新感覚・ストレンジ・ジュブナイル「GLITCH -グリッチ-」シマ・シンヤが語る、さまざまな人種的ルーツや家族の形を描く思い

「ロスト・ラッド・ロンドン」で第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞し注目を集めた、新星シマ・シンヤの最新作「GLITCH -グリッチ-」の1、2巻が発売された。「GLITCH - グリッチ -」は、大きな森のある桃迦町に引っ越してきた高校生のミナトが、転校初日に“奇怪な影”を目撃したことから、妹のアキラらと一緒に、この町で起きている“不思議”を調べ始めるジュブナイルもの。月刊コミックビーム(KADOKAWA)にて連載されている。また初の作品集「Gutsy Gritty Girl - ガッツィ・グリティ・ガール -」も同時発売された。

コミックナタリーでは3冊同時刊行を記念し、シマへのインタビューを実施。ジュブナイルものを描こうと思った経緯から、前作から共通しさまざまなルーツを持つ人物を描く理由、家族の形や距離感に対する思いを聞いた。特集最後には第1話、第2話の試し読みも掲載している。

取材・文 / 小林聖

キャラクター紹介

イ・ミナト

イ・ミナト

イ・ミナト(16歳)

桃迦町に引っ越してきた高校生。アキラの姉。方向音痴。転校初日に“奇怪な影”を目の当たりにして以来、町の“不思議”に興味を抱く。

イ・アキラ

イ・アキラ

イ・アキラ(14歳)

桃迦町に引っ越してきた中学生。ミナトの妹。人見知り。学童で知り合ったイト、ケイと姉・アキラを加えた4人で、町の調査を始める。

カナメ・イト

カナメ・イト

カナメ・イト(14歳)

桃迦町に住む中学生。母親とふたり暮らし。異世界から来た“ヒラタ”と出逢い、町で発生している異常現象“グリッチ”の一端に触れる。

キンジョウ=ディアス・ケイ

キンジョウ=ディアス・ケイ

キンジョウ=ディアス・ケイ(10歳)

桃迦町に住む小学生。父親とふたり暮らし。周囲で巻き起こる“不思議”の発生源が、町の中心に聳える森にあることを突き止めるが……?

橋を渡って知らない町へ行く、ジュブナイル

──前作の「ロスト・ラッド・ロンドン」のときはとにかく「原稿が終わらねえ!」と思いながら描いていたそうですが、連載2作目となる今作「グリッチ」はどうですか?

終わんねえ、と思ってます!

──(笑)。

「ロスト・ラッド・ロンドン」のときは殺人事件を描いた話なので、それを解決するというゴールは最初から見えていたんですが、今作は自由な状態で始めたので本当に「終わんねえ」「先が見えねえ」と(笑)。もちろんある程度ざっくりと世界観については考えてあるんですけど、それ以外の部分は自由なので、何をどこまでいつ見せよう、と。

──「グリッチ」は人間とは違う存在がいる町へ引っ越してきた主人公たちが町の謎に迫るちょっと不思議なミステリーです。どんなイメージから膨らませていったんですか?

前作と違うものを描こうと考えていくと、大人じゃなくて子供だろうってイメージがあって。そこからいわゆるジュブナイルもの、冒険ものを、と考えていきました。今だと「ストレンジャー・シングス」とか、古いものなら「グーニーズ」とか、ああいうものですね。

──ジュブナイルものを、と考えた結果「グリッチ」が生まれたというのには納得感あります。冒頭の町にやってくる場面なんか、すごくワクワクしました。ジブリ的というか。

カラーページだし、印象的な入りで始められたらいいね、と打ち合わせで話していました。橋を越えていったりとか。結果的に「千と千尋の神隠し」っぽく始まったねって話しました(笑)。

冒頭のシーンより。車で桃迦町にやってきたミナトとアキラ。

冒頭のシーンより。車で桃迦町にやってきたミナトとアキラ。

冒頭のシーンより。車で桃迦町にやってきたミナトとアキラ。

冒頭のシーンより。車で桃迦町にやってきたミナトとアキラ。

──「橋を渡る」っていいですよね。

そこでひとつ境界みたいな川があって、「ここからはちょっと違う場所だよ」というのがわかりやすくなったかなと思います。

──そうやって入っていく桃迦町の様子も印象的です。四角いフラットな建物が並ぶ、ちょっと無機質さも感じる町ですよね。

桃迦町は30年ほどの歴史しかない新興住宅地なので、ある時期に一気に建物が作られていったんですよね。だから、画一的で、同じ時代に建った、そのときの流行りの建物が並ぶイメージです。あと、「どこでもなさ」というのもちょっとは意識しました。でも、実は最終的な作画資料はめっちゃ近所だったりするんですが。

桃迦町について話すミナトとアキラの母・ノエ。

桃迦町について話すミナトとアキラの母・ノエ。

──そうなんですか。

コロナもあってなかなか取材にも行けなかったりしたので。だから、地元の友達が見たら「あそこじゃん!」とか言うと思います(笑)。

普通の冒険譚で、いろんな人が当たり前に主人公になる

──歴史のない不思議な町へやってくるというのは、まさにジュブナイルの始まりですね。

ただ、いわゆるジュブナイルものってだいたい男の子ばっかりじゃないですか。女子はいても紅一点みたいな感じで。そこに若干の反抗をしたいと思ってキャラクターを考えていきました。

──そうそう、主人公のミナトは女の子なんですよね。実は1巻の帯を見て初めて知りました。性別はどっちなんだろう、と思いながら読んでいたので。

ミナトは「どっちなんだろう」と思ってもらえるキャラクターを意図して描いていますので、わからないのが正解なんだと思います。ミナトについてはノンバイナリで、男女2元のジェンダー観で生きていないので、ああいうデザインになりました。ただしノンバイナリの方すべてを表象するデザインではないです。

──キャラクターはどう作っていったんですか?

担当さんから「姉妹を出してほしい」というリクエストがあったので、まずミナトとアキラの2人を考えて、その周りのキャラクターを考えていきました。2人の周りのキャラクターは自分の同級生とかからデザインを起こしています。

姉妹であるミナトとアキラ。

姉妹であるミナトとアキラ。

──本作のキーでもある、不思議な存在やグリッチによって出現する影も見ていて面白いです。彼らも造形が本当にさまざまですよね。

「それぞれ出身が違うのかも」「別々の社会からきているのかも」と思ってほしかったので、等身も違う形にしています。あと、ヒラタさんはやっぱりちょっとかわいいキャラが欲しいなと思って。

──ヒラタさん、すごく好きです。シマ先生自身がお気に入りのキャラクターはいますか?

ヒラタさんはけっこう面白いですね。作画コストがあんまり高くないっていうのもあるんですが(笑)、人間の顔を描くのがあんまり好きじゃないので、ヒラタさんとかサイさんのほうが気持ち的には楽ですね。

──でも、サイさんのように顔がないキャラクターって表情を描けない分、演技・演出が難しくないですか?

顔が見えなくてどこまで人間的になれるかというのは、大学生くらいのときから気にしているテーマなんです。

ヒラタ。突然アキラの目の前に姿を現す。

ヒラタ。突然アキラの目の前に姿を現す。

町で商店を営んでいるサイ。町の人々は彼の存在を普通に受け入れており、多少の偏見はあれど皆が当たり前に生活している。

町で商店を営んでいるサイ。町の人々は彼の存在を普通に受け入れており、多少の偏見はあれど皆が当たり前に生活している。

──「グリッチ」の登場人物は人種的なルーツや家族の形もさまざまですよね。

ルーツもいろんな人がいて当たり前なので。そのあたりも自分の経験などを反映していった形です。

──シマ先生自身、いろんなルーツの人がいる環境で育ったんですか?

はい。小学校の頃からミックスルーツの同級生がいたし、高校に入ったらもっといたし。それに、インターネットとかでつながりができるようになるとよりミックスルーツの友達に出会うことも増えた。そういう人たちの声も拾いたいなっていうのもあって。人種問題をテーマにした作品で出てくるとかでなく、普通にこういう冒険譚でいろんなルーツの人がいるのを描きたかったんです。どんな人も当たり前に主人公になるんだ、と。ただ、自分自身は日本に住んでいる大和民族で当事者性はあまりないんです。だから、ルーツに関わる差別や苦境をエンタメにしてしまうのは無責任すぎるかな、という思いもあって、そのへんは気を付けるようにしています。キャラのルーツが少数派、というだけで、やけにルーツのことが気になってしまうこと自体が、多数派と少数派の非対称性を帯びているとは思います。

自身の彼女について話すイトの母親。

自身の彼女について話すイトの母親。

──ロンドンに留学された経験も影響はあるんでしょうか?

ど、どうだろう……?(笑) でも、そういう問題に気付くようになったのはやっぱり大学生になったあたりです。イギリスだけでなく、日本にもいろんな形で差別が身近に存在している。そのことに向き合っていかないといけないなって。

自分で描いていてイヤだなという気持ちになりたくない

──「グリッチ」で描かれる家族の形や距離感も印象的です。親子で名前で呼び合っているとかだけでなく、親も子供のことを他者として尊重しているというのを感じられて。このへんもご自身がもともと身近に感じているリズムや距離感なんですか?

たぶんそうなんだと思います。特に意識して描いているわけではなくて、「どうしてもこうなってしまう」という感じです。自分の家もたぶんちょっと変……いや、どうなんだろう? 自分ちが変かどうかってわかんないですが。

──人の家がどんなふうなのかもわからないですし、どの家もそれぞれのルールや関係があって何が「普通」かは決められないですもんね。とにかく、シマ先生にとってはこの形がひとつの自然な姿だった、と。

そうですね。一番身近な友達がお母さんのことを名前で呼んでいるので、それを入れてみたり、自分や周りの人からちょっとずつ借りてきて描いています。だから、これを友達が見たらめちゃくちゃからかわれると思います(笑)。めっちゃ自分のこと描いてるじゃん、とか。

──個人的には、ケイとおばあちゃんの会話すごく好きなんです。「オバアも来るか」って聞いたケイにおばあちゃんが「オバアも来る」って答えるところとか。ああいうのも誰かモデルやイメージする人がいるんですか?

オバアはちょっと楽しいおばあちゃんであってほしいという気持ちがあって生まれたんですが、会話は割と普段の自分と友達があんな感じなので。周りにお調子者しかいないから(笑)。

沖縄から遊びにきたオバアとの会話。

沖縄から遊びにきたオバアとの会話。

沖縄から遊びにきたオバアとの会話。

沖縄から遊びにきたオバアとの会話。

──でも、この家族の距離感はとても心地よく感じました。

自分で描いていてなるべく「イヤだな」って気分になりたくないというのもあって、それなりにいい感じの関係の家族を描くことが多いです。うまくいっていない家族を描いた作品もありますが、「1人の父親と1人の母親がいるのが円満な家族で、それ以外はイマイチ」みたいな価値観はちょっとな、と思っています。片親とか両親ともにいないとか、どんな家であっても何か欠けているわけではないし、それだけで不幸であるということもない。同時に、家族がイマイチでも、その人自身はなんら問題なく歩んでいけるはずだし、その人の人生が何か欠けているわけでもない。家族を描くときはそういうことをなるべく意識するようにしています。