カチCOMI特集 SHOOWA×雲田はるこ|私たちはなぜ、アウトローBLの魅力に抗えないのか

秋田書店が手がけるBLレーベル・カチCOMIをご存知だろうか。「お前と夜のタイマン勝負」をキャッチコピーに掲げ、ヤンキーやヤクザなど、アウトローな男たちの関係を描くことに特化した、独自のレーベルだ。

今年5月にカチCOMIレーベルが誕生1周年を迎えたことを記念し、コミックナタリーでは同誌で奥嶋ひろまさとタッグを組んで「同棲ヤンキー 赤松セブン」を連載中のSHOOWAと、「新宿ラッキーホール」や「昭和元禄落語心中」の作者で、ヤンキー&アウトロー作品が大好きな雲田はることの対談を実施。以前より互いの作品のファンだったという2人が、ヤンキーBLの魅力を基点に、カチCOMIの独自性や「同棲ヤンキー」の誕生秘話、そしてなぜBLはアウトローと惹かれ合うのかを熱く語った。話題はBLのみならず、SHOOWAオススメのアウトロー作品や、雲田がハマっている「HiGH&LOW」にまで及び、これが初対面とは思えぬ内容の濃い対談となっている。

取材・文 / 的場容子

カチCOMIとは?

カチCOMI

2017年6月、秋田書店が創刊した電子限定のBL雑誌。そのコンセプトは「ヤンキー・ヤクザ・オラオラ系etc…アウトロー特化型電子 BLマガジン」。秋田書店といえば髙橋ヒロシ「クローズ」「WORST」、吉田聡「荒くれKNIGHT」シリーズ、立原あゆみ「JINGI(仁義)」シリーズ、米原秀幸「ウダウダやってるヒマはねェ!」など、多くのアウトロー系作品を扱ってきた出版社である。その秋田書店がBLの中でも人気ジャンルであるヤンキーやヤクザに特化した雑誌を作り、しかもキャッチコピーが「お前と夜のタイマン勝負」というインパクトの強いものだったことから、創刊時はBLファンのみならず、多くのマンガファンをざわつかせた。カチCOMIは毎月上旬に、各電子書店で配信中。

SHOOWA×雲田はるこ対談

キャッチコピーのボツ案は「挿れるのは焼きだけじゃない」

──カチCOMIがレーベル誕生1周年を迎えました。ヤンキー・ヤクザものに特化したアウトローBL誌ということで、おそらく世界唯一のコンセプトだと思うのですが、おふたりは雑誌が創刊されると聞いたとき、どんなふうに思いましたか?(参照:秋田書店の新BL誌・カチCOMI、6月配信!SHOOWA手がける告知画像を公開

カチCOMI vol.1

SHOOWA 老舗の秋田書店さんから出るということで、レーベル的にはすごく強みがあるし、面白そうだと思いました。

雲田はるこ 私は髙橋ヒロシ先生のマンガも大好きなので、創刊を聞いたとき「髙橋先生がよく描かれている秋田書店からBLが! しかもヤンキーものに特化した雑誌! やったー!」って大喜びしたのをよく覚えています(笑)。

──「お前と夜のタイマン勝負」というキャッチコピーはインパクトがあります。

SHOOWA このキャッチ、ほんとに秀逸ですよね。雑誌のコンセプトを表していて、ネタ感もあるし。

──キャッチのボツ案としては「挿れるのは焼きだけじゃない」というのもあったそうです(参照:“秋田書店らしいBL”でカチCOMI!拳が合わさるその瞬間、何かが生まれる)。

雲田 ちょっとうまいこと言おうとしてる!(笑)

──ヤンキー&ヤクザに特化したBL誌と言いつつも、カチCOMIを読むとびっくりするほど多岐にわたる作品が載っています。

SHOOWA それがBLらしいですよね。性癖や好みって人の数だけあるので、ひとくちに「ヤンキー&ヤクザ」といっても数えきれないほどのバリエーションがあります。

話ごとにBLとしての魅力が増していく「赤松セブン」

「同棲ヤンキー 赤松セブン」1巻。「イベリコ豚」シリーズのSHOOWAが初めての原作を手がけ、「頂き!成り上がり飯」「アキラNo.2」などのヤンキー作品で知られる奥嶋ひろまさが作画を担当する。奥嶋がBL作品を描くのはこれが初。

──SHOOWAさんは、ヤンキーの高校生・赤松と、一身上の都合で公園に暮らすヤンキー・セブンがケンカをきっかけに同棲を始める「同棲ヤンキー 赤松セブン」で、これまでヤンキーマンガを多く手がけてきた奥嶋ひろまさ先生と異色のタッグを組んでいます。TwitterではSHOOWAさんのネームと奥嶋さんの絵を比較したものを掲載されていましたね。

SHOOWA 自分がネームを描いたものがほかの人の絵で上がってくるので、「このシーン、こうなったんだ!」という驚きがあるのと、奥嶋先生の絵の上手さに改めてびっくりしました。奥嶋先生のほかの作品を見せていただいたときも思ったのですが、力強さとかわいらしさを兼ね備えている絵なんですよね。

雲田 奥嶋先生のキャラクターは、とにかく男子がカッコいいうえにかわいいですよね。

SHOOWA そうなんです。最初は少年マンガ然として始まっているものが、お話が進んでいくにつれて、どんどんBLとしての魅力が出てきているんです。お話の展開に応じて、キャラの表情など、恋愛っぽい雰囲気が絵からもにじみ出てくるようなり、その変化にも驚きました。

──奥嶋さんの「BLレベル」が成長しているのでしょうか。

SHOOWA それもあるし、もともと画力の高い方なので、新しい作風を吸収していく力が高いんだなと感じました。そこに感動しましたね。

──雲田さんが「同棲ヤンキー」でキュンときたポイントをお聞かせください。

雲田 まず、主人公の赤松くんがすごくかわいいです。私の友達が「同棲ヤンキー」に激しく萌えているんですが、SNSではアニメを観て実況しているときのように「同棲ヤンキー」の感想も書いてるんです。その子の感想を見ていると7話で赤松くんとセブンが「いよいよ色っぽい関係になるか!?」という展開になったあたりで、その子がいつもより騒いでいて。私も読みたくなって雑誌を買ってみたら「これはすごい作品だ!」となり、そこから本屋さんに単行本の1巻(5話までを収録)を買いに行って、遡って読んだんです。紙の本で読みたくて、久々に電子書籍ではなく紙のコミックスで買いました。

SHOOWA ありがたいです、エロの力(笑)。

雲田 私、「イベリコ豚」シリーズなどを読んでいてもともとSHOOWAさんのファンだったので、お話の面白さは間違いないと思っていました。さらに「同棲ヤンキー」をきっかけに、「頂き!成り上がり飯」などの奥嶋先生のほかの青年誌での作品も読んでみて、そこでもやはり男の子のかわいさをすごく感じました。「同棲ヤンキー」は特に男子のかわいさを出そうというのがすごく感じ取れるし、BLっぽくしてくださっているというのもうれしく、素晴らしいですよね。

ケンカ中、セブンに攻撃を誉められてうれしそうにする赤松。

──「BLっぽさ」は、具体的にどのあたりで感じますか?

雲田 赤松くんが頬を赤らめたり、かわいいエピソードを多めに入れ込んでいるところとか、キャラのパーソナリティがよく伝わるような小ネタもいっぱい入っているところでしょうか。すごく感動しました。バトルシーンもめちゃくちゃ読みやすいしお上手で、奥嶋先生の得意技も感じます。

SHOOWA ケンカシーンは、奥嶋先生の中で確固として積み上がっているものを感じますよね。

雲田 そうなんです。それと、「同棲ヤンキー」では、男子の裸がカッコいいものとして描かれているように感じました。男子の身体がそのままBLっぽくはないヤンキーマンガの文法で描かれているのがカッコよくて、そこに逆にエロを感じますし、大きな魅力だと思います。本格ヤンキーマンガのBLって、すごく新鮮です。

太陽のような受けが好き、だから赤松受けはドンピシャだった

──雲田さんは、どちらかというと赤松推しなのでしょうか。

雲田 カップリングで萌えがちなので両方好きです。そして私にドンピシャのカップリングなんです(笑)。王道ですけど、「カッコいい攻めとかわいらしい受け」が普通に読者として好きなので。赤松とセブンの2人、お似合いですよね。

SHOOWA 雲田さんの「いとしの猫っ毛」のみいくんと恵ちゃんは、赤松とセブンのように同年代のカップルですが、雲田さんのほかの作品を読んでいると、年上受けがお好きなのだと思っていました。

雲田 基本は年上受けが好きで、「イベリコ豚」シリーズでも吉宗受けが好きなんです。でも、「同棲ヤンキー」はすごく萌えるんですよね。というのも私、太陽みたいな受けが好きなんですよ。元気いっぱいで明るい、キラキラしたお日様みたいな受け。「猫っ毛」の恵ちゃんもそうだし、大好きな「摩利と新吾」(木原敏江)も新吾が受けのほうが萌える。

SHOOWA 作品を拝見するとすごくわかります(笑)。

雲田 月タイプと太陽タイプで言えば、赤松くんは間違いなく太陽ですよね。

──セブンのほうは、ヤンキーなのにすごく包容力がありますよね。

SHOOWA 包容力というか、生い立ち的に諦めなければいけないことが多かったキャラクターなので、基本のスタンスとして「人に何かを求めない」というのがあるのかもしれません。それは生きてくために身についた性質で、元の性格は、そんなに深く考えない、さっぱりした感じの人だと思っています。

「最終的には土管で結ばれましょう」──「同棲ヤンキー」誕生秘話

──「同棲」と「ヤンキー」という2つのワードの掛け合わせのインパクトが強いですが、作品のコンセプトはどう作られていったのでしょうか。

SHOOWA 私、担当さんに申し訳ないのですが、最初は全然やる気がなかったので……(苦笑)。

──えっ?

SHOOWA カチCOMIの表紙を描かせていただいているのですが、マンガを描くつもりがなかったので。表紙の打ち合わせの際に「(マンガは)何を描いていいかわからないです」という話をしたら、担当さんから「同棲ってどうですか?」と言われたんです。「2人で同棲しているヤンキー……それってどういうのですか?」「いやもう、ケンカしてるところからでいいんじゃないんですか?」というやり取りがあり。さらに担当さんが「公園でケンカして、最終的には土管の中で結ばれる話にしましょう」と。……この人、何言ってんのかな?って(笑)。

第1話の時点では公園の土管で暮らしていたセブン。この土管が撤去されたことが、赤松と暮らすきっかけの1つとなる。

──「土管で結ばれる」……聞いたことがないお話ですね!(笑)

SHOOWA そうなんですよ。だから、担当さんとの話し合いで基盤ができました。

──奥嶋さんが作画を担当されるのはどんな経緯で決まったのですか?

SHOOWA 「原作は女性、作画は男性でいいんじゃないんですか?」とお話ししたときに、担当さんが最初に提案してくださったのが奥嶋先生だったんです。見ると絵がすごく男らしいというか、強さがあるのにかわいいので「すごくいいと思います」とお伝えしました。

雲田 作画も丁寧でキレイだし、ヤンキーマンガの中でも女性読者さんが入り込みやすい、優しい作風だなと思いました。

──BLを描いたことがない奥嶋さんの絵を見せて「この方どうですか?」というのも、なかなかアクロバティックですね。

SHOOWA 担当さんいわく、奥嶋先生が月刊少年チャンピオンのお仕事をしていたときから、本当に色っぽい男性を描かれるなと思ってたそうなんです。そこで今回、思い切って提案してみたと。

雲田 ぴったりでしたね。

──奥嶋さんの反応はどうだったのでしょう。

SHOOWA それが意外にも、「言われると思ってました」という反応だったそうです。カチCOMIが秋田書店で創刊されるのを知ったときから、何かオファーがあるんじゃないかと思っていらしたらしく、すんなりと引き受けてくださいました。

雲田 えーっ! そこからすごく真摯にBLに向き合ってくださったんですね。読者としてはありがたいですね。