コミックナタリー PowerPush - NON「ハレ婚。

「デリバリーシンデレラ」の作者、新作のテーマは“一夫多妻制”

一番模写したのは「封神演義」

──NON先生がマンガ家になった経緯もお聞きしていきたいのですが、いつからマンガ家を目指していたんでしょうか?

NON

小学1、2年生くらいのときに公園で「ダイの大冒険」というマンガを拾ったんですけど、それがすべてのきっかけでした。ゲームっ子だったのでドラクエも好きで、「ドラクエのマンガだ」と思ってワクワク読んでたらハマってしまって。巻数が進むにつれて、人間ドラマが本当に面白いんですよね。幼心にすごく強烈でした。で、18歳までにデビューしたいっていう気持ちはあったんですけど、遊んでばっかりでマンガなんて1本も仕上げてなくて。それで「ヤバイ」と思ってマンガ専門学校に入りました。そこで4作読み切りを描いて、ヤングジャンプでデビューしたんです。

──最初から青年誌志望だったんですか?

いや、最初は少年ジャンプでした。でもマンガ専門学校の講師に「お前の絵とストーリーは少年じゃなくて青年誌向きだよ」と言われて。それまで青年誌をほとんど読んだことがなかったんですけど、読み始めるとハマってしまって。

──絵柄がかわいらしいので、少女マンガも向いていそうですけど。

少女マンガ、ほとんど読んだことないんですよ。

──へえ、それは意外ですね。 絵柄の影響を受けたマンガ家さんはいますか?

一番模写したのは藤崎竜先生の「封神演義」ですね。あとは井上雄彦先生、北条司先生。

担当が付いてから初めてエロを描きました

──生粋のジャンプっ子だったんですね。最初はどういう読み切りを描かれていたんでしょうか。

取材は作中に登場する喫茶店のモデルとなった喫茶店フルールにて行われた。
小春の実家が経営する喫茶店。

ファンタジー、まではいかないですけど、現実世界ではないものだったりを描いてました。「デリバリーシンデレラ」っていうエロを売りにしたマンガを描いたのは、持ち込みに行って担当さんが付いてからなんですよ。「デビューを狙うなら、かわいい女の子が描けるんだからそれを武器にしたほうがいい」と言われて。たぶん、新人作家に安易にエロを描かせるっていうのは、あまりいいものとしては受け取られないと思うんですけど、私は商売だっていう意識があったので。アクションもそんなにうまくない、奇抜な才能もない私がお金をもらって読者に楽しんでもらうためには、エロっていうのはすごく妥当な気がしたんですよ。

──ファンタジー路線からすごい方向転換ですが、抵抗はなかったんですか?

抵抗よりも「やってやるぜ」っていう気持ちでした。その日からいろんなエロマンガを読みあさり、研究して。エッチなシーンなんて「I"s」でくらいしか読んだことなくて。自分がまさかそんなマンガを描くことになるとは、全然思ってもいなかったです。

──でもこれだけ受け入れられているということは、やはり才能があったんですね。エロを描きはじめて、難しいと感じたことはありますか?

うーん……行きすぎちゃうところですかね(笑)。青年誌であって成人誌ではないので。私は生ぬるいって言われたくないので、突き詰めてやってやりたいんですけど「行きすぎると読者が引くよ」と旦那に言われたり。

2000円につられてアイドルの道へ

NON

──ちなみに、NON先生は以前アイドル活動をされていたとお聞きしたんですが。

もう10年前の話ですよ。専門学校に通っているときですね。まあとにかくお金がなかったんですよね。で、原宿あたりを歩いてたときに、チャラチャラしたスカウトマンに「水着になって写真撮らせてくれたら2000円あげるよ」って言われて。その2000円が、すごく大きかったんです(笑)。

──2000円につられて。

危ないかなとは思ったんですけど、まあ若かったので、怖いもの知らずですよね。芸能界にそこそこ興味はあったけど本気でグラドルになりたかったわけではなくて。ちょっと覗いてみたいくらいの感覚でしたね。グラドルやってマンガ描いてたら、これは売れるぞと思って(笑)。

──そんな策略を。

「ハレ婚。」の主人公・小春。

いろんな世界を見たいと思って、それなりにがんばってはいたんです。2年弱くらいですかね。そんな実績があるわけではないんですけど、でもやっぱりデビューして連載目指そうって話になったときに、二足のわらじは難しくなってしまって。

──マンガに活かせそうな経験はされましたか?

いろんな女の子がいたので、楽しかったですね。やっぱり芸能界に入る女の子って、ちょっと一般人とは違ってて面白いんですよ。しかも美人じゃないですか。かわいい女の子を描くには、夢のような環境でしたね。まあいまは本当、普通の主婦です(笑)。

NON(構成:手塚だい)「ハレ婚。」1巻 / 2014年11月6日発売 / 610円 / 講談社
「ハレ婚。」2巻 / 2014年12月5日発売 / 610円 / 講談社
愛は永遠、そして3つある……?

東京で暮らす主人公・小春は、彼氏が既婚者であることが発覚し、傷心のまま地元へと帰る決心をする。だがそこには、さらにあり得ない生活が待っていた。なんと故郷は、少子化過疎化対策の特区指定で“一夫多妻(ハレ婚)”を推奨する街となっていたのだった。

NON(ノン)
NON

1987年生まれ、佐賀県出身。第72回ヤングジャンプ月例MANGAグランプリにて「デリバリーシンデレラ」が準優秀賞を受賞。読み切り掲載などを経て、週刊ヤングジャンプ(集英社)にて2010年から2012年まで、デリヘル嬢と女子大生のW生活を描いた「デリバリーシンデレラ」を連載する。2014年からはヤングマガジン(講談社)にて、一夫多妻婚をテーマとした「ハレ婚。」を連載。同作の構成は、夫である手塚だいが務めている。