分析をされないほうが、描いた側としてはうれしい(江口)
──後藤さんは第壱期ではシリーズ構成・設定制作、第弐期では脚本を担当しており、ご自身でも原作の大ファン。かなり読み込んでいると思うのですが、マンガ「鬼灯の冷徹」の面白さはどこだとお考えですか?
後藤 面白いところは……全部。すみません、どこが面白いかという分析ができなくて。どの話数やキャラクターを見ても、「面白さが押し寄せてくる」という感じなんです。
江口 あんまり言葉にしていただかないほうが、私としてはうれしいです。後藤さんも美大出身なのでご経験があると思うんですが、私はよく「絵を言葉で説明するな」と言われました。絵のコンセプトは説明するんですけど、講評のときとかに「この絵はここがいいところです」と言葉で説明できちゃう絵ってすごく薄っぺらいって。例えばミュシャにしろ、シャガールにしろピカソにしろ、時代を超える絵って、なんでこんなに人気なのかとか、なぜいつまでもみんな見ていられるのかとか、説明は誰もできない。だから分析をされないほうが、描いた側としてはうれしいんです。
後藤 なので鬼灯のシナリオを書くときは、自分が「鬼灯」を読んで面白いと感じたことを、素直に脚本に落とし込むように書いています。自分がその話を初めて読んだときに、一番感情が湧き起こったコマや、熱くなったシーンにすべてを持っていくような。ちょっと感覚的なものに委ねるようなイメージです。
──なるほど。江口さんは「鬼灯」のストーリーをどうやって作っているんですか?
江口 一例を挙げると、妹との会話の中で爆笑した話を書き留めておくんです。あとから見返して「なんでこんなに笑ったんだろう」ってときもよくあるんですけど、読んでくれた方はもしかして最初の私と同じように爆笑してくれるかもしれない。ただネームの迷宮に入ってしまうと、本当に何が面白いかわからなくなって……ゲシュタルト崩壊を起こしてしまうんです。担当さんは面白いって言ってくれてるけど、お世辞なんじゃないかとか。
後藤 ご自分に厳しい(笑)。
江口 そんなときも、あとからごちゃごちゃ考えたことをあまりネームに反映しないようにしています。最初のネームで疑問に思ったことがあっても、初めに描いたものからはぶれないように。変に直そうとすると、どんどん角が取れていっちゃうんです。
──確かに舌鋒の鋭さやキレのあるツッコミも、「鬼灯」の魅力のひとつです。
江口 あと、人気があるキャラクターでも無理に出番は増やさないようにしようという思いがあって。たぶん、無理やり出番を増やすと急に白けるし、持っていた人気もなくなるだろうし、キャラクターを裏切った気にもなります。そのキャラのエピソードが浮かばなかったら、今後1回も出てこなくてもそれはしょうがないと思いながら描いてる。
後藤 うんうん。
江口 それから、あまり直接的な言葉ひとつでキャラクターを表現しないようにしようと。例えば鬼灯はよく「ドS」と言われるんですが、私はそうじゃないと思っていて。
後藤 鬼灯は他者をいじめて喜ぶサディストではないですもんね。
江口 ええ。「鬼灯」が始まった当時、ドSという言葉がすごく流行ってて、アオリでも何回か出てきたんです。でも今はその言葉をなるべく使わないようにお願いすることもあります。イメージを安易に植えつけないように、それにキャラクターをテンプレートに落とし込まないようにしたいので、「鬼灯」ではあまり言葉ひとつでキャラクターを表現せずに、丁寧に伝えられたらと思っています。例えば鬼灯が来たとき、周りのキャラが「鬼灯様だ」「ああ、あのドSの」みたいに説明するのは避けていて。ほかのマンガ家さんがそういう手法で描かれているのは全然気にならないんですけどね。
そのコマを読んだ瞬間、バーン!!(後藤)
後藤 江口さんがそうやって6年間丁寧にキャラクターを描いてこられたので、自然とキャラクターにドラマが積み上がってきた感があります。シロたちが初江王に「ウチで働かない?」と言われたとき、シロが「鬼灯様はね!桃太郎のために怒ったよ!」「だから俺達は鬼灯様のとこで働くよ!」って……そのコマを読んだ瞬間、バーン(涙が吹き出すアクション)!! 今まで読んできた鬼灯とシロたちのエピソードとか、自分の中で蓄積されてきたキャラクターへの思いとかいろんなものが弾けて、不覚にも泣いちゃいました。感動して同僚にも「読んで……読んで……今回すごいから読んで……」と。
江口 ふふ(笑)。
後藤 鬼灯も、幼なじみが出るようになってから、初期より少しだけ表情の変化が増えたんじゃないかなって思うんです。
江口 え、そうですかね?
後藤 昔から一緒にいた人たちといると、鬼灯の公的な面じゃなくて私的な面が出てきて、それが表情に表れることがあって。そういうときに、鬼灯をすごく身近に感じるというか、親近感が湧きます。それもお話が進んできた結果なのかなって。
江口 なんかあの……自分の過去を知っている地元の友達って、一番怖いじゃないですか。
──そうかもしれません(笑)。
江口 例えば今、仕事上の知り合いばかりがいるこの対談中に、私の一番アホな時代を知っている友達が現れたら怖い。友達には悪気がなくても、「こんな面白いことしてたんだよ」と話したエピソードが、実は絶対知られたくなかったこと……っていうことも起こり得ますよね。鬼灯も、そういうことを実は懸念して言葉で牽制したり表情がいつもと違ったりというのはあるかもしれません。
後藤 鬼灯にはハードな歴史がありますからね。
江口 それに、幼なじみがアホだから……蓬はいいけど……。
後藤 烏頭が(笑)。烏頭の切り込みに対する鬼灯の反応が新鮮で好きなので、烏頭が出てくると主に私が喜びます。
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アニメ第弐期は「最初っからてんこ盛り!」(後藤)
- 江口夏実「鬼灯の冷徹㉕」
- 発売中 / 講談社
- 「コミック&アニメ公式ガイド 鬼灯の冷徹 鬼灯なんでも入門」
- 発売中 / 講談社
待望のコミックガイド第2弾が登場! 江口夏実が語る「鬼灯の冷徹」誕生秘話、キャラクター、ストーリー、妖怪、そしてアニメ。レギュラーや金魚草など、このガイドブックのために江口が描き下したイラストも多数掲載。アニメで鬼灯を演じる安元洋貴&アニメ第弐期を手がける米田監督のインタビューも収録されている。
- テレビアニメ「鬼灯の冷徹」第弐期
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- 放送情報
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- 2017年10月7日よりTOKYO MX1・サンテレビ・BS11・KBS京都・AT-Xにて順次放送開始
- TOKYO MX1:10月7日より毎週土曜日25:00~
- サンテレビ:10月7日より毎週土曜日25:00~
- BS11:10月7日より毎週土曜日25:00~
- KBS京都:10月7日より毎週土曜日25:30~
- AT-X:10月9日より毎週月曜日22:30~
- AbemaTV:10月7日より毎週土曜日25:00~地上波同時配信
- ほか
※放送・配信日時は変更となる場合がございます。
- スタッフ
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- 原作:江口夏実(講談社「モーニング」連載)
- 監督:米田和弘
- 脚本:後藤みどり
- キャラクターデザイン:お祭似郎
- 編集:松原理恵
- 音響監督:はたしょう二
- 音響効果:高梨絵美
- 音響制作:サウンドチーム・ドンファン
- 音楽:TOMISIRO
- 音楽制作:キングレコード
- アニメーション制作:スタジオディーン
- キャスト
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- 鬼灯:安元洋貴
- 閻魔大王:長嶝高士
- シロ:小林由美子
- 柿助:後藤ヒロキ
- ルリオ:松山鷹志
- お香:喜多村英梨
- 茄子:青山桐子
- 唐瓜:柿原徹也
- 芥子:種﨑敦美
- ピーチ・マキ:上坂すみれ
- 桃太郎:平川大輔
- 白澤:遊佐浩二
- 座敷童子・一子:佐藤聡美
- 二子:小倉唯
- ミキ:諏訪彩花
- ほか
©江口夏実・講談社/「鬼灯の冷徹」第弐期製作委員会
- 江口夏実(エグチナツミ)
- 2010年に「非日常的な何気ない話」で第57回ちばてつや賞佳作を受賞。その中の一編「鬼」に登場したキャラクター・鬼灯を主人公にした「地獄の沙汰とあれやこれ」がモーニング2010年32号(講談社)に掲載されデビューを果たす。その後数回の掲載を経て、タイトルを「鬼灯の冷徹」と改め連載をスタート。「鬼灯の冷徹」は2014年にテレビアニメ化され、2017年10月より第2期が放送されている。
- 後藤みどり(ゴトウミドリ)
- 脚本家。脚本を手掛けた主な作品には、「よんでますよ、アザゼルさん。」「げんしけん 二代目」「鬼灯の冷徹」「進撃!巨人中学校」「潔癖男子!青山くん」などがある。
2017年12月8日更新