アニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」宮本侑芽×Lynnインタビュー|そばにいてくれる人が、きっといる 映像の隅々まで込められた監督のこだわりと、“諦めないで”というメッセージ

恒夫のような男性は好き?

──ヒロインであるジョゼは幼い頃から車椅子生活で、ほとんど外の世界を知らないという特殊な環境に置かれているキャラクターですが、決して特別な存在ではなく、等身大の女性として描かれているように感じました。おふたりは客観的に見てジョゼに共感できるところはありますか?

Lynn ジョゼが自分の殻に閉じこもっている、自分が傷つきたくないからバリアを張っている感じというのは、なんとなくわかるなあ。私も人見知りなので、自分を守ろうとしてとげとげしちゃう感じは、ちょっとわかります。

宮本 逆に、恒夫に対して「あそこに行きたい」と言って振り回す姿だったり、感情で突っ走っていけるところは、かわいいなって思います。歳を重ねていくにつれて素直に生きにくくなっていく中、ジョゼは自分の世界がちゃんとある。そこはすごく憧れますね。

「ジョゼと虎と魚たち」より。

──最初はいがみ合っていた恒夫とジョゼが徐々に距離を縮めていく中で、印象的なシーンはありましたか?

宮本 ティザービジュアルにも映っている魚の形のライトがあるんですが、これがジョゼと恒夫の距離感がきゅっと縮まるシーンで出てくるんです。そこは観ていて照れてしまうというか、「こんな大画面で見ちゃっていいのかな」って思いました(笑)。

Lynn 私が好きなのは、1人で海に行こうとするジョゼに、恒夫が車椅子を押してあげるシーン。

──あれは、ジョゼの立場だったら好きになっちゃうなって思いますね(笑)。

宮本 Lynnさんは恒夫、好きですか?

Lynn 私は隼人のほうが好感度が高いかも(笑)。

宮本 隼人もいいですよね! いつも場を明るくしてくれて。

恒夫と舞のバイト仲間である松浦隼人(CV:興津和幸)。明るくノリのいい性格だが、舞の恒夫への気持ちにも気付いている。

──恒夫のよくも悪くも鈍感な部分は、原作とも実写映画とも共通している要素だなと思いました。

宮本 でも、舞の気持ちで作品に取り組んだので、恒夫は好きでした。夢を追いかけている人はカッコいいと思いますし、確固たる夢を持つこと自体が難しいと思うので、大学生の間にそれを見つけて行動に移している恒夫はカッコいいと思います。客観的に観ると「あれっ」て思うところもあるんですが(笑)。

──また、映画の中で季節が移り変わっていく様子や、海の中の描写といった風景も、大きな見どころだと思います。おふたりはビジュアル的に好きな場面はありますか?

宮本 海の表現はもちろんなんですけど、私、雪のシーンがすごく好きで。

Lynn 私も!

宮本 雪のシーンって冷たく寂しくなりがちだと思うんですが、本当にふわふわしてそうな、あたたかさを感じる雪になっていて。

Lynn 私も、アニメでこんなに雰囲気のある雪のシーンが描けるんだ!と思いました。あとはまだ言えないんですが、ラストシーンも大好きですね。

宮本 いいですよね……! あとは、海の中のシーンも透明感がすごいんですが、浜辺でジョゼと恒夫が戯れているシーンの、キラキラした海のきらめきも好きでしたね。東京国際映画祭のジャパンプレミアにタムラ監督が登壇されている映像を観たんですが、監督も四季を重ねていくにつれ変わっていくジョゼと恒夫の関係性を、景色も使って表現したかったとおっしゃっていて。どのシーンもすごくきれいで大好きです。

「ジョゼと虎と魚たち」より。 「ジョゼと虎と魚たち」より。

そばにいてくれる人が、きっといる

──映画ではジョゼと恒夫の関係や、2人がそれぞれ夢を追う中で、「諦めそうになる瞬間」というのがたびたび描かれます。おふたりもそういった経験はありますか?

宮本侑芽

宮本 私は子役からお芝居をさせていただいているんですが、7歳くらいの頃に、あるミュージカルのオーディションを受けたんです。当時のマネージャーさんたちに「侑芽ちゃんなら絶対受かる!」ってすごく期待をかけてもらって、子供ながらにプレッシャーを感じつつも、自分としてもすごく受かりたい役だったので、意気込んでオーディションに挑んだんですが、1次審査で落ちてしまって。そのときの「こんなに期待してもらっていたのに、何もできなかった」という思いは、今でも覚えていますね。

──小さい頃の挫折って、より印象に残っていたりしますよね。

宮本 でも同時期に、自分にとって大きな経験になった吹替のお仕事があって、もしそのミュージカルに受かっていたら、吹替のお仕事のほうはスケジュール的にできなかったんです。今となってはその結果でよかったんだと思えていますし、あのとき芝居というものを諦めなくてよかったな、と思います。なので、映画の中の「好きなら諦めんなよ」という恒夫のセリフは、すごくグッときました。

「ジョゼと虎と魚たち」より。

Lynn 私にはそんな素敵なお話はないんですが……(笑)。このお仕事をやっていると、歌って踊る機会をちょこちょこいただくんです。でも、実は人前で歌って踊ることにすごく苦手意識があって。振りを覚えるのも歌詞を覚えるのも苦手だし、「失敗したらどうしよう」って不安で、逃げ出したくなることもあるんですよ。でも実際ステージに立つと、めちゃくちゃ楽しかった、またやりたい!って思うんです。だからいつも逃げ出したくなる自分と、「諦めるわけにはいかない」って戦っていますね。

──それこそ「声優になりたい」という夢を諦めそうになっている人が、この映画を観て励まされるということもあるかもしれませんね。

宮本 確かに! 声優のお仕事、楽しいですよ!

Lynn うんうん。もちろん夢を叶えたあとも大変なことはいっぱいあるんですが、でも本当に毎日楽しいですね。

Lynn

──そんなふうに夢を追いかけている人にはぜひ観てもらいたい映画だと思うんですが、ほかに「こんな方に観てほしい」というのはありますか?

Lynn 「ジョゼ」に初めて触れるという若い方には、「諦めないぞ」「前に進むぞ」ってプラスの気持ちを受け取れる作品だと思いますし、原作ファンの方や実写映画を観て大人になった皆さんも、アニメではまた違った青春物語を楽しんでいただけると思います。

宮本 もちろん幅広い方に観ていただきたいんですが……昨今、なかなか人に会えなかったりして、孤独を感じやすい状況だと思うんです。そんな中でも1人じゃない、「そばにいてくれる人が、きっといる」っていうことを、すごく感じられる映画になっていると思います。そういう不安な気持ちを持っている今だからこそ、ぜひ観てほしい作品です。