音楽ナタリー Power Push - YUKI
“暴れたがっている”自分の本性を歌ったニューアルバム
YUKIが3月15日にニューアルバム「まばたき」をリリースした。本作は2014年9月発表の「FLY」以来、2年半ぶりのオリジナルアルバム。これまで「歌詞の中になるべく否定的な言葉を書かないようにしていた」というYUKIは、「まばたき」を「自分の本性のようなところを歌いたい」との思いから作り上げた。彼女の“暴れたがっている”気持ちがあふれ出ているというアルバムについて、YUKI本人に話を聞いた。
取材・文 / 松浦靖恵
私の衝動的な気持ち発の“私ソング”ばかり
──「まばたき」は前作「FLY」以来、約2年半ぶりのオリジナルアルバムです。今作を最初に聴いたとき、このアルバムはYUKIさんそのものだなと思いました。過去と現在のYUKIさんの思いが歌詞につづられていて、YUKIという人間を浮かび上がらせているというか。
ありがとうございます。「まばたき」は、まず自分が言いたいことを歌おうというところから始まっています。私の衝動的な気持ち発の“私ソング”ばかりですね(笑)。とにかく「自分の思っていることを歌うんだ」という自我を止めることができませんでした。
──「私はこれをしたいんだから誰になんと思われてもやるんだ」と、自分の思いや衝動を信じて突き進んだときに、「果たしてこれでよかったのだろうか」という迷いが生まれたりはしなかったんですか?
その悩みに対して自分が責任を持つことで、自分自身をとことん信じて、楽しんであげようと思いました。その勇気を自分がしっかり持つことが重要だったんです。
自分が自由にならないでどうするの?
──今作には2015年に制作したシングル曲「tonight」や「ポストに声を投げ入れて」が収録されていますが、この2作品を作っていた時点で、YUKIさんの中には新しいアルバムのイメージのようなものはあったんですか?
アルバム制作が本格的にスタートしたのは2016年の頭くらいでしたけど、「ポストに声を投げ入れて」を作り終えた頃から自分の中に炎がゆらゆらとくすぶるような感覚があって。「何かをやりたがっている自分がいるのはわかっているんだけど、この炎はいったいなんなのだろう」「この感覚は何がきっかけとなって、どこから生まれてきたのだろう」とずっと考えていました。もし私が曲も書いていたら、そのイラ立ちにも似た感じを音にしていくんでしょうけど、私は曲やメロディではなく言葉でそれを表したいので、その言葉たちの受け皿になれるような曲を探していましたし、これまでの私のことも考えてみました。
──というと?
私には人としての理想像があって、そこに近付きたくて詞を書いたり、普段の生活もなるべく楽しく、心地のよいことを心がけていました。例えば、「私は今YUKIとして何を歌ったらいいのだろう」「どんな歌を歌えば自分はもっとも幸せなんだろう」と考え、模索する中で、これまでは「音楽は娯楽なのだから、みんなの気持ちが軽くなるような歌を歌いたい」と思っていましたし、それが自分の喜びにもなると思って、歌詞の中になるべく否定的な言葉を書かないようにしていたんです。それは誰かに言われたわけでもなく、自分の中で決めたことだったんですけど、なりたい自分になりたくてやっていたことが、いつのまにか自分を不自由にもさせているんだということに気付いてしまったんです。
──自分がなりたい姿になるために自分が決めたことの比重が、自分が思っていた以上に大きくなっていた。
そうなんです。自分が一番心地よいと思える状況や空間を作ること、自分にとってこれが絶対にカッコいいんだと思う生き方に対して、「何に遠慮しているの?」「誰に対する遠慮なの?」「自分が自由にならないでどうするの?」って。何が自分をこうさせているのかを突き詰めたくて、暴れたがっている自分がいました。今まで自分で自分に対してなんとなく言い聞かせていたことを、ここで一度はっきりさせたくなったんだと思います。
葛藤を抑えていると、自分がどんどんつまらなくなってしまう
──まさに1曲目の「暴れたがっている」のタイトル通りのYUKIさんがいたんですね。
「暴れたがっている」の歌詞にも書いていますけど、私は何度でも何度でも飛び込めるんです。今まで思い切ってやっていたと思っていたことも、今となってはそんなに大したことではなかったんだな、もっと思い切ってよかったんだ、もっと自由になっていいんだと思いました。
──「私は誰だ」の歌詞にある「私はあまりいい人間じゃない だから地獄に落ちるかもしれない」というようなことは、今までだったら歌詞に書かない選択をしてきた言葉や表現だったと思うんですけど、暴れたがっているYUKIさんは書かずにはいられなかったんですね。
この歌詞を書けたことは、すごい自信になりました。ソロデビューしたときに出した1stアルバム「PRISMIC」で、自分が作った曲は暗いものが多くて、そういう曲をライブで何度も歌うのがつらくなった時期があったんですね。だからそのあとは「ライブで何度歌っても楽しかったり、面白かったりする曲がいいな」「そういう歌を歌っていくようになりたいな」と思って、マイナスな感情はなるべく歌詞に書かないようにしてきました。その一方で、日々を生きている私にはさまざまな感情が生まれるのに、それを歌詞にすることをあえて避けて、「私は理想的ないい言葉できれいにまとめようとしているんじゃないか」という自問自答もあったんです。
──そのさまざまな感情には、人間の嫌な部分や本性を露呈させた感情もある、と。
そういう自分も、自分のどこかに絶対いるんだとわかっていたのに、それを歌にしないと決めたのは自分なのに「自分の本性のようなところを歌いたい」という思いに対して「じゃあどうしたらいいんだ」と葛藤している自分がいました。でも、そうやって葛藤を抑え続けていると、自分が自分のことをどんどんつまらなくしてしまうんだと気付いたんです。今の私は誰にどう思われてもいいから、私が言いたいことを歌うんだという衝動が、本当に大きいです。
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- ニューアルバム「まばたき」 / EPICレコードジャパン
- 2017年3月15日発売
- 初回限定盤 [2CD+DVD] / 5616円 / ESCL-4837~9
- 通常盤 [CD] / 3240円 / ESCL-4840
- 2017年3月29日発売
- 完全生産限定盤 [アナログ] / 3780円 / ESJL-3088~9
- 完全生産限定盤 [カセットテープ] / 3888円 / ESTL-4
収録曲(共通仕様)
- 暴れたがっている
- さよならバイスタンダー
- こんにちはニューワールド
- 無敵
- 名も無い小さい花
- レディ・エレクトリック
- 私は誰だ
- tonight
- ポストに声を投げ入れて
- バスガール
- 2人だけの世界
- 聞き間違い
- トワイライト
初回限定盤付属CD収録曲
「YUKI LIVE "commune of ten"」
- コミュニケーション
- ありがとう
- ファンキー・フルーツ
- あおぞら
- ミス・イエスタデイ
- 恋人よ
- スウィートセブンティーン
- 君を束縛したいのです
- あの娘になりたい
- 集まろう for tomorrow
初回限定盤DVD収録内容
- 「YUKI LIVE "commune of ten"」ダイジェストムービー
YUKI concert tour "Blink Blink" 2017
- 2017年4月29日(土・祝)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2017年5月13日(土)福岡県 マリンメッセ福岡
- 2017年5月14日(日)福岡県 マリンメッセ福岡
- 2017年5月20日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2017年6月7日(水)愛知県 日本ガイシホール
- 2017年6月8日(木)愛知県 日本ガイシホール
- 2017年6月24日(土)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
- 2017年7月1日(土)神奈川県 横浜アリーナ
- 2017年7月2日(日)神奈川県 横浜アリーナ
- 2017年7月8日(土)大阪府 大阪城ホール
- 2017年7月9日(日)大阪府 大阪城ホール
- 2017年7月22日(土)北海道 函館アリーナ
- 2017年7月23日(日)北海道 函館アリーナ
YUKI(ユキ)
1993年にJUDY AND MARYのボーカリストとしてデビュー。2001年のバンド解散後、2002年にシングル「the end of shite」でソロ活動を開始した。2012年5月にはソロ活動10周年を記念して東京・東京ドーム公演「YUKI LIVE "SOUNDS OF TEN"」を開催し、約5万人を動員。JUDY AND MARY時代にも東京ドームでライブを行っていることから、バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行った初の女性ボーカリストとなる。2017年2月にソロデビュー15周年を迎え、テレビアニメ「3月のライオン」のオープニングテーマを表題曲としたニューシングル「さよならバイスタンダー」を発売。3月には約2年半ぶりのオリジナルアルバム「まばたき」をリリースした。