「GIGANT」「BABEL」奥浩哉×石川優吾|共通点は犬と人形? “好きなことをしていい”雑誌で、今2人が描きたい物語

2話目描くのってしんどくないですか?(石川)

石川 (スペリオールを読み返しながら)2話目を描くのってしんどいですよね。

 2話目がしんどい……?

石川 あれっ、そんなことないですか?

 どの辺がしんどいんですか?

手前から奥浩哉、石川優吾。

石川 言うたら第1話って出落ちできるじゃないですか。ドン、ドーンって、「これが見せ場だよ」といきなり入っていって、「こんなキャラですよ」と印象づけて。それが2話目になると、主人公はこいつやけど、さあこいつが何をするのかっていう段取りをちょっとずつ入れていかなきゃいけないから、いつも2話目ってしんどいなと思ってて。

 そっか……。

石川 奥先生はもうスタートダッシュしてしまったらそのあとは全然変わらない?

 ずっと変わらないですね、僕は。テンションの上がり下がりがまったくなくって。

──(笑)。「このシーン描きたい!」って気合いが入ることもなく?

 「ああ、描きたいとこきたなー」くらいのテンションですね。ネームもテレビ見ながら1~2時間くらいでやる感じです。

石川 ネームに悩んでどうしようもないっていう人の話を聞くと、すごく大変そうですよね。

 そうなんですよ。それをよく聞くので、僕の場合はなんとかなってるからすごくラッキーだなって思ってます。

石川 僕もネームは1~2時間なんです。僕の場合は、寝て起きた直後じゃないとできない。ウトウトしながら「次どうしようかな」って考えていて、起きたときに覚えてるものを忘れないうちに描かなきゃってアウトプットしている感じ。答えが出ないのはわかってるから、考えすぎちゃう人は大変だなと思います。

──頭の中に浮かんだ映像をそのまま起こしていくみたいな形なんですね。

石川 僕はそうですね。脳内でストーリーが動画になっているので、アニメを観ていてそれのスクリーンショットを撮っていくだけの感覚。だからしんどくはないんです。

石川優吾

2人の共通点は球体関節人形

──ちなみにおふたりはこれまでにも交流はあったんですか?

 出版社のパーティーでお会いする感じでしたよね。

石川 そうですね、そこでお話させていただいて。先生の奥さんが、球体関節人形がお好きなんですよね。

 あ、そうそう。うちの妻もTwitterをやっているんですけど、なぜか石川先生とつながっていて(笑)。

石川 僕も球体関節人形に一時期ハマっていたので。

手前から奥浩哉、石川優吾。

 うちも、もともと僕が一時期集めてたんです。それで妻に「こういうのがあるよ」って教えたら、僕よりハマっちゃったんですけど。僕は球体関節人形に限らず、立体だったらなんでも好きなんです。プラモデルとか、自分で作る趣味はないんですが、完成品だったら車でも女の子でもマッチョな体の男のフィギュアでも、出来がよかったら全部ほしくなっちゃう。

石川 僕もまったく同じ。水着の女の子のフィギュアとか、全然観たことないアニメのものでも、よくできてるなと思ったら買っちゃうんです。

 そうなんですよ。僕もアニメのフィギュアとかいくつか持ってるんですけど、なんのアニメかは全然知らない。なんていう名前のキャラなのかも知らないっていうのばっかりですね、だいたい。

石川 奥先生はその立体への思いが3Dまでいっちゃうんですよね。うちもShade3D(3DCG制作ソフト)を買って、1回試してみようと思ったことがあるんですよ。3Dとはいえ、自分で立体が作れればと。でも理解できなかったです。

 僕はもともと趣味でMacを使い始めてた頃に、3Dソフトがいっぱい出てきて、それをいじるのが好きで触り始めたんです。

石川 それは「01 ZERO ONE」の頃?

 「変[HEN]」を描いてたときの途中くらいから。

石川 「変[HEN]」でもうやってたの? 早いですね。

 その頃は趣味でやってました。「変[HEN]」が終わったあとに、「01 ZERO ONE」では背景も3Dでやれないかなと考えて、CGスタッフばかりを雇って。背景は3Dと写真でやっていましたね。

石川 彼ら(CGスタッフ)って絵心はあるんですか?

 ないです。うちのスタッフは未だにみんな絵は描けないですよ。だからやってもらっているのは全部3Dです。

「GANTZ」文庫版1巻 Ⓒ奥浩哉/集英社

©奥浩哉/集英社

石川 そうなんだ。「GANTZ」のスーツとかは、あれは3Dで何かに着せてるんですか?

 違います、あれは全部僕が手で描いてるんです(笑)。

石川 描いてる? そうなんや!(笑) 手描きと思えへんかった。

 メカとか、パワードスーツみたいな「ハードスーツ」っていうものも出てくるんですけど、あれも手で描いてます。仏像星人とかも全部手で描いてる。

石川 マジで? そうやったんや(笑)。

 うちのスタッフは有機物を作るのがすごく苦手で。建物とか、銃みたいな無機物は作れるんですけど、人間みたいなものは作れないので。だから僕が手で全部描いてるんです。

石川 マネキンみたいにひな形を作っておいて、それにスーツを着せてるんかなって思ってました。

 いやいや、全然。僕がイチから手で描いたほうが早いので(笑)。後からアシスタントで入って来られた方とかに、「あの仏像の3Dデータはどこにあるんですか?」って聞かれることがあるんですけど、「ない。あれは手で描いてるから」って言うと「あ、そうなんですか!」って驚かれます。

手前から奥浩哉、石川優吾。

石川 そうかあ、手描きだったのか。でも確かに、スーツを着ているキャラクターのおしりとか、光の入り方が丸みを帯びていて、3Dにしては肉質が出ているなと思ってたんです。納得しました。よくいるじゃないですか、パソコンとかデジタルに頼ってると手を抜いてるんじゃないかとか。「ぬくもりがない」とか、「あったかみがない」とか言う人が。

 いや、僕ね、よくインターネットとかに「3Dデータで人間を作ってるから動きが硬い」とか書かれてるんですけど、「いや、手で描いてるんだけどな……」って(笑)。「表情が硬い」とか書かれてるんですけど、そのたびに「手で描いてるんだけどな……」って思ってて(笑)。

石川 あはは(笑)。

 メイキングとかはよく雑誌とかに載せてるんですけど、それでもやっぱりフル3Dでやってると思われてるんですよね。だから僕がちょっとTwitterで鉛筆画みたいなのを載せたら、「貴重な手描き!」みたいな感じでリプライが返ってくることもあって。いつも手描きなのに……(笑)。

石川 あはははは(笑)。そうかあ。僕はここ20年くらい、唯一楽しみに読み続けてたマンガが「GANTZ」だったんですよ。

 ああ、そうなんですか。ありがとうございます。

奥浩哉

石川 ただ最近は老眼になってきて、マンガをあんまり読めてないんですよね。

 それって描くのも大変ってことにはならないんですか?

石川 描くときは原稿の近くに顔を持っていけばいいだけなんで、度の強いメガネをかければ、見開きでどうなってるかは見えるんです。ただマンガを読むとなると、紙を捲るスピードがあるじゃないですか。それにあわせていちいちメガネをかけて見るのが疲れるんです。奥先生はまだ目は全然大丈夫なんですか?

 僕はまだ見えてますね。

──石川先生が老眼について言及されていたツイートは、Twitterでも話題になっていましたね。

石川 最近自分がそうなって初めて「マジか!」と思ったんです。そういやそうかって。若いときは1日10何枚、下書きからペン入れまでできてたのに、今は2、3枚やるとピントが合わないんです。

 そうなんだ……。

石川 名だたるマンガ家さんたちが、なんでこんな絵になってるんだろうって思うことがあって。あれってやっぱり見えなくなって、あとは自分の脳内で補正してはるんじゃないかって。大御所のところになると、アシスタントさんも還暦迎えてたりするから、みんなが見えてない状態で描いてるのかもって思ったんです。僕自身も中途半端な距離のところは勘で描いたりしますから。そのあとメガネを掛けてもう一回チェックしたり。だから描き続けるうえでは、そういうことも考えておかないといけないですよ。奥先生も今後悩むことがあるかもしれない。

 (しみじみと)怖っ……(笑)。

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あの歴史的伝奇小説「八犬伝」を石川優吾が大胆にアレンジ!
新しく、怪しく、艶やかに紡がれる新感覚時代絵巻!
里見家の伏姫と神の狗・八房の因縁により導かれし8人の若者たち。
壮大なスケールで描かれる運命の物語に刮目せよ!

奥浩哉(オクヒロヤ)
1967年9月16日福岡県出身。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはテレビドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載された「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」を連載。イブニング2017年16号にて完結し、アニメ、実写映画が展開された。2017年12月からはビッグコミックスペリオール(小学館)にて「GIGANT」を連載中。
石川優吾(イシカワユウゴ)
1960年2月9日大阪府四條畷市生まれ。1982年、ヤングジャンプ新人増刊号(集英社)にて「革命ルート163」でデビュー。1994年にビッグコミックスペリオール(小学館)にて「お礼は見てのお帰り」を連載、好評を博しドラマ化される。続く1996年、週刊ビッグコミックスピリッツにて「よいこ」を連載開始。女子大生のような外見を持つ小学生を描きヒット作になる。同作は1998年にアニメ化された。2002年に週刊ヤングサンデー(小学館)にて「格闘美神 武龍」、翌年には週刊ヤングジャンプ(集英社)にて、河童をペットにした家族を描いた「カッパの飼い方」をスタート。両作品ともアニメ化されている。2009年から2015年にかけてはビッグコミックスペリオールにて「スプライト」を連載。同じくスペリオールでは「ワンダーランド」「今日からゾンビ!」(原作担当)といった連載を行い、2017年12月からは伝奇小説「南総里見八犬伝」を題材とした「BABEL」を連載している。