カチCOMI特集 SHOOWA×雲田はるこ|私たちはなぜ、アウトローBLの魅力に抗えないのか

ケンカと濡れ場は似ている「2人が一番輝く瞬間」

──雲田さんは「ハイロー」にハマる前もヤンキーが好きだったのですか?

雲田はるこ短編集「ばらの森にいた頃」に収録されている「ヨシキとタクミ」の扉ページ。

雲田 ハマる前に、ヤンキーBL「ヨシキとタクミ」という短編を描いたのですが(参照:号外on BLUEに雲田はるこの青春ヤンキーBL読切、たなと幻の同人作2本も)、描いたらアシスタントさんが「ヤンキーっていいな」となってくれたみたいで。そのアシさんが、当時上映されていた「ハイロー」の映画を観に行ってどハマリしてしまい、私にもめちゃくちゃおすすめしてきて……という不思議な流れがありました。だから、そもそもの原因は私なのかもしれません(笑)。そして、ケンカのシーンとBLの濡れ場って、作品の一番の見せ場だということもあって、なんだか似ているなと思います。ケンカのシーンって、ストーリーが1回止まって、そこでアクションが始まるじゃないですか。濡れ場も一緒ですよね。そして、2人が一番輝く瞬間(笑)。

SHOOWA 会話で進めるわけでもなく、ボディランゲージみたいに、肌と肌、身体と身体、拳と拳で通じ合うわけですしね。

雲田 そうなんです。そういうのが楽しめるジャンルなのかなと思います。男同士がすごく葛藤した末に、ケンカあるいは濡れ場シーンで心を通わせ合うという点で一緒なのかな。ヤンキーマンガもBLも、読んでるテンションは一緒な気がします。「昭和元禄落語心中」の落語シーンでも、やっぱりそこだけはストーリーが止まるという意味で、描き方はけっこう似ているのかもしれないと思ったことがあります。

──ストーリーが止まる見せ場、という点で共通しているのは面白いです。雲田さんの作品では、「新宿ラッキーホール」のサクマや、「いとしの猫っ毛」では火野さんなど、アウトローキャラは脇役でもすごく光っていますよね。

雲田 確かに、メインというより脇役でヤクザを使うことが多いですね。今は世間の風潮的にヤクザをカッコよく全肯定はできないという気持ちと、けどやっぱり彼らにも人生があって、そういうものに蓋をしてしまうのは間違ってるよな、とか。そういう気持ちとの折り合いを付けるのに苦労しています。

SHOOWA 「ラッキーホール」でも、組長の息子のリュウくんが自分の代でヤクザを終わらせようとしているのが印象的です。アウトローものは、割り切ってフィクションで楽しめるところと、時代とのすり合わせを考えなければいけないところがありますよね。

雲田 そうなんです。アウトローはすごく好きなんだけど、思いっきりカッコよく描いちゃまずいのかな、みたいなところもあり。でも好きな思いは止められないので、なんで好きなのかを探るためにも、描くことで考えてみようと思っています。

──ちなみに、ヤンキー攻めとヤンキー受けは、どちらがお好みでしょうか。

雲田 私は圧倒的にヤンキー受けが好きです。

SHOOWA 私もです。ヤンキーには受けてほしい。現実ではアウトですが、フィクションでは、強がっている人を屈服させることに快感があるし、萌えますよね。

雲田 強い人が受けになるのは、読んでいて震える感じがありますね。

SHOOWA そうなんですよ。そこにちょっと気持ち良さがあって……脳内物質が出ているんだと思います。なので私もヤンキー受けです。

雲田作品のアウトローキャラの魅力

「ばらの森にいた頃」

SHOOWA 雲田さんの短編集「ばらの森にいた頃」は吸血鬼ものにヤンキーもの、俳優さん同士ものもあって、盛りだくさんでしたね。モナコを舞台にした短編「モンテカルロの雨」も、枯れた俳優さんと若手俳優さんのお話で、すごくよかったです。あとヤンキーもの「ヨシキとタクミ」も面白かったです。

雲田 細かく読んでいただいてて恐縮です……! 「ヨシキとタクミ」は、ヤンキーものに興味が出はじめた頃に、初めてヤンキーをテーマに描いてみようと挑戦した作品です。

SHOOWA それから「猫っ毛」では、すごく頭に残っているセリフがあるんです。携帯にメモしてきたんですが……猫のナナさんのモノローグで「日も高いうちからサオいじりか…」(笑)。

雲田 そこですか(笑)。昭和っぽい語感が気に入って書いたんでしょうね。

SHOOWA それから、「新宿ラッキーホール」もですが、アウトローっぽいキャラを描かれることが多いですね。

雲田 意外とそうなんです。「昭和元禄落語心中」にもヤクザが出てきますし。

SHOOWA だけど、雲田さんの世界観なので、アウトローが出てきても、やっぱり物語全体としては優しい雰囲気ですよね。読んだ後に、すごくふわっとした気持ちになるというか、面白いバランスでとてもいいですね。吸血鬼ものの「ばらの森にいた頃」も好きで、こちらに出てくる陽くんの、坊主でトランクスというルックスも気になりました(笑)。

雲田 あの子も好きな受けです。名前も陽(よう)ですし、やっぱり太陽っぽい感じの受けですよね。

SHOOWA でも、年下受けというのが、雲田さんの作品のなかではちょっと珍しい気がして新鮮でした。

雲田 そうなんです。私、あまりショタっ気がないので、たしかに珍しいんですよね。あの短編集には4本入っているんですが、どれも振り幅がすごくて、ジャンルもさまざまです(笑)。

SHOOWA すごくバリエーションがあって、短編集ならではですね。

なぜ私たちはこんなにヤンキーBLが好きなのか

──ヤンキーもの、ヤクザものなどの男くさいジャンルは、なぜこれほどBLと相性がよく、なぜ私たちはこんなにも好きなのでしょうか?

雲田 まず、組織にいる男性たちに萌えますよね。

SHOOWA 女性のコミュニティにはない、男性コミュニティ特有のものがありますよね。半分いじめなのか、からかいなのかわからないようなやり取りだったり。学生時代にグループでキャッキャしてる男子を見ると萌えたり、男性アイドルグループの一挙一動に萌えたり、という感情とも似ていると思います。

──女性が入れない世界の中で起こっていることへの興味、ともいえるのでしょうか。

「同棲ヤンキー 赤松セブン」より。思春期をこじらせているヤンキーの赤松は、公園で暮らす謎の男・セブンに八つ当たりでタイマンを仕掛けるも、返り討ちにされる。

SHOOWA そうですね。あとアウトローは、現実で身近にいたら怖いし嫌だけど、フィクションとしての世界観を楽しむぶんには魅力的ですよね。暴力とセックスが満載なエンタメとして、読むと快感物質が出る。

雲田 男性がケンカしているのって萌えますよね。嫉妬とか憧れとか性欲とかないまぜで感情がぐっちゃぐちゃになっててほしい(笑)。

SHOOWA 「ハイロー」はめちゃくちゃケンカしてますよね。あんなに意地を張るの、大変ですよ。

雲田 大変ですよ。プライドや見栄とか意地を大切にするというのは、女性にはあんまりない発想ですよね。

SHOOWA ケンカが終わって「じゃあ帰るぞ」と帰っていくのって、完全にセックス終わったあとみたいですよね(笑)。あのさっぱり感といったら。女性相手だとピロートークが始まりそうなところを、さっと帰る。

雲田 まさに濡れ場だなあ(笑)。

──説得力があります。これまで読んできたもの、観てきたもののなかで、お気に入りのヤンキー・アウトロー作品はありますか?

雲田 私は「ハイロー」ということで(笑)、SHOOWAさんのおすすめを聞きたいです。

SHOOWA アウトロー映画だと、去年の映画「孤狼の血」がすごくよかったですね。こんなにいいアウトロー映画があるんだ、と驚いて、劇場に2回観に行きました。邦画で2回観に行くのって、私としては珍しいんです。「聖闘士星矢」以来じゃないですかね(笑)。

雲田 それはだいぶ久しぶりですね(笑)。「孤狼の血」は私の友人も薦めてくれました。

SHOOWA あとは、アウトローというよりホラーに近いですが、「レクイエム・フォー・ドリーム」という昔の映画もいいです。若者ドラッグがテーマで、「ブラック・スワン」を撮ったダーレン・アロノフスキー監督作品です。「ブラック・スワン」もホラーに近いというか“追い詰め系”なんですが、「レクイエム」も笑っちゃうくらい追い詰められる映画です。私、“心のリストカット”をしたい時期というのが3年に1回ぐらいあるのですが、その時期によく見る映画ですね(笑)。

雲田 時期をおいて、何度も見返しているんですか?

SHOOWA そうですね。でもこちらも歳をとるにつれて、笑えるところも多いかも、というふうに、少しずつ見方が変わってきています。そして、主演のジャレッド・レトが可愛いです。