フルーツ宅配便 鈴木良雄インタビュー 仲里依紗 / 徳永えり / 山下リオ / 北原里英 コメント|デリヘルを舞台に、人間目線で描く男女の悲喜こもごも

TVドラマ「フルーツ宅配便」の放送が、1月11日にテレビ東京系にてスタートする。ビッグコミックオリジナル(小学館)で連載されている鈴木良雄の同名マンガを原作とする同作は、ひょんなことからデリヘルの店長になった普通の男・咲田真一を主人公に、彼の店で働く訳あり女子の人間ドラマを描く作品。主演は濱田岳、監督は「孤狼の血」の白石和彌、「南極料理人」の沖田修一らが務める。

コミックナタリーでは「フルーツ宅配便」のドラマ化を記念し、原作の魅力に迫る特集を展開。40歳でマンガを描き始め、投稿作がそのままデビュー作となり、さらには初の連載作がドラマ化を果たしたという作者の鈴木に、デリヘルを舞台に“裸が一切出ない”本作を執筆した経緯や、制作の裏側を聞いた。またドラマに出演する女性キャストの仲里依紗、徳永えり、山下リオ、北原里英からのコメントも掲載。女性目線で作品の魅力を語ってもらった。

取材・文 / 熊瀬哲子 インタビュー撮影 / 入江達也

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フルーツ宅配便

会社の倒産をきっかけに故郷に帰ってきた主人公・サキタは、偶然再会したミスジの誘いでデリバリーヘルス「フルーツ宅配便」の店長を務めることに。みかん、イチゴ、レモンなど、フルーツの源氏名で働くデリヘル嬢を中心に、さまざまな登場人物の悩みや問題を時に厳しく、時におかしく描いていく。マンガはビッグコミックオリジナル(小学館)にて連載中。2018年には「第21回文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門の審査委員会推薦作品に選ばれるなど評価の高い作品だ。

TVドラマはテレビ東京系にて1月11日に放送スタート。主人公の咲田真一役は濱田岳が務め、仲里依紗、荒川良々、松尾スズキら個性豊かなキャスト陣が出演する。またデリヘル嬢役として、徳永えり、山下リオ、北原里英ら女優が名を連ねた(参照:ドラマ「フルーツ宅配便」徳永えり、山下リオ、北原里英らデリヘル嬢役が一挙解禁)。監督は「彼女がその名を知らない鳥たち」「孤狼の血」の白石和彌、「南極料理人」「モリのいる場所」の沖田修一らが務める。

  • 「フルーツ宅配便」原作イラスト
  • ドラマ「フルーツ宅配便」より、濱田岳演じる咲田真一。

女性キャスト4名からコメントが到着!

仲里依紗(本橋えみ役)

  • 本橋えみ役の仲里依紗。
  • ドラマ「フルーツ宅配便」より、仲里依紗演じる本橋えみと、濱田岳演じる咲田真一。
  • 好きなシーン
  • 牧場のシーンです。咲田君とデートで牧場に行って、牛の乳しぼりをしたりしたんですけど、そのシーンは、えみが初めて笑っているシーンで、そういう楽しんでいるところが私自身も楽しかったなというのはありますね。

  • 本作の面白さ
  • デリヘルというキーワードだけを聞くと過激な感じで、見ていいやつなのかなという風に一瞬思いがちですけど、本を読んだら、ほんとあったかい人間ドラマなんですよね。人生いろんなことがあってこの仕事をしているっていう、壮絶な人間ドラマが繰り広げられるので、すごく見ごたえがありますね。

徳永えり(みかん役)

  • みかん役の徳永えり。
  • ドラマ「フルーツ宅配便」場面写真

デリヘルの仕事にプライドを持ち、我が子を育てる為に働くみかんはとてもカッコいい女性だと思います。
本作は味わい深い様々な人生が描かれているので、是非楽しんでご覧いただけたら嬉しいです。

山下リオ(イチゴ役)

  • イチゴ役の山下リオ。
  • ドラマ「フルーツ宅配便」場面写真

ただ幸せになりたいだけなのに上手くいかない。そんな不器用なキャラクターがたくさん登場します。
弱さや欲、闇を抱えた人たちは、人間臭く、時に悲しく苦しくなりますが、それをポップに、生々しく可笑しく描くこの作品は、この漫画が原作だからこその魅力だと思います。
是非、たくさんの方にご覧頂きたいです!

北原里英(レモン役)

  • レモン役の北原里英。
  • ドラマ「フルーツ宅配便」場面写真

私が演じるレモンちゃんは、まるでデリヘル嬢らしくない子ですが、何事にも一生懸命なところ、だけど上手くできない不器用なところがとても魅力的です。
このドラマをご覧になった方にその魅力が伝われば良いなと思います。

鈴木良雄(原作者)インタビュー
鈴木良雄

デリヘルのマンガを描きませんかと提案されて、「マジか」と

──「フルーツ宅配便」はデリヘルを舞台とした物語ですが、作中に性的な描写は一切なく、人間ドラマを主軸に描かれているということもあり、ついついデリヘルのことを忘れてしまうときがあります。

裸とか出てこないですもんね。

──なので女性でも読みやすく、どこか共感できる部分のある作品だと感じています。鈴木さんはもともとデリヘルを題材に作品を描こうと思っていたんですか?

僕のほうから「やりたい」と言ったわけじゃないんですよね。編集さんに「デリヘルを舞台にマンガを描きませんか?」と提案されて、「マジか」って。僕もビックリしました(笑)。

担当編集 鈴木さんのデビュー作となった「田園にかこまれて」は、地方都市のスーパーを舞台に、店員さんとお客さんのほのぼのとする交流を描いた作品だったんですが、そのドラマに何か1つ興味を引くような要素をプラスして連載できないかと考えたんです。当時の編集長とシングルマザーや女性の貧困の問題について話をしていて、そういった社会性のある厳しいテーマを、鈴木さんの柔らかな絵柄で描くことで化学反応を起こせないかという企画意図がありました。

──「デリヘル」と聞いて、拒否反応みたいなものはなかったですか?

それは全然なかったです。ただ僕は利用しているタイプでもなかったので、どうやって物語を作ればいいんだろうとは思いました。編集さんからいただいた資料を見ているうちに、確かに裕福な人はデリヘル嬢にならないだろうと思ったし、その仕事に就いている90%くらいの人はお金が目当てだということを聞いたので、お金に困っている登場人物を中心とした物語になっていきました。

「フルーツ宅配便」では、デリヘル嬢たちのさまざまな思いが綴られる。

──毎回異なる女性を主人公に描いていますが、お話のアイデアはどういったところから生まれるのでしょう。

ほぼ想像なんですよね。あとは人と話したり、テレビを観たりするときにちょっと引っかかったことがあったらメモを取って、それを広げていくみたいな感じ。モデルがいるとか、実在する人をそのまま描くってことはまずないです。

──例えばデリヘル嬢の方に取材をして、そのエピソードを基に描くことは?

以前デリヘル嬢をやっていたっていう人と、今も勤めてる人に話は聞きました。でもけっこう平和なんですよね。「楽しいっスよ」ぐらいな感じで(笑)。あっけらかんとしていて、悲壮感みたいなものはあんまり感じなかったです。だから実際はそんなもんなのかなと思いました。

──「フルーツ宅配便」の中にも、思わず笑ってしまうようなあっけらかんとしたお話もたくさんありますよね。

最初の頃はけっこうキツい話が多かったと思うんですけど、周りの友達とかに聞くと、やっぱりハッピーエンドのほうが望まれるんですよね。みんなハッピーエンドが好きなんだっていうのは、マンガ家になって周りに意見を聞いてから初めて知りました。だけどハッピーエンドにしようとすると描けない話もあって。厳しいことを描かないと伝えられないこともあるので、キツい話とまろやかな話、満遍なくやっていこうかなと思ってます。

人間ドラマをいかにデリヘルにつなげるか

──第5話「アケビ」では、デリヘル嬢のアケビが常連のお客さんから結婚することを告げられますが、切ないお話なのかと思いきや、結婚後も週1でアケビを指名しているというオチがあって、思わず笑ってしまいました。

読者を裏切りたいっていうのはあるかもしれないですね。それまでの展開を裏切ったほうが面白いのかなと。

アケビ

FRUIT.5[アケビ](単行本第1巻収録)

フルーツ宅配便の常連客・折口さん(通称オリさん)は、毎回ツッコミの厳しいSキャラのアケビを指名する。ある日、店外デートありの6時間コースでアケビを指名したオリさんは、もうすぐ親が見つけてきた女性と結婚することを報告する。「もっと若くて自分に自信があったらアケビにプロポーズしたかった」と話すオリさんに対し、アケビは……。

  • 「フルーツ宅配便」1巻収録の「アケビ」より。常連客のオリさんに対して辛辣なツッコミを飛ばすアケビ。
  • オリさんが結婚することを聞いたアケビは……。

──それでいうと、第50話「ポンカン」で、妊娠中の奥さんが不在なことをいいことに旦那がデリヘル嬢を家に呼び、それがバレて家族会議になるエピソードがありましたが、「ああ、この2人は離婚しちゃうのかな」と悲しい結末を想像したら、奥さんのお義父さんもフルーツ宅配便を利用することになるというオチだったのが意外でした(笑)。

あの話は最初からお義父さんのキャラを描きたかったんですよね。あのお義父さんをどう描いていこうかと思ったときに、シリアスな設定のほうが絶対面白いだろうなと思って、離婚の危機に迫られた夫婦というエピソードにしたんです。

ポンカン

FRUIT.50[ポンカン](単行本第6巻収録)

妊娠中の妻・カオリが実家に帰ったことをきっかけに、フルーツ宅配便からデリヘル嬢のポンカンを自宅に呼び込んだユウタ。すっかりポンカンにハマってしまったユウタだが、2人でいるところを荷物を取りに帰ってきたカオリに見られてしまう。カオリの実家へ謝罪に向かうユウタだが、義理の父はどうやらフルーツ宅配便に興味があるようだ。

  • 「フルーツ宅配便」6巻収録の「ポンカン」より。妊娠中の妻が不在なのをいいことに、デリヘル嬢のポンカンを家に呼ぶユウタ。
  • カオリの実家へ謝罪に訪れたユウタ。

──ストーリーではなく、お義父さんのキャラが先にできていたんですね。

担当編集 「アケビ」も「ポンカン」も読者アンケートで評判がよかった回でした。女性からも「よかった」という意見が多くて、それは意外でしたね。

──確かに奥さん側の立場になって考えると、結婚しているのにデリヘルを呼ぶってどうなの?とはちょっと思うんですけど、「アケビ」も「ポンカン」もキャラクターの人柄を見ていると、なんだか憎めないところがあるんですよね。

「ポンカン」はお義父さんの顔を描いたときに「面白いな、この顔」「いい顔ができたな」と思ったんです。やっぱり人柄は顔に表れると思うので、あのキャラクターは顔が成功したなと思いました。面白い顔を描くのって難しいんですよね。(フルーツ宅配便で働く運転手の)マサカネくんの顔も確立させるのがけっこう大変だったんです。自画自賛なんですけど、あの顔はものすごく成功したなと思う。マサカネくんが一番の完成品かもしれない。

オーナーのミスジから送迎ドライバーのマサカネくんを紹介されるサキタ。

──マサカネくんも非常に愛嬌のあるキャラクターです(笑)。物語に登場するキャラクターたちはみんなリアルな人間味があるなと感じるのですが、ほとんどが想像で描かれているんですね。

そうですね。でもリアルではありたいなとは思ってます。あんまり日常とかけ離れたり、「こんな奴いねえよ」っていう人間が出てくると読む気をなくすかなと思うので、「こんな人だったらいるかな」というタイプの人間を、ちょっとデフォルメして描いてみる、ぐらいな感じですね。

──自分が女性ということもあり、女性同士のエピソードはより感情移入してしまうところがあって。第33話「パイナップル」のお話も、友情と恋心が絡み合う切ない三角関係が描かれていて、ラストのまさみ(パイナップル)の気持ちを思うと胸が苦しくなりました。

パイナップル

FRUIT.33[パイナップル](単行本第4巻収録)

ともに児童養護施設で育ち、大人になってもよき友情関係を築いているまさみとユリ。パイナップルの名でフルーツ宅配便で働くまさみは、初めてデリヘルを利用したという真面目なサラリーマン・岸田に次第に心惹かれていく。借金で困っている友人がいると話す岸田にお金を貸すことを決めたまさみは、さらなる恋心を募らせるが、ある日ユリから「自身を助けてくれた人と再婚することになった」と報告を受ける。

  • 「フルーツ宅配便」4巻収録の「パイナップル」より。児童養護施設で出会い、大人になった今でもよき友人関係を築いているまさみとユリ。
  • パイナップルの名で働くまさみは、客として出会った真面目なサラリーマン・岸田に心惹かれていく。

そう言っていただけるとうれしいですね。女性の気持ちは実際のところわからないので、人間目線みたいな感じになっちゃうかもしれないです。人間だから、男女とはいえ多少は通じ合ってるのかなと思って描くしかない。デリヘルを描きたいわけじゃなく、人間ドラマをどうやってデリヘルにつなげていくかという考え方なので、いやらしい場面が出てこなくても話が進められるんだと思います。

──描きたいドラマがあって、それをデリヘルという舞台に落とし込んでいる。

なのである意味、無理矢理デリヘルにつなげている部分もあると思いますけど、「こういう人が描きたい」と思って描くといい話ができるような気がします。

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現代社会で行き場のない貧困女子が流れ着く場所、デリバリー・ヘルス。もし、離婚して養育費を受け取れなかったら……。もし、親の介護で、今の仕事を辞めたら……。誰もが陥るかもしれない人生の困難、誰の手も届かない絶望と孤独が、ここにある。

ドラマ「フルーツ宅配便」
2019年1月11日(金)より毎週金曜24:12~
放送局:テレビ東京系(テレビ東京、テレビ北海道、テレビ愛知、テレビ大阪、テレビせとうち、TVQ九州放送)※テレビ大阪のみ翌週月曜24:12~放送
スタッフ

原作:鈴木良雄「フルーツ宅配便」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載)
脚本:根本ノンジ
監督:白石和彌、沖田修一、是安祐

キャスト

咲田真一:濱田岳
本橋えみ:仲里依紗
小田哲郎:前野朋哉
みず子:原扶貴子
みかん:徳永えり
イチゴ:山下リオ
レモン:北原里英
マサカネ:荒川良々
ミスジ:松尾スズキ

鈴木良雄(スズキヨシオ)
鈴木良雄
2014年、「田園にかこまれて」で小学館の「第1回ビッグ&オリジナル合同新作賞」の大賞を受賞。2015年よりビッグコミックオリジナル(小学館)にて、デリヘルを舞台にさまざまな人間の悲喜こもごもを描く「フルーツ宅配便」を連載。同作は2018年の「第21回文化庁メディア芸術祭」にてマンガ部門の審査委員会推薦作品に選ばれた。2019年1月からは濱田岳主演によるTVドラマがオンエアされる。