家族ってそんないいもんじゃなくてもいい
──「グリッチ」と同時発売の短編集「Gutsy Gritty Girl」の表題作は、まさにうまくいっていない家族を描いた作品ですよね。
そうですね。うまくいっていなくても折り合いを付けられると思うので。家族の話というと、たとえ機能不全でも、最終的に「家族っていいよね」みたいなオチになることが多い。それが、実際に家族がうまくいっていない人、特に若い人なんかはそれがツラいと感じるのはすごくわかるんです。だから「そうだよね、そんないいものでもねえぞお」と思いながら描いてます。
──わかります。「そんな無条件にいいもんでもないじゃん」って。
そんなに家族に過剰に期待する必要はないよって気持ちで描いてます。
──短編集はほかにもいろんな作品が収録されています。「キバタンのキーちゃん」がすごく好きなんですが、日本の普通の家族を描いたあの作品は海外を舞台にした作品やSFテイストのものも多いこの短編集だと異色な感じがします。
あれはもう単純にキバタンが描きたくて。よく遊んでいた友達がキバタンを飼っていて、その子をモデルというか、作画資料として描かせてもらったんです。物語の発想源になった、そのキバタンに捧ぐ一冊になりました。好きな鳥を描けて、ネームも「修正なし!」という感じでスッと通って、思い入れある作品です。
──キーちゃんの表情もいいですよね。マンガ的にデフォルメしているわけでもないのに、いろんな表情・感情が見える。
飼ってみて、触れ合ってみないとわからないかもしれないですが、鳥って本当にあれくらい表情が出るんです。だから、「鳥、かわいいよ」って気持ちで描きました。ただ、私も飼ってますけど、「意外と長生きするから気軽に飼わないほうがいいよ」って思いながら(笑)。
──逆に短編集の収録作で苦労した作品はありますか?
修正が多かったものでいえば、「宇宙の真ん中の隣」が一番かも。
──「活劇」という感じの強い作品ですね。
単純にページ数が多かったからというのもありますけど、読み切りを載せてもらうのは初めてだったので、1話の中でキャラクターを説明するテンポなどを掴むのに苦労しました。いろいろ勉強させてもらいましたね。
いつも「伝わってくれ!」と思いながら描いてる
──シマ先生は同人活動をきっかけにデビューしたそうですが、マンガはずっと描いていたんですか?
いえ、大学の学士3年間は美術、ファインアートを、その後大学院で1年間アニメーションをやっていました。ちょろっとコンテの理論とかを勉強したり。
──アニメーションですか。
ファインアートって自由すぎるくらい自由なので、もうちょっと技術的なことも勉強したいと思ったんです。手に職を付けたいというか。
──そこからマンガを描こうと思ったきっかけはなんだったんですか?
人数が少なくてもできる活動を考えるとマンガだったんです。それで同人誌を描いていたら、たまたま声をかけてもらえたという。
──やりたいことの表現手段のひとつとしてマンガがあって、それがうまく職業になったという感じなんですね。
そうですね。本当にできることがこれしかなかったっぽいというか(笑)。
──マンガは、絵とお話づくりがひとつになってできているわけですけど、シマ先生の場合、絵を描くのとお話づくりだとどっちが好きとかありますか?
楽しいのはカラーページですね。一枚絵とかの。
──カラーページは塗りがある分大変というイメージですが。
カラーはゴールが見えてるので。マンガ、お話のほうはいつも「伝わってくれ!」「なんとかわかってくれ!」って思いながら描いてます(笑)。「この画面でいいのかなあ? でも、この画面しかないよな」って感じで。
──「グリッチ」はこれから少しずつ謎に迫っていくような展開で、続きが楽しみです。
もう自分では面白いのかどうかわからない状態で描いているので、面白いと思っていただければ本当にありがたいです。楽しんでいただければもうそれだけで!
プロフィール
シマ・シンヤ
マンガ家、イラストレーター。2018年、moya名義で発表した「Light and Specs」が、モーニング(講談社)による新人賞「第6回THE GATE」で審査員賞・鈴ノ木ユウ賞を受賞する。2019年12月、月刊コミックビーム(KADOKAWA)で「Lost Lad London」の連載を開始。同作は第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した。2021年7月、月刊コミックビームで「グリッチ」をスタート。「スターウォーズ」の新しい時代に焦点をあてた「Star Wars: The High Republic: Edge of Balance」の原作も担当している。
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第1話試し読み