「GIGANT」「BABEL」奥浩哉×石川優吾|共通点は犬と人形? “好きなことをしていい”雑誌で、今2人が描きたい物語

「本当にこの人は存在しているんじゃないか」と思わせたい(奥)

石川 1巻は日常のシーンが多いですよね。

 最初のうちは人物を描き込んでいかないと、ただでっかくなるところだけを描いても意味がないなと思ったので。女性キャラをできるだけ掘り下げる方向で作っていってます。

──過去のコミックナタリーのインタビューで、奥さんはご自身の作品で描いていることは「『ドラえもん』の世界観に近い。日常の中にちょっと不思議なものが入り込んでくる、その感じをリアルに描くというのが好き」と語っていました(参照:奥浩哉「いぬやしき」×久慈進之介「PACT」特集、異なる作風のSF作家対談)。

「GIGANT」より、横山田とパピコの会話シーン。

 たぶんそのときに話したことと、今回はまた別で。そのときは「不思議な出来事が本当に起こっているかのように見せたい」っていう感じだったんです。「GIGANT」でやっているのは、どちらかというと「本当にこの人は存在しているんじゃないかな」というか、“実際に生きている気がする”というふうに思わせたいなと、最終的にそれぐらいまでいけたらいいなと思って描いてます。

石川 「GANTZ」の最後に、デカい宇宙人が出てきますよね。あれを地球人の女の子で描いてみようっていう、そういう流れで巨大化しようと思ったんですか?

「GIGANT」より。パピコの巨大化を即座に受け入れ、撮影に挑むAV監督。

 あれはあくまでもクリーチャーの1つとして、宇宙人として描いてました。それとは別の発想で、普通の女の子が大きくなって、そのうえ裸だったらインパクトがあるんじゃないかなと思ったのが始まりです。服を着ながら巨大化する作品ってマンガに限らず何百とあるじゃないですか。それこそ今流れているCMでもありますし。だけどそれが裸になると結構なインパクトがあるんじゃないかと。ただ、この作品はアニメ化と実写化はできないですね。ヒロインが全裸になっちゃうので(笑)。

──女性キャラが巨大化することに対して“萌え”を感じる層も一定数いる印象です。

 そういう方々がいることも知っていますし、そういう層にもウケたらうれしいなって思ってます。それ以前に、僕が人間が大きくなるところを描いてみたかった感じですかね。うちの技術でどこまでできるのかっていうのを試してみたかったんです。

奥浩哉

マンガ家としての最終目標が「八犬伝」だった(石川)

──「BABEL」は原作が巨編なので、アレンジを加えたり、エピソードをカットしていくこともあると思うんですが、そのあたりはどういうふうに考えているんですか?

石川 原作をそのままやろうとすると、10巻、20巻くらいまで何も起きないんですよね。原作は犬塚信乃の生い立ちとか、そういうところをじっくり書くところから入っていくので。

 へええ、そうなんですか。

「BABEL」より。信乃と伏姫たちの出会いのシーン。

石川 週刊誌だったら5巻ぐらい使ってそのあたりをやれたかもしれないけど、やっぱり読者さんも付き合っていくのが大変だと思うので。だから敵を早めに出したりとか、ちょっとずつストーリーをズラしていってます。時代も80年ぐらいズラして、戦国時代に寄せてますね。そこまで細かくは決めていないんだけど、1人だけ、どうしても信乃と会っていただかないと困る武将がいるので。そうじゃないとタイトルを「BABEL」にした意味がなくなっちゃうんです。

 「BABEL」っていうタイトルは、描きたいエピソードがあってのものなんですね。

石川 ええ。自分で「魔王」と名乗っていたちょっとおかしな人がいるんですけど、あの人と関係する話にしたくて。僕は「BABEL」で光と闇の戦いを描きたいんです。千葉県の南総だけで起きていることだけじゃなく、日本の列島の物語にしたくて。それぞれの宗教観の違いっていうのを土着的なものと絡めて描いていきたいなと。

 じゃあ後半まで構想を決めてから描いている。

「BABEL」より。光の力が襲われかけた伏姫の体を護る。

石川 はい。だからちゃんと単行本が売れ続けてくれたら8人出せるんやけど、もし売れなかったら、八犬士のうち1人目の犬塚信乃で終わる可能性はあるんで、ここがせちがらいところですよね。先の展望まで考えていたとしても、描けない可能性がある。

 このペースだと、普通に描いていったら何十巻も続きそうな感じですよね。

石川 1人ひとりが何かと戦うことになりますからね。本当は1人を描いていくのに1巻ずつのペースでもいいかなと思うぐらいですけど、1巻できっちり描ききるのは難しいですから。最後まで描き続けられるよう、なんとか売れてほしいです。僕はマンガ家としての最終目標が「八犬伝」だと思ってたから、これが描き終わったら描きたいことってもうそんなにないんです。

 そうなんですね。

石川 「ワンダーランド」からの流れでスペリオールで描かせてもらってますけど、それも(菊池一)編集長が「好きなことをしていいよ」っていう考えの方だから描けているだけであって、人が違えば「なんで今『八犬伝』なんか描くんだ」って言われるかもしれない。そうしたらまた違うところを探さなきゃいけないと思ってたんですけど。社風というか編集長次第で雑誌の風向きって変わると思うので、スペリオールはそういう考えの編集長だったお陰もあって、今「八犬伝」を描けてるんだと思います。

 そうですね。僕も「GIGANT」はやりたい放題やってる感じなので助かってます。

石川優吾

お気に入りの1コマ

──それぞれ、1巻の中でお気に入りのコマを挙げるとしたらどこですか?

「GIGANT」第1話より、奥浩哉が選んだお気に入りの1コマ。

 僕は第1話で主人公がパピコと出会うコマですね。ここはヒロインの初登場シーンなので、きっちり描いておかないとと思ってたんですが、自分の中では顔もよく描けたかなと思ってます。

石川 僕は1巻の信乃の顔はほぼ全部描き直したんですよね。主人公の顔って、10話ぐらい描かないと慣れなくって。だから7、8話目まで描いたあたりで、決めゴマだけでも描き直したいなと思って。1巻部分は単行本化にあたり、大幅に直しています。第2話も10枚ほど加筆修正したんです。

 そうなんですか。

「BABEL」第1話より、石川優吾が選んだお気に入りの1コマ。

石川 あと、連載のときとは違って信乃に脚絆(きゃはん。労働や旅の際にすねに着けて足を保護する布)を履かせたんです。地侍やったから最初は素足にしてたんやけど、どうもカッコ悪いなってずっと思ってて。auのCMに出ている浦ちゃん(桐谷健太扮する浦島太郎)を見て、「あの人がカッコいいのはなんでかな」って思ったら、脚絆をちゃんと履いてたんですよね。それを見て、膝から下が素足ってダサいんやなって思ったんです。それも全部描き直して。気に入っているコマは……やっぱりここだな。第1話の1ページ目。浮世絵で有名な絵をオマージュしたんです。

 これ、浮世絵なんですか。

石川 今後も東海道五十三次とか、浮世絵をモチーフにしたコマを入れていこうと思ってます。

──わかる人が見たら「あ、これは」と気付いて楽しめそうですね。おふたりの作品の共通点は何かなと考えていたんですけど、よく犬が出てきますよね。今回も「里見八犬伝」はもちろんですけど、「GIGANT」にもパピコのペットとしてコーギーが登場しています。

「GIGANT」より、パピコの愛犬もち。 「BABEL」より、子犬の頃の八房。

石川 犬を描くのは楽しいですからね。

 僕は犬が好きなので。石川先生も犬がお好きなんですか?

石川 はい。猫も飼ってるけど犬も飼っていて。生まれたときから絶対家に犬がいたんです。やっぱり犬はかわいいですよね。(パピコが飼っている)もちはなんでコーギーにしたんですか?

 コーギーの子犬がすごくかわいかったからです(笑)。

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映画監督志望の高校生・零がある日、街で目にしたのは、大ファンのAV女優・パピコを中傷する張り紙だった。深夜、家を飛び出し張り紙を剥がしてまわる零に声をかけた1人の女性。それは──。
まだ誰も目にしたことのない、全く新しいボーイ・ミーツ・ガールが幕を開ける!!

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あの歴史的伝奇小説「八犬伝」を石川優吾が大胆にアレンジ!
新しく、怪しく、艶やかに紡がれる新感覚時代絵巻!
里見家の伏姫と神の狗・八房の因縁により導かれし8人の若者たち。
壮大なスケールで描かれる運命の物語に刮目せよ!

奥浩哉(オクヒロヤ)
1967年9月16日福岡県出身。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはテレビドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載された「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」を連載。イブニング2017年16号にて完結し、アニメ、実写映画が展開された。2017年12月からはビッグコミックスペリオール(小学館)にて「GIGANT」を連載中。
石川優吾(イシカワユウゴ)
1960年2月9日大阪府四條畷市生まれ。1982年、ヤングジャンプ新人増刊号(集英社)にて「革命ルート163」でデビュー。1994年にビッグコミックスペリオール(小学館)にて「お礼は見てのお帰り」を連載、好評を博しドラマ化される。続く1996年、週刊ビッグコミックスピリッツにて「よいこ」を連載開始。女子大生のような外見を持つ小学生を描きヒット作になる。同作は1998年にアニメ化された。2002年に週刊ヤングサンデー(小学館)にて「格闘美神 武龍」、翌年には週刊ヤングジャンプ(集英社)にて、河童をペットにした家族を描いた「カッパの飼い方」をスタート。両作品ともアニメ化されている。2009年から2015年にかけてはビッグコミックスペリオールにて「スプライト」を連載。同じくスペリオールでは「ワンダーランド」「今日からゾンビ!」(原作担当)といった連載を行い、2017年12月からは伝奇小説「南総里見八犬伝」を題材とした「BABEL」を連載している。