メロディ特集 第3回 「ぼくは地球と歌う」日渡早紀×斉藤壮馬|リスペクトし合う表現者2人 木蓮の歌のような、透明感溢れる往復書簡

白泉社の女性誌・メロディの魅力を掘り下げる本特集も、今回で最終回。フィナーレを飾るのは、「ぼくの地球を守って」の“次世代編II”と位置付けられた「ぼくは地球と歌う」を連載中の日渡早紀と、「ぼく地球(タマ)」の大ファンである斉藤壮馬の往復書簡だ。

花とゆめ(白泉社)の45周年を祝う特集でも、「当時も今も、とにかく未来路さんが大好きです。でも一成くんも好き。ぼく地球を語らう友達がほしいです!」(参考:花とゆめ創刊45周年特集 第9回 赤松健、池田エライザ、冲方丁、おかずクラブ、斉藤壮馬、佐藤聡美、成瀬瑛美、吉田豪からのお祝いコメント)と熱い思いを吐露していた斉藤。作者を前に、どんな言葉を紡いだのだろうか。また日渡は斉藤の手紙の透明感に「ノックアウト」、声優としての演技に「役柄そのものに溶け込んでいて、演技じゃなくて本人みたい」と感動を隠さない。終始お互いをリスペクトし合う2人の、まるで「ぼく地球」の登場人物・木蓮の歌のような心地いい交歓を堪能してほしい。

「ぼく地球」シリーズとは

1986年にスタートし、一大センセーションを巻き起こした「ぼくの地球を守って」。現代日本の高校生・亜梨子(ありす)と小学生の輪、そして2人の前世である異星人・木蓮と紫苑を軸に、時を超えた愛が描かれた。続編として、亜梨子と輪の息子・蓮を描く次世代編「ボクを包む月の光」が全15巻で刊行。そして同作から4年後を舞台にした“次世代編II”が「ぼくは地球と歌う」だ。地球の歌が聴こえるという不思議な能力に目覚めた蓮の成長に加え、亜梨子と輪の夫婦愛、月基地の仲間たちの活躍など、「ぼく地球」シリーズ読者にはたまらない要素が盛りだくさん。現在6巻まで発売中。

往復書簡1 斉藤壮馬から、日渡早紀へ

日渡早紀さま

 日渡先生、手紙のうえではありますが、お初にお目にかかります。声優をしております、斉藤壮馬と申します。この度は素敵なご縁があり、こうして書簡のやりとりをさせていただけますこと、心から嬉しく思っております。何卒よろしくお願い申し上げます。

 思い返せば、私が日渡先生の作品に最初に触れたのは、まだほんの小さな子供のころでした。祖父母、両親、妹ふたりで暮らしていた我が家は、それぞれが異なるジャンルの本や漫画を読み、互いに貸し借りするのが常でした。初めて読んだのは『ぼくの地球を守って』。本棚にきれいに並べられていたそれを手に取った私に母は、自分がかつて読み、大いにはまった作品だと言いました(余談ですが、母は関西出身で、北斗さんのような陽気な人です。だからより正確には、「ぼく地球めっちゃおもろいで。読み!」というような言い方だった気もします)。

 はじめはその絵の美麗さに引き込まれ、次いでオカルト・SF好きの血が騒ぎ、時空を股にかけた壮大な愛の物語に心奪われました。それから何度も読み返し、今でも妹たちとやいのやいの議論を交わしたりします。この企画のお話をいただくより前ですが、先日も3人で電話をしていた際、たまたま『ぼく地球』の話になり、「おれは未来路さんがいちばん好き。あと一成さん」と言ったら「お兄ちゃんほんと変わらないね」と言われました。そのあと、迅八さんの「……ちぇ」のシーンと幼紫苑&ラズロ&キャーのシーンはいつ読んでも最高に素敵だよね、という話で盛り上がりました。仲の良い家族です。

「ぼくの地球を守って」文庫版5巻より、幼少期の紫苑、ラズロ、キャーのシーン。「ボクを包む月の光」にも、ラズロとキャーは登場する。

 話が逸れてしまいましたが、それくらい自分にとって、『ぼく地球』、そして日渡先生の作品は、長い時間をともに歩んできている存在です。しかも、そのときごとに読み心地やぐっとくる場面がどんどん変わっていくのです。たとえば、上に挙げたシーンの素晴らしさはもちろんのこと、子供のころはやはり、輪くんのどうあがいても埋めることのできない時間、年齢の差に対する苦しみに共感したものですが、今読み返すと、田村さんやブンさんなど、周りの大人たちの目線もわかる部分があって……そういった、大きな流れや円環の中に自分もいるのだというイメージが、身体的感覚として、私の中に強く根づいている気がします。

 続編である『ボクを包む月の光』もそのムードを継承しつつ、よりポップかつ間口が広くなっていて、これまた家族で語らいながら読ませていただきました。特に中盤の、パメラ、ソル、未来路、そしてカチコちゃんのエピソードには何度涙がこぼれたことか……! 今回のお話をいただくまで、恥ずかしながら『ぼくは地球と歌う』が連載されていることは存じ上げていなかったのですが、すぐさま読ませていただきました。蓮くんがさらに大人になって……! カプつんのように、大切なことを心から信じてくれる友がいてくれるというのは、本当に幸せなことですよね。最新刊では私の大好きな未来路さんにまさかの展開が訪れていて、続きが気になって仕方がありません。

 さて、つらつらと書いてきてしまいましたが、高揚のあまり少々筆が走りすぎてしまったようです。あくまでもいちファンとしての個人的な思いですので、的外れなところや独りよがりなところがありましたら申し訳ございません。

 最後にひとつ、お伺いしたいことがあります! 『ぼく地球』シリーズのみならず、日渡先生の作品には、大気に溶けていく、ひとつになっていくイメージが通奏低音のように流れているように感じております。気持ちは歌に、歌は空気に、愛は光に——。おこがましくも、自分も小さいころから漠然とそのような感覚を抱いていて、『ぼく地球』を読んだときにもなぜか「懐かしい」と感じたのを覚えています。この感覚、まなざしというのは、日渡先生の中にもともと根づいていらっしゃったものなのでしょうか。あるいは、なにか具体的なものから着想を得られたのでしょうか。もしお訊きしてもよろしければ、ぜひそのあたりをお伺いしてみたいです。

 窓の外では、梅雨の合間の日差しに、葉っぱたちが気持ちよさそうにそよいでいます。こんな日は木蓮さんの歌が聴こえてきそうですね。大気に溶けて、微笑みながら歌っているような……そんな随想に耽りながら、ひとまず筆を置かせていただこうと思います。

 この先も紡がれていく彼ら彼女らの物語を、心より楽しみにしております。

斉藤壮馬 拝

往復書簡2 日渡早紀から、斉藤壮馬へ

斉藤壮馬さま

初めまして、斉藤壮馬さま。
日渡早紀と申します。
今回、この様な書簡の往来という、何だかとっても面白い対談形式に御快諾頂けました事に、まず心より感謝申し上げます。
その昔、アインシュタインとフロイトとの間で、こうした公開往復書簡のやり取りがあった事をご存知でしょうか。
アインシュタインが精神分析創始者であるフロイトに訊ねました。
《人間を戦争というくびきから解き放つ事は可能か?》という問いです。
フロイトの答えは《無理》。
いやもう、情け容赦ないですよね(笑)。 いえ、このお二人に因むなんて、そんな大それた事を言うつもりではないのですが、こんな風な面白いやり取りを…してみたいな〜と、何故か今回のオファーチャンスに思ってしまった訳なのですよね、私。

…そうしたらですよ。
斉藤壮馬さんの書簡の…なんとまあ温かみに溢れている事か…。
私の心はものの見事に鷲掴みされてしまいました!

御幼少の頃の、ご家族皆様との団欒の中で『ぼく地球』を手に取って頂けたという、その、とろける様な空気感。
キラキラとしたその光景までもが目の前に投影されるが如く。
嬉しかったですねぇ……。
とても純粋で、素直で、そしてそして…ご自身の御家族への愛情までもがたっぷりと注がれた、まろいまろい文章に私までが満たされてしまいました。
《声優さん》というご職業柄なのでしょうか。
その空気の透明感が半端ないのです。
そうか、この透明な空気感を作品其々の色に染めておいでなのだ…と即座に思いました。

そうです。私は木蓮が歌う時に…
《気持ちは歌に、歌は空気に、愛は光に》と描きました。
そうか…斉藤壮馬さんの文章にはそれがそのまま現れている…!

「ボクを包む月の光」14巻より。

それに、元々斉藤さんは《大気に溶けて行く、一つになっていく》感覚自体を既に抱かれていて、『ぼく地球』をお読みの際も何故か《懐かしい》とお感じになった…と記述されておいでではありませんか!

これはもう、斉藤さんの読解力の賜物であって、全ての源は斉藤さんご自身の内に既に在ったという事に他なりません。
その懐かしさの正体は。
行き着く答えは。
斉藤壮馬さんご自身であるという壮大なオチな訳です!
斉藤さんが心に投影して創り上げた『ぼく地球』の世界。
愛情たっぷりで円やかで、温かみに溢れている程に、それが斉藤さんそのものであると言う、イコールの方程式です。

それは、斉藤壮馬さんしか表現出来ない、たった一つの『ぼく地球』で。
私はスクリーンを掲げる黒子となって、そのたった一つの幻灯機の映像を、そっと…こっそり見せて頂けてしまったという事になる訳です。
もう、とても感動してしまいました。
斉藤壮馬さん、本当にありがとうございます。

思えば。
斉藤さんも私もジャンルは違えど表現者。
なので、恐らく私達はその同じ《懐かしい感覚》を、それぞれの分野で表現しようと、日々精進しているのではないでしょうか。
つまり、その通奏低音は、蓮が聴いた不思議な《地球の歌》のようなもので、斉藤さんや私も含め、読者の皆さん全てが、実は同時に聴いているのではないかと想像しております。

アニメ『ピアノの森』の青年版《一ノ瀬海》くんもこうして出来上がった訳ですね、納得です!!
あと、私個人的にですけども『正解するカド』の《花森瞬》くんは、かなり好きです。
真道くんの娘ちゃん育てる過程とか短編一本描けそうですよね、あの設定。
斉藤壮馬さんの声がもう何か...役柄そのものに溶け込んでいて、演技じゃなくて本人みたいだと感じていました。

さて。
私からも斉藤さんに質問があります。
斉藤さんは石田彰さんの声を聴いて声優さんを目指されたそうですが、その時のシチュエーションをお訊きしてみたいなと思っておりました。
何故、石田彰さんだったのかなぁと。
石田彰さんには実は『ぼく地球』のOVAの時にご参加頂いておりますので、そのご縁もあり、お伺いしたいなと思った次第です。是非よろしくお願い致します。
そして、そこから始まった頃のご自分と、今現在までのご自身の軌跡を振り返ってみてのご感懐と、これから先のご自分への創造図などをお聞かせ頂けましたら幸いです。よろしくお願いします。

それにしても今回の斉藤さんの文章には私、すっかりノックアウトされてしまった訳ですが…まさか。まさかですよ?
次の書簡の冒頭に…

『嘘ですよ。』

なんて何処ぞの夢野幻太郎先生みたいな事、綴られたりしませんよね!?
もしそう書かれてありましたら…私すっ飛んでしまいそうです!!

日渡早紀

追伸。
お二人の妹さまと、そして特にお母様に…超、超、超宜しくお伝えしてくださいませ。
心から…ありがとうございました。