コミックナタリー PowerPush - 「ボクを包む月の光」日渡早紀インタビュー

「ぼく地球」の名エピソードがドラマCD化

「ぼく地球」は「癒し」のつもりが「怖いもの」に

──だいぶ遡ってお聞きしますが、「ぼくの地球を守って」はどういった経緯で始まったのでしょうか。

その前の連載(「アクマくん 魔法★BITTER」)で、ヘトヘトになっていたんです。なので次は自分にとって「癒し」になるものにしようと思って、好きなものを全部ぶっ込んだんです。それで楽になるかなと思っていたんですが……どうしてこうなったんだろう(笑)。

──「癒し」を目指していらしたとは意外です。むしろ読んでいても力が入るような、骨太な作品ですよね。

結局、疲れるものになってしまいました。当時、仕事場の窓を開けると、地主さんのお宅のモクレンの木が見えていて。「はあ~癒される。よし、こういうマンガを描こう!」と。そういうつもりでいたんですよ。でもなんだかんだで怖いものになっていって。サスペンスにしたほうがおもしろいと思ったんですよね。まず怖い子供を描きたくて、「その子を救済するには?」と亜梨子という存在ができて、「子供がひどいことをしても許されるためには、前世が悪いことにしちゃえばいいんじゃ?」と前世の設定が深まっていって……。面白いものにしようと思うと、暴走していくんです、どうしても。

──面白くしようとするがゆえにどんどん癒しからは離れて……。

「ぼくの地球を守って」より、紫苑と木蓮。

面白くしようとする自分と、緩いものが描きたい自分がケンカしながら作っていったような作品なんじゃないですかねえ。描きながら、こんなはずじゃなかった!って思っていました(笑)。だって最初はとりあえず1年、ということで始めたんですよ。私の中では1年でも十分長いと思っていた。だから1年が過ぎて、2年目、3年目になって、ずっと「早く終わらせなきゃ」って思っていました。長くなってすみません、と。

──そうだったんですか! それが結局7年続いたわけですね。終えた時はどう思われましたか?

やっと終わった! という気持ちは強かったですね。でも終わったあとにいただいたファンレターを読んでいたら、「もしかしたら私、すごいことをやったのかしら……?」みたいに思わせてくれるものもたくさんあって。「喜んでくれたのだから、いいか!」と思えました。

キャラにも「見栄」があるんです

──読者にとってもご自身にとっても、大きな物語をいったん終えられて。時間を置いてその続編「ボクを包む月の光」を描く、と決まったときには重く感じる部分はありませんでしたか?

そうでもなかったですね。引き出しを開けたら、そこにあった、みたいな。読者さんが続編を求めていらっしゃるのは、ずっと感じていましたし。「ぼく地球」を読んでくださっていた方はなんというか……祈りが強いんですよね。お手紙を読んだりするうちに、このままにしておくのは申し訳なくなってきて。これはひとつお礼の品をお渡ししよう、と思って1本読み切りを描きました。少しは喜んでくださるかなあと。

──当初は読み切りスタイルでした。長期連載にするおつもりはなかったのでしょうか。

はい。別の連載(「GLOBAL GARDEN」)をやっていたので、切り替えながら読み切りを描いていました。途中から、連載に……というお話になって。そのうちに、「ボク月」の世界でも多少なりとも時間が進んでいったので、何かできないかなと思うようになりました。

──序盤は明るく楽しいエピソードが中心でしたが、回を重ねるごとに深みのあるストーリーになっていきましたね。

そうですね。自分で深めていったわけではなく、読者さんからそうしたものを望まれていると感じて自然にそうなりました。

──(執筆前に)キャラクターたちと“脳内会議”をしたそうですね。

「ボクを包む月の光」1巻より、「ぼくの地球を守って」のキャラが勢揃いするシーン。

まだ読み切りだった頃の2本目かな、全員が集まるシーンがあったんですよ。そこで「あんた、何か読者さんに伝えたいことある?あったらいま言っといてね」とか「いま、どんな感じでここにいたい?」とかキャラに聞きました。彼らにも見栄があるので。

──キャラ自身に「こんなふうな姿で読者の前に登場するのはいやだ」とか「こう見られたい」とか、そういう見栄がある、ということですか?

そうです、そうです。それを聞いたうえで、じゃあその見栄で描いてあげよう、と。「ぼく地球」のときから、キャラの見栄と建前を尊重して描いていましたよ。

日渡早紀「ボクを包む月の光(14)」 / 2014年9月19日発売 / 白泉社
ドラマCD付き初回限定版 / 2106円
通常版 / 463円
作品紹介

輪と亜梨子の息子・蓮は、両親の不思議な能力に囲まれて育つ少年。

ある日彼の前に現れた「守護天使」や、幼なじみのカチコたちとのさまざまな冒険を描く「ぼく地球(タマ)」次世代ストーリー。

初回限定版ドラマCD収録内容

「ぼくの地球を守って」から紫苑(シオン)の子供時代のエピソードをドラマCD化。戦災孤児の紫苑(シオン)が、ラズロとキャーと過ごした日々が紡がれる。収録時間はメインキャスト座談会を含め約60分。

キャスト

紫苑(シオン):沢城みゆき
ラズロ:平田広明
キャー:小桜エツコ

日渡早紀(ヒワタリサキ)
日渡早紀

神奈川県出身。1982年、花とゆめ(白泉社)で「魔法使いは知っている」でデビュー。代表作は「ぼくの地球を守って」。そのほかにも「早紀ちゃんシリーズ」「アクマくんシリーズ」などさまざまな作品で人気を博す。2003年より、別冊花とゆめ(白泉社)で「ぼくの地球を守って」の続編「ボクを包む月の光」を連載中。