「がんばってください!」日向夏キャラクターに寄せられたリクエスト
──1話には、主人公のナギ、ぬいぐるみの姿でしゃべる兄のたける、そして美形の男性ツクヨミが登場します。キャラクターの誕生秘話を伺いたいです!
日向夏 ナギは私の中で「これぞ花とゆめの主人公」。状況に応じてサクサクと考え方を変える、合理的な女の子です。
赤瓦 日向夏先生の主人公は、「薬屋のひとりごと」の猫猫(マオマオ)をはじめとして、「この主人公だったら何があっても大丈夫」というような安心感がありますよね。堅実なところが好きです。ナギはキャラクターデザインもサクッと決まった記憶があります。
日向夏 一方、紆余曲折あったのがツクヨミですね。実は……ツクヨミは最初、影も形もなかったんですよ。赤瓦先生からエールをもらいながら今のツクヨミになっていきました。
──ど、どういうことでしょう?
赤瓦 だいぶリクエストして、花とゆめチームが考える少女マンガらしさを入れさせてもらいました……! 花とゆめの読者は、冒険譚も欲しいけれど、同時に魅力的な男女の関係も欲しいはず。そんな読者の人たちに楽しんでいただけるような男性キャラがいるといいんじゃないかなと、すごくたくさんのお願いを日向夏先生にして、応えてもらいました。
日向夏 「少女マンガなんだからがんばってー!」と応援してもらいました。私個人としては、少女マンガはほかに主軸があれば、男女の関係性の部分は5%くらいでもいいのかな?と思っていたのですが、やはり60%くらいは必要なのだなと教えてもらいました。今はまだ20%くらいでしょうか。私は「美形のヒーローほど“アレ”なところがある」と思っていまして、ツクヨミもそれを体現したキャラクターになっていくのではないかなと。
──「薬屋」の壬氏さまファンの人は今、「日向夏先生らしい……!」と思っていそうです(笑)。
日向夏 ナギとの関係性でいうと、スタート時点のナギとツクヨミだとちょっと釣り合いが取れていないので、いつか背伸びではなく釣り合うように、ナギが育っていくといいなと考えています。
──ナギの兄・たけるは、妹にいろいろなことを託して引きこもっているキャラクター。ぬいぐるみの姿でしゃべるのがキュートですね。
日向夏 たけるのイメージは「世の中働くアリがいれば働かないアリがいるよね」。めちゃくちゃダメだけど憎めない奴っていいよね……という気持ちを込めたキャラクターです。実はぬいぐるみになったのも赤瓦先生のアイデアなんですよ。
赤瓦 シナリオでは、たけるはテレパシーだけで登場していたんです。小説なら面白いテンポなのですが、マンガとしてコマ割りすると画面が単調になってしまう。「マスコットとして動かしてもいいですか?」とご相談して、快諾してもらいました。
日向夏 「マスコット……そういう手があったんだな!」と勉強になりました。ほかにも、1話に登場するツクヨミのお付きの人も赤瓦先生からの提案です。ツクヨミ1人だとけっこうボケ倒し、ツッコミ不足になるところ、お付きの彼がいることで、テンポよくツッコミを入れてもらえるようになっています。
──赤瓦先生は、「兄友」の七瀬兄妹と西野兄妹、「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」の二ノ宮兄弟に続き、今回もきょうだいものとも言えますね。
赤瓦 今言われて「はっ、確かに兄妹だ」と気付きました……(笑)。編集さんに「赤瓦さんは家族の話が好きですよね」と言われたのですが、そうなのかもしれません。今回は田舎に住む家族もの。ナギはおばあちゃんとの思い出を大切にしている女の子です。今作画で家族写真や、拾ってきた松ぼっくりなどを描いているのですが、そういう雰囲気を出すのが好きなんですね。家族の雰囲気や生活感、空気感を大事に描けるといいなと思っています。
マンガと小説で2度楽しめる「神さま学校」の世界
──日向夏先生は、ご自身が生み出した物語がマンガになることに、どんな楽しさを感じていますか?
日向夏 自分の小説は自分で書いてるので読み飽きているんですよ(笑)。赤瓦先生のネームを拝見したときに、いい意味で自分の原作だということを忘れました。ツッコミのテンポや新たなセリフで、「赤瓦先生のマンガだ」と感じて楽しいです。
赤瓦 いただいているシナリオのセリフを全部マンガで描くのは難しいのですが、セリフを少なくしてもマンガとして面白く読めるように、マンガ独自のセリフを入れていることがあります。
日向夏 特にたけるは、ダメな感じがさらに割り増しになっていて最高ですね。私はマンガが好きなので、「もうこのマンガだけでいいんじゃない?」と思うところはあるのですが(笑)、小説版も同時刊行ということが決まっているのでがんばろうと思います。
──それは楽しみです! 小説版も白泉社から……?
日向夏 いえ……実は、星海社からで。最初にお話しした「ある編集さん」は、星海社の太田克史さん(星海社代表取締役社長CEO)なんです。今回の連載は、原作チームが日向夏&太田班、マンガチームが赤瓦&花とゆめ編集部班という組み合わせ。小説版はマンガの単行本1巻発売のタイミングで刊行予定です。
──驚きです! 白泉社と星海社という、出版社やグループを超えたタッグだったんですね。ちょうど太田さんがいらっしゃったので、少し詳しくお話を伺えますか……?
(※取材はオンラインで行われ、太田氏は前の予定が押していたため途中で現れた)
太田克史 こんにちは、太田です。去年の年始に白泉社さんとご縁があって、「同じ日にうち(星海社)から小説、白泉社さんからマンガを発売するというのはどうでしょう?」と話が盛り上がったんです。白泉社さんはいい雑誌をたくさん持っていますが、花とゆめは出版界の中でも最高のブランドの1つ。花とゆめ編集長にも許可をもらって、企画に現実味が帯びてきて、本当に花とゆめで連載ができるなら……と真剣に考えたときに、最初に思い浮かんだ小説家が日向夏さん。花とゆめの空気もファンとして知っていて、作風もぴったりだと感じました。けっこう無理にお願いしたんですが、「花とゆめならやりたい」とうなずいてもらえました。
日向夏 太田さんはずるいんですよね。ほかの締め切りの前に気になる話を持ってきて、「ちょっとだけだからやってみない?」とささやくんです。
太田 赤瓦さんは編集部経由で紹介していただいたのですが、ぴったりだと思いました。日向夏さんも「チームみんなで原作」というふうにおっしゃっていると思うのですが、赤瓦さんは思わぬ方向からキャラクターや味付けに意見をくださる。それを受けて、僕と日向夏さんも、いつもの「小説を作るための打ち合わせ」とは違った角度でお仕事ができているように思います。僕の言うことだと素直に聞いてくれない日向夏さんも、赤瓦さんたちの話だと素直に聞いてくれるのでちょっとうれしい(笑)。
日向夏 マンガではナギ視点ですが、小説は男性キャラクター視点で進むところもあるだろうと思っています。マンガ連載と小説版のストーリーの進み方は少し違いますが、「あのときこのキャラはこういうことを思っていたんだ」「このシーンは早くマンガで読みたいな」というふうに、マンガと小説を一緒に読むことで違った楽しみ方ができるといいなと考えています。マンガ版でも小説版でも、自分がかつて花とゆめに感じていたワクワク感を読者の皆さんに刻んでいきたいです。
赤瓦 日向夏先生のファンの方は、絶対小説を読むと思うんですよ。マンガ担当としてはめちゃくちゃがんばらないと……とプレッシャーに感じています。一方で、普段小説を読まない人が、マンガをきっかけにして小説のほうも読んでくれたらすごくうれしいですね。日向夏先生の作風と赤瓦の作風をどちらも生かして読者の方に楽しんでいただける作品を作りたいです。ちなみに、マンガ3話に私のお気に入りキャラが出てきます!
- 赤瓦もどむ(アカガワラモドム)
- 2011年、ザ花とゆめ(白泉社)にて「恩返しUMAうにょくらげ」でデビュー。花とゆめ文系少女(白泉社)で鳳乃一真のライトノベル「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」のコミカライズを担当。2015年に「兄友」の連載がスタートし、2018年に全10巻で完結。同作は横浜流星主演により実写映画化、実写ドラマ化を果たした。2019年より花とゆめ(白泉社)にて「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」を連載。同作は全5巻で完結した。現在花とゆめ(白泉社)にて「神さま学校の落ちこぼれ」を連載中。
- 日向夏(ヒュウガナツ)
- 小説投稿サイト・小説家になろうに発表したミステリー「薬屋のひとりごと」がヒーロー文庫より書籍化。同作はコミカライズが2作展開されており、倉田三ノ路作画による「薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~」が月刊サンデーGX(小学館)で、ねこクラゲ作画、七緒一綺構成による「薬屋のひとりごと」が月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)で連載中だ。このほか著作に「トネリコの王」「繰り巫女あやかし夜噺」「なぞとき遺跡発掘部」「女衒屋グエン」など多数。