する戦場で、少女の手を取った1人の少年。その先にあるのは希望か、それとも──。
少年少女ダーク戦場ロマン、開戦。
太田垣康男(オオタガキヤスオ)
1967年大阪生まれ。1988年に漫画アクション(双葉社)にて「MY REVOLUTION」でデビュー。代表作に「一平」「一生」などがある。2000年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「MOONLIGHT MILE」を開始。2005年よりヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて、ゲーム「FRONT MISSION」コミカライズの原作を務める。単行本は「FRONT MISSION ~THE DRIVE~」全1巻、「FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE」全10巻が発売中。2012年よりビッグコミックスペリオールにて「機動戦士ガンダム サンダーボルト」をスタートさせる。2015年からは月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「銀河ロケットにお葉書ください」の原案・脚本を担当。
ヨコオタロウ
1994年にナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社後、ソニー・コンピュータエンタテインメント、キャビア(現マーベラス)等を経て現在はフリーランスとして活動中のゲームクリエイター。映像やゲームのディレクションを始め、世界観設定やシナリオ作成に携わる。ゲーム代表作は「ドラッグ オン ドラグーン」「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」。2014年より月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載中の「君死ニタマフ事ナカレ」で、初のマンガ原作を担当している。