デジナタ連載 「AKIRA 4Kリマスターセット」石黒正数インタビュー|全自動ディーガでアニメを楽しもう!特集 石黒正数が「AKIRA」4Kリマスター版に感動 「夜の街の描き込みや背景の筆の跡まではっきり見える!」

「AKIRA」を読んで、描いてるマンガのタッチが変わった

──ここからは、改めて石黒さんの「AKIRA」に対する思いも聞かせてください。初めて「AKIRA」のアニメを観たときの「この作品の影響からは逃れられないんだろうな」という感覚について、もう少し具体的に伺えますか。

俺の原始的な本能としか言いようがないので説明が難しいんですよ。ただ、あまりにも自分に刺さった。漠然と見たかった物が、全部形になって目の前に現れたような感覚でした。

──それまでに、アニメでもマンガでもなんでもいいんですけど、そういった圧倒的な体験というのはなかった?

石黒正数

そうですね。それまでは藤子不二雄作品が好きで、「ドラえもん」とかだけじゃなくて、短編集とかまで揃えて、そればっかり読んでたんですよ。でも「AKIRA」を観て、すぐ原作を買いに行きました。中学1年生に1冊1000円は高かったけど、今思えばこのサイズで装丁も凝ってるし、本の常識からしたら安いですね。

──原作を読んだ感想としてはどうでした?

映画と全然違うなと。中学生が読むにはちょっと難しいんですよ。鉄雄がすぐ超能力を身に付けて、マントをまとって、みたいなわかりやすい感じでもないし。でもわからないなりに、すごさはひしひしと感じました。俺は5歳の頃からマンガ家を目指してて、小2ぐらいからずっとマンガを描いていたんだけど、それまでは藤子先生の影響を受けたタッチだったのが、「AKIRA」を読んでからは急にリアルになりましたから。

──「AKIRA」のパロディマンガを描いていたらしいですね。

そうそう。自分が金田で、友達を鉄雄にして。タイトルは「AKASHI」。

──アカシってなんですか?

「AKIRA」より。

俺の親友の名前です。いまだに仲がいいですよ。「AKASHI」、探せば実家にあると思うんだけどな。

──ぜひ読んでみたいです。そこから「AKIRA」以外の大友克洋作品も掘り下げたんでしょうか。

掘り下げました。だけど大友作品って、「AKIRA」以外が絶版状態だった時代があるんです。ちょうど俺が掘ってたのがその頃だったんですよね。「童夢」だけは父親が持ってたんですけど、とにかく学校の帰りに古本屋を巡って、大友作品を探して、家に帰ってからは「AKIRA」をノートに模写するっていう中学時代でした。

──一番好きな大友作品は?

昔は格好つけて「さよならにっぽん」がいいとか「童夢」がいいとか、いやいや「Fire-ball」だとか言っておくと通っぽいと思っていたこともありましたが、「AKIRA」ですよ、そりゃあ。素直にいきましょう(笑)。

「AKIRA」からの影響は染み付いているもので、抗えない

──人生で「AKIRA」級の衝撃というのは、その後ありましたか。

「AKIRA」が一番でかいですね。その呪いをいまだにどうにもできていない。その呪いを解くために「天国大魔境」を描いてるんじゃないかなっていう。

──呪いというのはつまり、「AKIRA」の影響下にないマンガを描くぞ、という。

俺もマンガ家としてやってかなきゃいけないから。

──前回のインタビューのときも、「『天国大魔境』は『AKIRA』に寄せすぎないようにしている」「寄せないようにして、これなんです」とおっしゃっていました。寄せないようにすることで、呪いからは解放されるものなんですか?

「AKIRA」で根津が顔を真っ赤にするシーンを鑑賞する石黒正数。

そこはせめぎあいです。でも今日映画を観て思いましたけど、やっぱりだいぶ寄ってしまってますね。

──大友作品に影響を受けたというのは具体的にどういう部分か、ご自身で分析はできますか。

分析できてないから、改めて今日「寄ってんなー」って思ったんですよ(笑)。

──(笑)。ただ、僕もさっき「AKIRA」を観て思ったんですけど、終盤に金田が重そうな瓦礫を持ち上げながら「鉄雄ー!」って叫ぶシーンで、顔が真っ赤になるじゃないですか。あそこ、石黒さんのマンガのキャラが、顔が赤くなるシーンにすごく似てるなと思って。

ものすごく近いし鋭いですね。根津邸に竜が来たとき、根津が顔を真っ赤にするあれです、俺がやってるのは。

──そんな明確に元ネタが!

うん。ここは意識的にマネしてますよ。こんなにリアルタッチでやってるのに、顔を真っ赤にしたり、真っ青になったりするのが面白いなと思ったので。

──確かに。ちなみに石黒さんのマンガの中には、寄せないようにするんではなく、「ちょっと大友克洋をやってみよう」っていう作品もあったりするんでしょうか。

石黒正数が新人時代に描き、第5回ビームマンガ大賞の佳作を受賞した短編「種」より。冒頭4ページが彩色されたバージョンが「石黒正数短編集2 ポジティブ先生」に収録されている。

ありますね。「種」っていう作品はそうです。

──文明が滅びた中で、おじさんたちがトマトの種を巡って争うという短編ですね。

そうそう。あれはちょっと恥ずかしいぐらいやってますね。投稿したコミックビームの奥村(勝彦)さんに「大友克洋の短編みてえだな」って言われたから、言い逃れのしようがない(笑)。だいたいね、おじさんを主役にした時点で「ちょっとやっちゃってんな」って思うし。この恥ずかしさはね、浦沢直樹先生はわかってくれるんじゃないかなと思うんだけど(笑)。

──(笑)。浦沢さんも、かつて大友作品に衝撃を受けたことは公言されていますよね。

たぶんね、お互いのマンガを見て、「これ、大友克洋ですよね!」「ここ、やっちゃってるでしょ!」って言い合えますよ。

──それほどいろんな人が影響を受けた作家ということですよね。パクってるとかパロディとかじゃなくて、染み付いているというか。

そう、染み付いちゃってる。地面を描くときにはコンクリがヘコんでるとか、服のシワの入れ方とか。至るところに記号があるんですよ。中学時代に「AKIRA」を毎日模写したのがいけなかったな。

──いけなくはないですけど(笑)。意識的に避けられる影響とは別に血肉になってる部分もあって、そこは避けようとしてるんじゃなくて、受け入れているという感じですかね。誰の影響も受けてない人なんかいませんし。

そういうことです。抗ってもしょうがないですよ。

後世に残る作品は、技術ではない何かがある

──ちなみに大友克洋と藤子不二雄以外で、影響を受けている作家というと。

石黒正数

自分のWikipediaに書かれちゃってることなんですけど、荒木飛呂彦先生と相原コージ先生ですね。荒木先生は高校のときに「ジョジョの奇妙な冒険」が流行ってて、そこから知ったんです。当時、第4部の途中ぐらいかな。

──石黒さんは「ジョジョ」リアルタイム世代のはずなんですが、同級生よりは知るのが遅かったんですね。

俺、小1からずっと藤子作品を掘ったりとか、ハマるとずっとそこばっかり掘ってるから。周りは「DRAGON BALL」とか読んでるのに。そのあと中学は大友克洋を掘ってたから、ほかのものにハマる機会がなくて。でも高校に入ったら、高校生が「ジョジョ」ごっこをやってたんです。高校生がですよ? 休み時間に「ザ・ワールド!」とか言って(笑)。何回も言いますけど、小学生じゃなくて高校生ですよ!? 周りがそんなだから、俺も「ジョジョ」読もうかなと思って読んだらめちゃくちゃハマりましたね。それで俺もスタンドを出すようになって。

──高校生なのに(笑)。相原コージさんは?

「サルでも描けるまんが教室」を読んだのが中3ですね。だから「ジョジョ」より前か。本屋で、大友作品とかスピリッツ作品が置いてあるような大判のコーナーってあるじゃないですか。「サルまん」はその大友ゾーンで出会ったマンガなんですけど、死ぬほど笑いました。内臓がおかしくなるんじゃないかっていうぐらい。

──「サルまん」では、「イヤボーンの法則」(※エスパーマンガなどで、追い詰められた主人公が「イヤァァ!」と能力を発動させて、敵が「ボーン」と爆発するような定番の展開のこと)という言葉が出てきますけど、「AKIRA」はまさにそういうシーンがあります。

「AKIRA」より。

タカシが、目の前でゲリラの人が撃ち殺されてワー!って力を出すとこ。完全にそうですよね。……今日、まさか「サルまん」の話すると思わなかったな(笑)。

──では機材の話に戻しましょう。普段、テレビって録画して観ます?

ほとんど観ないんですよ。あまりテレビを観る暇がなくて。

──そうなんですね。この全自動ディーガには全チャンネル自動録画という機能がありまして。最大8チャンネルを28日間、自動で録ってくれます。SNSで話題になっている番組をあとから知ったけど、録画してないから観られないっていうこと、ありませんか? そういうときにも「これがみんなが言ってた番組か」と気軽に観ることができるんです。

なるほど。今の時代にその機能があるメリットとして個人的に思いつくのは、放送事故とかがあったときに、追って観られるのはよいかもしれませんね(笑)。

──そういう使い方も可能ではありますね……(笑)。でも自動でいろいろ録画しておいてくれるのは石黒さんのようなお忙しい方向きではないかと思います。今後もし、こういう録画機能が必要になったときは思い出してください。

わかりました。

──最後の質問になってしまうんですけど、石黒さんはVHSやLDなど、いろんなバージョンの「AKIRA」が出るたびに全部買ってるとおっしゃっていましたよね。「最新の技術でまた観たい!」と思わせる「AKIRA」の魅力ってどこにあると思いますか?

「AKIRA」より。

まず単純に、とんでもないクオリティってことですよね。なんせ描き込みの量がすごいからいい視聴環境だと見え方が違ってきて、見えるものはいくらでも見てみたいと思わせる。そして絵を動かす技術もすごいから何度でも観たくなる。

──それは今日、実感できました。

ただ、「作り手ががんばって描いた」っていうんだったら、この時代のアニメ全般に言えると思うんですよ。

──「AKIRA」と同じ時代に作られて、同じぐらい描き込みがあっても、全部が「AKIRA」みたいに後世まで語られるわけではないと。

「AKIRA」より。

うん。普遍的に後世まで残る作品って、技術がすごいっていうだけの話じゃないですよね。「攻殻機動隊」だったり、「機動警察パトレイバー the Movie」だったり、あとはジブリ作品とか。もちろん技術もすごいですけど、そうではない普遍的なものがあるということだと思います。

──石黒さんだってVHSの画質で観た「AKIRA」に生涯最大級の衝撃を受けたわけですし、再生メディアが変わっても変わらない部分があるのが名作だと。

そうですね。あと俺、自分が影響を受けてきたものが普遍的かどうかっていうのは、運だと思ってるんですよ。学生時代に影響を受けた作品の需要がなくなって廃れた場合、影響を受けた側も廃れてしまうっていうこともあるんじゃないかな。そういう意味では「AKIRA」という普遍的なものの影響を受けたのは運がよかったですね。呪いにも苦しみつつも、幸せですよ。

Panasonic「4Kチューナー内蔵 全自動ディーガ DMR-4X1000」

「新4K衛星放送」チューナーを2基内蔵したBlu-rayレコーダー。4K放送の2番組同時録画や、ハイビジョン放送の番組を最大8チャンネル×28日間分を“ぜんぶ自動録画”することが可能で、地上デジタル放送のドラマ・アニメを最大90日間自動消去されないように“おとりおき”することもできる。独自の高画質技術で、美しい色彩とその場にいるような臨場感を表現。また、スマートフォンで番組を録画・視聴できる「おうちクラウド」機能も搭載されている。

Panasonic「4Kチューナー内蔵 全自動ディーガ DMR-4X1000」

Panasonic「4K有機ELビエラ HZ2000」

Panasonic「4K有機ELビエラ HZ2000」

4K有機ELパネルを採用した4Kビエラの最新モデル。自社設計・組み立ての「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」は、深い黒が締まる“高コントラスト”、色の鮮やかさを再現できる“広色域”、細部までくっきり映る“高精細”の3つが特徴で、4K映像を最大限に楽しむことができる。また天井から音が降りそそぐ立体音響「イネーブルド スピーカー」は、映画館のような臨場感ある音を再現できる。


2020年12月16日更新