comic POOL「いびってこない義母と義姉」×「口紅をつけて出社する新入社員が気になる」作者対談 コメディはみんなの楽園!やさしい世界で読者を笑顔に (2/2)

コメディ作品は、勢いと元気があればいい

──おふたりの作品を読んでいると、その笑いの引き出しの多さに驚かされます。コメディのアイデアは、どのようなときに生まれることが多いのでしょうか。

篠原 私の場合は、自分の経験や過去のヴィジュアル系の思い出ですね。自分が感じたこと、思ったことをネタ帳に走り書きしておいて、そこにキャラクターの個性を乗せて描いている、という作り方をしています。

──お笑い芸人さんのような、ネタ帳があるのですね……!

篠原 はい。セリフとか表情とかを、雑多に走り書きしたメモ帳のようなものです。

おつじ 私は、日常で嫌なことがあったときに「このまま嫌な記憶で終わらせてたまるか……!」という気持ちで、どうにか笑い話に変換しようと考えたりします。悔しい思いをした帰りに、「あのキャラクターなら、ここで痛快なムーブをしてくれるんじゃないか」と想像したり。ネガティブな感情をポジティブに変換して、作品に落とし込んでいるのかもしれません。

──それらのアイデアを実際のマンガに落とし込むうえで、こだわっている“作法”のようなものはありますか?

篠原 とにかくオーバーリアクションに、ということはこだわっています。主人公の(東原)隆弘は、ページの半分を使うくらいの大きなコマでリアクションを描くようにしています。あとは、その大ゴマの前の“振り”ですね。その振りのためだけに1ページを使うこともあります。隆弘が使う独特のヴィジュアル系用語……いわゆるTAKAHIRO構文も、昔のバンドの歌詞を思い出して書いています。ルビも多いので、担当編集さんにはご迷惑をおかけしています……(笑)。

「口紅をつけて出社する新入社員が気になる」1巻より。TAKAHIRO構文で肌年齢を嘆く隆弘。

「口紅をつけて出社する新入社員が気になる」1巻より。TAKAHIRO構文で肌年齢を嘆く隆弘。

一同 (笑)。

篠原 こうしたコメディの緩急は、シリアスなパートとのバランスを取るうえでも意識しています。2人はやりたかったこと……隆弘はヴィジュアル系バンドを、新発田はアイドルを諦めて社会人として一般企業へ就職している、という背景があるので、どこかでそのテーマに触れることになります。でも、それを表に出しすぎないように、少しシリアスになっても、TAKAHIRO構文のような変なことを挟んでバランスを取っている感じです。

おつじ 私は、マンガとして整合性が取れていなくても、最終的に読んだときに“勢いと元気”があれば成功だと思っています。ネームを見て「元気がある。よし!」みたいな(笑)。シリアスな部分に関しては、あまり深く考えないようにしています。つらい背景をしっかり描いて、いい結果を得られたことがないので、頭で考えるより感覚で描くようにして。あとは、何気ない会話でも、読んでいる誰かにとって“救いの一言”がどこか1カ所にでもあれば、もうそれで成功だろうと思っています。

篠原 素晴らしい!

おつじ 元気なマンガは、きっと読んでいる人も元気にしてくれるはず、という気持ちがあります。「いびってこない義母と義姉」はマミー、「口紅をつけて出社する新入社員が気になる」は部長と、年長者のテンションが高いというのは、もしかしたら作品の共通点かもしれませんね(笑)。

篠原 確かにそうですね(笑)。

“詰めすぎない”キャラクターづくり

──マミーも隆弘もですが、キャラクターのギャップの描き方がとても魅力的です。どのようにキャラクターを生み出しているのでしょうか?

篠原 おつじ先生のマミーのギャップはどうやって考えていらっしゃるのか、私も知りたいです。

おつじ あれはもう、「シンデレラの継母が元気だったらめちゃめちゃおもしろいだろうな」という、一発ネタ的な要素なんです(笑)。

篠原 見た目は怖そうなのに、優しいとわかった瞬間の聖母感がすごいなと感じています。マミーが出たら物語が締まるんですよね。その安定感が素晴らしい。

「いびってこない義母と義姉」1巻より。掃除したばかりの部屋は埃っぽいからと、美冶に客間を使わせる義母・てる。
「いびってこない義母と義姉」1巻より。掃除したばかりの部屋は埃っぽいからと、美冶に客間を使わせる義母・てる。

「いびってこない義母と義姉」1巻より。掃除したばかりの部屋は埃っぽいからと、美冶に客間を使わせる義母・てる。

おつじ ありがとうございます。篠原先生のキャラクターも本当にどの子も魅力的で生き生きしているのですが、作品に登場させるまでに、どれくらいディテールを詰めていらっしゃるんですか?

篠原 いえ、それが全然詰めていなくて……(笑)。

おつじ ええ!

篠原 キャラクターシートのようなものは、作っても絶対その通りにならないので、作らないようにしているんです。

おつじ 私もです! 作っても矛盾が出てきちゃって。篠原先生のキャラクターは一貫性があるので、しっかり設定を固めているのかと思っていました。

篠原 私も勢いで描いてしまうタイプなので、安心しました。私からも、おつじ先生に質問していいですか?

おつじ ぜひ!

篠原 どうやってあんなにかわいいお洋服を考えているんですか?

おつじ いやいや……! ファッションに詳しいわけではないので、毎回必死です(笑)。最近は特に、YouTuberさんとかでかわいらしい着物の着こなし方をあげていらっしゃる方がいるので、「これにこれを合わせるのか」と勉強しています。ほとんどネットからの情報ですね。

篠原 YouTubeやSNSの動画からインスピレーションを得られているんですね。

多様性が魅力のcomic POOLで描くということ

──10周年を迎えたcomic POOLについてもお伺いしていきます。おふたりにとって、comic POOLはどんな媒体ですか?

おつじ 「何系のジャンル」と一言で言えない、この多様性が魅力だと思います。その日の気分によって手に取るマンガを変えられる。男性向け、女性向けと区別されていなくて、特定のジャンルが強いということがいい意味でないのが面白いです。

篠原 連載前からいち読者でしたが、今をときめく魅力的な作品ばかりで、「エネルギーにあふれているな」という印象でした。作家さんのフレッシュさも感じていたので、お声がけいただいたときは、自分の年齢で大丈夫かな、という不安もありました(笑)。

──そんな不安が(笑)。comic POOLに並んでいて自然な作品だと感じます。comic POOLで連載していて「よかった」と感じるのは、どんなときですか?

篠原 まだ連載して半年ですが、とにかく待遇が手厚くて……。担当編集さんのレスポンスがすごく早いですし、描きやすいように細かいスケジュールも組んでくださる。全体的にすごく信頼のおける編集部だなと感じています。

おつじ 篠原先生とまったく同じです(笑)。私にとって、担当編集さんがいてくれることがすべて、というくらいお世話になっています。あとは、宣伝が本当に豪華で、毎度うれしい気持ちでいっぱいです。私は今、関西に住んでいるのですが、「新宿に大きい広告が出たよ」と教えていただいたときは、そのまま東京に記念撮影しに行きました。

篠原 comic POOLさんはpixivなどSNSとの連携が強いので、読者さんの感想がダイレクトに見えるのも特徴ですよね。うれしいコメントは、いつ消えるかわからないからスクリーンショットを撮っています(笑)。

おつじ わかります! 単行本の発売日やフェアのときには、読者の皆さんが「買ったよ」という報告や写真をたくさんあげてくださるので、それを見ながらいつも「ありがとう」と思っています。それが創作のモチベーションにもつながっていますね。

──それでは最後に、comic POOL10周年へのお祝いと、今後の展望についてコメントをお願いします。

篠原 10周年、おめでとうございます。私はまだ新参者ですが、comic POOLさんのキラキラした世界の一部になれるようにがんばります。「口紅をつけて出社する新入社員が気になる」では、キャラクターの過去の物語や新キャラも登場し、“メイクあるある”も深掘りしていく予定です。ぜひ楽しみにしてください!

おつじ 10周年、本当におめでとうございます! 「いびってこない義母と義姉」はcomic POOLさんが5周年の頃からお世話になっていて。いつも自由に描かせていただき、楽しいマンガ家生活を送っています。そのご恩を返せるよう、より一層精進してまいります。また、2026年にはTVアニメ化という大きな舞台も控えています。もともと自分の作品に声がついて動くことに異常なほどの憧れがあったので、夢が叶い、「やったー!」という気持ちです。私もありがたいことに脚本に関わらせていただいていますが、完成系がどんなふうになるのかワクワクしている次第です。今後ともよろしくお願いいたします!

プロフィール

おつじ

2018年より自身のSNSに投稿していた「通りがかりにワンポイントアドバイスしていくタイプのヤンキー」が話題となり、2019年に単行本化され商業デビュー。2020年にcomic POOLで「いびってこない義母と義姉」の連載を開始する。2023年からは松浦太一(Plott)が原作を手がける「しれっとすげぇこと言ってるギャル。ー私立パラの丸高校の日常ー」の作画を担当し、となりのヤングジャンプで連載中。「いびってこない義母と義姉」は2026年にTVアニメ化を予定している。

篠原とも(シノハラトモ)

篠原知宏の名義で2004年にデビュー。2008年には週刊少年マガジン(講談社)にて、「鉄腕ブレイク」で連載デビューを果たす。その後「ボーイ♂スカート」「鈍色の箱の中で」などを発表し、「鈍色の箱の中で」は2020年にTVドラマ化された。2024年には「嫁姑の推し活」でコメディに初挑戦。2025年にはペンネームを篠原ともに改名し、同年よりcomic POOLで「口紅をつけて出社する新入社員が気になる」を連載している。