コミックナタリー Power Push - 「ギルドレ」

理科が楽しくなる「ギルドレ」と国語が楽しくなる「文スト」!? “2作品に通底するもの”を朝霧カフカと上村祐翔が語る

カイルくんと敦が似ているなと思うんです(上村)

──上村さんは普段からよく読書をされるんですよね。朝霧カフカ作品の魅力はどのようなものでしょうか。

上村 人間ドラマの魅力がすごくありますよね! キャラクター全員に何か引き込まれるような魅力がある。特に「文スト」の敦はすごく繊細。生きようと必死に思い、居場所を見つけるためにもがいてがんばっているキャラクター。そこに一読者としてもすごく感情移入できました。「文スト」は異能力バトルの魅力がよく語られますが、その奥にキャラクター同士の複雑な絡み合いがあってのバトルや、人間関係がすごく緻密に描かれていて、毎回読んでいて先が気になります! アニメでは五十嵐卓哉監督の手によっていっそう振り幅が大きくなっていますが、原作からコミカルな部分もシリアスな部分も絶妙に織り交ぜられているんですよね。

朝霧 そわそわする……。目の前で褒めていただくのって、めっちゃ恥ずかしいですね!(笑)

ヤングマガジン サードで連載されていたときに描かれた「ギルドレ」のイラスト。

──上村さんは「ギルドレ」をお読みになっていかがでしたか? 1巻と、これから出る2巻のゲラを読まれたとか。

上村 はい! 帯にも「うわあああああああ面白い!!」と三雲岳人先生のコメントがありますが、まさにそれでした。とめどないストーリー展開が朝霧先生のテイストで書かれていて、続きが気になってしょうがなくなる。オープニングから、ぐいっと引き込まれますよね。「おお、すごいぞ……これはなんなんだ!?」というところから始まる。

──最初の一行が「人類軍の壊滅は、もはや時間の問題だった」。人類を苦しめる『敵(エネミーズ)』との絶望的な戦いの中、「救世主」が現れ、絶体絶命の危機を救います。

貞松龍壱による資料ラフ。単行本にも豊富に掲載されている。

上村 そしていきなり3年後になって、登場するのが主人公の神代カイル。カイルは救世主と同じ「能力」を持っているけれど、すべての記憶が失われているので、救世主かどうかは誰にもわからない。むしろ、物語が進むにつれて、どんどんわからなくなっていく……。

──そんな彼と出会うのは、ヒロインの皆川ニィナ。1巻は2人の出会いやニィナの弱さと強さ、カイルの深まっていく謎が描かれました。

上村 僕はけっこう、カイルくんと敦が似ているなと思うんです。

朝霧 おお、どういうところでしょう?

上村 カイルが最初から強いのに対して、敦はもがきながら自分の力を見出しているという違いはあるんですが……2人とも「自分の居場所がない」「自分は何者なんだろう?」という思いを抱いて、わからないなりに一生懸命それを探そうとしている。1巻は最初っから「絶対死ぬでしょ!」という局面の連続で、でも南雲かなで准尉とニィナを助けようとして、本能のおもむくままに「能力」を発動して切り抜けるんですが、そういうところも敦の異能力と通じる部分があるなと。

朝霧カフカ

朝霧 なるほど。今それを聞いて、「ギルドレ」と「文スト」に通底しているものとして、「生きる理由がないと生きちゃいけないと思っている」というところがあるかもしれないなと思いました。ぼんやり生きている人は出てこない。「生きなきゃ」と思わなければ生きていけない時代だからこそ、そういうことを必死で考える。「文スト」の場合は「人はどうやって生きるのか」というテーマを、「文豪」という言葉を冠している以上やらないわけにはいくまいと思ってやっています。「ギルドレ」も、1人ひとりに生きている理由がある。「文スト」は探偵社をはじめ“社会人ががんばる話”で、「ギルドレ」は“子供たちががんばる話”という大きな違いはありますが。

上村 それぞれみんな何かを抱えて戦って生きている姿が、キャラクターをより魅力的に感じさせますよね。ヒロインのニィナもそう。彼女は、周囲から虐げられながらも、父が作った機械の腕と足で『敵』と戦っている。彼女の芯には、「父が生きてきたことの意味を証明する」という思いがある。ドローンのエースパイロットである夜見原セロも、2巻で戦う理由が明かされて、さらに好きになってしまいました。

朝霧 夜見原くんは、けっこう女性読者も気に入ってくれていますね。上村さんはお気に入りキャラはいますか?

上村 選ぶのはすごく難しいんですけど……やっぱりカイルくんが好きですね。物語は彼目線で動いていくので感情移入しやすいですし、読めば読むほど真相がわからないキャラクターなので、「これからどうなっていくのかを見ていきたい」と思わせてくれる主人公だなと思います。

確率を操れる人物がいたとしたら、そいつが一番強い(朝霧)

上村祐翔

上村 キャラクターといえば……『敵』がとにかく怖いです! 一番「お前、なんてことしてくれたんだ!」と思ったのは1巻の中盤に出てくるカマキリ。赤くて巨大なカマキリが、人々をまっぷたつに割いていく……。身近に感じられるものがモチーフになっているからこそ、「よく知っているはずのものがどんどん変化していく」という姿に狂気を感じました。

朝霧 絵だとどんなバケモノでも作れるんですが、小説だと「こういう敵かな」というのを読者にイメージしてもらわなければいけない。ちょっとテレビゲーム的な要素を意識して作っています。モチーフがあって、ステータスがあって、技の演出がある。

上村 『敵』が恐ろしい一方で、こちら側のメンバーが使う機械……ニィナの義肢や夜見原たちが操るドローンがカッコいいです。

夜見原が操る羽虫ドローンの資料ラフ。

朝霧 メカニックデザインは貞松龍壱先生。別冊少年マガジン(講談社)で「BUSTER DRESS」というロボットものの連載をしている方だけあって、緻密ですさまじいマシンを生み出してくれました。今から、「ゲームやアニメになったら、これはCGで再現できるんだろうか……!?」なんて妄想してます(笑)。

──ゲームと言えば、カイルの量子力学による波動関数の収束を利用した「あらゆる可能性を選び取る力」は、ノベルゲームの「選択肢」的な発想も感じました。

朝霧 ループもの的な切り口ということですよね。ああいうのはすごく好きなんですけど、同じなのはやりたくなかったので、ほかの切り口を考えてみました。ゲームはゲームでも、どちらかというとRPGに近い。「会心の一撃」や「クリティカル」ってご存知ですか? RPGでは、主人公が戦うときに「確率で大きなダメージを与えられる」「確率でいいアイテムをドロップする」というシステムがあったりする。でも、その確率を操れる人物がいたとしたら、そいつが一番強いんじゃないか?……そんな発想から本作は生まれました。

──RPGに近い。

朝霧 ほかの人たちの強さは「RPGでリモコンを握っているゲームプレイヤーの強さ」で、強い武器を持っているとか、訓練を積み重ねてレベルアップしているもの。一方で神代カイルは、いわば「画面の向こう側」にいるので一番強い。こうしたゲーム的な着想を、量子力学で全部説明してイメージしてもらえたら面白いなと思ったんです。多少わかりやすさを重視して嘘を書いているので、本職の人が見たら怒るかもしれませんが(笑)、中学生くらいの子でも読めるかなと。

上村 読めると思います! 僕は理科が苦手なんですが、仕組みはちゃんとわかりましたから。

朝霧カフカ

朝霧 「文スト」は国語が楽しくなる話で、「ギルドレ」は理科が楽しくなる話にできればいいと思っています。一見すると難しいことを語っているんだけど、自分たちの生存に関わってくる大事な話で、わかりさえすれば役立つものという語り方をキャラクターにさせています。「科学で説明できるんだな」という空気を感じ取ってもらいたいです。

上村 「科学」というくくりがあるから、より能力の面白さが際立っていると思います。制限がないと、「本当に強い」というだけになってしまう。……個人的に思ったことを先生に聞いてもいいですか? カイルの「確率を操る」能力って、ある意味「未来が見える」能力ですよね。「文スト」で五十嵐監督が「一番強い異能力は、未来が読めること」と言っていて、それが織田作之助だったじゃないですか。

朝霧 そうですね! 「火力が高い」とか「パンチが強い」はこっち側の世界で強いですが、「未来が読める」「時間を操る」などの向こう側に行っちゃっている存在はいつの世も最強。「そっち側」にいける人間は厳選しないといけないのですが、今回は主人公をいきなりそれにしたというところに、ちょっと狙いがあるかなと思います。

小説:朝霧カフカ イラスト:烏羽雨 メカニックデザイン:貞松龍壱「ギルドレ(2)滅亡都市」 / 2017年2月21日発売 / 講談社
「ギルドレ(2)滅亡都市」
単行本(ソフトカバー)1080円
Kindle版 864円

記憶喪失の少年、神代カイル──かつて世界を救った《世界最弱の救世主》。彼の元に届いた依頼は、ある日突然滅びた研究都市SOLCに1人残された生存者の少女を救出せよ、というものだった。人類の最新兵器《リンケージ・ドローン》を操る仲間と共に訪れた廃墟で、カイルは都市滅亡の真相に直面する。そして都市にはもうひとつの謎が隠されていた。そこはかつて「救世主が死んだ場所」だったのだ──謎が加速するシリーズ第2弾。

小説:朝霧カフカ イラスト:烏羽雨 メカニックデザイン:貞松龍壱「ギルドレ(1)世界最弱の救世主」 / 発売中 / 講談社
「ギルドレ(1)世界最弱の救世主」
単行本(ソフトカバー)1296円
Kindle版 1080円
朝霧カフカ(アサギリカフカ)
朝霧カフカ

マンガ原作者、小説家。テーブルトークRPGのリプレイ風動画をWebで発表したことで人気を博し、ヤングエース2013年1月号(KADOKAWA)でスタートした「文豪ストレイドッグス」にて商業デビュー。「文豪ストレイドッグス」は、実在の文豪たちが擬人化して戦うという設定で話題となり、2016年にテレビアニメ化された。

上村祐翔(ウエムラユウト)

1993年10月23日生まれ。劇団ひまわり所属。アニメ「文豪ストレイドッグス」の中島敦役で初主演を飾る。アニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」増長和南役、アニメ「ナンバカ」ジューゴ役、アニメ「ACCA13区監察課」マギー役など。