アニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」宮本侑芽×Lynnインタビュー|そばにいてくれる人が、きっといる 映像の隅々まで込められた監督のこだわりと、“諦めないで”というメッセージ

幼い頃から車椅子生活で広い世界を知らずに育ち、お気に入りの小説のヒロインの名前を名乗るジョゼと、ひょんなことからジョゼと知り合い、彼女に“管理人”と呼ばれるようになった大学生・恒夫。2人の密やかな恋愛関係を描く田辺聖子の名作短編小説「ジョゼと虎と魚たち」が、これが映画初監督作となるタムラコータロー監督のもと、「僕のヒーローアカデミア」や「交響詩篇エウレカセブン」で知られるボンズにより、鮮やかなアニメーション映画として生まれ変わった。

コミックナタリーでは12月25日の公開を前に、ジョゼの恋敵となる女子大生・二ノ宮舞を演じる宮本侑芽、そして“ジョゼの初めての女友達”という小説にも実写映画にもいなかったキャラクター・岸本花菜を演じるLynnにインタビュー。作品の魅力やアフレコ現場で感じた監督のこだわりはもちろん、ジョゼと恒夫が夢へと踏み出す姿を描いた映画にちなみ、2人の経験した“諦めなくてよかったこと”についても話を聞いた。

取材・文 / 柳川春香 撮影 / 曽我美芽

感情の波をすごく丁寧に作っていただいた

田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」(角川文庫刊)。表題作のほか、さまざまな男女の機微を描いた8編が収録されている。

──「ジョゼと虎と魚たち」の原作小説と実写映画は、おふたりともオーディションの前後でご覧になったそうですね。

Lynn はい。タイトルはもちろん知っていたんですが、勝手にハッピーエンドの物語だと思っていたので、原作を読んで「こういう終わり方をするんだ……!」と衝撃を受けました。内容も人間の芯の部分に踏み込むような描写が多く、実写映画も最後に切なさが残る展開なので、これがどんなアニメになるのかなと、すごく楽しみになりましたね。

宮本侑芽 原作は短い小説なのにすごく内容が深くて、ただの恋愛小説じゃなく、人間の物語を描いているな、と感じました。「これがどんな映像作品になるんだろう?」と思いながら実写映画を観たんですが、実写版がモノクロのようなイメージの世界感だったので、これがアニメになってどういうふうに色がつくんだろうと。それと、原作も実写映画も、ジョゼの言い回しがけっこうキツイじゃないですか。

宮本侑芽

──ほとんど人と接したことのないジョゼは、最初は恒夫に対してもかなり辛辣に当たりますよね。

宮本 アニメのジョゼはキャラクタービジュアルもすごくかわいらしいですし、ジョゼ役の清原果耶さんも透明感のある方というイメージだったので、ジョゼの荒々しい部分をどう表現されるのかというのもすごく楽しみでした。

──私も完成した映画を拝見しましたが、オリジナルの要素もたくさん盛り込まれていて、アニメならではの表現を使って新しい「ジョゼ」を届けようという意欲を感じました。

Lynn スタート地点は同じだけど別のところに着地するストーリーになっていて、原作や実写版とはまた違う、ピュアな青春物語に仕上がっていますよね。それと、1本の映画としてすごく完成度が高いというか。オリジナル要素を入れつつも、展開が早すぎることも間延びすることもなく、すごく素敵に世界観がまとめられているなと思いました。

幼い頃から車椅子で生活を送るジョゼと、メキシコで幻の魚の群れを見るという夢を追いかける大学生の恒夫。坂道で転げ落ちそうになったジョゼを恒夫が助けたことから、物語が動き出す。

──宮本さん演じる舞はジョゼの恋敵となるキャラクターですが、恒夫に思いを寄せつつも、控えめなアプローチになかなか気付いてもらえない様子がとてもいじらしかったです。

宮本 恒夫が鈍感で、困ったものです(笑)。立ち位置としては実写映画で上野樹里さんが演じていらっしゃる香苗と近い役なんですが、タムラコータロー監督からは「実写映画のことは一旦忘れて、自分なりの舞を作ってほしい」と言われました。監督がキャラクター観をしっかり持っていらっしゃるので、舞ちゃんの感情の波を、すごく丁寧に作っていただいたという印象です。

──公式サイトに掲載されているコメントで、宮本さんは舞について「共感度が非常に高い」とおっしゃっていましたが、どういったところに共感されたんでしょうか?

宮本 私も舞のようにけっこう負けず嫌いなところがあったり、素直になりきれないところがあったりしますし、年齢的にもあまり離れていないので、この年頃の女の子の、好きな男の子を前にしたときの感情の揺れも理解しやすかったです。一方で、恋敵であるジョゼを目の前にしたときの舞ちゃんの行動力は、自分が身に付けなきゃいけないなと思っているところでもあるので、すごくカッコいいなと思いながら演じさせていただきました。

恒夫がバイトしているダイビングショップの後輩である二ノ宮舞。恒夫に思いを寄せているが、なかなか言い出せずにいる。

1つのセリフのためにシーンを丸ごと録り直す

──ある意味でジョゼの前に立ちはだかる存在の舞に対し、Lynnさんが演じる花菜は、小説にも実写版にもいなかった「ジョゼの女友達」というキャラクターですね。

Lynn

Lynn 監督からは、「ジョゼに友達を作ってあげたかったので作ったキャラです」って言われたんです。

──そうなんですね! 私も「ジョゼ」の原作ファンなんですが、ジョゼに友達ができるというのは「このルートがあったか」という感じで、ちょっと感動的なものがありました。

Lynn 花菜は狭い世界で生きていたジョゼの世界をさらに広げてあげる存在なんですが、飾らない、純粋な友達としてのスタンスを表現できたらと思っていました。強引に連れ出そうとするわけでもなく、友達としてジョゼが困っていたら助けてあげたいし、悩んでいそうだったら聞いてあげたい、そういう思いやりを忘れないように演じました。花菜がジョゼの絵を見て「素敵な絵だね」「仕事にしないのはもったいないよ」と言うシーンがあるんですが、そこも明るく、純粋な雰囲気を出せればと。やっぱり素直な言葉だからこそ、ジョゼの背中を押すことができたんじゃないかなと思うので。ちなみに花菜は現場で、オーディションで演じたときとは全然違うキャラクターになったんですよ。

宮本 そうなんですか!

Lynn オーディションのときはもっとかわいらしくてフワフワッとしたキャラクターかと思って芝居をしていたんですが、現場でディレクションを受けるうちに、もうちょっと大人で落ち着いたキャラクターになっていって。最終的に全然違うお芝居になりましたね。

ジョゼが恒夫と共に訪れた図書館の司書・岸本花菜。“ジョゼ”という呼び名の由来になっているフランソワーズ・サガンが好きで、ジョゼと意気投合する。

──Lynnさんのセリフはすべて関西弁でしたが、やっぱり苦労されましたか?

Lynn 関西出身の子の役は演じたことがあるんですけど、今回は舞台が大阪と決まっていて、関西でもそれぞれ方言が違いますし、ガイド音声をいただいて、家でめちゃめちゃ練習しました。関西弁として強調しなきゃいけない音と、感情を乗せたい音が違うんですよね。例えば「いいかも」というセリフだったら、感情としては「いい」を強調したいけど、大阪弁だと「ええかも」の「かも」が強くなるんです。その違いにけっこう苦労しました。関西の方にも違和感なく聞いてもらえる仕上がりになっていたらいいなと思います。

──おふたりともすごく自然なお芝居をされていると思いましたが、監督からもそういうディレクションがあったんでしょうか。

宮本 そうですね……あまりパキパキしたお芝居ではなく、感情の流れを大事にされている印象でした。

Lynn 録り直したいセリフ1つがあったら、そのセリフだけじゃなくて、シーンまるごと録り直すんですよ。やっぱりそのセリフ1つを取り出して急に感情表現を変えるというのは難しいので。それを何度か繰り返したりしたので、アフレコは1日かけてけっこうみっちりやりました。

宮本 恒夫たちが水の中で話す場面のセリフは、ゴーグルとシュノーケルのセットを付けて収録したらしくて。監督は音にもすごくリアルを求めていらっしゃったんだろうなと思いますし、映画館で観るとそのこだわりがより伝わると思います。

Lynn 劇伴についても、この場面ではこういう音楽が流れている、というのが全部監督の頭の中にあるんだろうなって、アフレコのときからなんとなく感じていましたね。