フルーツ宅配便 鈴木良雄インタビュー 仲里依紗 / 徳永えり / 山下リオ / 北原里英 コメント|デリヘルを舞台に、人間目線で描く男女の悲喜こもごも

結論を描くと薄っぺらくなってしまう気がする

──コミカルにオチが付くお話もあれば、読んでいてつらくなるお話もありますし、「このあとどうなっていくんだろう?」と余韻が残るお話もあると感じます。

鈴木良雄

ああ、それよく言われるんですよね。「これ途中なんじゃない?」って(笑)。自分の中では完結してるんですけど、そこは読む人とのギャップがあるかもしれないです。

──「この人はよくない選択をしてしまったのではないか」と、これからもうひと騒動起こりそうなところで終わるお話もけっこうある印象です。たぶん起承転結で言うと……。

「転」ぐらいで終わっちゃうみたいな(笑)。それはよく言われます。でもそれも自分の中では全部完結しているつもりなんです。あとは想像にお任せしますみたいな。不幸な展開で終わった話に、そのあと幸せが訪れる展開を想像してもらっても自分としては全然構わない。こっちで結論を出すとなんとなく薄っぺらくなる感じがするんですよね。世の中って、ほとんどのことは結論とかあまり出ないじゃないですか。なのでこちらで全部描かなくてもいいんじゃないかなと思うんです。

「フルーツ宅配便」3巻収録の「洋梨」より。病気がちな母と2人で暮らすデリヘル嬢の洋梨。しかし客として出会った妻子持ちの男性・ヤナギに惹かれた洋梨は、デリヘルを辞め、母親を置いて彼のもとへ行くのだと言う。

──確かに実際の人生で考えたら、何か問題が起きたとき、必ずしも具体的な解決で終えられることばかりじゃないですもんね。あとあと「気付いたら終わっていたな」と思ったり、それが日常に溶け込んでいたり。

そうですよね。抱え続けたり、うやむやで終わっちゃうこともある。だから作品でもあんまり説明したくないなっていうのはあるかもしれないです。

──ビッグコミックオリジナルで連載されている作品ということもあり、読者層は成人男性が多いかと思うのですが、鈴木さんご自身ではこんな人にこの作品を読んでほしいという思いはあるんですか?

もちろんどんな方にでも読んでほしいですけど、ターゲット層みたいなものはあまり意識したことはないです。ただ、あんまり意地の悪い人が読んでもつまらないかなとは思います。例えば、電車でお年寄りが目の前に立っていても全然平気な人に向けては描いてないかなと。席を譲ろうかどうか悩んでる、譲りたいんだけど恥ずかしくて譲れない、という人に向けて描いてるかもしれないです。

「フルーツ宅配便」5巻収録の「ドラゴンフルーツ」より。上司に嫌われているサラリーマンのヤスダは、その鬱憤を晴らすかのようにデリヘル嬢に厳しく当たる。電車の中で隣席の女性がお年寄りに席を譲る姿を見て、彼は何を思うのか。

──そう聞くと、完全なる悪は作中でちゃんと制裁を受けている印象があります。

もしかしたらそういう価値観が自分の中であるのかもしれないですね。

──「恥ずかしくて席を譲れない」タイプの人間もたくさん出てきますよね。そんな人が葛藤している姿もよく見受けられます。

ただただ嫌な奴とか、意味もなく優しい人よりは、そういう人のほうがもっと深く人間を描けるのかなと思います。内面が豊かというか、いろんなことを考えてるような気がするので、なんとなくドラマになりやすいんじゃないかなと。精神的に強いとか、自分で物事を決めてどんどん進んでいくような人だと物語の幅が決まってしまう。繊細に生きている人を描くほうが、最後まで展開がわからないストーリーが描けるような気がしています。

何が正解かと考えてしまった2つのエピソード

──では、鈴木先生ご自身が印象に残っているエピソードを挙げるとしたらどの話になりますか?

「パッションフルーツ」と「デコポン」の回は印象に残っていますね。自分でもどうしてそれが印象深いのか、明確にはわからないですけど。「パッションフルーツ」はおじいさんが自分の息子を殺してしまうという、切羽詰まった状況の話でした。

パッションフルーツ

FRUIT.46[パッションフルーツ](単行本第6巻収録)

学費と家賃を稼ぐため、フルーツ宅配便でパッションフルーツとして働く大学生のリホ。デリヘルで働いていることを知った彼氏に、「家族のことを知りたい」と問い詰められたリホは自身の過去を語りだす。

  • 「フルーツ宅配便」6巻収録の「パッションフルーツ」より。大学生のリホがデリヘルで働くのには、とある事情があった。
  • 幼少期、父親と祖父と3人で暮らしていたリホは、父親から虐待を受けていた。

おじいさんの行動には正解がないというか、自分でも何が正解なのかと考えてしまったから、余計に印象に残ってるのかな。「デコポン」も同じような感じで。突然命の危機にさらされたときに、自分を犠牲にして人を守れるだろうかと考えてしまって。

デコポン

FRUIT.47[デコポン](単行本第6巻収録)

空き缶を回収しながら日々を1人で過ごす中年は、ある日拾った財布の中にフルーツ宅配便のデリヘル嬢・デコポンの名刺を見つける。彼女を指名してホテルに呼び出した中年は、彼女に財布を返すと、「お金も性欲もないが、代わりに少し話をしてほしい」と言う。デリヘル嬢として働くデコポンを「尊敬する」という中年は、自身の過去を話し始める。

  • 「フルーツ宅配便」6巻収録の「デコポン」より。デリヘル嬢・デコポンの名刺を拾った中年男性はホテルの一室に彼女を呼び出すが、サービスを受けられるお金はなく、ただ女性と話してみたかったのだと語る。
  • 久しぶりに人の温もりに触れた男性は思わず涙をこぼす。

──自分も父の立場だったら、妻子を守って犠牲になれるだろうかと考えてしまいました。自分だって恐怖に負けて逃げ出したくなるんじゃないかと。

そうですよね。自分も思っちゃいますもん。犯人をやっつけられればいいんですけど、みんながみんなそういう勇気ある行動を取れるかというとわからないなと。そうやって自分でも考えたことが印象に残ってるのかもしれないです。

「デコポン」より。若い頃、バスジャックに巻き込まれた男性は、恐怖から妻子を置いて逃げ出してしまったと明かす。

──「デコポン」も明確なオチのないエピソードですよね。

そうですね。読者からしたら「終わりかよ」って感じかもしれない。でもそれ以上は描けないなと思ったんです。

──そういった続きを想像できるエピソードを描かれるとき、鈴木さんご自身の頭の中には「この人はこうなっていくんだろうな」という続きはあるんですか?

いや、ほとんどないですね。次の話いかなきゃって感じになっちゃうので(笑)。

担当編集 締め切りに追われてますからね(笑)。

──そんなに1人のことをずっと考えているわけにもいかないと(笑)。

思いっきり仕事的な話ですみませんけども(笑)。

──でも確かに、人と付き合っていく中で、常にその人のことばかり考えてもいられないことってありますよね。薄情にならなきゃいけない瞬間もあるというか。

そうなんですよ。いくらその人が好きであっても。マンガのキャラもたぶんそれと同じなんだと思います。

鈴木良雄「フルーツ宅配便⑦」
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現代社会で行き場のない貧困女子が流れ着く場所、デリバリー・ヘルス。もし、離婚して養育費を受け取れなかったら……。もし、親の介護で、今の仕事を辞めたら……。誰もが陥るかもしれない人生の困難、誰の手も届かない絶望と孤独が、ここにある。

ドラマ「フルーツ宅配便」
2019年1月11日(金)より毎週金曜24:12~
放送局:テレビ東京系(テレビ東京、テレビ北海道、テレビ愛知、テレビ大阪、テレビせとうち、TVQ九州放送)※テレビ大阪のみ翌週月曜24:12~放送
スタッフ

原作:鈴木良雄「フルーツ宅配便」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載)
脚本:根本ノンジ
監督:白石和彌、沖田修一、是安祐

キャスト

咲田真一:濱田岳
本橋えみ:仲里依紗
小田哲郎:前野朋哉
みず子:原扶貴子
みかん:徳永えり
イチゴ:山下リオ
レモン:北原里英
マサカネ:荒川良々
ミスジ:松尾スズキ

鈴木良雄(スズキヨシオ)
鈴木良雄
2014年、「田園にかこまれて」で小学館の「第1回ビッグ&オリジナル合同新作賞」の大賞を受賞。2015年よりビッグコミックオリジナル(小学館)にて、デリヘルを舞台にさまざまな人間の悲喜こもごもを描く「フルーツ宅配便」を連載。同作は2018年の「第21回文化庁メディア芸術祭」にてマンガ部門の審査委員会推薦作品に選ばれた。2019年1月からは濱田岳主演によるTVドラマがオンエアされる。