コミックナタリー Power Push - アニメ「ビッグオーダー」
原作者・えすのサカエ×監督・鎌仲史陽対談 主人公を殺そうとする女が、実は王道ヒロイン!?
「未来日記」のえすのサカエによる最新作「ビッグオーダー」は、特殊能力・オーダーを身につけた者たちの戦いを描くバトル作品。月刊少年エース(KADOKAWA)で連載されており、4月15日からはTOKYO MXほかにてテレビアニメの放送が開始される。
コミックナタリーではアニメ化を記念して、原作者えすのと鎌仲史陽監督による対談を実施。作品の成り立ちと、気になるアニメの仕上がりについて話を聞いた。能力バトルに込められたプロレス感や、ヒロインに対する意外なこだわりなど、創作秘話にも踏み込んでいく。
取材・文 / 小林聖
オーダー! 作品解説をしろ!
願いごとに応じた特殊能力・オーダーが一部の者たちに発現。幼い頃「世界の滅亡」を願い大破壊現象を巻き起こした少年・星宮エイジは自らの力を恐れ封印し、罪を心に抱えたまま冴えない高校生となる。そんなある日、エイジは転校生の美少女・紅鈴にひと目惚れ。しかし彼女は、大破壊現象で両親を失い、その憎しみを犯人・エイジにぶつける復讐者だった──。
主人公を殺そうとするヒロイン、オーダーによる新しい世界を作ろうとする者たちと国連の戦い、少年エイジが大破壊現象を起こした願いの真意。恋愛と野望に謎解き、複雑に絡まり合う要素が一本のストーリーを紡ぐ。先の読めない新感覚サスペンスバトル!
星宮エイジ(CV:森田成一/幼少期・三上枝織)
能力名:拘束する支配者(バインドドミネーター)
10年前に世界を滅ぼしかけた高校生。両親を自身の引き起こした大破壊で亡くしており、残る家族は妹のみ。能力「拘束する支配者」は歩いた後を領土として支配し、その上に存在する物は人や空気・重力まで操れる。
紅鈴(CV:三上枝織)
能力名:再生の炎(リバースファイア)
10年前に起きた大破壊現象で両親を失い、その復讐としてエイジを殺そうとする。強力な再生能力「再生の炎」により、ほぼ不死身の肉体を持つ。能力の対象は自分だけでなく、他人や破壊された無機物までも復活させることができる。
「タブーに触れる」えすのサカエ流・王道少年マンガ
──いよいよ4月15日からアニメの放送がスタートするわけですが、最初にアニメ化の話が来たときのお気持ちはいかがでしたか?
えすの 最初の話はかなり前ですね。ただアニメ化の話って実現することもありますが、途中でなくなってしまうことも多いので……そのときは「へえ、そうなんだ」って感じでしたね。態度が大きいようで印象悪いかもしれませんが、それぐらいの気持ちでいないと、話がなくなったときのショックが大きすぎるので(笑)。
鎌仲 僕のところに話が来たのは2年くらい前で、もう基本的には企画がなくなるということはないという段階です。「ビッグオーダー」という作品は始まった頃から存在は知っていて、第一印象で「いずれアニメ化するだろうな、これは」と思っていました。
──そう思わせるだけのインパクトが最初にあったと。どのような部分が、監督のアンテナに引っかかったのでしょうか?
鎌仲 うーん。エイジくんがストレートな熱血漢ではなくて、ちょっと“悪そう”なキャラクターなんですよね。世界のためにがんばる、みたいなことはしない。そういう定型にハマっていない主人公像は新鮮でしたね。この作品は、どういう発想でスタートしたんですか?
えすの 僕としては逆に、素直な少年マンガを描こうと思って始めたんですけどね(笑)。前作の「未来日記」という作品は、ヒロインがストーカーというところから始まって、割と圧迫感のあるサスペンスだったから「ビッグオーダー」は毛色を変えたつもりだったんです。能力バトルって、少年マンガの王道じゃないですか?
鎌仲 でも「未来日記」と共通している部分もありますよね。ストーリーのどんでん返し感とか。
えすの 頭脳戦が好きというのもあって、自然とそうなってしまうんです。あと自分の中では、作品を作るとき「タブー感」を大事にしたいとは思っていますね。やっちゃいけないことというのは「やってみたい」の裏返しで、非常に魅力的だと思うんです。例えば「未来日記」には「自分の未来を観る」というタブーを仕掛けていました。誰だって未来のことは気にはなるけど、果たして知ってしまっていいのかという恐ろしさがありますよね。
──なるほど。では「ビッグオーダー」には、どんなタブーを?
えすの 「願いが叶う」という能力ですね。願いというのは、安易に叶ってしまったら普通は物語にならない。それが叶ってしまったらどうなるんだろうと。そういう固定概念を覆していくような部分は、作品の根底に流れているかもしれません。
主人公を殺そうとするヒロインは、実は普通の女の子?
鎌仲 エイジくんをはじめ、登場キャラはみんなひと癖ありますよね。
──「未来日記」では、ヒロイン・由乃が主人公のストーカーという驚きがありました。「ビッグオーダー」のヒロイン・鈴も復讐者という顔を持ち、エイジを殺そうとします。共通して、女の子がエキセントリックですよね。
えすの そこのとこも、実は僕としては自覚がなくて……。むしろ王道のつもりで描いているんですけど「変わってますね」ってよく言われます。むしろ鈴は第2の主人公だと思って描いているので「等身大」「普通」というような、読者が共感できるキャラクターを目指しているんですが。
鎌仲 え、そうなんですか?
えすの 「主人公を殺す」という目的自体はエキセントリックですけど、その理由に「親の仇」っていうのがあるから納得はできますよね。「未来日記」の由乃みたいにヤンデレの「こいつぶっ飛んでるな」っていうキャラじゃなく、日常会話が成立しそうな思考回路を持たせているので。だから邪道とか奇をてらったみたいなつもりはなくて、鈴は僕が思う普通の女の子ですね。
──その普通の少女・鈴を復讐者に変えたのが、主人公・エイジが起こした大破壊現象による親の死。味方や敵に複雑な事情があり、めまぐるしく人間模様や真実が変化していくストーリーは、初期段階でどのあたりまで考えてあったんでしょうか?
えすの 「未来日記」は最初から着地点を決めていて、ラストに至るまでの話を描きながら考えていった形なんですが。「ビッグオーダー」は、割と模索しながら描いています。なんとなく「こういう方向性になるだろう」という構想はありますが、「未来日記」に比べると、ずいぶんライブ感のある作り方をしていますね。
鎌仲 まだ物語が中盤で、話がどう進むか読めない、という段階でアニメ化が決まったので、スタッフ的には戸惑いもありましたね。「あれ? まだ(原作)終わってなくない?」って。シリーズ構成・脚本の高山(カツヒコ)さんと「どうしよっか」なんて話し合って。実作業に入る頃には、アニメとしてラストを考えられるところまで原作が進んでくれたので助かりましたが。
えすの アニメ化に合わせて話を畳むという意識は、申し訳ないけどまったくなかった(笑)。アニメの準備期間と物語の進み具合が、うまくハマってくれましたね。
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アニメ「ビッグオーダー」
2016年4月15日(金)25:40~TOKYO MXほかにて放送開始
2016年4月16日(土)24:00~ニコニコ動画にて配信開始
- スタッフ
- 原作:えすのサカエ
- シリーズ構成・脚本:高山カツヒコ
- キャラクターデザイン:小島智加
- 監督:鎌仲史陽
- 制作:アスリード
- 製作:ビッグオーダー製作委員会
- キャスト
- 星宮エイジ:森田成一
- 紅鈴:三上枝織
- 壱与:田所あずさ
- 星宮瀬奈:久野美咲
- デイジー:三咲麻里
- 星宮源内:鶴岡聡
- 寸断殺人:林勇
- 鳴神弁慶:立木文彦
- 平景清:原田ひとみ
- 柊義経:立花慎之介
- アブラアン・ルイ・フラン:新垣樽助
- えすのサカエ「ビッグオーダー(9)」/ 2016年3月26日発売 / KADOKAWA
- えすのサカエ「ビッグオーダー(9)」
- 通常版 / 626円
- Kindle版 / 563円
世界を滅ぼすために瀬奈が呼び出した“神”!!
全力で止めようとするエイジだったが全く歯がたたず絶体絶命の状況に。
そこに現れたのは畿内の大破壊で生死不明となっていた柊と殺人。
彼らには世界を救う「切り札」があるというのだが……!
明かされるDAISYの謎、国連が画策する核攻撃、そして柊とエイジの衝突で事態は混迷し…!?
人類の危機が目前に迫る【東京編】を収録した第9巻!
- えすのサカエ「ビッグオーダー」/ 発売中 / KADOKAWA
- 「ビッグオーダー」1巻 / 605円
- 「ビッグオーダー」2巻 / 605円
- 「ビッグオーダー」3巻 / 605円
- 「ビッグオーダー」4巻 / 605円
- 「ビッグオーダー」5巻 / 605円
- 「ビッグオーダー」6巻 / 605円
- 「ビッグオーダー」7巻 / 626円
- 「ビッグオーダー」8巻 / 626円
えすのサカエ
2001年に「鉄道天使」で第11回エース&ネクスト新人漫画賞奨励賞を受賞。2004年に月刊少年エース(角川書店)で開始した「花子と寓話のテラー」で連載デビューを果たす。代表作となる「未来日記」はシリーズ累計400万部を突破し、TVアニメ、TVドラマ、小説、ゲームなど幅広くメディア展開された。
鎌仲史陽(カマナカノブハル)
2012年にOVA作品「名探偵コナン えくすかりばあの奇跡」で初監督を務める。「ビッグオーダー」にはOADから携わっており、テレビアニメ作品の監督をするのは本作が初。