コミックナタリー PowerPush - NON「ハレ婚。
「デリバリーシンデレラ」の作者、新作のテーマは“一夫多妻制”
女性の心理描写を描くため、主人公を女性に変えた
──手塚さんとはどういう風にお話作りを進めているんですか?
ストーリー作りにはガッツリ入ってもらってます。最初はプロットも書いてもらってたくらい。いまは私が書いて、旦那と担当さんに見せて「どう?」って打ち合わせする流れですね。実は前作の「デリバリーシンデレラ」のときもアドバイザーという感じで関わってもらってたんですけど、今回は打ち合わせから参加してもらってます。
──手塚さんから一夫多妻制という設定をもらってからは、どんどん広がっていったんでしょうか?
実は最初は、元担当さんがハーレムマンガを描いてくれって言ってたのもあって、主人公が男だったんです。冴えない優しい男性が美女にモテまくるという。それでネームまで作っていたんですけど、いまの担当さんが「あなたは女性の心理描写を描くのがうまいから、女性を主人公にしたほうがいいんじゃないか」と言ってくれて。そうすると話がガラっと変わっちゃうなと最初は戸惑っていたんですけど、やってみて正解でした。
──確かに「デリバリーシンデレラ」もエロ描写が多いので敬遠しがちかなと思えば、女性も楽しく読めるんですよね。私も「デリシン」、毎週ヤンジャンで追っかけて読んでました。
ありがとうございます。「ハレ婚。」もありがたいことに女性からの支持を結構いただいているみたいで。普通のエロマンガって、エロければいいんだろっていう、女性男性の心理を無視したところも結構あって。それはそれで楽しいんですけど。でもやっぱりラブと性ってすごく近いところにあると思うので、それを本当に突き詰めてやれたら面白いんじゃないかな、と思って描いてます。
奥さんが3人いるので、夜のシーンも3倍です(笑)
──ラブのドラマを描くには、性のシーンは必要不可欠だと。
ええ。今回は奥さんが3人いるし、セックスに対してもそれぞれ姿勢が違うから、夜のシーンも3倍あります(笑)。
──2巻後半では、ちょうど小春と龍の初夜が描かれています。
そうですね。小春ちゃんが性のことに対しては苦手なので、リハビリをしていこうという展開です。
──1巻冒頭がホテルでのシーンから始まったので、小春が性に対して苦手意識があるというのはちょっと意外でした。
ああ、なるほど。でもこうやって男の人に裏切られて、性に関してトラウマになってしまう女性ってすごく多いだろうなって感じるんです。苦い経験を積んでいくと、苦手意識が膨らんじゃいますよね。特に小春ってスポーティでボーイッシュな女の子だし、性的なものに距離を感じるタイプだと思うんですよ。
──なるほど。ではまずは、小春のリハビリを。
そうですね。まあ小春は性の問題だけじゃなくて、結婚生活の中で乗り越えないことがこれからいっぱいありますから。一夫多妻って想像つかないし、トラブルもいろいろあるでしょうけど、普通の結婚生活だってみんなトラブル抱えて、離婚もしてるじゃないですか。どの夫婦にもいろいろありますよね。
小春は実際にいたら、あまり関わり合いになりたくないタイプ
──前作の「デリシン」と今回の「ハレ婚。」、一番違うところって何でしょうか。
主人公の性格が正反対なところですかね。最初、ここまでコメディに持っていくつもりはなかったんですけど、小春がこんな性格なので(笑)。「デリシン」のミヤビはすごく真面目な女の子だったので、それが作品の雰囲気にも表れていたと思うんです。それが、主役が小春になることで全然違うノリになっちゃうっていうことに、自分でもびっくりしてます。普通の価値観を持った女の子なので、その小春のキャラが「ハレ婚。」の空気を握っているなとも感じますね。
──確かに小春は真面目なミヤビとは違って、猪突猛進タイプというか……。結婚を条件に龍から出された3000万も、結婚しないでもらう方法を考えたりしちゃうし、いい性格してると思います。
ほんと、しょうがない子なんですよ(笑)。実際にいたら、あまり関わり合いたくはないけど、遠くから見てたいなって思うタイプです。
──ははは(笑)。ではほかの2人の妻はどうやって作っていったキャラなんでしょうか。
それもバランス感覚みたいなもので作ったかな。小春がこんなキャラだから、1人はセクシーな挑発的なタイプにしようと、柚子が生まれました。もうひとりはお人形さんみたいな、感情を表に出さないタイプのまどか。分かりやすい差があるといいなと思ったので。そこからどんどん、例えば趣味とか、外見的な特徴を作っていまの3人になった感じですね。小春が家庭的じゃないから、家庭的なタイプもいたほうがいいかな、とか。
──家庭的なのはまどかさんですか?
いや、意外に柚子かな。私がいままで出会ってきたギャルって、家庭的な子が多いんですよ。母性が強いんですかね。そのギャップが素敵だなと思って、反映させてみました。
一夫多妻の長には強い意思が必要
──では龍のキャラクターはどう作っていったんでしょうか。
男性キャラは、男性読者が読んでも親近感を持ってもらえるようにしたかったんです。イケメンで金持ちで女にモテまくる男って、普通の男性読者から見たらムカつくじゃないですか。それを突き詰めて「あ、こいつなんか面白いぞ」って思わせられるキャラにしないと、と思いました。
──龍は確かにイケメン、金持ち、モテるという要素を満たしているのに、変人であるということがそれを上回っているというか……。
すごくぶっ飛んだ価値観を持っている男なんですよね。やはり一夫多妻の長ですから、強い意思が必要なんです。ナヨナヨっとした優しいだけの男性じゃ、恐らく務まらないだろうと。
──柚子の「龍ちゃんは伊達家の王様」というセリフもありましたが、それってちょっとイマドキではないというか、亭主関白なのって珍しいなとも思います。
確かにイマドキではないですよね。私、意外とそういうの好きなんです。男性に好きにやらせて女性はサポートするっていう形が、古風ですけどやっぱり落ち着くな、と。龍は勝手な男なんですけど、自由にさせてもらえることで、女性を愛す。男を男らしくいさせられたら、それって女性にとっても幸せなんじゃないかなと思うんですよね。
──NON先生が「ハレ婚。」を通して一番描きたいことって何ですか?
恋愛模様というか、人間ドラマですかね。あとは性だったり。今回は性についてがんばって描こうと思ってます。1巻は全然ないですけど、2巻からは徐々にそういうシーンも増えてきます。そこはやっぱり青年誌ならではのポイントかなと思ってますね。
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愛は永遠、そして3つある……?
東京で暮らす主人公・小春は、彼氏が既婚者であることが発覚し、傷心のまま地元へと帰る決心をする。だがそこには、さらにあり得ない生活が待っていた。なんと故郷は、少子化過疎化対策の特区指定で“一夫多妻(ハレ婚)”を推奨する街となっていたのだった。
NON(ノン)
1987年生まれ、佐賀県出身。第72回ヤングジャンプ月例MANGAグランプリにて「デリバリーシンデレラ」が準優秀賞を受賞。読み切り掲載などを経て、週刊ヤングジャンプ(集英社)にて2010年から2012年まで、デリヘル嬢と女子大生のW生活を描いた「デリバリーシンデレラ」を連載する。2014年からはヤングマガジン(講談社)にて、一夫多妻婚をテーマとした「ハレ婚。」を連載。同作の構成は、夫である手塚だいが務めている。