同時に出せることはちゃんと意味があるなと思う
──「ソラニン」の続編は、「零落」を描き終えてから執筆されたんでしょうか。
連載が終わって、少し時間を空けてからですね。「ソラニン」の「第29話」と「零落」はすごく対照的というか、意図したつもりはなかったんですが、たまたまどちらのキャラクターも僕と同世代の35歳くらいなんですよね。種田と深澤は、ジャンルは違えど10年前は同じように創るような職業を目指してたわけですよ。それが10年経って片方は死んで、片方はマンガ家として自分の道に迷っている。そんなふうな対比としてふたつを作れたので、今回同時に出せることはちゃんと意味があるなと思います。
──浅野さんの現在が「零落」であり、あったかもしれない未来のひとつが「ソラニン」の「第29話」というか。今後は「第29話」のような、一般的な自分と同じ世代を描く作品はもう描かないですか?
やろうと思えば全然できますよ。こっちのほうが描いてて気持ちはいいですし(笑)。
──進んでやりたくはない?
うーん。
──「プンプン」の流れから「浅野いにお? サブカルオシャレ厨二作家でしょ」ってパブリックイメージが一部にはどうしてもあると思うので。「ソラニン」みたいな作品を期待している読者もいるでしょうし、こういう場でハッキリと言っておいたほうがいいんじゃないかなと。
ははは(笑)。僕は実際根暗だけど、常に低空飛行みたいな感じだから、これ以上厨二に傾くことはないと思いますよ。これからマンガを描くうえで自分がどういう方向性になっていくかはわかんないですけど、「零落」を描いていて唯一自分と深澤が切り離された部分っていうのは、最終回だったんです。深澤は、自分は商売マンガ家で、売れることが正義っていうことで終わってるんですけど、僕はここ数年で変わってきていて。もちろんマンガを描くのは好きだし続けるんだけど、そこばっかりに人生を注ぐんじゃなくて、それ以外の自分の何かがあってもいいんじゃないかと思うようになってきました。
──それは何かきっかけがあったんですか?
うーん……特別大きなきっかけがあったわけじゃないんですけど、ふと、一回立ち止まる瞬間があったんですよね。今まで同世代のマンガ家って会う機会がなかったんですけど、最近結構知り合う機会が多くて。押切蓮介さんとか。みんな一様に人生を見つめ直す時期に入ってるみたいで。やっぱりみんな20代でがんばりすぎたんですよね。いろんなものを後回しにしてきたツケが回ってきちゃってる。仕事もあるし評価もされてるんだけど、それだけじゃ足りない何かを感じて、今後の自分の生活の仕方を考え直す時期かなって思います。
まっとうなマンガ家らしいマンガの描き方をできるようになったのかな
──来年でデビュー20周年を迎えるんですよね。
ああ、そうですね、一応……。最初の5年くらいは単行本も出てないし、あんまりそこはカウントしなくていいかなと思ってるんですけど。無駄に時だけが経ったなっていう感じです。
──20年描いてきて、どんな思いですか?
かろうじて描くこと自体は飽きてないけど、今までみたいな、とにかく売れたいとか評価されたいとか、そういうことじゃなくなってきましたね。
──肩の力が抜けた。
もうちょっと趣味に走っちゃおうかなと。読者そっちのけで面白いと思ってることは自分の中にあるんですよ。絶対みんな興味ないけど、自分の興味はそこにしかないので、もうそれはやるしかないかな、という感じになってきてますね。
──今後はひとまず「デデデデ」の再開だと思うんですが、「デデデデ」はどれくらい続く予定ですか?
短くてあと3、4年くらいですね。まだ結構あるんですよ。もうやることは決まってるし、あとは回収するだけみたいな感じなんですけど、一方で止めたくない気持ちもあって。そもそも「デデデデ」って、永遠に終わらないマンガをやろうと思って始めたんです。
──「ドラえもん」や「サザエさん」のように。
そうそう。でも僕が読者の反応を見て、ストーリーを進めちゃったんですよね。1回進めちゃうともう止まらなくて、終わりに向かっていかないといけないから、最初のコンセプトとはズレてきちゃった。本当はずっと続けたかったんです。キャラクターを好きになりすぎちゃって、終わったらいなくなっちゃうのが嫌なんですよね。僕が「けいおん!」のキャラクターがかわいいって言ってるのと同じ感覚で、自分のキャラのかわいさを本音ではずっと見ていたい。
──よくマンガ家さんって、キャラクターを我が子のようだっておっしゃいますけど、今まではそういう意識はなかったですか?
ないですね。嫌いでした。
──(笑)。
「ソラニン」は一瞬だから好きも嫌いもないって感じでしたけど、「プンプン」は「プンプンムカつくな」「いかにこいつを苦しめてやろうか」とかばっかり考えてましたね。だから今、まっとうなマンガ家らしいマンガの描き方をやっとできるようになったのかなと思ってます。
──20年経って。
「ソラニン」以降いろいろ作風を模索していて、マンガ家らしくなろう、みたいな時期もあったんですよ。ようやく「デデデデ」でそれができるようになったのかなと。
──今後、「デデデデ」を終えたら描いてみたいものはありますか?
もう1回、終わらない作品にチャレンジしたいですね。そうじゃないと僕の気力と体力がもたなくなってきてて。ショートショートでライフワークのように週刊で描く、っていうものをひとつ持たないと、連載できなくなっちゃうと思うんですね。
──心がもたない?
もたない。僕自身が長尺のマンガを読む気力がないというか、あらすじに興味がなくなってきちゃってるんで。ライフワークのような作品を1本打ち立てて、一方で今回の「零落」のような、本来の自分の作風……「ソラニン」「うみべの女の子」に連なるラインの作品を数年に1作みたいなペースでやれるのが、一番理想的かな、と思ってます。
「ソラニン」「零落」作品紹介
あの青春の日々から11年……
芽衣子たちのその後を描く
- 「ソラニン」とは
- 2005年から2006年にかけて、週刊ヤングサンデー(小学館)にて連載された作品。社会人2年目の主人公・芽衣子と、芽衣子の恋人である種田を中心に描かれる青春物語で、夢と現実の狭間で葛藤するキャラクターたちの姿が若者の共感を呼んだ。2010年には宮﨑あおい主演により実写映画化。マンガの作中に歌詞のみ登場した楽曲「ソラニン」は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONにより楽曲化され、劇中にて披露された。
- 36歳になった芽衣子が“今”感じることは
- 「ソラニン 新装版」に収録される書き下ろし読み切り「第29話」には、芽衣子や、種田とともにバンドを組んでいた加藤とビリー、芽衣子のよき理解者であり加藤の恋人・アイが登場。2017年の東京を舞台に、芽衣子たちの“今”が綴られている。なお新装版はA5判にて刊行。単行本には未収録のカラーや新たに描き下ろされたイラストが30点以上収められる。
魂の行き着く先は……
中年マンガ家を主人公に据えた「零落」
- とあるマンガ家の魂の漂流が描かれる
- 今年2017年にビッグコミックスペリオールにて発表された「零落」。長期連載を終えた30代半ばのマンガ家・深澤は、形だけ期待されている次回作や、編集者である妻との関係の悪化に心が冷えきっていた。マンガ家としての活動に迷い、漂流する深澤は、夜の街でとある猫目の女性と出会う。
- 浅野いにお「ソラニン 新装版」
- 発売中 / 小学館
-
コミック 1620円
- 浅野いにお「零落」
- 発売中 / 小学館
-
コミック 1050円
- 「ソラニン 新装版」&「零落」
単行本同時発売フェア -
浅野いにおのイラストがあしらわれた500円分の特製図書カード2枚を抽選で100名にプレゼント。「ソラニン 新装版」と「零落」の単行本に巻かれた、キャンペーン用の帯に付属している応募券計2枚を集めて応募しよう。宛先などの詳細は帯の折り返しにて確認を。応募の締め切りは12月28日。
- 浅野いにお(アサノイニオ)
- 1980年9月22日茨城県生まれ。1998年、ビッグコミックスピリッツ増刊Manpuku!(小学館)にて「菊池それはちょっとやりすぎだ!!」でデビュー。2001年、月刊サンデーGX(小学館)の第1回GX新人賞に「宇宙からコンニチハ」が入選、翌年より同誌で「素晴らしい世界」の連載を開始。2005年から2006年にかけて、週刊ヤングサンデー(小学館)にて連載された「ソラニン」は、バンド経験を持つ作者によるインディーズバンドのリアルな心理描写で人気を博し、2010年に映画化もされた。そのほかの代表作に「おやすみプンプン」「うみべの女の子」など。2014年からは週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」を連載中。