コミックナタリー Power Push - 「ヒメアノ~ル」
古谷実ファンの吉田恵輔監督が語る“集大成に「ヒメアノ~ル」を選んだ理由”
ずっと前から森田剛くんを狙ってた
──なるほど。ほかのキャストの方についても聞かせてください。濱田岳さんが演じた岡田は、原作よりかわいらしい感じですね。
マンガの岡田はシュッとしてるけど、ムチッとしちゃったね(笑)。でも俺、童貞感がある人が好きなんです。「ヒメアノ~ル」では、とにかく芝居がうまい人以外は入れたくないって決めていたんで、岳くんはもうパーフェクト。岳くんに関しては、全然演出してないんですよ。
──それは全幅の信頼を置いてるということでしょうか?
そうそう。岳くんにはもう「やっといて!」って(笑)。「映っていれば大丈夫だから」「勝手にやって大丈夫だから」って。信頼してるから、「よーい、スタート!」って言ったとき、俺のイヤホン入ってなくて最初のほう聞こえてないところがあったけど「OK!」ってこともあった(笑)。
──あはは(笑)。原作と同じく、岡田の「そのへんにいそうな青年」な感じが出ていました。では岡田の高校時代の同級生で殺人を繰り返す森田役に、森田剛さんを起用した理由は?
森田くんとは、ずっと仕事をやってみたかったんです。以前、森田くんが「演技者。」っていう深夜のテレビドラマに出ていて。面白い舞台を映像化するというシリーズで、俺の師匠の塚本晋也監督も出演したんですよ。塚本組の人間は、師匠が出るからその番組をみんな観ていました。森田くんは塚本監督の弟役で、演技がよかったんです。それから結構、森田くんを意識して、ジャニーズの芝居を見るようになった。ジャニーズの人をキャスティングするきっかけを作ったのは森田剛なんです。
──確かに監督が撮った「銀の匙」にはSexy Zoneの中島健人さん、「ばしゃ馬さんとビッグマウス」には関ジャニ∞の安田章大さんと、ジャニーズの方が主演していますね。
「ばしゃ馬さんとビッグマウス」を撮ったとき、ヤス(安田章大)を起用した理由のひとつに、「若いときの森田剛みたいな人」を探していたっていうのがあって。バラエティ観てたらヤスが出てて、「学校へ行こう!」の森田くんみたいだと思ったんです。
──そうだったんですね。
原作だと岡田(進)も森田(正一)も25歳の設定。だから25歳くらいの森田剛がいないかなって思ってて。でもいなかった。だから37歳の森田剛にした(笑)。実年齢でいうと同級生って設定の岳くんとひと回りくらい違うんだけど、岳くんも年齢不詳だし違和感ないかなって。
マンガの通りに映画にすると、逆にマンガで描いていることをダメにする
──森田剛さん演じる森田の見せ方は、原作とは異なっていましたね。別のインタビューで監督は「森田を突き放して、ある程度の距離感をとった」と語っていました。
マンガでは、森田の心の声がわかるモノローグがたくさんある。それはマンガだと、絵のトーンと文字のトーンと相まって、ものすごく心地よくメッセージとして伝わってくるんだけど、映画でずっとモノローグをしゃべると痛いことになると思ったんです。チープな厨二病ものみたいになりそうで、逆にマンガで描いていることをダメにする可能性がある。
──確かにマンガをそのまま実写映画にすると、違和感を感じる表現はありますね。
あと映画の森田は、“普通の奴”として描いてる。マンガの森田は、人の首を締める瞬間を「完璧に充実した時間」っていうタイプの人間で、もともと“普通じゃない奴”として存在してるし、森田自身も自覚的だよね。
──ええ。原作で森田は、中学の帰り道に突然、自分が普通じゃないことに気付きます。マンガで描かれているひどいいじめを受けるのは高校のときなので、その前から“普通じゃない”ことになりますね。
でも映画では、ひどいいじめの結果、ある種の怪物になってしまったっていう流れにしたんです。赤ちゃんのときから殺人鬼みたいな人って絶対にいないと信じたいので。でも逆に言えば、どんなにいい人って思われてる人間でも、環境と運が悪ければ誰でも怪物になり得る。あと森田を突き放した理由のひとつに、犯人の内面を語ってヒーローっぽく見えるのは嫌だと思った。ただでさえ、演じてる森田剛くんはカッコいいからさ。例えば俺の大好きな人が刺されたりしたら、その殺人者にどんな葛藤があろうが苦しみがあろうが「知らん!」としか言いようがない。そこに同情の余地はないと思う。
──原作から変更した部分について、古谷さんサイドから何かリクエストはありましたか?
まったく。結構変えてるからドキドキしながら講談社さんに脚本を送ったら「これはこれで素敵だと思います」って返事で逆に不安になりました(笑)。
──あはは(笑)。
製作側も「いいんじゃないですか!」って感じで……。もうちょっとダメ出ししてくれるほうが……。闘った上で、今の形になるならいいんだけど、誰も止めてくれないまま完成しちゃった(笑)。
──本当に吉田監督の100%が出てるっていう。
変な圧力はひとつもかかってない。逆に言うと、失敗したとき俺はひとつも言い訳できないですね。「あのシーンは、プロデューサーがすごく強引だったんです」って言えない(笑)。誰にもなんにも言われずにトントン拍子で進んだんで。
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不安と不満が人間を作る──。やりがいや夢、大切な人、みんなが持ってる何かを僕は持っていない……。不安や不満を抱えた普通の人間と、快楽殺人者の心情を並行して描いたリアルストーリー。
映画「ヒメアノ~ル」 / 2016年5月28日よりロードショー
「なにも起こらない日々」に焦りを感じながら、ビル清掃会社のパートタイマーとして働く岡田(濱田岳)。同僚の先輩・安藤(ムロツヨシ)に、想いを寄せるユカ(佐津川愛美)との恋のキューピット役を頼まれ、ユカが働くカフェに向かうと、そこで高校時代の同級生・森田正一(森田剛)と出会う。ユカから、森田にストーキングされていると知らされた岡田は、高校時代、過酷ないじめを受けていた森田に対して、不穏な気持ちを抱くが……。岡田とユカ、そして友人の安藤らの恋や性に悩む平凡な日常。ユカをつけ狙い、次々と殺人を重ねるサイコキラー森田正一の絶望。今、2つの物語が交錯する。
- スタッフ / キャスト
- 原作:古谷実「ヒメアノ~ル」(ヤングマガジンKC所載)
- 監督・脚本:吉田恵輔
- 音楽:野村卓史
- 出演:森田剛、佐津川愛美、ムロツヨシ、濱田岳
吉田恵輔(ヨシダケイスケ)
1975年5月5日生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作しており、塚本晋也監督の作品制作では照明を担当。現場では、映画のほかにプロモーション・ビデオ、CMの照明も経験。2006年に「なま夏」を自主制作、本作で同年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭・ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得。その後も、塚本作品などで照明技師として活動する傍ら、2008年に小説「純喫茶磯辺」を発表、同年自ら映画化した。2013年に「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「麦子さんと」、2014年に「銀の匙 Silver Spoon」などが公開。
©2016「ヒメアノ~ル」製作委員会
©古谷実/講談社