「GIGANT」「BABEL」奥浩哉×石川優吾|共通点は犬と人形? “好きなことをしていい”雑誌で、今2人が描きたい物語

奥浩哉、石川優吾がそれぞれビッグコミックスペリオール(小学館)で連載中の「GIGANT」「BABEL」各1巻が同時発売された。巨大化するAV女優を描く「GIGANT」と、伝奇小説「南総里見八犬伝」をアレンジして綴られる「BABEL」。2作品の発売を記念し、コミックナタリーではかねてより親交があるという奥と石川2人の対談を実施した。「GIGANT」と「BABEL」が生まれた経緯やこだわりのポイントはもちろん、2人の意外な共通点についても明かしてもらった。

取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / moco.(kilioffice)

作品紹介

AV女優が巨大化!? 「GANTZ」「いぬやしき」の奥浩哉が描くボーイ・ミーツ・ガール
「GIGANT」ポスター
「GIGANT」ロゴ

映画会社のプロデューサーを父に持ち、映画監督を目指す高校生・横山田零。友人たちと映画祭に出品するための作品制作を進めていたある日、街でAV女優・パピコを中傷する張り紙を目にする。その夜、張り紙を剥がす横山田の前に現れたのは、憧れのパピコ本人で……。

横山田零(よこやまだれい)
横山田零(よこやまだれい)
映画監督を目指す普通の高校生。AV女優・パピコの大ファン。
パピコ
パピコ
巨乳のAV女優。Jカップの持ち主。本名はちほ=ヨハンソン。
「南総里見八犬伝」を大胆アレンジ!「スプライト」「ワンダーランド」の石川優吾が綴る巨編
「BABEL」ポスター
「BABEL」ロゴ

各地で生まれた8人の若者たちが、安房里見家の伏姫(ふせひめ)と、神の犬・八房(やつふさ)の因縁により導かれ里見家のもとに結集する伝奇小説「南総里見八犬伝」。歌舞伎、映画、ドラマ、マンガとさまざまな媒体で展開されてきた「里見八犬伝」を、石川優吾が独自のアレンジを加え綴っていく新たなる時代劇だ。

犬塚信乃(いぬづかしの)
犬塚信乃(いぬづかしの)
八犬士の1人。現在は農民として暮らしているが、かつては里見家に仕えていた。
額蔵(がくぞう)
額蔵(がくぞう)
信乃と同じくかつて里見家に仕えていた若者。信乃とは幼なじみ。
伏姫(ふせひめ)
伏姫(ふせひめ)
安房里見家の姫。里見家を救うため神の狗を探し求めていた。
ヽ大(ちゅだい)法師
ヽ大(ちゅだい)法師
八房とともに千日回峰行を終えた法師。
八房(やつふさ)
八房(やつふさ)
ヽ大の千日回峰行に付き従い、神の狗(いぬ)となった里見家の飼犬。

奥浩哉×石川優吾 対談

好きなものを描いている奥先生が羨ましかった(石川)

──本日は、ともにビッグコミックスペリオール(小学館)で連載中のおふたりの対談です。

石川優吾 僕も奥先生も、デビューは週刊ヤングジャンプ(集英社)なんですよね。

奥浩哉

奥浩哉 そうですね。僕がヤングジャンプに作品を投稿していた頃は、石川先生はすでに誌面で活躍されていらっしゃる印象でした。

石川 奥先生が「変[HEN]」で連載を始めた頃、僕はギャグマンガを描くのがしんどくなっていた時期だったんです。男の子が女の子の裸を見たがるみたいな、そういうテイストの作品をずっと求められていて、編集部からも「おっぱいをもっと描け」「最近はおっぱいが少ないぞ」とか言われていたんですよ。奥先生もそうじゃなかったですか?

 いや……僕は言われずとも描いてましたね(笑)。

石川 (笑)。確かに、奥先生は革命的にデカい形のおっぱいを描いていらして。普通大きいおっぱいを描こうとしたら、こういう(前に突き出る)形で描くんだけど、奥先生のは違うんですよね。ちょっと垂れたような形で。あれはすごいなって思ってました。「GIGANT」でも描かれてますけど、昔からこの形が好きなんですね。

 そうですね、描くならこういう形が。

石川優吾

石川 やっぱりお色気シーンがあると、読者がすごく喜ぶんですよ。奥先生も最初は「変[HEN]」で女の人のきれいなボディラインとか描いていらっしゃったじゃないですか。でも「01 ZERO ONE」を始められて。

 そもそも僕は初期に短編をいっぱい描いてたんですけど、編集部から「短編の中でこれが一番人気があったから、これを長編でやってよ」って言われて。「えっ、もうこれは1回きりの短編として考えたやつだから描けないな……」って思ってたら、もう雑誌に「連載開始」っていう予告が載ってたんですよ。

石川 あはは(笑)。それが「変[HEN]」?

 そう。「あー!」と思って。「大人って……」と思いながらやってたんですけど(笑)、「変[HEN]」が売れたから「もうちょっと自由なのをやらせてほしい」とお願いして、「01 ZERO ONE」を始めさせてもらったんです。

石川 そうやって好きなことをやらせてもらっていたのがすごいなって。僕はいつまでもギャグマンガだったり、おっぱいばかり描くのは嫌だったから、好きなものを描かれている奥先生が当時はすごく羨ましかったんです。小学館で描かせてもらえるようになってからは、イチからの出直しだと思っていたので、あんなに嫌やったおっぱいがたくさん出てくる「よいこ」っていうマンガを描いたりもしましたけど、それからだんだん好きなものを描かせていただくようになり、今に至ります。

──それこそ、「BABEL」の題材となっている「南総里見八犬伝」は昔から描きたかったそうですね。

「BABEL」より、八房。

石川 僕が小学生の頃だったと思うんですけど、NHKで「里見八犬伝」の人形劇(「新八犬伝」)をやっていて。夕方の6時くらいから放送してたと思うんですけど、たぶん奥先生もご存知ですよね?

 知ってます、知ってます。流行ってましたよね。

石川 (人形作家の)辻村寿三郎さんが人形美術を担当していて、すっごい面白かったんですよ。でもどういう話なのか、詳しくはわからなかったんです。当時の自分にはストーリーが難解すぎて(笑)。

 確かに難しくてストーリーまではよく覚えてないですね。なんか字が書いてある玉が出てきて、「あの玉が欲しい」って思った覚えはあります。「あれもらえないかな」って。

石川 あはは(笑)。「八犬伝」って要は「ドラゴンボール」みたいなものですよね。8人の仲間が8つの玉を集めて、きっかけとなった一番悪いやつを倒そうっていう。そのストーリー展開は楽しいなと思っていて、マンガ家になってから原作小説を集めるようになったんです。いずれはこれを描きたいなと思っていて。

 へええ。

「スプライト」8巻より。

石川 新人の頃って、自分はヘタだと思っていないから、「八犬伝」くらい描けるだろうと思ってたんですよ。「今はギャグとおっぱいでデビューしたけど、次は『八犬伝』を描こう」と。描けるだろうと思っちゃうんですよね。ただ、担当編集さんに「描きたいんです」って言うと、「今のお前に描けるわけない」って言われてしまう(笑)。だけどいろんなマンガを描いてキャリアを積んでいく中で、ちょっとずつ「八犬伝」に備えて練習してたんですよ。で、スペリオールで「スプライト」っていうマンガを連載していたときに、タイムスリップする作品だったので、戦国時代に飛ばしてみたりして、刀を描く練習をしたりとか。

 「スプライト」は「BABEL」の習作だった部分もあるんですか?(笑)

石川 ちょっと試してみたりして(笑)。そのときに「あ、今なら描けるわ!」って。ぼちぼちいけるなって思ったんです。

ヒロインがAV女優になった理由(奥)

 時代劇を描こうって、相当な気合いがないとなかなか思わないですよね。資料集めとか大変ですもん。

手前から奥浩哉、石川優吾。

石川 そうですね。服装に関しても、大河ドラマで使われているような衣装屋さんに行って、写真を撮らせてもらったりしてます。赤備えの着方とか、お百姓と町人と侍、それぞれのわらじの履き方とか、理解していないと描けないので。種類がたくさんあるから描き分けのしんどさはありますね。舞台もすぐ変わってしまうから、3Dとかでモデリングしようもないですし。奥さんは背景ってどうしてるんです? 「GANTZ」の大阪編とか、どうやってモデリングしてるんですか?

 ああ、あれは全部写真ですよ。撮ってきた写真を全部トレースしてるんです。

石川 あっ、あれって3Dじゃないんですか?

 違います、全部写真です。だから新たな作業としては看板を描き換えるくらいですかね。だからとにかく写真をいっぱい撮ってくるんです。それをもとに人物を描き加えていく。

石川 そうなんだ。絶対みんな3Dでやってると思って見てますよね。僕もそうだったから「いいなあ」って思ってた(笑)。

 3Dでモデリングするとしたら、バイクとか銃とか、よく出てくる無機物だけですね。シーンの都合によって3Dで何かを足したり消したり、そういうことはやってますけど。

石川 じゃあ今回の「GIGANT」も?

「GIGANT」第1話より。

 背景は基本写真です。3Dを使っているのは主人公の部屋の中とかですかね。よく出てくる場所だけ3Dで作って。外の背景は写真をトレースしてます。

石川 「GIGANT」はどういうところから着想を得たんですか?

 「GIGANT」は、女の人が大きくなる話を描こうっていうところから始まって。女の人が大きくなったら服が破れちゃう。そうすると裸になっちゃうなと。でも裸になったことを恥ずかしがってるさまばかりを描くのはあんまり気が進まないなというか、そういうのは今までにもよくあるから。じゃあ普段仕事で裸になっているAV女優の方だったらどうなるだろう……と思って、ヒロインがAV女優になりました。

石川 へええ。

 AV女優の方って普段どういう生活をされているのかがわからないので、作品を描くにあたって実際のAV女優の方に会って取材をさせてもらいました。普段はどういうふうに過ごしているのか聞いたり、部屋の中の写真を撮らせてもらったり。そのままモデルにはしなかったですけど、参考にしながら作らせてもらいました。

奥浩哉「GIGANT①」
発売中 / 小学館
奥浩哉「GIGANT①」

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映画監督志望の高校生・零がある日、街で目にしたのは、大ファンのAV女優・パピコを中傷する張り紙だった。深夜、家を飛び出し張り紙を剥がしてまわる零に声をかけた1人の女性。それは──。
まだ誰も目にしたことのない、全く新しいボーイ・ミーツ・ガールが幕を開ける!!

石川優吾「BABEL①」
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奥浩哉「GIGANT①」

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あの歴史的伝奇小説「八犬伝」を石川優吾が大胆にアレンジ!
新しく、怪しく、艶やかに紡がれる新感覚時代絵巻!
里見家の伏姫と神の狗・八房の因縁により導かれし8人の若者たち。
壮大なスケールで描かれる運命の物語に刮目せよ!

奥浩哉(オクヒロヤ)
1967年9月16日福岡県出身。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはテレビドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載された「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」を連載。イブニング2017年16号にて完結し、アニメ、実写映画が展開された。2017年12月からはビッグコミックスペリオール(小学館)にて「GIGANT」を連載中。
石川優吾(イシカワユウゴ)
1960年2月9日大阪府四條畷市生まれ。1982年、ヤングジャンプ新人増刊号(集英社)にて「革命ルート163」でデビュー。1994年にビッグコミックスペリオール(小学館)にて「お礼は見てのお帰り」を連載、好評を博しドラマ化される。続く1996年、週刊ビッグコミックスピリッツにて「よいこ」を連載開始。女子大生のような外見を持つ小学生を描きヒット作になる。同作は1998年にアニメ化された。2002年に週刊ヤングサンデー(小学館)にて「格闘美神 武龍」、翌年には週刊ヤングジャンプ(集英社)にて、河童をペットにした家族を描いた「カッパの飼い方」をスタート。両作品ともアニメ化されている。2009年から2015年にかけてはビッグコミックスペリオールにて「スプライト」を連載。同じくスペリオールでは「ワンダーランド」「今日からゾンビ!」(原作担当)といった連載を行い、2017年12月からは伝奇小説「南総里見八犬伝」を題材とした「BABEL」を連載している。